元悪役令嬢・リズベルは今日こそ“理想の騎士”と離縁したい

東川カンナ

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9.ぼやけてしまう

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「…………貴方の言っていることは滅茶苦茶な気がするわ」
「そうかもしれません。貴女を引き止めるのに必死なので」


 チラリと覗く鎖骨に唇を寄せられる。吸い上げられ、チリリと走る痛み。きっと跡になってしまう。夜着の上から乳房を揉まれ、リズベルは形ばかりの抵抗として身を捩ってみせた。
 結婚してから、身体を重ねるのはもちろん初めてではない。だってそれは夫婦の義務だから。夫から望まれれば、そう特別な理由がない限り拒めない。というか、どうせ力の差があるのだから敵わない。
 身体が快感を拾うのは生理的な現象、あるいは夫の手腕によるものだと思うことにしていた。
 胸の頂きを柔らかく潰されて、甘い戦慄きがリズベルの身体中に広がる。
「んっ」
 声を殺すのは、なけなしの矜持。
「っ、ふ、ぁ……」
 首の弱いところを責められる。吸われて、甘噛みされて、舐め上げられる度にぞわりと身体が震える。
「ココがお好きですね。もっと舐めましょうか」
「もういらな」
「遠慮しないで」
「んん!」


 人間は弱い生き物だ。誘惑に、快楽にすぐに隷属したがる。
 夜着の裾から忍ばされた手が足の付け根をツッとなぞってソコに辿り着けば、ぬかるみがその指先に纏わりつく。
 触れられれば、感じる。くちゅりと奥に入り込まれれば、大した抵抗もせずに受け入れる。
 リズベルの身体はもうこの夫に慣らされてしまっている。
 エヴァンは何度も優しく優しく、けれど決して中途半端は許さずに本当に隅の隅までリズベルの身体を探った。悦いところ、そうではないところ、可能性を秘めた場所。きっとリズベルよりリズベルの身体に詳しい。


「ぁ、っふぅ……!」
 いつの間にか指は二本、三本と増えていた。ぐちゃぐちゃとはしたない音が閨に響き渡る。リボンを解かれ開かれた前から零れた乳房の先は、形のいい唇にしゃぶられていた。絶妙な力加減でリズベルの頂きを刺激する。
 放置されている反対側が切なくて、ねだってしまいそうになるのを必死に堪えるのもいつものこと。無意識に自分で弄ろうとして手が伸びかかっているのにハッと気付いて、彼女はそれを防ぐように自分の口を覆う。
「っぅ、ふ、んんーーーーっ!」
 やがて蓄積された快楽が張り詰めた糸をぷつんと切った。花芽を押し潰されたのをきっかけに、甘い悲鳴を喉の奥から零しながらリズベルの身体が弓形にしなる。
 きゅうきゅうと捩じ込まれた指を締め上げて、ソコは淫らに男を誘った。
「愛らしい反応ですね」
 リズベルがはしたないと思うことを、エヴァンはそんな風に表現する。
「快楽に潤んだ極上の貴女のこの顔を、誰にも見せたくないな」


 甘い独占欲を孕んだ声音。
 リズベルは嫌になる。


「もっと奥に触れても?」
「……好きにすればいいんだわ」


 声、眼差し、触れ合う肌。


「お許しが頂けて光栄です」


 そのどれもが熱を帯びている。慕っていますという言葉を裏付けるように。
 彼はリズベルといると嬉しそうな顔をする。愛おしそうな顔をする。心配そうな顔をする。心からそうであるという気配を存分に滲ませて。


「っぁ、あ、んくっ」
「声は我慢しない方が楽ですよ」
「ぁあんっ」
 喉元を擽られ、そのくすぐったさに喉が開いてしまう。あられもない声が響くと一緒に、蜜口に突き付けられていたエヴァンの屹立が深くへ沈み込んで来た。
「あ、あっ、んやっ……!」
 滾った熱の塊が隘路を拓いていく、その生々しい感覚。じゅわりと滲んだ蜜を助けに、ソレはどんどんとリズベルの根幹を犯していく。
「ぐっ、そんなに締め付けられては保ちそうにないな……っ」
「だめ、っあ、んんーっ」
 生理現象だ、と言いたかった。けれど洪水のように押し寄せる快楽の奔流に抗うことは難しく、気持ちイイ、それだけで頭がいっぱいになってしまう。快楽に押し負けて、甘く蕩けた身体を譲り渡してしまう。


 あぁ、これが本物だったらどうしよう。


 ぼんやりとしていく意識の中で、それでもリズベルは忌避感を覚える。
 先ほどエヴァンは愛され、幸せになってしまうことこそを罰だと、試練だと思えばいいと言ったが、それは本当にそうだ。こんなもの、罰だ。
 望みもしない愛を差し向けられて、ぬるま湯の中に漬け込まれて。
 悪意や憎しみの形がぼやけてしまう。
 王太子のこともユリア嬢のことも憎んで呪っていたいのに。自分の中の怪物をなかったことにはできないのに。この怪物と一生共に生きて行かねばならないのに。


「リズベル、余計なことは考えないで」
 実際に考えられなくするためか、エヴァンが一層深く奥を抉った。
「んん――――っ!」
 弱いところを責め立てられて、リズベルはまた高みに放り出される。



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