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【第一話】意中の騎士がお見合いするとかで失恋が決定したので娼館でヤケ酒煽ってたら、何故かお仕置きされることになった件について
【第一話】その9
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ヤケを起こしたのは事実。けれど不貞をしたかった訳ではない。
「どう、誤魔化せば」
血の気が引いた。世の中していいことと悪いことがあるのだ。オレは他人を傷つけてまでアレクを欲しがったつもりはなかった。
「誤魔化す? これ以上まだ何か俺に対して誤魔化す必要がある何かがあるのか」
「お前にじゃない、お前の奥さんにだよ!」
罪悪感などまるでなさそうな声にイラつきながらくわっと叫んでも、アレクの顔色は変わらない。
「そんなものはいない」
「いるだろ! 将来的にそうなる相手! 今はまだそうでなくとも、もうこれは十分に背信行為に当たる」
「当たらない」
見合いがまだだから? 婚姻関係を結んでいないから?
でも、二人は見合い前からもう。
「ふ、ふざけ」
それとも、オレとの行為は一夜の過ちみたいなものだから、ノーカンで済まそうということだろうか。
「落ち着け。昨夜から思っていたが、お前は恐ろしいくらいに盛大に勘違いをしている」
「はぁ!?」
これが落ち着いていられるかと食って掛かろうとしたら、肩をグッと押さえられた。
そうして真っ直ぐにこちらと目を合わせ、アレクは言った。
「見合いはしない」
「……?」
ミアイハシナイ。
異国の言語を使われたようだ。理解が及ばない。
「聞いてるか? 全く響いてない気がするんだが。俺が何て言ったか分かるか?」
「ミアイハ、シナイ」
「そう」
見合いはしない。
はぁ。しない。そうですか。
「ってそんなことできる訳ないだろ! 上官の紹介っていうか、その上官の娘だぞ、話が出た時点でノーなんてほぼない案件」
「まぁそうなんだが」
「それにオレは見たんだからな! お前がその上官の娘と仲良く茶をしばいてたところを! 見合い前から意気投合してたじゃないか、それを何が見合いはしないだ嘘もほどほどに」
「しないんだよ。好きな相手がいるから」
「――――」
オレは再び言葉を失った。
好きな相手。アレクにそんな相手が。
純愛を貫く代わりに将来を棒に振る決意をしたということか。
っていうかこれ、もしかして改めて失恋してる?
「俺にもいるし、エレノア嬢にもいる」
「えっ」
エレノア嬢とは見合い相手だろう。
「俺達は双方破談を望んでいて、どうすればそれをスムーズに叶えられるか、それを話し合うために昨日は顔を合わせていた。俺とエレノア嬢は恋仲の二人でも未来の夫婦でもなく、互いの幸せのために互いを人生から弾き出そうと画策する同志、戦友だ。まぁある意味運命共同体とも言えるが」
「…………」
アレクに好きな人がいて。
エレノア嬢にも同じく想う相手がいて。
結婚を当人達が望んでいない。だから破談に向けて共同戦線を組んでいる。
……なるほど?
「……上手くいくのかは分からないが、まぁ、話は分かった。そこは一応信じるけど」
「信じてもらえて何よりだ」
「でも!」
でもそれとこれとは話が別だ。
「それじゃなんでこんなことになってる!? 好きな子がいるクセに、お、お前、この状況、オレと完全に致してるじゃないか! そもそも何故娼館に!? お前の純愛はその程度か、見損なった、完全に見損なったぞ」
「シオン、お前なぁ……」
アレクは落胆の溜め息を吐いた。落胆したいのはこちらだと言いたくなる。
「そこは覚えていないのか」
「何を」
そうして爆弾発言。
「お前、俺のことが好きなんだろう」
「どう、誤魔化せば」
血の気が引いた。世の中していいことと悪いことがあるのだ。オレは他人を傷つけてまでアレクを欲しがったつもりはなかった。
「誤魔化す? これ以上まだ何か俺に対して誤魔化す必要がある何かがあるのか」
「お前にじゃない、お前の奥さんにだよ!」
罪悪感などまるでなさそうな声にイラつきながらくわっと叫んでも、アレクの顔色は変わらない。
「そんなものはいない」
「いるだろ! 将来的にそうなる相手! 今はまだそうでなくとも、もうこれは十分に背信行為に当たる」
「当たらない」
見合いがまだだから? 婚姻関係を結んでいないから?
でも、二人は見合い前からもう。
「ふ、ふざけ」
それとも、オレとの行為は一夜の過ちみたいなものだから、ノーカンで済まそうということだろうか。
「落ち着け。昨夜から思っていたが、お前は恐ろしいくらいに盛大に勘違いをしている」
「はぁ!?」
これが落ち着いていられるかと食って掛かろうとしたら、肩をグッと押さえられた。
そうして真っ直ぐにこちらと目を合わせ、アレクは言った。
「見合いはしない」
「……?」
ミアイハシナイ。
異国の言語を使われたようだ。理解が及ばない。
「聞いてるか? 全く響いてない気がするんだが。俺が何て言ったか分かるか?」
「ミアイハ、シナイ」
「そう」
見合いはしない。
はぁ。しない。そうですか。
「ってそんなことできる訳ないだろ! 上官の紹介っていうか、その上官の娘だぞ、話が出た時点でノーなんてほぼない案件」
「まぁそうなんだが」
「それにオレは見たんだからな! お前がその上官の娘と仲良く茶をしばいてたところを! 見合い前から意気投合してたじゃないか、それを何が見合いはしないだ嘘もほどほどに」
「しないんだよ。好きな相手がいるから」
「――――」
オレは再び言葉を失った。
好きな相手。アレクにそんな相手が。
純愛を貫く代わりに将来を棒に振る決意をしたということか。
っていうかこれ、もしかして改めて失恋してる?
「俺にもいるし、エレノア嬢にもいる」
「えっ」
エレノア嬢とは見合い相手だろう。
「俺達は双方破談を望んでいて、どうすればそれをスムーズに叶えられるか、それを話し合うために昨日は顔を合わせていた。俺とエレノア嬢は恋仲の二人でも未来の夫婦でもなく、互いの幸せのために互いを人生から弾き出そうと画策する同志、戦友だ。まぁある意味運命共同体とも言えるが」
「…………」
アレクに好きな人がいて。
エレノア嬢にも同じく想う相手がいて。
結婚を当人達が望んでいない。だから破談に向けて共同戦線を組んでいる。
……なるほど?
「……上手くいくのかは分からないが、まぁ、話は分かった。そこは一応信じるけど」
「信じてもらえて何よりだ」
「でも!」
でもそれとこれとは話が別だ。
「それじゃなんでこんなことになってる!? 好きな子がいるクセに、お、お前、この状況、オレと完全に致してるじゃないか! そもそも何故娼館に!? お前の純愛はその程度か、見損なった、完全に見損なったぞ」
「シオン、お前なぁ……」
アレクは落胆の溜め息を吐いた。落胆したいのはこちらだと言いたくなる。
「そこは覚えていないのか」
「何を」
そうして爆弾発言。
「お前、俺のことが好きなんだろう」
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