元悪役令嬢・リズベルは今日こそ“理想の騎士”と離縁したい

東川カンナ

文字の大きさ
上 下
3 / 11

3.彼女は毒花の悪女

しおりを挟む
「拙者、アカツキと申す。実は先日、こちらの近くに住む巫女の女性と、お見合いをしたのでござる」

 聞けば、相手の機嫌を損ねてしまったとのことです。

 どうやら、ソナエさんのお見合いの相手とは、アカツキさんのようですね。

 隣のソナエさんを、確認します。

 あー、怒っていますねぇ。

 わたしたちは暗がりにいるのですが、ソナエさんの青筋がくっきりと見えますよ。

 ソナエさんの腕を、ヒジで小突きます。
 態度で示すと、相手にも伝わっちゃいますよ。

 ダメですね、これは。話す気がない模様です。

 ソナエさんがここまで立腹している姿は、初めて見ました。

 よほど、腹にすえかねる物言いをされたのでしょう。

「何を話されたんですか?」
「他愛のない話です。どのような酒を好むか、あてはどれか。拙者は、トマトやチーズだけでも楽しめるというと、相手はたいそう喜んでくださいましたぞ。食事の好みも、ほぼ同じだったので、大丈夫だと思うていたのです」

 よかったじゃないですか。なにが不満だったのでしょう?

「発言に失礼があったか、心当たりはありますか?」
「無礼だったのは、両親です」

 初対面だというのに、お母様がやたらとソナエさんに小言を言ってきたとか。
 相手方の両親ができた人で、そのままことなきを得たと言います。
 お父様まで叱り飛ばしたくらいだとか。

「あなたご自身に、問題があったとのお考えは?」
「思い当たるフシが、何も。おそらく、それも怒らせた原因だったのでござろう。なんてことのない会話で、憤慨されたのでしょう」

 反省は、しているようですが。

 あー、もう。
 ソナエさんブチギレじゃないですか。

 これは、早く解決せねば。

「何を話したか、再現はできますか」


「毎朝、あなたの味噌汁が飲みたいと」


「……あー」



 これは、罪深つみぶかい。



 ダメですね。ダメダメです。これはギルティというしかありません。

 実に罪な発言ですよ、これは。

「おサムライさん。あなたは首をハネられても文句が言えません」
「そこまででござるか!?」
「あなたの中では、朝は眠いのにお味噌汁を作るのは、女性だけなのですね」

 まだわかっていないのか、アカツキさんは黙り込みます。

「あなたは、炊事などの家事を奥様一人に押し付けるおつもりで?」
「……っ!」

 アカツキさんが、ハッと息を呑みました。

 わたしの言わんとしていることが、ようやく飲み込めたようで。

「失念していた。これでは、母と同じではないか!」
「では、その旨をお伝えください。きっと、わかり合えるはずですから」


 シスター・エマと一緒に、お粥のお店で休憩をします。

 
「とにかく、指示に従えって注文が多いんだよ。武家だからかねえ」

 わたしは、とかくその「武家」なるワードがひっかかりました。

 どうもブケというのは、こちらでいう「騎士団」のような役職だそうで。

「ブケ、という家系は、そんなにめんどくさいの?」

 エマからの質問に、ソナエさんは「うんうん」とブンブン首を振ります。

「しきたりには、うるさいかな? 考え方が古いから」

 こちらも、騎士や貴族の中には柔軟な考えの人は少ないかも知れません。

「謎マナーが多いぜ。箸の持ちからや食べ方まで、指図してきやがる」

 めんどうな方みたいですね。

「ですが、お料理が上手じゃないですか。結婚のご意思自体はあるのでは?」
「あたしが食べたいから、料理が勝手にうまくなったんだ。伴侶なんて、考えたこともないさ」

 自分がおいしい晩酌を楽しみたいから、料理の腕を磨いたとのこと。

 なるほど、自分のためならいくらでもおいしいものを作るけど、他人のためとなると話は別だと。


 休憩を終えて、再度ザンゲ室へ。

 今度の方は、お歳をめしたおばあさまのようで。


「実は先日、息子の見合い相手にきつくあたりすぎてしまって」


 へ? 

 今度は、お見合い相手のお母様がいらっしゃったと?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は天然

西楓
恋愛
死んだと思ったら乙女ゲームの悪役令嬢に転生⁉︎転生したがゲームの存在を知らず天然に振る舞う悪役令嬢に対し、ゲームだと知っているヒロインは…

歪んだ恋にさようなら

木蓮
恋愛
双子の姉妹のアリアとセレンと婚約者たちは仲の良い友人だった。しかし自分が信じる”恋人への愛”を叶えるために好き勝手に振るまうセレンにアリアは心がすり減っていく。そして、セレンがアリアの大切な物を奪っていった時、アリアはセレンが信じる愛を奪うことにした。 小説家になろう様にも投稿しています。

気だるげの公爵令息が変わった理由。

三月べに
恋愛
 乙女ゲーの悪役令嬢に転生したリーンティア。王子の婚約者にはまだなっていない。避けたいけれど、貴族の義務だから縁談は避けきれないと、一応見合いのお茶会に参加し続けた。乙女ゲーのシナリオでは、その見合いお茶会の中で、王子に恋をしたから父に強くお願いして、王家も承諾して成立した婚約だったはず。  王子以外に婚約者を選ぶかどうかはさておき、他の見合い相手を見極めておこう。相性次第でしょ。  そう思っていた私の本日の見合い相手は、気だるげの公爵令息。面倒くさがり屋の無気力なキャラクターは、子どもの頃からもう気だるげだったのか。 「生きる楽しみを教えてくれ」  ドンと言い放つ少年に、何があったかと尋ねたくなった。別に暗い過去なかったよね、このキャラ。 「あなたのことは知らないので、私が楽しいと思った日々のことを挙げてみますね」  つらつらと楽しみを挙げたら、ぐったりした様子の公爵令息は、目を輝かせた。  そんな彼と、婚約が確定。彼も、変わった。私の隣に立てば、生き生きした笑みを浮かべる。  学園に入って、乙女ゲーのヒロインが立ちはだかった。 「アンタも転生者でしょ! ゲームシナリオを崩壊させてサイテー!! アンタが王子の婚約者じゃないから、フラグも立たないじゃない!!」  知っちゃこっちゃない。スルーしたが、腕を掴まれた。 「無視してんじゃないわよ!」 「頭をおかしくしたように喚く知らない人を見て見ぬふりしたいのは当然では」 「なんですって!? 推しだか何だか知らないけど! なんで無気力公爵令息があんなに変わっちゃったのよ!! どうでもいいから婚約破棄して、王子の婚約者になりなさい!! 軌道修正して!!」  そんなことで今更軌道修正するわけがなかろう……頭おかしい人だな、怖い。 「婚約破棄? ふざけるな。王子の婚約者になれって言うのも不敬罪だ」  ふわっと抱き上げてくれたのは、婚約者の公爵令息イサークだった。 (なろうにも、掲載)

モブ転生とはこんなもの

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。 乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。 今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。 いったいどうしたらいいのかしら……。 現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。 どうぞよろしくお願いいたします。 他サイトでも公開しています。

乙女ゲームの悪役令嬢に転生したけど何もしなかったらヒロインがイジメを自演し始めたのでお望み通りにしてあげました。魔法で(°∀°)

ラララキヲ
ファンタジー
 乙女ゲームのラスボスになって死ぬ悪役令嬢に転生したけれど、中身が転生者な時点で既に乙女ゲームは破綻していると思うの。だからわたくしはわたくしのままに生きるわ。  ……それなのにヒロインさんがイジメを自演し始めた。ゲームのストーリーを展開したいと言う事はヒロインさんはわたくしが死ぬ事をお望みね?なら、わたくしも戦いますわ。  でも、わたくしも暇じゃないので魔法でね。 ヒロイン「私はホラー映画の主人公か?!」  『見えない何か』に襲われるヒロインは──── ※作中『イジメ』という表現が出てきますがこの作品はイジメを肯定するものではありません※ ※作中、『イジメ』は、していません。生死をかけた戦いです※ ◇テンプレ乙女ゲーム舞台転生。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。

悪役令嬢は処刑されました

菜花
ファンタジー
王家の命で王太子と婚約したペネロペ。しかしそれは不幸な婚約と言う他なく、最終的にペネロペは冤罪で処刑される。彼女の処刑後の話と、転生後の話。カクヨム様でも投稿しています。

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

悪役令嬢は皇帝の溺愛を受けて宮入りする~夜も放さないなんて言わないで~

sweetheart
恋愛
公爵令嬢のリラ・スフィンクスは、婚約者である第一王子セトから婚約破棄を言い渡される。 ショックを受けたリラだったが、彼女はある夜会に出席した際、皇帝陛下である、に見初められてしまう。 そのまま後宮へと入ることになったリラは、皇帝の寵愛を受けるようになるが……。

処理中です...