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第二章
命を救う魔剣(三)
しおりを挟む「陛下、ありましたよ! 魔鉱石が現れています!」
先を行っていたエリノー公爵が戻ってきて興奮気味に報告してきた。
「喜んでばかりはいられないだろう」
「そうですが、でも私の推測が当たっていたということでは?」
「どうだろうな」
洞窟の中に入ると以前と同じように美しく玉虫色に輝く魔鉱石が林立していた。
ロータスはエリノー公爵と騎士たちを残して一人で異世界へと入って行った。
エリノー公爵が残っているのは元の世界で何かあった時にすぐに異世界にいるロータスに知らせることができるようにするためだ。
そして、それは現実となった。
アペロスから命を救う魔剣の話を聞いている時、エリノー公爵が慌てふためいてやって来た。
「陛下、大変です! ドレインがサントリナから戻ってきたのですが、クリビア様が!!」
急遽王宮に戻ったロータスは、すぐに魔剣を持ち出しサントリナへ行く準備を始めその日のうちに出発した。
カラスティアの王宮から旧シタールのタンスクまで通常早馬で四日かかるところを途中馬を変えながら寝ずに走って二日で到着。
タンスクの港にはカラスティア王家の所有する大型船が泊まっており、船の整備、点検も終わったばかりですぐに出航することができたのは運が良かった。
サントリナ王国まで船で丸二日。
空は晴れ渡り追い風で、行く手を阻むものは何もない。まるでロータスを歓迎するかのように何もかもが順調に進んでいる。
それでもその間にクリビアの容態が悪化したらと思うとロータスは気が気ではない。
それほど信仰心の無い彼でもどうか間に合ってくれと、魔剣を握り締めながらガルシア神に祈り続けた。
一生を共にできなくても、生きていてくれるだけでいい。
切実な願いがロータスの心境を変えていった。
ロータスより先にサントリナに到着して伯爵邸に戻ったランス伯爵とマリウスを待っていたのは、肌は土気色で唇は紫色に変色した意識不明のクリビアだった。
部屋にはランス伯爵の代わりの医師と憔悴したアスター王子がいて、東屋で給仕していたメイドは泣いている。
「パパ!」
それまで乳母にくっついて離れなかったラミアがわんわん泣きながら伯爵に抱き着いた。
「私がお庭でお茶をしようって言わなければよかった! うわーん!」
「ラミア……大丈夫だ」
肩に刺さったのは先端に毒の塗られた矢で、別の部屋で薬師が毒の種類の特定に努めていると執事が報告した。
そして応急処置をした医師から刺さった個所は水でよく洗い流しはしたが毒を特定しない限りこれ以上何もできないと言われた。
ランス伯爵が矢の刺さった個所を見ると、肩から背中にかけて肌が紫色に変色している。
呼吸は浅く、今にも永遠の眠りにつきそうだ。
前世で美砂を救えなかった記憶がよみがえり全身を震えが走る。
(ああ、また、また、失うのか? 駄目だ、絶対に、もう二度と失いたくない!!)
「一週間も経っているのにまだ毒は特定できないのか」
「薬師によるとヘビや蜘蛛の毒ではないということは分かったのですが、もし植物の毒でしたら特定には時間がかかると思われます」
世界一の医師を目の前にしてこの医師も若干緊張している。
「二回目だ」
そう呟いたのは目を真っ赤にしたマリウスだ。
ランス伯爵がどういうことかと聞くと、トリス川でも襲われて殺されそうになったことがあると言う。
その場にいる一同が驚愕した。
川で倒れていた理由を知ったランス伯爵はクリビアの手をそっと包み込んだ。
「なんてことだ。川に飛び込んだのはそんな理由があったとは……言ってくれればよかったのに……」
アスター王子がマリウスに話しかけた。
「二度襲われたとなると同じ人物の仕業としか思えない。心当たりはあるのかい?」
「僕は最初は盗賊だと思っていたから……」
「あ!」
ランス伯爵はもしかしてガルシアに行きたくないと言っていたのもそのことと関係があるのかもしれないとひらめいた。
「マリウス、クリビアがガルシアに行きたくなかった理由は知っているか? たとえば神父とか神殿関係者の事を嫌っていたり怖がっていたりとか」
「んー、わからない」
「伯爵、それはどういうことだ?」
「彼女は頑なにガルシアに行くのを拒んでおりました」
「ガルシアに? うーむ……ガルシアで彼女と接点のある神殿関係者と言えば私が知っている限りではネベラウ枢機卿とテネカウ神父だな」
「ネベラウって神殿のおじさんのことだよね。お姉ちゃんが僕に会いに来るときはいつもその神殿のおじさんと一緒に来ていたよ。ヴァルコフ国王ととても仲が良くて……」
「それだ!」
ランス伯爵は一つの仮説に行きあたる。
(理由はわからないが彼女は自分を襲ったのがヴァルコフ国王だと思った。ガルシアに行ってネベラウ枢機卿に見つかったら自分が生きていたことがヴァルコフ国王に知られる可能性があるから行きたくなかった……。いや、待てよ? 殺すくらいなら恩赦なんかしないか。じゃあネベラウ枢機卿かテネカウ神父が? でも神に仕える者が暗殺などするか?)
「なんだ、何かわかったのか」
「あ、いえ、まだ確かなことは……」
仮説は立てたが疑問ばかりが湧いて出る。
彼らが怪しいとしてもクリビアを殺してなんの得があると言うのだろうか。
(クリーヴが狙われるならいざ知らず……)
伯爵はそうこう考えている内に段々イライラしてきた。
この間にもクリビアは死に近づいていく。犯人がわかったとてクリビアが死んでは意味が無い。
そうしてなんの進展もないまま二日が過ぎた。
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