5 / 42
05.次は夢も見ないほど深く
しおりを挟む「リオ、リオ!」
ペチペチと軽く走る刺激。
「リオ」
「んん~」
痛みはない、他愛のない刺激。
けれどそれは確実に莉緒の意識を揺さぶり、何度か繰り返されれば瞼が上がった。
「…………?」
一瞬、状況が全く把握できなかった。
薄暗い部屋、慣れ親しんだものとはまだ違う肌触りの布地、視界に映るのはやたらめったら整った顔の異国の男性。
どういう夢を見てるんだろうか。
真剣に思考を巡らせて、数拍後にこれは現実だ、自分は今イギリスにいて昔の知り合いのお世話になってるのだと思い出す。
「えっ!?」
現状を正しく把握して、莉緒は思わず声を上げた。反射的に元々巻き込むように抱き締めていた掛け布団に縋りつくように力を込める。
部屋は暗い。だって枕元の小さな置き型のライトしか灯りが点いていないから。
つまり、まだ外は夜の最中ということで。
それなのに、何故別の部屋で休んでいるはずのレオンが半ば圧し掛かるように迫っているのか。
良くない想像がサッと脳裏を走る。
切羽詰まっていたからと言って、ほんの少しの縁に縋ってよく知りもしない男性宅に泊まるだなんて、やはりとんでもなく危機管理がなっていなかったと。
「落ち着いて、違う、びっくりさせたと思うけど」
莉緒の強張った表情と反応に、レオンはすぐにどう思われたのか察したらしい。彼は慌てて言い募った。
「やましい何かがある訳じゃなくて、リオ、君すごく魘されてて」
「――――え」
「魘されてるのか、何か身体的に苦しいのかよく分からなくて。それで様子を見に来たんだ」
潔白を主張するようにレオンがパッと莉緒から身を離し、両の手のひらをこちらに向ける。
「え、あの、ご、ごめんなさい」
魘されていた記憶はない。何か悪夢を見ただとか、そういう自覚もなかった。けれどそれ以外に心当たりがあったので、莉緒は彼の言葉を疑う気にはならなかった。
「何か苦しくてとかそういうことではなくて」
なのに、自分は今何を想像した?
親切な彼に対してとんでもなく失礼なことを考えてしまったと、自己嫌悪で消えたくなる。そもそもどう見ても相手に不自由しないであろう相手に、平々凡々な自分がなんて思い上がりも甚だしい。
その上、自分の耳障りな唸り声で彼の安眠まで妨害してしまったのだ。
「レオンの部屋まで聞こえるような声で、うるさくして申し訳ないです……」
莉緒が貸してもらっているゲストルームとレオンの部屋は、他の部屋を挟んでそれなりの距離があった。
「あぁ、違うよ」
どれほどのボリュームを出していたのだろうと青くなる莉緒に、けれどレオンは首を横に振る。
「喉乾いたなって、水を飲みにキッチンに出たんだ。そこから微かに何か聞こえるなって思った程度だから、そんな大きな声は出てないよ。大丈夫」
本当だろうか。自分がひどく落ち込んでいるからそういうことにしてくれたのでは。
そうチラッと疑いながらもレオンを見上げるが、本当かどうかなんて見抜けるほど彼のことを知ってはいない。
「なにか嫌な夢だった?」
「え」
問われ、もう一度記憶を探る。けれどどこにも残滓すらなかった。
「覚えてないの」
「そう、だったらその方がいいよ。悪いことは追いかけ回さない方がいい」
確かに。
莉緒は夢を見ると、それが悪いものであればあるほど原因を追究したくて覚えている限り内容を反芻してしまうクセがあったが、それをすると自分の中の負の記憶を補強してしまうことになる。
深く考えない、そうした方が繰り返すこともないのかもしれない。
「疲れが出たのかな。お水飲む?」
「ううん、大丈夫。夜中にごめんね」
「どうってことないよ。次はぐっすりお休み。頬叩いてごめんね」
大きな手の甲がするりと莉緒の頬を滑った。
さらりとこなされる小さな所作に、莉緒は心の中で飛び上がる。
し、心臓に悪い……
そう思うが、小さな子にするように労わりを込めて優しく触れられると同時にどこかホッとするのも事実で。
「ううん、起こしてくれてありがとう。レオン、おやすみなさい」
「……うん、おやすみ」
二三時間前にも交わした挨拶をもう一度して、レオンは部屋を後にした。
その背中を見送ってからライトの灯りを落とす。
次は多分、ぐっすり眠れた。少なくともレオンがまた莉緒を起こしにくることはなかったから。
7
あなたにおすすめの小説
優しい雨が降る夜は
葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン
無自覚にモテる地味子に
余裕もなく翻弄されるイケメン
二人の恋は一筋縄ではいかなくて……
雨降る夜に心に届いた
優しい恋の物語
⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡
風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格
雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
カモフラ婚~CEOは溺愛したくてたまらない!~
伊吹美香
恋愛
ウエディングプランナーとして働く菱崎由華
結婚式当日に花嫁に逃げられた建築会社CEOの月城蒼空
幼馴染の二人が偶然再会し、花嫁に逃げられた蒼空のメンツのために、カモフラージュ婚をしてしまう二人。
割り切った結婚かと思いきや、小さいころからずっと由華のことを想っていた蒼空が、このチャンスを逃すはずがない。
思いっきり溺愛する蒼空に、由華は翻弄されまくりでパニック。
二人の結婚生活は一体どうなる?
完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす
小木楓
恋愛
完結しました✨
タグ&あらすじ変更しました。
略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。
「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」
「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」
大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。
しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。
強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。
夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。
恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……?
「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」
逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。
それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。
「一生、私の腕の中で溺れていろ」
守るために壊し、愛するために縛る。
冷酷な仮面の下に隠された、
一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。
★最後は極上のハッピーエンドです。
※AI画像を使用しています。
清楚な執事長、常駐位置が“お嬢様の隣”に確定しました
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話・後日談12話⭐︎
清楚で完璧、屋敷の秩序そのもの——そんな執事長ユリウスの“常駐位置”が、なぜか私の隣に確定しました。
膝掛けは標準装備、角砂糖は二つ、そして「隣にいます」が口癖に。
さらに恐ろしいことに、私が小声で“要求”すると、清楚な笑顔で「承知しました」と甘く返事をしてくるのです。
社交は上品に、恋心は必死に隠したい。
なのに執事長は、恋を“業務改善”みたいに制度化して逃がしてくれない——!
むっつり令嬢の乙女心臓が限界を迎える、甘々コメディ恋愛譚。
清楚な顔の執事長が、あなたの心臓まで囲い込みにきます。
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない
彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。
酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。
「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」
そんなことを、言い出した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる