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【第一話】意中の騎士がお見合いするとかで失恋が決定したので娼館でヤケ酒煽ってたら、何故かお仕置きされることになった件について

【第一話】その2

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「ミカ! アンタ、言い方ってもんが」


 ぐさり、事実が胸に突き刺さる。


「……ちがう」
「ごめんなさいね、この子、言葉選びが悪いって言うか」
「フラれてなんか、ない」
「そうそう、フラれたとかそういうのじゃないわよね」


 ぐびり、またグラスの中身を煽ったら、本格的に頭の中身が揺れる気配がした。


「告白すらしてないのに、フラれるなんて」


 そう、オレはヤケを起こして娼館に来た。
 好きなヤツがいたけど、失恋が確定したから。


「オレがなんにもしなかっただけ」


 見ていただけ、憧れていただけ、仲間として信頼されていたけれどそれ以上はないと知っていて、だから。


「どうせ眼中にないって、フラれた後がキツイし、今あるカンケーを壊したくないって。そうしたら」


 相手に見合いの話が来てしまったのだ。そんで今日、街中で見合い相手と二人並んでいるところを目撃してしまって、オレの心は本格的に粉砕してしまった。


 お見合い、来週末って言ってたじゃん。
 なんでもう会ってるの、なんでそんな仲良さそうなの。――――なんて、そんなこと言える立場でも何でもないんだけど。


「それだけ大切な恋だったのね」
「……やさしい」
 金を払う客だからか、オレのこの顔目当てか、何でもいいけど優しくされたら嬉しい。逃避だって分かってるけど、もう今オレは人に優しくされたくてされたくて堪らないのだ。
「あら、嬉しいこと言ってくれる。それじゃ今夜は私とイイコトする? ヤなこと全部忘れさせてあげるわよ」
「ちょっと! 抜け駆けしないで!」
「そうよそうよ、丸め込もうったってそうは行かないわ」
「ね、私の方が天国見せてあげられると思うわぁ」
「やだ、はしたないわね」


 あぁ、それにしても彼女達はこんなところでオレ相手に時間を空費していていいのだろうか。
 オレが来店した時点で指名のなかった子達が集まってきて、指名争いが勃発して、下がりなさいとお怒りの様子で出てきたオーナーに今夜分の給金はいらない、出るだろう損益はこっちで折半するからと言い出して押し勝って今のこの状況である。
 儲かっていそうではあるけれど、だからこそこんなことして大丈夫なの、と思わなくもない。


「お兄さん、私にしましょうよ」
「あたしの方が好みに合うんじゃない?」
「そうだなぁ」


 あぁ、頭がぐらぐらする。難しいことは考えたくない。それにいい加減、誰か決めなきゃ。


 一同を見回そうとして、それより先にオレの頭の中がぐるんと強い力で回った。
 傾いた身体をお隣のお姉さんが受け止めてくれる。顔面が柔らかなのに弾力がある何とも形容しがたい感覚に包まれた。


「あ~! アンナ、ずるい!」
「それは卑怯よ!」
「んえ?」


 もぞもぞと顔を起こすと、豊かな黒髪美人の微笑みが。
 どうやらオレは破廉恥なことにお姉さんの胸元にダイブしてしまったらしい。これはマズいか? と一瞬思ったが、居心地が良くて動く気になれない。
 それにお姉さんもオレの頭を抱えてよしよししてくれているので、まぁ合法の範疇だろう。


「オレ、あんまおっぱいにきょーみなかったんだけど、このふかふかには優しさが詰まってんだね」
やっぱり女には勝てないんだなぁ。オレにこのふかふかがあったら違ってただろうか。
「ふふ、私でお役に立てるなら目一杯慰めてあげる」


 うん、もう状況も泥沼化してきてるし、こちらのおねーさんに決めてしまおうか。
 彼女、さっき大切な恋だったのねって言ってくれたやさしーおねーさんだし。


「おねーさん」
「なぁに?」
「オレ、今夜は」


 おねーさんと一晩過ごすことにするよ。


 その一言は、


「シオン! シオン・ルブランがここに来てるだろう!」


 野太い声に搔き消されてしまった。


 やめろよ、こんなところで大声なんて。品がない。それに酔った頭に響くだろ。



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