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第二章
最終回 それから
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クリーヴがロータスの養子になった十三歳から二年後、ロータスはバハルマ王国とカラスティアの一部となった旧シタールの他に、北の王国を支配下に置いてカラスティア王国をカラスティア帝国へと発展させた。
北の国は経済が破たんし、カラスティアに莫大な借金を背負うことになったのだがそれを帳消しにする代わりにカラスティアの支配下に入る道をロータスは提示した。
北海の漁場と北の国にのみ生息する希少な動物の排泄物から取れる最高品質の香水の原料が目的だ。
また、ロータスは奴隷制の廃止も宮廷に於いて議題に乗せたがこれには反発する貴族が多くまだその時期ではないと、その議題はクリーヴの代まで持ち越すことになった。
その間、皇太子となったクリーヴはサントリナのこども園を参考にした施設を大陸中に建設していきながら、奴隷制廃止に賛成する若い貴族を集めて着々と足場を固めていった。
そしてクリーヴ二十五歳、カラスティア帝国の新たな皇帝に即位する。
皇帝になってから、子どもの頃から梅干を食していた彼はシナバス王国との交易に力を入れた。
シナバスの国王リュウエンはクリーヴの底知れぬカリスマ性と美しさ、そして不思議な親しみやすさから彼に魅了される。
クリーヴが奴隷制を廃止したこと、全ての帝国民に等しく教育を受けさせる政策を推し進めている事、あちこちにこども園を建てて乳幼児を持つ親を支援していることなどから国民に絶大な人気があることもリュウエンが彼を尊敬する理由だ。
彼は自国の政治が旧態依然としていることに悩み、いっそのこと北の国やバハルマのように帝国の傘下に入った方が自国の為になるのではないかと思うようになる。
そしていよいよシナバスから帝国へ出て行く国民が後を絶たなくなるとシナバスの貴族たちも不安になってきた。
リュウエンはそういう貴族の賛成を得て、自ら帝国の支配下に入ることを決めた。
シナバスは資源や伝統的な食材が豊富な豊かな国だ。
その資源を支配下に置いたことでカラスティア帝国の経済は更に大きく発展した。
ガルシア宗教国は帝国内での自治国となり、ここに大陸を統一したカラスティア帝国が完成した。
多額の税金を徴収できるようになった帝国はその税収を帝国民に還元したため人々の生活はこれまでになく潤うようになる。
カラスティア帝国ではクリーヴの下、国民たちの笑顔は絶えず、多種多様な文化が発展して黄金期を迎える。
~~~~~~~~~~
二代目となったダキアのリーダーはクリーヴだ。
マリウスもダキアの一員となり、それと同時に近衛騎士団長の役目も任されている。
しかし平和なカラスティア帝国にはもうダキアの出番はない。
ロータスとエリノーが魔法の武具の保管室で二本の魔剣の前に立っている。
「なぁエリノー。俺とクリビアの息子は本当に立派だと思わないか。我が息子ながら男らしくも美しく、頭もいいと来ている。傲慢に聞こえるかもしれんが俺は彼女を妊娠させたことを後悔したことはない」
「今となってはそう言えますねぇ。なんせ、カラスティア帝国をこんなに大きくしたのですから。そういえばそろそろクリーヴ皇帝陛下にも皇后が必要なのではないでしょうか。これまであまりにも国民のことばかり考えていて、そっちの方は全く疎かでしたから。その点だけは陛下の息子とは思えないですねぇ」
「ふん。まだ本当に愛する者と出会っていないだけだ」
「身分に釣りあう女性ならいいですけど」
「エリノー、俺はな、あいつには本当に愛する者と一緒になってもらいたい。貴族でなくてもいいんだ。国を想う賢い女性であれば……。クリビアもそうなるはずだった」
「こども園は彼女の発案ですからねぇ。考えてみればクリビア様とランス医師からは我が帝国も随分と恩恵を受けていますね」
医療の分野では、これまでランスがそれぞれの国を訪問して医学の講義を行っていたが、帝国になったことで各国の医師をカラスティアの中央に集めて講義ができるようになった。
そのため効率的に大陸の隅々までランスの知識を行き渡らせることができたのだ。
「民の暮らし向きが良くなることは帝国にとってもいいことだ。ランスのお陰で病気や怪我での死亡率もグンと減ったしな」
「そうですねぇ。だからもう、魔剣を必要とすることも無いか」
「俺はもう使えないからあとはお前……」
「私は使うつもりはありません。子どもたちにも伝えませんよ。何百年も生きるわけじゃないし何事も運命として受け入れるつもりです。陛下も皇帝陛下には魔剣で命を救えることはお伝えしていないのですよね」
「王家の者だけがその特権に与れるっていうのも不公平じゃないかと思ってな。しかもたった一度だけなんて、難し過ぎる」
「確かに。ただ、我々の代になって魔法鍛冶職人集団の世界に行くことになるような由々しき事態が起こったのもなんらかの神の計らいだとは思います」
ロータスが魔剣を一撫でした。
そして自分の発する言葉には似合わないすがすがしい微笑みを見せた。
「俺がベルナルドではなくクリビアを救ったのも意味があったか?」
「その通りです。皇帝陛下はクリビア様の影響を強く受けてお育ちになられ、それによって今があります。ベルナルド様はきっともうどこかの素晴らしい両親のもとに生まれ変わっておられるでしょう」
「生まれ変わりか。お前はそれを信じているのか」
「当然です」
「……俺は今世ではクリビアと一緒になれなかった。生まれ変わったら今度こそは一緒になりたいものだ」
「陛下……ちょっとしつこいんじゃありませんかねぇ……」
「次こそは浮気などしないぞ」
「はいはい」
二人の笑い声が魔法の武具に吸収される。
そして二人は見納めをするかのように魔剣をじっと見てその周りに置かれている魔法の武具をぐるっと見回し、小さく息を吐いて部屋から出て行った。
それを最後に二人がこの保管室に入ることは二度と無かった。
その後、宝の持ち腐れとなった魔法の武具は宝物庫の隣の部屋でひっそりと埃を被って眠ることになる。
~~~~~~~~~~
涼しい秋風が吹き始めた夏の終りの夕暮れ、クリビアは海の見えるバルコニーで椅子に座ってうとうとしていた。
海には夕陽からキラキラと美しい光の道が出来ている。まるでクリビアを迎える光のカーペットのようだ。
その時いつか聞いたことのある声が頭の中に響いてきた。
《クリビア》
(? ガルシア神様?)
《お前の決断で我が世界が平和に繁栄していく道を歩み始めた》
(……私はただクリーヴを手放しただけで何もしていません。全てロータスとクリーヴ、ランスの力です)
《クリーヴを手放したことで多くの民が幸せになったのだ 自分一人の有り余る幸せを選ばなかったお前は不幸だったか》
(不幸? ……いいえ、とんでもありません。私は幸せでした)
クリビアはクリーヴのカラスティアでの活躍が耳に入る度に幸せな気持ちになっていた。
寂しいことを除いて、ロータスが彼を心から慈しみ愛することは分かっていたので何の心配もしていなかった。
自分には愛する夫、娘、仕事仲間がいた。
衣食住に困らない普通の生活ができた。
それ以上何を望むことがあろうか。
《そうだ おまえは幸せになったのだ そして自分の使命もきちんと果たした》
(私の使命、それはもしかしてこども園のことですか? 私がしたことなどそれくらいです)
《お前の使命はクリーヴにお前の背中をみせることだった それが結果としてこの世界の人々の幸せに繋がったのだ 私は毎日人々の笑い声を聞くことが出来てとても嬉しく思っている》
(あぁ、私がクリーヴの役に立ったのですね……それだけで十分です……)
《前世の知識を持ったお前とランスによって我が世界の繁栄の土台ができた 感謝している さぁ、もうそろそろお前も愛する者のもとへ行きたいだろう 私が連れて行ってあげよう》
日没後の空はまるで魔法がかかったかのように美しかった。
空はまだ明るさを保ち、濃紺から薄い青、そして紫がかった色合いへと美しいグラデーションを見せている。
海は何もかもを飲み込むように静寂と神秘に包まれ夜の訪れを告げている。
暗くなるギリギリまで海で遊んでいた金髪でピンクの瞳の小さな女の子がバルコニーに息を切らせて走ってきた。
「おばあちゃん、見て! この貝殻、綺麗でしょう?」
「おばあちゃん? おばあちゃんったらぁ!」
「……ママー! おばあちゃんが起きないのー! 風邪引いちゃうよー!」
fin
北の国は経済が破たんし、カラスティアに莫大な借金を背負うことになったのだがそれを帳消しにする代わりにカラスティアの支配下に入る道をロータスは提示した。
北海の漁場と北の国にのみ生息する希少な動物の排泄物から取れる最高品質の香水の原料が目的だ。
また、ロータスは奴隷制の廃止も宮廷に於いて議題に乗せたがこれには反発する貴族が多くまだその時期ではないと、その議題はクリーヴの代まで持ち越すことになった。
その間、皇太子となったクリーヴはサントリナのこども園を参考にした施設を大陸中に建設していきながら、奴隷制廃止に賛成する若い貴族を集めて着々と足場を固めていった。
そしてクリーヴ二十五歳、カラスティア帝国の新たな皇帝に即位する。
皇帝になってから、子どもの頃から梅干を食していた彼はシナバス王国との交易に力を入れた。
シナバスの国王リュウエンはクリーヴの底知れぬカリスマ性と美しさ、そして不思議な親しみやすさから彼に魅了される。
クリーヴが奴隷制を廃止したこと、全ての帝国民に等しく教育を受けさせる政策を推し進めている事、あちこちにこども園を建てて乳幼児を持つ親を支援していることなどから国民に絶大な人気があることもリュウエンが彼を尊敬する理由だ。
彼は自国の政治が旧態依然としていることに悩み、いっそのこと北の国やバハルマのように帝国の傘下に入った方が自国の為になるのではないかと思うようになる。
そしていよいよシナバスから帝国へ出て行く国民が後を絶たなくなるとシナバスの貴族たちも不安になってきた。
リュウエンはそういう貴族の賛成を得て、自ら帝国の支配下に入ることを決めた。
シナバスは資源や伝統的な食材が豊富な豊かな国だ。
その資源を支配下に置いたことでカラスティア帝国の経済は更に大きく発展した。
ガルシア宗教国は帝国内での自治国となり、ここに大陸を統一したカラスティア帝国が完成した。
多額の税金を徴収できるようになった帝国はその税収を帝国民に還元したため人々の生活はこれまでになく潤うようになる。
カラスティア帝国ではクリーヴの下、国民たちの笑顔は絶えず、多種多様な文化が発展して黄金期を迎える。
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二代目となったダキアのリーダーはクリーヴだ。
マリウスもダキアの一員となり、それと同時に近衛騎士団長の役目も任されている。
しかし平和なカラスティア帝国にはもうダキアの出番はない。
ロータスとエリノーが魔法の武具の保管室で二本の魔剣の前に立っている。
「なぁエリノー。俺とクリビアの息子は本当に立派だと思わないか。我が息子ながら男らしくも美しく、頭もいいと来ている。傲慢に聞こえるかもしれんが俺は彼女を妊娠させたことを後悔したことはない」
「今となってはそう言えますねぇ。なんせ、カラスティア帝国をこんなに大きくしたのですから。そういえばそろそろクリーヴ皇帝陛下にも皇后が必要なのではないでしょうか。これまであまりにも国民のことばかり考えていて、そっちの方は全く疎かでしたから。その点だけは陛下の息子とは思えないですねぇ」
「ふん。まだ本当に愛する者と出会っていないだけだ」
「身分に釣りあう女性ならいいですけど」
「エリノー、俺はな、あいつには本当に愛する者と一緒になってもらいたい。貴族でなくてもいいんだ。国を想う賢い女性であれば……。クリビアもそうなるはずだった」
「こども園は彼女の発案ですからねぇ。考えてみればクリビア様とランス医師からは我が帝国も随分と恩恵を受けていますね」
医療の分野では、これまでランスがそれぞれの国を訪問して医学の講義を行っていたが、帝国になったことで各国の医師をカラスティアの中央に集めて講義ができるようになった。
そのため効率的に大陸の隅々までランスの知識を行き渡らせることができたのだ。
「民の暮らし向きが良くなることは帝国にとってもいいことだ。ランスのお陰で病気や怪我での死亡率もグンと減ったしな」
「そうですねぇ。だからもう、魔剣を必要とすることも無いか」
「俺はもう使えないからあとはお前……」
「私は使うつもりはありません。子どもたちにも伝えませんよ。何百年も生きるわけじゃないし何事も運命として受け入れるつもりです。陛下も皇帝陛下には魔剣で命を救えることはお伝えしていないのですよね」
「王家の者だけがその特権に与れるっていうのも不公平じゃないかと思ってな。しかもたった一度だけなんて、難し過ぎる」
「確かに。ただ、我々の代になって魔法鍛冶職人集団の世界に行くことになるような由々しき事態が起こったのもなんらかの神の計らいだとは思います」
ロータスが魔剣を一撫でした。
そして自分の発する言葉には似合わないすがすがしい微笑みを見せた。
「俺がベルナルドではなくクリビアを救ったのも意味があったか?」
「その通りです。皇帝陛下はクリビア様の影響を強く受けてお育ちになられ、それによって今があります。ベルナルド様はきっともうどこかの素晴らしい両親のもとに生まれ変わっておられるでしょう」
「生まれ変わりか。お前はそれを信じているのか」
「当然です」
「……俺は今世ではクリビアと一緒になれなかった。生まれ変わったら今度こそは一緒になりたいものだ」
「陛下……ちょっとしつこいんじゃありませんかねぇ……」
「次こそは浮気などしないぞ」
「はいはい」
二人の笑い声が魔法の武具に吸収される。
そして二人は見納めをするかのように魔剣をじっと見てその周りに置かれている魔法の武具をぐるっと見回し、小さく息を吐いて部屋から出て行った。
それを最後に二人がこの保管室に入ることは二度と無かった。
その後、宝の持ち腐れとなった魔法の武具は宝物庫の隣の部屋でひっそりと埃を被って眠ることになる。
~~~~~~~~~~
涼しい秋風が吹き始めた夏の終りの夕暮れ、クリビアは海の見えるバルコニーで椅子に座ってうとうとしていた。
海には夕陽からキラキラと美しい光の道が出来ている。まるでクリビアを迎える光のカーペットのようだ。
その時いつか聞いたことのある声が頭の中に響いてきた。
《クリビア》
(? ガルシア神様?)
《お前の決断で我が世界が平和に繁栄していく道を歩み始めた》
(……私はただクリーヴを手放しただけで何もしていません。全てロータスとクリーヴ、ランスの力です)
《クリーヴを手放したことで多くの民が幸せになったのだ 自分一人の有り余る幸せを選ばなかったお前は不幸だったか》
(不幸? ……いいえ、とんでもありません。私は幸せでした)
クリビアはクリーヴのカラスティアでの活躍が耳に入る度に幸せな気持ちになっていた。
寂しいことを除いて、ロータスが彼を心から慈しみ愛することは分かっていたので何の心配もしていなかった。
自分には愛する夫、娘、仕事仲間がいた。
衣食住に困らない普通の生活ができた。
それ以上何を望むことがあろうか。
《そうだ おまえは幸せになったのだ そして自分の使命もきちんと果たした》
(私の使命、それはもしかしてこども園のことですか? 私がしたことなどそれくらいです)
《お前の使命はクリーヴにお前の背中をみせることだった それが結果としてこの世界の人々の幸せに繋がったのだ 私は毎日人々の笑い声を聞くことが出来てとても嬉しく思っている》
(あぁ、私がクリーヴの役に立ったのですね……それだけで十分です……)
《前世の知識を持ったお前とランスによって我が世界の繁栄の土台ができた 感謝している さぁ、もうそろそろお前も愛する者のもとへ行きたいだろう 私が連れて行ってあげよう》
日没後の空はまるで魔法がかかったかのように美しかった。
空はまだ明るさを保ち、濃紺から薄い青、そして紫がかった色合いへと美しいグラデーションを見せている。
海は何もかもを飲み込むように静寂と神秘に包まれ夜の訪れを告げている。
暗くなるギリギリまで海で遊んでいた金髪でピンクの瞳の小さな女の子がバルコニーに息を切らせて走ってきた。
「おばあちゃん、見て! この貝殻、綺麗でしょう?」
「おばあちゃん? おばあちゃんったらぁ!」
「……ママー! おばあちゃんが起きないのー! 風邪引いちゃうよー!」
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