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第二章
悲しい再会
しおりを挟む「クリビア様どうかなさったのですか?」
テーブルに置かれた美味しそうなケーキとジュースには目もくれず、クリビアは全く違う所を見て固まっている。
メイドがその目線の先を追うと、とても美しい、王者の風格を漂わせた立派な男がクリビアに大きな笑顔を向けながらこちらに向かって歩いてきているのがわかった。
「君の笑顔を久しぶりに見た気がする」
「どうしてここに……」
「あぁ、なんて可愛いんだ。この子が俺たちの子か。名前は何て言うんだ?」
そう言いながらロータスが愛おしそうにクリーヴの頭を撫でたので、メイドはびっくり仰天だ。
クリビアは違うと言いたいところだが、どう見てもロータスの子で言い逃れなどできない。
「……何しに来たんですか」
ロータスは精一杯愛情あふれる笑みをクリビアに向けるが彼女が浮かない顔をしていることに気付かないほど鈍感ではない。
だが気付かない振りをして笑顔を必死で維持して言った。
「迎えに来たに決まっているだろう。一緒にカラスティアに帰ろう」
クリビアは店内で言い合うことを避けるため、クリーヴを一旦メイドに預けてロータスを連れて店を出ると店の角の比較的人通りの少ない通りに入った。
「私はカラスティアには行かないわ。あなたと一緒になるつもりはありません。牢から出してくれたことは本当に感謝しているわ。でも……どうかアナスタシアと幸せになってください。子どもだってできたのだから! 私は夫を共有することはしたくない」
ロータスの顔がふいに曇る。彼女との子どもの話などクリビアの口から聞きたくなかった。
「俺が愛しているのは君だけなのにそんなことを言わないでくれ。君を殺そうとした男の娘と幸せになることができるわけがないだろう」
「殺そうとした? それってもしかしてトリス川のことを言っているの?」
「そうだ」
「じゃあ私を助けてくれたのは……」
「俺が君に付けた男だ。君をカラスティアまで連れてこさせるためにね」
(そうだわ……。牢から出た私を彼がそのままにしておくはずがない。そのためにこの人はアナスタシアと結婚したんだから……)
「君を襲った男は死んだ。バハルマの貴族の男で、調べたら貴族の間でも随分評判の悪い男でね。でもそいつが個人的に君を襲う理由などないだろう? 国王に命令されたんだろうが……君は理由がわかるか?」
「あなたがアナスタシアと仲良くすれば私を殺すのを止めるわ、きっと」
「どういうことだ?」
「だって、ヴァルコフ国王の望みはアナスタシアが幸せになることだもの」
「カラスティアの王妃にしてやったじゃないか」
「そんなことじゃないわ。名ばかりの王妃が幸せなわけないじゃない。国王に愛されてこそ幸せなのよ」
それはあたかも自分の事をいっているかのようでおかしかった。ヴァルコフ国王に愛されたいと思ったことはないが、結婚当初は普通の王妃としての生活は送りたかったのだ。
「それは無理な話だ。愛してない人間を無理やり愛することはできない。それでこれからも君が狙われるのなら俺はヴァルコフを殺す」
「……」
ロータスがクリビアの顎に手を添えて口づけしようとした。
「やめて」
「?」
クリビアに顔を背けられたので今度は両頬を持って再び口を近づける。
「やめてください」
クリビアの甘いピンクの瞳が冷たくロータスを見据えた。
「どうした?」
「私はあなたを愛していないわ」
「は? いきなり何を……言っているんだ?」
「愛していないのよ」
「……嘘を言うな」
ロータスの胸の奥をナイフで突き刺されたような鋭い痛みが走った。
クリビアからの拒絶の言葉は存在そのものを否定されたかのようだ。
「嘘じゃないわ」
「何故? あんなに愛し合ったじゃないか。子どもも生まれた。俺たちの! 二人で育てるのが当然だろう? そうだ、俺たちの子どもが次の国王だ。名前は? 名前を聞いていなかった」
「……クリーヴよ」
「クリーヴ。ああ、いい名前だ。男の子なんだな。ほら、やっぱり国王になるべくして生まれたんじゃないか」
無理やり口角を上げるがもう彼の心の中は涙の洪水で窒息死してしまいそうだ。
眦が微かに光った。
それを見たクリビアの胸も苦しくなるが、心を鬼にして言った。
「お願いだから、アナスタシアと幸せになって。彼女はあなたを愛しているのよ」
「やめてくれ! 聞きたくない! 何度も言っているだろう、俺の幸せは君と共にあるんだって!」
「いいえ、やめないわ。私はこの子を王族にするつもりも、国王にさせるつもりもない。王位継承権は放棄するわ」
「な、に? そんなこと……そんなことはさせない!」
「ロータス様!」
「さあ、一緒に来るんだ」
ロータスがクリビアの腕を掴んで連れて行こうとした。
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