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第二章
誕生
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「美しい国だなー。結婚したらここに新婚旅行に来たいなぁ」
ロータスと共にサントリナ王国に降り立ったエリノー公爵の最初の一言はまさに誰もが思う感想だ。
洗練された広々とした街はゴミ一つ落ちてなく、道路は馬車と歩道がしっかりと分かれている。
人々の服装はカラフルで軽く、露出も多いが仕立ては良く下品でも安っぽくもない。
心にも経済的にもゆとりがあるのが分かる。
「なんだか開放的な気分になりますねー」
エリノー公爵はここに来る前に政務を大急ぎで片づけるよう命令されて、ふらふらになりながらも全てやり終え、やっとサントリナ王国に来ることが出来たのだ。
クリビアを捜す以外にここでは暫く休暇を楽しむつもりでいる。
しかしロータスは美しい島国の景色など全く眼中になくその瞳は常にクリビアを捜して彷徨っている。
街行く女性以外にも、店の扉や街角から突然出て来るのではないかとあらゆるところに目を凝らす。
ただひたすら彼女を探すその執念は、はたから見ると狂気の様で。
アスター王子の別邸に囲われているという情報を掴んで忍び込んだがそこにクリビアはいなかった。
「陛下、こうやってこそこそ捜すんじゃなくて、堂々と捜したらどうです?」
本当はそうしたっていいのだ。
だが、クリビアから避けられているかもしれないという考えが頭の片隅にあるため、そうできない自分がいる。
ロータスはクリビアに対して大分臆病になっていた。
~~~~~~~~~~
クリビアはノースポール公爵邸で無事に出産を終えた。
生まれたのは銀色の髪、青い瞳の元気な男の子で、クリーヴと名付けられた。
公爵邸にはアスター王子が頻繁に訪れるようになり、公爵から婚約者がいるのだからもう少し控えたらどうかとしょっちゅう注意される始末だ。
ランス伯爵は自分がクリーヴを取り上げたのだからと、産後の診察を名目に訪れる。
この世界には助産師や産婦人科の医師というのはおらず全て ”医師” が担っているためクリビアの出産は公爵夫妻から依頼されたランス伯爵が行った。
クリビアはなんだか恥ずかしくて嫌だったが、「アルマ医師が大陸一ならランス医師は世界一だ、お産を甘く見てはいけない」とダイアナから説得され、無事に産むためにも渋々頼むことになったのだ。
二週間ほど経ったある日。
この日はアスター王子もランス伯爵も訪ねてこずとても静かで、クリビアはクリーヴを抱いて初めて公爵邸の大きなバルコニーに出て外の風に当たっている。
優しい日差しと心地よい風の中、外気浴をしていると、メイドが来てダイアナと約束していた三時のお茶の時間を知らせてくれたので外気浴もそこそこに室内に入って行った。
そしてその光景を遠くから隠れて見ている男がいた。
ロータスが親睦会で自分に挨拶に来たノースポール公爵夫人のことを思い出したのはサントリノに来て大分経ってからだった。
公爵邸を見張っていたドレインが報告する。
「やはり公爵邸にいたか」
「はい。それと、クリビア様は赤子を抱いておりました」
「えっ?」
「それが、銀髪の赤子でした」
~~~~~~~~~~
クリーヴを産んでから三か月になろうとする頃、クリビアはこのままずっと公爵邸にお世話になり続けることはできないため仕事を探さなければと思うようになった。
そしてこの国で暮らしていこうと決めた。
カラスティアの王妃がご懐妊と発表されて国中が喜びに包まれていると言う噂がサントリナに届いてアナスタシアが幸せなのだと思ったことも公爵邸を出ようと思い始めるきっかけだった。
子どもも生まれるのだから彼も自分を探すことはもうしないだろう。
だから独り暮らしをしても大丈夫だろうと思っている。
お出かけ日和の天気の良いある日、仕事を探しがてら久しぶりに街に出てみようとしたら、ダイアナから護衛を付けた方がいいのではと言われたが、クリビアはそんな仰々しいのは自分には相応しくないと思っている。
そのためメイドだけを付けてもらい、メイドと二人で馬車に乗って出かけることにした。
街は潮の香りが漂い、目にも鮮やかな赤、白、オレンジのハイビスカスが至る所に植えられている。
途中で郵便局に寄って、タンスクの宿屋のおかみさんに手紙を出した。
ずっと気になっていたためこれで安心だ。
馬車から下りてメイドお勧めのケーキ屋に入るとそこの三階の席が人気らしく、ちょっと大変かなとは思ったが頑張って三階まで上がることにした。
息切れしているクリビアと違ってメイドはクリーヴを抱っこしているのに全然平気そうで頼もしい。
階段を上る時だけ彼女に抱っこしてもらったのは正解だ。
上りきると運がいいことに窓際の席が丁度空いたばかりだった。
窓から見える海面の光がキラキラと目に眩しく、目線をずらすと遠くの小島が目に入った。
クリーヴにも見せたかったが生憎眠っている。
「カモメがたくさん飛んでいるわ」
「クリビア様、あれはウミネコです」
「ウミネコ?」
「カモメと似ているんですが、ウミネコはミャーオと鳴いて、くちばしの先が赤いんです」
「それは可愛らしいわね」
「でも、顔はカモメの方が可愛いですね。ウミネコはちょっと顔が怖いです」
「え? くすくすくす。そうなんだ。くすくすくす」
「お待たせしました」
店員が、頼んだケーキとジュースを持って来たのでクリビアがそちらの方に顔を向けると、自分の方に向かって歩いてくる背の高い銀髪の男が視界に入った。
ロータスと共にサントリナ王国に降り立ったエリノー公爵の最初の一言はまさに誰もが思う感想だ。
洗練された広々とした街はゴミ一つ落ちてなく、道路は馬車と歩道がしっかりと分かれている。
人々の服装はカラフルで軽く、露出も多いが仕立ては良く下品でも安っぽくもない。
心にも経済的にもゆとりがあるのが分かる。
「なんだか開放的な気分になりますねー」
エリノー公爵はここに来る前に政務を大急ぎで片づけるよう命令されて、ふらふらになりながらも全てやり終え、やっとサントリナ王国に来ることが出来たのだ。
クリビアを捜す以外にここでは暫く休暇を楽しむつもりでいる。
しかしロータスは美しい島国の景色など全く眼中になくその瞳は常にクリビアを捜して彷徨っている。
街行く女性以外にも、店の扉や街角から突然出て来るのではないかとあらゆるところに目を凝らす。
ただひたすら彼女を探すその執念は、はたから見ると狂気の様で。
アスター王子の別邸に囲われているという情報を掴んで忍び込んだがそこにクリビアはいなかった。
「陛下、こうやってこそこそ捜すんじゃなくて、堂々と捜したらどうです?」
本当はそうしたっていいのだ。
だが、クリビアから避けられているかもしれないという考えが頭の片隅にあるため、そうできない自分がいる。
ロータスはクリビアに対して大分臆病になっていた。
~~~~~~~~~~
クリビアはノースポール公爵邸で無事に出産を終えた。
生まれたのは銀色の髪、青い瞳の元気な男の子で、クリーヴと名付けられた。
公爵邸にはアスター王子が頻繁に訪れるようになり、公爵から婚約者がいるのだからもう少し控えたらどうかとしょっちゅう注意される始末だ。
ランス伯爵は自分がクリーヴを取り上げたのだからと、産後の診察を名目に訪れる。
この世界には助産師や産婦人科の医師というのはおらず全て ”医師” が担っているためクリビアの出産は公爵夫妻から依頼されたランス伯爵が行った。
クリビアはなんだか恥ずかしくて嫌だったが、「アルマ医師が大陸一ならランス医師は世界一だ、お産を甘く見てはいけない」とダイアナから説得され、無事に産むためにも渋々頼むことになったのだ。
二週間ほど経ったある日。
この日はアスター王子もランス伯爵も訪ねてこずとても静かで、クリビアはクリーヴを抱いて初めて公爵邸の大きなバルコニーに出て外の風に当たっている。
優しい日差しと心地よい風の中、外気浴をしていると、メイドが来てダイアナと約束していた三時のお茶の時間を知らせてくれたので外気浴もそこそこに室内に入って行った。
そしてその光景を遠くから隠れて見ている男がいた。
ロータスが親睦会で自分に挨拶に来たノースポール公爵夫人のことを思い出したのはサントリノに来て大分経ってからだった。
公爵邸を見張っていたドレインが報告する。
「やはり公爵邸にいたか」
「はい。それと、クリビア様は赤子を抱いておりました」
「えっ?」
「それが、銀髪の赤子でした」
~~~~~~~~~~
クリーヴを産んでから三か月になろうとする頃、クリビアはこのままずっと公爵邸にお世話になり続けることはできないため仕事を探さなければと思うようになった。
そしてこの国で暮らしていこうと決めた。
カラスティアの王妃がご懐妊と発表されて国中が喜びに包まれていると言う噂がサントリナに届いてアナスタシアが幸せなのだと思ったことも公爵邸を出ようと思い始めるきっかけだった。
子どもも生まれるのだから彼も自分を探すことはもうしないだろう。
だから独り暮らしをしても大丈夫だろうと思っている。
お出かけ日和の天気の良いある日、仕事を探しがてら久しぶりに街に出てみようとしたら、ダイアナから護衛を付けた方がいいのではと言われたが、クリビアはそんな仰々しいのは自分には相応しくないと思っている。
そのためメイドだけを付けてもらい、メイドと二人で馬車に乗って出かけることにした。
街は潮の香りが漂い、目にも鮮やかな赤、白、オレンジのハイビスカスが至る所に植えられている。
途中で郵便局に寄って、タンスクの宿屋のおかみさんに手紙を出した。
ずっと気になっていたためこれで安心だ。
馬車から下りてメイドお勧めのケーキ屋に入るとそこの三階の席が人気らしく、ちょっと大変かなとは思ったが頑張って三階まで上がることにした。
息切れしているクリビアと違ってメイドはクリーヴを抱っこしているのに全然平気そうで頼もしい。
階段を上る時だけ彼女に抱っこしてもらったのは正解だ。
上りきると運がいいことに窓際の席が丁度空いたばかりだった。
窓から見える海面の光がキラキラと目に眩しく、目線をずらすと遠くの小島が目に入った。
クリーヴにも見せたかったが生憎眠っている。
「カモメがたくさん飛んでいるわ」
「クリビア様、あれはウミネコです」
「ウミネコ?」
「カモメと似ているんですが、ウミネコはミャーオと鳴いて、くちばしの先が赤いんです」
「それは可愛らしいわね」
「でも、顔はカモメの方が可愛いですね。ウミネコはちょっと顔が怖いです」
「え? くすくすくす。そうなんだ。くすくすくす」
「お待たせしました」
店員が、頼んだケーキとジュースを持って来たのでクリビアがそちらの方に顔を向けると、自分の方に向かって歩いてくる背の高い銀髪の男が視界に入った。
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