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11.引き換えに、するもの
しおりを挟む我慢しろ我慢しろ我慢しろ、絶対言わない絶対言わない、言わないったら言わない――――
呪文のように繰り返し繰り返し同じ言葉を強く念じる。
リリアンヌは延々とサフィールの半端な愛撫に晒されていた。ぶつけたい言葉は山ほどあったが、もう抗議の声さえまともに出す余裕がなかった。心の中で必死に言い聞かせて、外れそうになる箍を抑え込むだけで精一杯。
「はっ、ん、あぁ」
「アンヌ?」
意地だけで、リリアンヌはあられもない声を上げることを我慢していた。
だけれど、もう身体は限界を迎えている。慣れない刺激に耐える方法が分からない。これならきっと単純な拷問でも受けている方がまだ耐えられると思うほど。
痛みより、計算され尽くした快楽の方がずっと暴力的な感覚なのでは、と彼女は溶けかけた意識で考える。
「ココ、辛くない?」
サフィールの視線の先には、色付いた頂き。全く触れられていないはずのそこは、なのに既に芯を持ち勃ち上がっていて、痺れを溜めて微かに震えていた。
リリアンヌははしたない反応を示すそこから目を逸らす。視界に入れていたら、そのもどかしさに思考が全部引き摺られてしまう。
考えない考えない、言わない言えない言える訳ない――――――――
必死に自分を宥めようとする。けれど、もう駄目だった。それは駄目だった。
散々放置され痺れていた頂に、ふっと息を吹きかけられた瞬間。
「ひ、あ、あぁ……!」
リリアンヌの心の糸がぷつりと切れた。
「もういい加減に、ちゃんとしろ!!」
「どこを? ふくらみや周りをなぞるだけじゃ足りない?」
完全に、切れてしまった。
「んん! さ、き……先の方……!」
恥も外聞も矜持も放り出して、リリアンヌは切実な望みを叫ぶ。
「うん、ココ、沢山虐めてほしいんだよね」
そしてそんなことをのたまいながら、ようやくサフィールがソコに触れる。
硬く硬く、期待に震えるソコに。
ぱくりと口に含まれ、少し強めに吸い上げられた瞬間。
「あぁあぁぁ――――っ!!」
あられもない声を上げながら、呆気なくリリアンヌは果てた。散々焦らされたソコは驚くほど敏感になっていて、何十倍にも快楽を増幅して身体を巡る。
激しく震える身体が、椅子をガタガタと鳴らす。サフィールは片方の頂きを口腔に収め、もう片方は親指と人差し指で摘まんでいた。
「あ、あ、サ」
激しく吸われ、舐られ、時にカリっと歯を立てられる。捻られ、押し潰され、捏ねくり回される。
ようやく苛まれていたソコに刺激を与えられ溜まっていたものが抜けたと思ったのに、でも身体は満足しない。次の疼きを訴える。
リリアンヌは気付いていた。
唯一身に纏っているその小さな布が、もうすっかり色を変え重くなっていることに。
貼り付くようなその感触に、腿と腿をそっと擦り合わせる。けれどその動きを、この目敏い男が気付かない訳がなかった。
「ひっ、何を!」
両のひざ裏に手を入れられたと思ったら、そのまま持ち上げられた。
「やめ……!」
リリアンヌはあっという間に椅子の上で開脚させられていた。
「サフィール!」
「リリアンヌ、下着、すごく濡れてる。ね、下の座面にも染みてるよ」
「っ!」
それはそうだろう。足を持ち上げられた瞬間、べちゃりと肌に張り付いた感覚からいうと、そんなことになっていても不思議ではなかった。
「気持ち悪いよね」
サフィールの手が、ショーツをはらりと紐解いてしまう。ずるりと尻の下から引き抜かれ、無造作に床に落とされたソレは、その瞬間べちょっと生々しい音を立てた。
「ひくひくしてる」
「言うなぁ……!」
「蕾も、もうパンパンだね。上のとお揃い」
指先で花芽を弾かれれば、痛みと快感が同時に走る。
「あんっ」
「うーん、指も入っちゃうねぇ」
「ひぃ」
長い指が、一本ぬぷりと侵入してくる。ぐにぐに確かめるようにそこらを指圧されれば、それに反応してこぽぽと更なる蜜が溢れ出す。
「あっ、くっ」
「狭いね? でも、こないだ沢山したから、多分ちゃんと開かれるってどういうことか、覚えてくれてる」
二本目が差し込まれる。
腰が浮いた。腹側の敏感なところを擦られたり、二本の指を押し広げるように動かされ、そこはどんどんしなやかに広げられていってしまう。
「も、や、あ」
「うん、あんまり焦らすの、もうやめるね? さっきは意地悪してごめん。アンヌ、苦しそうだから、ココ、すぐに埋めてあげる」
「な、にを」
不意に身体を抱き上げられる。と思ったら、すぐに椅子の上に逆戻り。
ただし、次はサフィールが椅子に座り、更にそれに向かい合うように彼の上に乗せられて、という形で。
太腿の上、足を開かされた状態で腰を落とす羽目になる。
そうしたら、次の瞬間――――
「んく――――っ!」
ぱんぱんに張り詰めた剛直が一息にリリアンヌの隘路を貫いた。
「あ、あ、あ……!」
奥の奥まで串刺しにされる。
息が詰まって、はくはくと無意味に口を開きながら、サフィールの上でリリアンヌはびちびちと跳ねた。
これはいけない。本当にいけない。
サフィールの上に跨がらされた彼女は、足を空中でばたつかせる。
椅子の座面はサフィールが占領している。その彼の上で両の脚を開かされた彼女は、その脚を落ち着かせる場所を持たない。つまり、貫かれたその部分と僅かに触れ合った太腿に全ての自重がかかっていた。
深い、あまりに深すぎる。
「サ、サフィ、これ駄目、あ、駄目、深いぃ、苦しっ」
過ぎた刺激は、快楽よりも苦しみに近かった。
さすがにその声を聞いて、サフィールもマズイと思ったらしい。
「あぁ、ごめん。アンヌ、ごめん。ここじゃ辛いよね。うん、場所変えるね?」
変えるんじゃなくて、抜いてしまえ!
主張は、圧迫感の前に音にならずに消えていく。
そしてサフィールは、あろうことか繋がったまま立ち上がった。
「あふっ!?」
突然のことに、反射的にリリアンヌはその首筋に腕を回し縋り付く。
依然として奥深く深くまでサフィールが埋め込まれている。それどころか一歩、また一歩と足を進められる度に、ずんずんと振動が直接的に繋がった先、子宮全体に響いてしまう。
「あぐ! ん!? んふぅ!」
信じられないことに、サフィールが一歩進めるその毎に、リリアンヌは達してしまった。
ソファに腰を下ろされた頃には、もう息も絶え絶えである。快感が足の爪先から頭のてっぺんまで全部にじんじんと広がって、彼女を完全に支配してしまっていた。
好き勝手、して……!
あんまり腹が立ったので、リリアンヌは徐に肩口に噛み付いてやった。甘噛みじゃない。本気のヤツだ。
なのに。
「アンヌ、嬉しい。もっと付けて」
ヤツときたら嬉しそうにそう言いながら笑って見せたのだ。
絶句した。
そうして絶句している内に、また下から突き上げるように律動が再開される。今度はソファに膝をつけていられたので、先ほどのような切迫感まではなかった。連続でイってしまったばかりなので少し遠慮しているのか、動きも少し窺う様にゆっくりとしている。
そんな、少し手加減された動きでも。
「あ……は、んっ、あぁ」
喉からは断続的に悩ましげな声が漏れ出してしまう。我慢することは不可能だった。
汗ばんだ肌と肌が密着する。サフィールの胸板でリリアンヌのふくらみが潰されて、痛いくらいに勃ち上がった頂きが堪らなく痺れる。
「リリアンヌ、リリアンヌ、もっとその声を聞かせて」
強請る声。
「アンヌ、全部聞かせて」
余念なく、全てを浚うようにナカを味わう軛。
「繋がってる間くらい、本音を聞きたい。気持ちイイなら我慢しないで。シてほしいならそう言って。この場限りの言葉だって、そういう風に扱うから。後で蒸し返したりしないから。だからアンヌの感じてること、全部知りたいよ」
存在全てでリリアンヌを希う一人の男がそこにいる。
繋がった部分はどろどろに熱くて、正気を蝕んでいく。踏み止まろうとする理性を嘲笑う。そんなものは必要ない、早く本能に従属してしまえと。
「アンヌ、お願い。ごほうび、ちょうだい?」
けれど、その言葉を聞いてリリアンヌは手放しかけていた意識の手綱を根性で強く握り直した。
「サフィール、そういうこと、言うな」
はっきりさせておかなければ。きちんと認識させなければ。
「これは、その、別だ……んっ」
とんとんと一定の感覚で腰を突き上げられる中で、リリアンヌは快感をなんとかいなしながら言う。
「……別?」
「何か成果と引き換えにしか、こういう行為が、与えられないと思うな」
交わりは、報酬ではない。
「そういうのは、良くない。ふ、不健全だもの」
何かを差し出さなくては得られない、打算の上に成り立つものではない。
「ごほうびだから、特別に許してくれてるんじゃないの?」
「ちが、あぁ……!」
ただただ、心のやり取りの上で成立すべきものだ。相手を慈しみ求める心、受け入れる心。それを形にしたのが、こういう行為であるべきだ。
「――――――――こういうこと、してもいいんだ?」
「ん!?」
ぐん、と内側で埋め込まれたものが質量を増した気がした。
「したいと思ったら、してもいいんだ?」
「と、時と場合と頻度はっ、要相談だけど……!」
極力最小限には抑えたい。毎日毎日は勘弁だ。
でも、珍らかな品を差し出さなくても、リリアンヌはサフィールを受け入れる。物と引き換えになんかはしない。もちろん、事に及ぶにあたって自分が自分にする言い訳は欲しいと思ってしまうけれど、でもそれはリリアンヌの事情だ。サフィールにまで気を遣わせ、背負わせるものではない。
何かを差し出さなくてはできない行為だとは、認識してほしくなかった。
逆に言えば、何か差し出しさえすればしてもいいのだろう、そう認識されるのも嫌だった。そういう、ことではない。
「嬉しい」
ずん、と一際大きく腰を突き上げられる。
「ちょ、あ、激し! んむっ」
と同時に唇を塞がれる。
「むっ、ふっ」
貪るような口付けだった。触れ合うというよりは、最初から食むようにされる。早急に捩じ込まれる舌。縦横無尽に内側を全て舐っていく。
そう言えば、唇が合わさったのは、今日はこの時点が初めてだなと頭の片隅でリリアンヌは思った。
少し不思議に思う。
胸を愛撫されるのも、ナカを穿たれるのも、どちらも“されている”という認識が強いのに、口付けは“交わしている”という気分になる。
お互いが“与え合っている”という感覚。
舌と舌が絡み合う。
くちゅ、ちゅぷっと唾液と唾液が混ざり合う淫靡な音。
背筋を駆け上がるのは興奮だ、と彼女は認めた。
確かに、自分は興奮している。官能を引き出され、もっともっとと欲しがっている。
そして舌が絡み合うのと連動するように、屹立を埋め込まれたナカも貪欲に絡み合い、締まる。
どうしようもなく認識させられる。
自分が女という生き物だということを。
今までこういうこととは無縁に生きていたけれど、それでも自分は確かに女なのだと、教えられる。
「アンヌ、好き」
もう十分だと思っていたのに、サフィールの律動が益々激しさを増していく。
「サフィ、あ、あ、んあっ、んーっ!?」
ぎしっぎしっとソファの軋む音が、その激しさを証明するかのようだった。
「もっと気持ち良くなって。もっと感じて。オレのこと、欲しがって」
突き上げられる度に、自分が高みへと引き上げられていくのが分かる。快感だけが頭を占領していって、喉からは頭を通さずに脊髄反射だけで声が飛び出す。
「あ、んうぅ!」
「あぁ、アンヌ、アンヌ、もうイっちゃうね?」
訊かれて、勝手に答えていた。
「イ、あぁ、イク、イク……! ふぁ、イっちゃうぅ!」
素面なら、絶対に言えないような言葉を。
「いいよ。イって? 可愛い声、我慢しないで? 我慢しなかったら、すごくすごく気持ちイイよ」
あぁ、それがいい。気持ち良くなりたい。我慢したくない。最大のものがほしい。
心が貪欲に求める。
限界にまで押し広げられた隘路が、じゅぷんっ!と一際大きく深く抉られた瞬間――――
「あぁっ、イっ、んんん――――っ!!」
リリアンヌは達した。
背を仰け反らせ、絶頂の与える痺れに身を震わせる。大きな手が背を支えているから、好きなだけ快感を享受する。
「アン、ヌっ、オレも出るっ」
遅れて、サフィールもまた達した。容赦なくリリアンヌを追い詰めていた凶悪なモノが、ぶるりと震えて勢いよく欲望を内襞に浴びせかける。
「あ、熱、ひぃ!」
絶頂に追加される刺激に、またもや大きく身体が跳ねた。自分の内側がもっとと言わんばかりに蠕動を繰り返し、最後の一滴まで男から絞り取ろうとしているのがよく分かる。
もう何も考えられない。考えなくても多分いい。
互いのものでべちょべちょになっている接合部、身体を支えるために回された腕、眼前で苦し気に、けれど同時に恍惚の色も宿した色めいた男の顔。不足しているものは、何一つないように思えた。
苦しくて苦しくて、そしてそれを凌駕する勢いで気持ちイイ。それが全て。
彼女は理性を手放して、快楽の海へ自ら身を擲った。
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