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【番外編】美貌の騎士とガチムチ騎士の犬も食わない系の話とかこっちは必要としてないんですけど、アイツら何故かオレに声をかけてくる件について

【番外編】その3

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 さすがに我慢ならないと言いたげな声を上げたアレクだったが、途中でその声音は疑問に変わった。


「……それは?」
「いや、たまには逆でも良くない?」
「逆」
「オレもアレクを食べたいなって」
「…………は?」


 手にした容器を眼前で振る。


「いや、えっと、それはその、お前が俺に突っ込みたいとかそういう?」


 ごくり、アレクの喉が大きく上下した。


「いや、さすがにそういう気は起きないけど」


 アレクを抱きたいかと言われれば、そういうことはない。
 でも、自分ばかりあんあん啼かされるのは面白くない。


「ええっと、じゃあ」
 戸惑いをたっぷり含ませて、問われた。
ソレ・・は、俺に使おうと?」


 手にしているものは、パッケージを見れば分かる。
 ホイップクリームの入った容器だ。ちなみに枕の下にはチョコソースバージョンもある。そういうことに使う用の、そう、プレイ用のやつ。
 普通のと何が違うのかと言うと、すぐに垂れ落ちないように粘度なんかが調整されているし、眉唾レベルだけど媚薬効果があるとかそういうの。恋人向けのグッズだ。


「どこで、そんなもの」
「細かいことは気にしなくて大丈夫」


 そう、つまり女体盛りならぬ男体盛りである。
 愉しいかどうかは分からない。でも、サスから提案されてアリかな、と思ったのだ。


 だって普通に恥ずかしくないか?
 こんなものを自分の身体に塗りたくられて愉しまれるなんて、自分がされたらと思ったらとんでもなく恥ずかしい。
 それに思い出したのだ。いつぞや最後の想い出作りと覚悟して、アレクを押し倒したことがあった。あの時乳首を責めたら、結構な喘ぎ声を漏らしたのだ、この男は。しかもそれを恥ずかしがっていた記憶もある。
 これは使える。今日はさらに恥ずかしさを倍増させるアイテムを使って、アレクをぎゃふん! と言わせるのである。


「シオン、え、お前に使うんじゃなく、俺に? 何が楽しいんだ、それは」
「お前が楽しいことはオレがしても楽しいだろ」
「いやいや、まずビジュアルが最悪だろうが」
「ごちゃごちゃ言わない!」


 やってしまえばこっちの勝ち! と勢いで中身を開ける。


「んくっ!」


 冷たかったのだろうか、アレクが妙な声を上げた。
 よしよし、滑り出しは好調である。好きなだけ声を上げてくれ。カイルの部屋はオレたちの寝室からは離れている。万が一にも聞かれる可能性はない。


 が。


「よーし、アレク、今夜は覚悟し、ろ……」


 直前で動きが鈍ってしまった。
 だって。


「……シオン?」


 え、卑猥。
 え。どうしよ。待って、思った以上になんか卑猥。
 生クリームとアレクの取り合わせが思った以上にけしからん感じ。


 いや待て。待て待て?
 いつもあれこれされるのが恥ずかしかった。だから何かし返してやろうって思った。
 でもこれ、する方が恥ずかしいんじゃ?
 だって、だってアレだろ?


「っ」


 今からオレがコレを舐める訳でしょ?


 想像してみて、すぐに限界を感じた。
 いや、卑猥。コレを舐めてる図が卑猥すぎる。というか、舐めさせられてる、という言い方が頭を過る。
 舐めてるんじゃない。アレクに、舐めさせられてる。
 そういう見方をすると、結局はこっちが恥ずかしい思いをすることになる気がする。


 でも。でもでも。
 じゃあ逆にアレクに舐めさせればいいのか? と言うと、そうでもない。
 こんなものを身体に塗りたくって、アレクに舐められるなんてそんなの恥ずかしいの極みである。


 つまり。


 どっちをやっても超恥ずかしいやつ!


 え!? オレって馬鹿なの!? なんでそれを最初にちゃんと考えなかった!


 内心頭を抱えるが、ここまできて尻尾を巻いて逃げる訳にはいかない。


「シオン」
「おさわり禁止! じっとしとくこと!」


 分かっている。こういうのは羞恥心を持った時点で負けなのだ。
 いつものアレクを思い返してみろ。コイツには羞恥心なんてものはない。そういうものを投げ出してるから、いつも愉しい思いをしてるのだ。だから、オレもそうするべき。アレクが乳首でちょっと感じちゃうことは事実なんだから、戦法は間違っていないはずなのだ。
「んっ」
 正気をかなぐり捨て、オレはアレクの胸元に舌を這わせた。
「っ」
 アレクが小さく身震いしたのが分かる。口内に含んだ生クリームは甘さ控えめだった。これならすぐに胸やけせずに済みそうである。そういう配慮もされた商品なんだろうな、とも思う。
「ふっ、ん」
 小さな突起を捕まえて、生クリームを舐めとるついでに吸い上げてやった。唇から伝わる拍動は、段々と速さを増している気がする。


 いいぞ、いけてる。多分アレクも感じてる。恥ずかしがってるに違いない。


 これでもかというほど執拗に舌先で責め続け、そろそろアレクも羞恥に見悶えているだろうとオレはちらりと視線を上げた。
 ――――失敗でした。えぇ、とんだ判断ミスです。


「!」


 アレクはひどく顔を上気させてはいたけど、羞恥に身悶えるというよりかは獰猛な衝動を必死に抑えている獣という感じで。


「シオン、もう終いか?」


 おまけにそんな風に聞いてくるなんて、まだ足りないと言われているみたいで。


「必死に吸い上げてる姿は大分そそられるんだが」
「はっ!?」


 しかもそんなことを言われれば、抑え込んでいた羞恥心は大爆発必至だ。


「な、な、なにを……!」


 結局アレクが愉しんでいる!
 待て待て待て、どうしてこうなった。そりゃちょっと見通しが甘かったなとは思ったけど、今頃アレクは乳首を責めに責められて悶えているはずだったのに!


「シオン、まだ残ってるんだが」
「んむっ!」
 アレクは自分の身体に残っていたクリームを人差し指で掬い上げ、そうしてオレの口に突っ込んだ。
「んぅ! はっ、ぁ、んむ」
 口の中を搔き回される。クリームの甘い味を内頬に、舌に、上顎に執拗に塗り込まれる。
「シオン、美味いか」
 おかしい。おかしい。主導権を取られてる。立場が逆転してる。こんなはずじゃなかったのに。
「ぁ、やめ、ん!」
 口の中を搔き回される。唾液と生クリームが混じり合う。嚥下しないと口の端から垂れてしまう。仕方がないからその指を舐めて、吸い上げるしかない。


 おかしい。こんなはずじゃなかったのに。なかったのに!


「ははっ、シオン可愛いな」
「ん~~! んむ~~~~っ!」
 拳で胸板を叩くが、抗議を示してもあまり意味がない。ちゅぷちゅぷとこね回される音が唇の隙間から漏れるだけ。


 おかしい、おかしい、どうしてこうなった。
 乳首を責められるより、舐めてるオレの姿に興奮したってこと?
 それでクリーム作戦威力が半減したとかそういう?


「ん――っ!」


 どうしてこうなった、ぎゃふんと言わせるはずだったのに。オレが今日は優越感に浸れるはずだったのに。
 まさかオレ、墓穴を掘ってた?
 そんな! こんなの! おかしい!



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