# 魔女集会で会いましょう ~拾い物は、慎重に~

東川カンナ

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9.魔女の葛藤

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 窓の外を見上げれば、もう月は随分東へと傾いていた。
 空が白み始めるにはまだ幾何か必要とするが、夜半はとっくに過ぎている。


「……………………」
 手元に視線を戻して、薬の調合を再開する。


 こんな時間まで起きているのは、何も急ぎの仕事があるからではなかった。
 わざと、この時間に調合しているのだ。
 作っている薬に何か時間帯の制約がある訳ではない。真夜中に摘まなければならない薬草や、月の光に晒さなければならない鉱物なんてものは一切ない。
 ただ単に、リリアンヌの個人的な都合で連日この時間が選ばれていた。


 常態化している昼夜逆転生活。


 個人的な都合とはつまり、サフィールと顔を合わす時間を徹底的に潰したいというリリアンヌの心情的な都合だ。


 サフィールとの関係がおかしなことになってから、リリアンヌは彼の扱いに大いに頭を悩ませていた。もちろん、最初の行為の時にそのしつこさを散々叱り数日ソファーに追い込んだことにより、サフィールもいきなり迫って来るような真似はしてきていない。
 ただ、サフィールもまぁ健康な青年だ。そういう欲求はなくせといってなくせるものではないだろうし、無理は強いられなくても隙は常に狙われている。多分。
 それに事に及ばれることがなくても、日常のやりとりが妙にむず痒くて堪らない。リリアンヌがそういった空気を醸し出しているのではない。サフィールの方が、何かにつけて甘く蕩けた空気を作るのだ。


 以前に増して距離が近いし、接触も増えたし、睦言とは言わないがすれすれの発言も多い。
 昔からサフィールは彼女に従順で、付いて回って役に立つことが喜びといった様子だったが、輪をかけてひどくなった。
 ヤツに尻尾が付いていたら、今までだってぶんぶん振ってはいたけれど、今だったらとっくに千切れて飛んで行っている勢いだと思うほどである。


 とにかく、そんなサフィールとの日々にリリアンヌは辟易していた。


 このままでは、近い内にまた押し切られてしまう。事に及ぶことになってしまう。更にそれが常態化したらもっと悪い。
 リリアンヌはそれを危惧していた。


 手元に置いておくことは決めた。放り出したりはしない。いくらかの戯れも、まぁ、こうなった以上稀に、ごく稀になら許容できなくもない。
 だが、そこらの世間の付き合いたての恋人同士がしているような、なんと言うのだ、いちゃいちゃ? するような、濃厚な接触を伴うようなものを自分はするつもりがない。無理だ。あまりに自分の生き方には不似合い過ぎる。


「理性、理性が一番大事……」


 そう、サフィールがひたむきに向けてくる感情は、果てがなさ過ぎて恐ろしい。
 自分が駄目になってしまいそうな予感すらする。
 足元を掬われそうな気が、弱くなってしまうような気がして怖い。


 リリアンヌは自分を守りたかった。常に強い自分でいたかった。
 魔女としての余念のなさを追求していたいのだ。
 強くあることは、自分を守ることだ。自分と、自分の手の内にあるものを守ることだ。
 魔女は生来敵の多い生き物。


「欲や愛なんかに現を抜かせば、悲惨な結果になる」


 自分が命を失うかもしれないし、サフィールを死なせることになるかもしれない。
 それは、絶対に許容できない未来だ。
 だからリリアンヌは、以前に増して魔女としての自分の生き方を追求したいと思っている。
 それにはサフィールが邪魔なのだ。


 いや、何か本末転倒な感じがしていることには薄々気が付いているが、互いの求めている付き合い方のレベルが違うのだから仕方がない。


 サフィールは割合“待て”のできる人間だが、それも絶対ではないと分かっている。


 だからこその昼夜逆転。


 リリアンヌは夜の間に片づけたい薬の調合や呪具の作製、周辺の見回りに、見つけた余計なものの掃除などを済ませてしまう。
 そして夜が明ければ眠い眼を擦りながらサフィールに作った朝食を口にし、いくつかの用事を彼に言いつけると眠りに就く。夕方まで起きて来ない。
 サフィールには昼の間に人間的活動をしてもらい、リリアンヌには朝食になる夕食を共に食せば、その後は寝室に追い込む。


 分かっている。暫定的な対応だ。根本的な解決策ではない。
 第一、こんな逃げてるだけみたいな真似は宜しくない。


「魔女としてのプライドがある……」
 男なんて、手玉に取ってあしらうくらいが丁度良い。少なくとも振り回されるような事態は頂けない。
 それもまだほんの若造の、子どもとの境目も分からないくらいの相手に揺さぶられるようなこと。


 サフィールは、リリアンヌのこの対応について何も言わない。
 寂しそうな空気はちらちら醸し出して来るが、それだけだ。
 たまに夜更かしして彼女の仕事場に居座ることもあるが、そういう時もただ大人しく書物を捲って空間を共有しているだけ。
 その、あなたの判断を見守りますというような、若干の余裕を感じさせるような態度に、またちょっと腹が立った。
 何故、サフィールの方が落ち着いているように見えるのだ。


 どこかで完全に主導権を取り返さなければならない。


 最近のリリアンヌはそればかり考えている。
 昼夜逆転生活が嫌な訳ではないし、別に身体に負担がかかっている訳でもないのだが、正直日のある内にしてしまいたいことだって一つや二つはあるものだ。
「あぁ、でも」
 逃げているだけ、という気もしなくはないが、この生活には一つだけはっきりと良いと言えることがあった。
「寝台が広くて快適なのは最高。これは間違いない」
 おかげで毎日心安らかに快眠できている。抱き枕代わりにあの腕の中に閉じ込められることもないし、狭くも暑苦しくもない。本当に最高。
「アレだな……外に物置でも建てて、道具置きにしている部屋を開けるのも一つの手かも。サフィールと完全に部屋を分ければ、まぁ、おかしな空気になることも少なくできるだろうし」
 そんなことを考えていると、ふと下腹部に違和感が走った。
「――――――――」
 そっと手を当てて、その違和感を追求する。
「あ……」
 答えはすぐに出た。


 確認すると間違いなかったらしい。
 月の物がきていたのだ。月の、と言っても魔女のそれは普通の人間の娘とは周期が違うので、少し言葉として違和感はなくもないが。


 当たり前のことだけれど、自分の身体が今もまだしっかりと生きていることを改めて認識させられる。


 生きている。変化、していく。


 長い時間を代わらない見目で過ごしているけれど、髪は伸び、腹は減り、心臓は絶え間なく血液を全身に送り続けている。何かを消費して、今という瞬間を繋いでいる。


「こんなことになるなんて、思いもしなかったからな……」
 リリアンヌは嘆息した。


 独りだった時も、サフィールを拾ったその時も、一緒に暮らしていた十二年間も、まさか自分がこんな事態に見舞われるとは思いもしなかった。
 でも、こうなってしまった以上、時間は巻き戻せないのだから考えなくてはいけない。
 これからの、時間。自分の、ではなく、自分とサフィールの時間。



 どうやって、生きていきたいだろうか。



 時間は有限なのだと分かっている。
 だから臆病になるし、距離を取りたくなるし、大切にするにしても手元ではなく少し離れたところから眺める程度に留めておきたいと、リリアンヌはそう思ってしまうのだ。










「アンヌ、どうかした?」
 翌朝、朝食はいらないと、起きてきたサフィールにリリアンヌは告げた。
「なんでもない」
 それだけ言って、入れ替わりに寝室に籠る。
 バタリと寝台に倒れ込むと、もう一つも身動ぎしたくなかった。


「っ…………」
 腹が鈍く痛んで仕方がない。下腹を支配する痛みは重く大きい。


 それは久しぶりの感覚だった。なかなかに酷い方である。
 痛み止めをと思ったが、もう立ち上がる気力がない。それに何も腹に入れていない状況で薬だけを飲むのも好ましくない。


 耐えていれば、そのうちマシになる。


 ぎゅっと目を瞑って、リリアンヌはあえて鈍痛に意識を向ける。


 慣れてしまえばいい。そう思う。
 痛みは突き詰めるものだ。目を逸らすよりその方がずっといい。突き詰めて突き詰めて、傷口を抉って、痛みそのものに慣れてしまえば、治りが遅くとも感覚が鈍ってくれる。麻痺させてしまえば、辛いことは少なくなる。


 自虐的な思考かもしれないが、彼女はずっとそうやって生きてきた。治せないもの、治りが遅いものには慣れてしまうのが一番。
 それは外傷であっても、心理的なものであったとしても。


 しばらくそうして痛みと向き合っていたら、不意に部屋の扉が開かれた。
 開ける人物は一人しかいない。
「――――リリアンヌ?」
 そっと声を掛けられる。
 リリアンヌは入口に背を向ける形で丸まっていたので、何か返事をしなければ起きているかどうかも分からないだろう。でも、声を出すのが億劫だった。
 サイドテーブルに何か置かれる音がした。のろのろと、何とか身体を反転させる。
「スープ、作ったけど無理?」
 テーブルの上には置かれた器からは湯気が立っている。その匂いを嗅いで、リリアンヌはすぐに気が付いた。


 薬草が使われている……


 長年手にしているものだ。他にも具材や調味料は使われているが、どんな種類のものかは見極められる。
 それには鎮痛の効果のある薬草が使われていた。
 どうやら、リリアンヌの不調の理由に気が付いているらしい。
「…………なんで、分かった」
「なんとなく」


 リリアンヌのことだから。


 サフィールがそう言う。
 自分の一挙一動、体臭から瞬きの数まで観察されていそうな気がして、心の隅でサッと引くような感情が生まれたが、もうどうしようもないという諦めもあった。


「食べられそうなら少しでも何か入れた方が良いよ。大きな具材は入ってないから、ほんとに流し込むだけで済む。身体もあったまるし。――――頑張ってみる?」
 リリアンヌが思うに、サフィールは間違いなく変態だ。あと、子犬のような笑顔で全力で誤魔化しにかかっているが、ものすごく執着心が強い。
 これはもう矯正できるものじゃないと、彼女は悟っていた。


 どうにもできないなら、受け止めるか受け流すかするしかない。


「食べる」
 受け流そう、気にしないことにしよう。
 そう考えながら、身を起こす。器を手元に運んできたサフィールは、そのまま当然のように自分で匙を持ち、スープを掬って口許に運んできたが、リリアンヌは口を真一文字に結んでそれを拒否した。
「アンヌ?」
 匙に触れれば、中身が零れることを心配してか、割合素直にサフィールは手を離した。
「自分のペースってものがある」
 言うと、
「残念」
 と苦笑してみせる。


 その後、至近距離で食事を観察されるという実に気まずい食事をのろのろ続け、空になった器をサフィールが引き取った。本当は向こうに行っててくれと言いたかったが、それだけの元気がなかったので諦めたのだ。
「薬あったよね、取って来る」
「いい……」
 身を翻したサフィールにそう声をかける。
「でも」
「今のスープに十分な効能のが入ってた」
 言いながら横になる。眠気が訪れてくれれば楽なのだが、残念ながらまだその気配はなかった。
「布団はいらない……暑い」
「でも温めておいた方がいいんじゃ……」
 サフィールの動きを制止すると、心配そうな声が返される。
 そのまましばらく戸惑う気配がしていたが、しばらくするとサフィールはベッドサイドに肘を付き、片方の手でそっと彼女の腹に触れた。


「!」


 突然与えられた温もりに、リリアンヌの身体がビクリと竦む。


「…………ごめん、嫌?」
 嫌だと言いたかった。こういう関係になる前だったら、女性の腹に手を置くとは何事だこの不届き者め! くらいは言っているはずだった。でも、何故だか文句を言う気にはなれなかった。


 自分の心の変化に、戸惑う。


「…………何か、話せ」
 やがてぼそりとリリアンヌはそう言った。ただ触れられ、黙って傍にいられるのはあまりに気恥ずかしい。
「……話してた方が、気が、紛れる」
 誤魔化すみたいにもごもご言ったら、ふっと微笑む気配がした。絶対に緩み切った顔があるはずだから、そちらに目は向けない。
「怒られるかと思った」
「怒る気力が、ないだけ……」
 下腹に与えられる何ともむず痒い感覚。本当にただ温める為に当てられているだけで、もちろん妙な動きはしない。
 サフィールは命じられた通り話し続ける。
「やっぱり関係性が変わると、色々違うね。アンヌと恋人同士じゃなかったら、気力の有無に関わらず、こんなこと許されなかったはずだもん」


 だが。



「――――――――恋人?」



 あまりに耳慣れない言葉に、思わずリリアンヌはそのまま単語を返してしまった。


「え?」
 途端に、サフィールから和やかな気配がザッと引いていく。
 思わずそちらに目を向けると、青い瞳がこれでもかと言うくらい見開かれていた。


「え、ちが、違うの? そうなの? オレとリリアンヌは恋仲じゃないの?」


 動揺に震える声。


「え、じゃあ何なの? アンヌにとって、オレって何?」
「え、いや、その」


 正直、恋人という言葉には違和感しか覚えなかった。


 サフィールと自分が恋人。


 いや、分かっている。
 リリアンヌはサフィールを拒否しきれなかった。だから受け止めると決めた。それにああいう行為は、恋人や夫婦がすることだろう。分かっている。
 だが、恋人というのは、何と言うかあまりに人間くさすぎるというか――――恋人と言ったら、もっとこう色々としなくてはならないものな感じがするのだ。
 でも、リリアンヌはサフィールと“それらしいこと”はあれ以来一切していない。
 別に事に及ばなくても、何と言うのだ、手を繋いだり口付けを交わしたり睦言を囁いたりなんてことは、一切していないのである。
 この状態を“恋人”なんて言葉の有効範囲に含めていいものだろうか。


「想いが通じ合ったって思ったのは、オレの盛大な勘違い? アンヌが放り出すのをやめにしてくれたのは、ただの同情だったんだ?」
「いや待て、サフィール。何もそこまでは言ってないだろ」
 しょんぼりした気配がすごくて、さすがのリリアンヌも少々焦った。
「その、自分の辞書に存在していないと言ってもいいほどの単語だったから」
「――――――――オレがアンヌのこと好きで好きで堪らないって、それは男女の情愛なんだって、そのことは理解してくれてる?」
 濡れた子犬のような瞳がリリアンヌを捉える。
「し、してる」
 割に薄情だと自覚しているはずの心が、チクリと痛むような気さえした。
「理解した上で、傍にいることを許してくれているのは同情?」
「とは、少し違うような……」
 ぼやかした彼女の受け答えを、サフィールは責めたりしなかった。その代わり問いを重ねていく。


「あの、じゃあつかぬことを訊くけど」
「なに」


「魔女って…………結婚とか、するもの?」



「……………………けっこん」



 サフィールの顔が、また更なる絶望に染まった。
 学習せずに、同じようにぽかんと単語を繰り返すという愚行を重ねて、リリアンヌも流石に自分の反応のマズさを自覚する。


「いや、待て待て、違う。その、式を挙げる? みたいな、人間がやるそういう習慣はほとんど聞いたことがないというだけで、その、番うとか、婚姻の契約を交わすとか、そういうのは、極稀に、あるにはある」
 慌ててそう言い繕う。その場凌ぎの嘘ではない。


 魔女だって、その気になれば伴侶を得る。
 その気というのはつまり、ほとんど男女の交わりを厭わないタイプの魔女に限る、ということだが。


「じゃあアンヌはオレと番ってくれるの」
「つが――――――――」



 番う。
 サフィールと、番う。
 サフィールを伴侶として、名実共に扱う。



 あぁ駄目だ、頭がゆだってきた。
 そうは思うが、ここはうやむやにしてはいけないところだと、さすがにリリアンヌにも分かっていた。
 何度か口を開いて、でも喉からは何も出て来なくて、という茶番を数度繰り返した後、やっとのことで言葉を音にする。


「番わない、こともない、ような気は、しなくもない」


 煙に巻きたいという心情が見え見えではあったが、何とか、今の自分に精一杯のセリフを捻り出す。
 否定はしていないはずだ、と心の中だけで彼女は言い訳した。


 そろっとサフィールの様子を窺うと、彼はそれで十分だと言わんばかりに、綻ぶような笑みを零す。
 どうやら、一応の納得は頂けたらしい。


「あともう一つ、デリカシーに欠けてたらごめんね?」
「……ついでだ、もう全部訊いておけ」
 促すが、数瞬サフィールは戸惑いを見せる。
 デリカシーに欠けていたらと前置きするくらいだから、それも当然かもしれない。


「その、こういうものが来るってことは」


 ほんの僅かに腹に添えられていた指が動く。
 おずおずとサフィールは問うた。


「……子どもって、作れるってこと?」



 ――――――――――――――――子ども。



 三度、リリアンヌは寝耳に水な単語を聞いたが、三度目はさすがに態度に出すのは押し留めた。
 正直、動揺はすごいけれど。


 子ども。魔女に、いや自分に子どもができるかどうか。


「か、可能性は低いが、不可能ということは、ない」
 魔女としての一般的な知識を彼女は答える。
「低いんだ?」
 置かれた手が急に意識された。


 そうだ、可能性はなくない。
 サフィールとこうなってしまった以上、可能性は常にある。


「魔女は、長命だもの。もちろん、生き様故に命を落とすリスクも大きいけど、同族が多いと、それだけ自分の生きる場所が狭くなる。だから、それほど多産ではない」


 子ども。


 口の中だけでリリアンヌは繰り返す。
 あまりに未知の領域だ。自分が子どもを産むなんて、想像の必要すらなかった。


 でも。


「……そっか、低いけど、できない訳ではないんだね」
 可能性ができた以上、考えなくてはならない。感情の部分を削ぎ落とせば、生物として子孫を残す行為は必要に思えた。先の世代へ教え繋いで行くべきものは沢山ある。


 では、個人的な心の部分では。


 腹に当てられたサフィールの手。いつの間にか痛みは随分と和らいでいた。
 先ほど食したスープが良かったのかもしれないし、単に温まっていることが理由かもしれないが、手当、というのは伊達じゃないのだと改めて実感する。


 心の内に、戸惑いはあった。想像できないし、自信がないし、正直怖いという気持ちもある。
 でも。
 忌避感はないような気がした。絶対に無理だという気持ちにはならなかった。
 自分が子どもを産むという未来は普通にあるのかもしれないと、そういう風には思えた。


「アンヌ、アンヌが受け入れられるなら」
 サフィールの声が、少し遠くから聞こえるような気がする、あぁ、眠気がやってきたんだな、と他人事のように彼女は思った。


 腹に当てられたのとは反対の手で、髪に触れられる感触がした。優しくゆっくりと頭を撫でられる。
 眠気を前にしては、抵抗する気にはならなかった。


 まどろんできた意識が、何とか言葉を拾い上げていく。



「オレ、いつかアンヌとの子どもが欲しいよ」



 そう言って、サフィールは自分の手の甲を挟んで、間接的に彼女の腹に口付けた。




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