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16.破綻。
しおりを挟む「あぁあぁっ!」
こんなことになっても、こんなことをしても、この身体はただただ甘く柔らかく。
「サ、サフィ……!」
彼の優しい魔女は、こうして彼を受け入れてくれる。拒みはしない。
いや、それは自分に都合の良い解釈か。
容赦なく三本の指を蜜口から抜き差ししながら、サフィールは微かな自嘲をその口の端に浮かべる。
受け入れてるとか、拒まないとか。
そういうことではない。抵抗できないだけなのだ。
力を封じれば、彼女はただの非力な女性だ。小さな身体、細い腕。腕力では男の自分に敵うはずもない。激しく責め立て前後不覚にすれば、抵抗の言葉も出てこないのは当然で。
「あぁ、それぇ……!」
親指の腹でぷっくり膨れた花芽を潰したら、腕の中で彼女はびちびち跳ねた。
触れれば触れるだけ溢れる愛液は、既に彼の手首まで伝い濡らしている。
彼女の身体はもうすっかり敏感になっていて、サフィールが触れると実に顕著に正しい反応をするように慣らされている。ここ暫くで、そうなるようにサフィールがしたのだ。
「リリアンヌ、もっと気持ち良くなろうね?」
「あ、あ、もういいぃ」
「嘘ばっかり」
彼女をこの檻の内側に閉じ込めてから、どれほど過ぎただろうか。
あまり気にしていないので、正確な日数は分からない。ただ、そう短くはないと、それだけは言える。
「リリアンヌ、ねぇ、違うでしょ」
首輪を付けて、鎖で繋いで、檻の内に閉じ込めて。
彼女を支配し尽くして。
そうして彼は毎日毎日昼も夜もなく彼女を抱いた。
「もっと気持ち良くなりたいんでしょ」
身体も思考も溺れてほしくて。
「足りないんだよね」
自分なしでは生きていけないようになってほしくて。
「これだけじゃ、満足できないんだよね。寂しいの、知ってる」
「ちが、ちがう」
「違わないよ。指だけじゃ届かないところが切なくて仕方ないんだね。だからほら、さっきから腰が揺れて揺れて止まらないんでしょう?」
「そんな、ぁ!」
可愛いリリアンヌ。愛しいリリアンヌ。
すっかり肉欲漬けにしても、こうして最初は自分のそのはしたない反応を、いじらしくも否定してみせる。
あぁ、可愛い。
その様子を見ているだけで、彼は己が滾ってくるのを感じる。
「無理しないで」
腕の中の彼女は、黒の薄い下着を一枚だけ身に付けている。ギリギリ臀部が隠れないくらいのひどく丈の短いもので、肩紐を解けば簡単に脱がすことができる。
せめて服を寄越せと主張した彼女に、彼が妥協したのがこれだった。こんなもの着ているか着ていないか分からないと彼女は言ったが、部屋は快適な温度を保つようにしているし、服なんて毎日毎日すぐに役に立たなくなるのだ。あまり意味がない。
「してほしいこと、あるんだよね」
その頼りない下着は汗やら唾液やら蜜やらで、彼女の身体にぴたりと貼り付いていた。
胸の辺りなんか、硬く尖った頂きがそのまま形を示している。
先ほどまで彼が布の上から散々に愛撫したので、唾液ですっかり色を濃くしていて、それがまた大層卑猥な印象をもたらした。
「大丈夫。ここにはオレしかいないから。他に誰も聞いてないよ。だからほら、その可愛いお口でおねだりしてみせて」
一度指を引き抜くと、リリアンヌはまた切なげにその身体をくねらせた。
「は、あ、あ」
見せつけるように蜜に塗れた指をゆっくりと舐める。
それから秘所にまた戻すが、次は一本だけ。ほんの少しだけ蜜口に指を沈めて、その入口の縁をくるくるとなぞりながら円を描く。
「~っ、はぁ……!」
「ん? アンヌ、どうしたの」
彼女はもう知っている。焦らされるのがどれほど苦しいか。
そこから逃れるには、どんな言葉が必要か。
「フィール…………て」
か細い声に耳を傾ける。
「あぁ、挿れて、早く、早く……!」
「うん」
必死に請われて、サフィールは満面の笑みをその顔に浮かべた。
彼女の身体をころんと転がし、手早く下着を抜いてから絨毯の上で四つん這いにさせる。そして寛げた前履から飛び出した自身を、彼女の腿の間に挟ませる。
「アンヌ、ほら、お待ちかねのモノだよ」
「ひう」
細腰を掴んで、秘裂で前後させればねちょりと音が鳴った。数度繰り返せば、それだけで彼のモノはすっかり蜜を纏ってしまう。
「あ、あ、サフィ……!」
花弁を捲られて、時に先端で敏感な芽を突かれて、その度に腰が揺れ嬌声が上がる。一緒に首から伸びた鎖がしゃらりと鳴って、それは大層美しい音楽のようにサフィールの耳の内に響いた。
「サフィ、あ、もう、あぁ! 話が、ちが」
「ん?」
言われて、気付く。
そう言えばそうだった。彼女はちゃんと挿れてほしいと言ったのだった。
「あぁ、ごめんね。こうしてるだけでもすっごく気持ち良くて」
散々に張り詰めたソレを、入口に宛がう。
「いっぱいご奉仕するから、許して」
そうして、一息に彼女の内側に己を沈み込ませた。
「やぁあぁ……!」
大きな刺激に、悲鳴が漏れる。内側は熱くてどろどろで、うねっている。
「アン、ヌ……!」
襞は悉く怒張に絡み付いて来る。
「あぁ、アンヌ、最高。気持ちイイ」
小さく痙攣するその感覚を愉しんで、サフィールは侵攻を開始した。
「あ、あ、あ、あ」
じゅぷっ、ぱちゅん、にゅちゅっ――――
激しく抜き差しすれば、接合部からはリリアンヌの蜜と彼の先走りが泡立つ。
「ま、待て……!」
「んー?」
浅いところで小刻みに前後してから奥までぎゅうぎゅう捩じ込めば、お預けされていた反動か、降りてきた入口がちゅうちゅう吸い付くみたいな反応を示す。
「あぁ、アンヌ、可愛い」
この体勢だと顔が見えないのが残念だけれど、無防備に晒される背中は眩しいし、獣のような体勢で喘ぐ彼女を眺めると妙な支配欲が満たされる。
「可愛い、アンヌ」
彼女は抵抗できない。サフィールのするがままに翻弄される。
「アンヌ、アンヌ」
その背に覆い被さるように身体を曲げる。肩甲骨の辺りにちゅっと口付けを落として、跡を残しておく。片手を浮かせて重力に引っ張られているその乳房をぐにゅぐにゅと揉みしだけば、彼女はその刺激に腰を振りながら、ナカをきゅっと締め上げた。
「っ」
思わぬ締め付けと擦りに、己がまた一層反応する。
「あう、んんっ、んくぅ」
「アンヌ、好き」
囁けば、また内側がうねる。
「愛してる」
応えるように、締まる。
嫌われていないのだと思いたい。愛されていると思いたい。
彼女の尊厳を踏みにじるような真似をしているクセに、そんな筋違いなことを願う。
「アンヌ、アンヌ、オレのアンヌ」
彼女は、自分のだと思いたい。
馬鹿な話だ。
魔女は、誰のものにもならない。だから自分は、いつだって彼女のものになりたいと、それだけを望んでいたはずなのに。
「…………違う?」
欲とは何と罪深いものか。
それでも卑怯にも窺うように訊けば、喘ぎの合間に彼女は苦しげに吐き出した。
「ちが、わ、ない」
彼の汚い願いを肯定してくれた。
「本当?」
「ホント、に……あぁ!」
優しい魔女。情に脆い魔女。
他のどんな生き物相手でも容赦なく切って捨ててみせるのに、こんなどうしようもない人間一人を彼女は手放せず、受け入れようとする。心を曲げてでも、受け入れようとする。
サフィールだけ、特別に。
「嬉しい」
腰使いが荒くなる。
飛び散る飛沫が汗なのか涙なのか愛液なのか自身の先走りの汁なのか、もう何も分からない。ぐちゃぐちゃでどろどろで、そう、二人は不可分なのだ。
「アンヌアンヌアンヌアンヌ!」
「あぐっ、サ、あぁ、イ……!」
「いいよ? イって? 沢山イって?」
「ひあぁ――――――――っ」
仰け反りながら、一際甲高い嬌声を上げて彼女は絶頂を迎えた。激しく震える身体に、彼もまた追い打ちを掛けられる。
「っく、出る、アンヌ、出すよ。いいよね? ね?」
「ひぃ……!」
本能が促すままに、欲望を吐き出す。快感に頭が真っ白になる。彼女の内側を自分が穢しているのかと思ったら、益々高揚は大きくなった。
どくどくと吐精は続く。毎日毎日獣のように交わっておいて、よくまぁこんなに吐き出せるものだと自分自身に少し呆れる。けれどそれほど彼女は魅力的で、そして自分はただただ盛りのついた獣なのだ。
出しても出しても、彼女の腹にどれだけ注ぎ込んでも、飢えの気配がどこかからする。渇望している。これではまだ駄目だと、足りないと感じている。
もっと。
もっともっともっともっと自分には彼女が必要だし、彼女にも自分を味わい尽くしてほしい。
「ぃぁあ……!」
吐き出すものを吐き出し切っても、彼はまだ満足していなかった。繋がったまま、ぐるりと彼女の身体を反転させる。
次は、向き合う形で。
果てたばかりの敏感な身体なのにぐるりと内側を舐め回すように動かされて、彼女はまた軽くイった。
「ん」
締め付けられると、絶頂を迎えたばかりの己がまた勢いを取り戻そうとする。
「アンヌ…………」
激しい情交に切れ切れになる呼吸、快楽に潤んだ瞳、無防備に開かれ端から涎を垂らす唇。
豊かな乳房の頂きはいやらしく膨れ、白い肌のあちこちはサフィールの付けた跡が散りばめられている。古いものも新しいものも、数えきれないくらいに。
ゆっくり、屹立を数度抜き差しする。彼のモノを飲み込んだ彼女の薄い腹は、それに合わせてひくひくする。そっと上から触れれば、己の形が分かるほどだ。
自分のしていることを改めて自覚させられて、興奮が高まっていく。
自分は魔女を抱いている。
本来は許されるはずもない女性を、めちゃくちゃに犯している。
彼女を損なわずに抱けるのは、この世で自分だけ。
「サフィ、あぁ……!」
膝裏を掴んで、大きく股を開かせて、己が彼女の蜜口を出入りするその醜悪な様子を目に焼き付ける。前後させると吐き出したばかりの白濁が掻き出されて、少しもったいない気もする。
「ん、ん、ん!」
「アンヌ、ここ好きだよね」
少し角度を付けて、腹側のとある場所を執拗に責めると、リリアンヌは身を捩った。
「あ、あう、サ、サフィ」
やっと理性が緩んできた表情。
「うん、もっとだよね。知ってる。だからアンヌ、気にしないで沢山啼いて」
サフィールは他の女の相手をしたことがないから想像でしかないが、多分、普通はこんなに滅茶苦茶にされていたら、とっくに理性なんて飛んでいると思う。快楽に従属して、意味をなさない嬌声やあられもないことを口走ったりしているはず。
でも、彼女の強靭な意志はなかなかその段階までいかない。今日も散々に翻弄して、ようやくここまで持ってきたというところだ。
一苦労だが、彼女のそういうところも好きだから、辟易はしない。むしろ努力のしがいがある。
「いいよ、大丈夫だから、全部全部聞かせて?」
「はう! サフィサフィサフィ! もう、駄、目……っ」
花芽を弄りながら、腰の動きを激しくしていく。
口付けしたいと思ったが、それではこの濡れた愛らしい声を聞けない。今は我慢だ。
「……からっ、ちゃんと、ここ、に」
「うん?」
「いる、からっ」
「…………!」
リリアンヌ、健気なリリアンヌ。
この状況に怒らず、それどころかこちらを安心させようと必死に言葉を紡ぐ。
嬉しくて嬉しくて、でも怖くて。
彼女の言葉はちゃんと聞こえているのに、サフィールはまだ嵌めた首輪を外せない。
「あぁ、あ――――っ」
「ごめん、アンヌ、ごめんね」
分かっている。こんなことをしていても意味はない。分かっている。
「アンヌ、アンヌ」
でも、それでも。
「あ、あぁ、イク、サフィ、イ、あふっ」
全てを塗り潰してしまいたい。不安も恐怖も全部塗り潰してしまいたい。この世が二人だけならいい。自分と彼女が不可分になってしまえばいい。
先に逝っても待てはできるつもりだったけれど、残して逝くことが怖くて仕方がない。彼女が歩み続ける道の先に、誰がいるのか分からないのが怖くて堪らない。
信じる心が圧倒的に足りないのは、彼女に不安があるからではない。一重に自分の心が弱いからだ。知っている。
「あ、んん――――っ!」
「っく、っぁ……!」
二度目の絶頂を迎える。己が迸らせるものは、一度目とそう変わりない量で。
浴びせかけられるものに噎び泣いて、彼女の身体が二度三度大きく跳ね上がる。
「アン、ヌっ――――!」
吐き出し切ったら、彼女はくてりと脱力していた。容赦のない行為に、気を失っているようだった。
「……………………」
硬さを失った己をそれでもまだ引き抜かず、彼女の内に残したまま覆い被さるようにして抱きしめる。
安心する。安心したい。
彼女はこの腕の内にいる。他のどこでもなく、ここに、確実に。
他の男になど触れさせない。その男がどれだけの力を持っていても、どれだけの命を持っていても、サフィールは彼女を譲らない。
彼女が受け入れられるのは、自分だけだ。
そうだ、知っている。
魔女は誇り高い生き物だ。女であることより、魔女であることの方がずっとずっと尊いことなのだ。だから、他の男になんて靡かない。どれだけ魅力的な男でも、“魔女”というアイデンティティの前では、それは何の武器にもならない。分かっている。
だから、本当に本当にリリアンヌには自分だけなのだ。自分だけが許されているのだ。
考えによっては彼女がまた別の男に多量に血を分け与えて、その男が拒絶反応を起こさなければサフィールと同じことをできるのだろうが、それがあまりに低い可能性だということも分かっている。
魔女は気まぐれ。そして、高潔な自分の血をそう易々と分け与えたりはしない。血を与えれば、一時力が弱まる。危険な行為なのだ。
だから自分は本当に色んな偶然を重ねに重ねて、彼女に恩情を与えられたのだ。
そうそうあることではない。
だから、本当はこんなことをする必要はないのに。
「――――――――」
浅ましい。
自分の内側を巡る感情があまりに浅ましくて、直視に堪えない。
「怯えてる、だけだ。自分の弱さを、アンヌのせいにしてる、だけ」
あの男と気安く話す彼女に不安を覚えた。自分が特別だなんていうのは、思い上がりじゃないのかと。
そうだ、彼女は自分よりずっとずっと長い時間を生きている。沢山のことを経験し、多くの繋がりを持っている。
でもそんなの当然で、不安がることじゃない。
なのにサフィールは気付いてしまったのだ。
彼女の人生の中で自分が関われる部分の、いかに短いことか。刹那的なことなのか。
どれだけの爪痕を、彼女に残せるだろうか。
そして爪痕を残すことは、彼女にとって良いことなのだろうか。
自分の存在が彼女の人生に影を落とすことにならないか。
この、身勝手な行動の果てに、自分は残った時間に彼女に何を背負わせるのだろう。
あの半悪魔という男が心底羨ましかった。
同じように長い時を生きられる。長らく会っていなくても、昨日まで話していたかのように自然と会話ができる。彼女を置いて逝かずに済む。一緒に生きていられる。悲しませたり、きっとしない。
分かっていたことなのに。
呑み込み、決然と振る舞うべきなのに。
無理矢理にこんな関係に持ち込んだのは自分なのだから、どんな現実でも受け止めてみせるべきなのに。
なのに一人でいる間、想像はどんどん怖い方向へ転がって行った。静まり返った家が恐ろしかった。もう二度と、この家の扉は開かないのではないかと思った。
彼女は、帰って来ないのでは。
だって、誰も自分を必要とはしない。要らないのだ。厄介なのだ。
人間が皆恐れるこんな森に打ち捨てられるほど、自分は必要なかったのだ。だから。
「アンヌ、ごめん」
腕の中の彼女をぎゅっと抱きしめる。
この温もりを歪な形で繋がないと、まともでいられない。いや、もうまともではないのだろうけれど。
おかしなことをしている自覚はあった。滅茶苦茶だと、破綻していると、どうかしていると、分かってはいた。
でも、他を思いつかない。どうしたらいいのか分からない。どうしようもないと、思う。
「ごめん…………」
この檻の中、首輪と鎖で雁字搦めにして。
こんな無理矢理なことをしないと繋ぎ止められない。
自分は最低な人間だと思う。我が事ながら、反吐が出る。
でも、どうしようもない。どうしようもないのだ。
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