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第二章
船上での再会
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「今日は本当に天候が良くて良かった。船もそんなに揺れることはないかもしれない」
「このままずっと凪いでいてくれればいのに」
「君の客室は船の中央部にある部屋を取りました。そこなら揺れも感じにくいと思います」
「急に乗船したのにそんな部屋が取れたなんて」
「ちょうど空いていたんですよ。まぁ一番いい部屋なんですが。これでも王族ですからね。因みに私の部屋は同じ階の端っこなので何かあったら呼んでください」
「わかりました。ありがとうございます」
アスター王子が取ってくれた部屋はまるで王宮の王妃の部屋のように広くて調度品も美しかった。
こんな部屋は贅沢ではあるが、船酔いしないためと思えばその心遣いは喜んで受け取ろう。クリビアは大きなベッドに横になると、早朝からの緊張が解けてすぐに睡魔が襲ってきた。
目覚めたのは日が沈んだばかりで星がちらほら見え始めた頃だった。
部屋を出ると足は自然に船尾の方へ向いた。大勢の乗客がなにやらパーティ―のようなものをしている。
楽団の演奏に合わせて踊る人、お酒を飲んで陽気に騒いでいる人などでとても賑やかだ。
少し離れた静かな場所で遠巻きに見ていると、いきなり誰かに話しかけられた。
「すみません、マリアンヌさんじゃないですか?」
振り向くと、背の高い黒髪のイケメンが眩しい笑顔でクリビアを見つめている。
「ランス伯爵!」
「なんて偶然なんだ。あなたが乗船しているなんて」
彼は嬉しくて顔が綻ばずにはいられない。
「……あの、マリウスは?」
「ああ、元気ですよ。姉の看病をしながら医師の元で暮らすことになりました」
「それなら安心です。ジュリアナさんの意識は戻りましたか?」
「それはまだです。でも彼は希望を捨てていないですよ」
「早く戻ればいいですね」
「あなたのお体の方も順調そうで本当に良かった! 丁度安定期くらいでしょうから船旅も大丈夫でしょう。サントリナへはどういった用事で?」
「あ、えーと……」
その時、クリビアが男と親しげに話しているのを見つけたアスター王子が上階から駆け付けて来た。
「クリビア、こちらは誰――って、君はランス伯爵じゃないか!」
「おお、これはアスター王子殿下ではないですか。え、でもどうしてマリアンヌさんと?」
船尾でのパーティーは佳境に入り、雲一つない夜空にドーンと花火が打ち上げられた。それを機に次々と打ち上げられる花火に人々のワーッと言う歓声が湧き起こる。
クリビアもデッキチェアに座ってその素晴らしさに感動していた。
その両隣にはアスター王子とランス伯爵が座っている。
ランス伯爵は三か月ぶりに会ったマリアンヌがあのバハルマのクリビア王妃だったことをアスター王子から聞いて、これまで埋めることが出来なかったパズルのピースがようやく埋まったような気がした。
彼女が熱中症で倒れたのも、川辺で倒れていたのも、バハルマでの彼女の生活が過酷なものだったことの結果なのだと。
彼女の境遇を思うと心が痛む。
なぜなら伯爵はずっと昔からクリビアの事が気になっていたからだ。
シタール王国の元王女。
彼女が子どもの頃に船で酔ったのを介抱したのが彼だ。
船酔いくらいでつきっきりで介抱したのは彼女が王女だったからではなく、離れられなかったからだ。
伯爵は前世の記憶が戻ってからこの世界でも医師になろうと思った。それと同時に美砂を求める気持ちも蘇り、いるはずのない美砂が恋しくてたまらずとても辛かった。
何故生まれ変わっても前世の感情を引きずっているのか。
それが嫌だったのでそんな感情を忘れようとすると、それは絶対にダメだと無意識の魂が暴れ出し忘れることができない。
そのせいで彼はろくに女性と恋愛できず結婚も親に言われて政略結婚。
それが何故か二十歳の頃船で出会ったクリビア王女と一緒にいると美砂を求める胸の苦しみがスーッとなくなり楽になった。
船酔いで苦しんでいる姿が可哀想で常に側にいてなんでもしてあげたくなったのも確かだが、なにより魂が十も離れたこの子の側にいたいと言っているその声に従うことにした。
マリアンヌに対しても一緒にいたいという気持ちを消すことが出来なかったのは同一人物なのだから当然だ。
偶然の出会いと再会にランス医師はこれは運命なんじゃないかとそう思った。
「クリビアさん、今更こんなことを言うのもなんですが、私はあなたの噂など初めから全くのデタラメだと思っていたんですよ。どの国も王宮は伏魔殿です。普通の人間では耐えられないでしょう。そのうち真実は明らかになります」
「ありがとうございます。でもどうしてそう思うのですか? 私の事など何も知らないでしょう?」
「知っていますよ」
「え?」
「バハルマの宮殿であなたを診た時、アナスタシア王女はまるで自分が悪かったとでも思っているかのように本当にあなたの事を心配していました。あなたが悪い人ならそんな風にはならない。それに彼女はあなたを友人だと私に言ったのですが、それもあなたの名誉の為だったと今ならわかります。だからあなたは何も悪くないと思いました」
ランス伯爵はクリビアの顔を見てにっこりとほほ笑んだ。
「このままずっと凪いでいてくれればいのに」
「君の客室は船の中央部にある部屋を取りました。そこなら揺れも感じにくいと思います」
「急に乗船したのにそんな部屋が取れたなんて」
「ちょうど空いていたんですよ。まぁ一番いい部屋なんですが。これでも王族ですからね。因みに私の部屋は同じ階の端っこなので何かあったら呼んでください」
「わかりました。ありがとうございます」
アスター王子が取ってくれた部屋はまるで王宮の王妃の部屋のように広くて調度品も美しかった。
こんな部屋は贅沢ではあるが、船酔いしないためと思えばその心遣いは喜んで受け取ろう。クリビアは大きなベッドに横になると、早朝からの緊張が解けてすぐに睡魔が襲ってきた。
目覚めたのは日が沈んだばかりで星がちらほら見え始めた頃だった。
部屋を出ると足は自然に船尾の方へ向いた。大勢の乗客がなにやらパーティ―のようなものをしている。
楽団の演奏に合わせて踊る人、お酒を飲んで陽気に騒いでいる人などでとても賑やかだ。
少し離れた静かな場所で遠巻きに見ていると、いきなり誰かに話しかけられた。
「すみません、マリアンヌさんじゃないですか?」
振り向くと、背の高い黒髪のイケメンが眩しい笑顔でクリビアを見つめている。
「ランス伯爵!」
「なんて偶然なんだ。あなたが乗船しているなんて」
彼は嬉しくて顔が綻ばずにはいられない。
「……あの、マリウスは?」
「ああ、元気ですよ。姉の看病をしながら医師の元で暮らすことになりました」
「それなら安心です。ジュリアナさんの意識は戻りましたか?」
「それはまだです。でも彼は希望を捨てていないですよ」
「早く戻ればいいですね」
「あなたのお体の方も順調そうで本当に良かった! 丁度安定期くらいでしょうから船旅も大丈夫でしょう。サントリナへはどういった用事で?」
「あ、えーと……」
その時、クリビアが男と親しげに話しているのを見つけたアスター王子が上階から駆け付けて来た。
「クリビア、こちらは誰――って、君はランス伯爵じゃないか!」
「おお、これはアスター王子殿下ではないですか。え、でもどうしてマリアンヌさんと?」
船尾でのパーティーは佳境に入り、雲一つない夜空にドーンと花火が打ち上げられた。それを機に次々と打ち上げられる花火に人々のワーッと言う歓声が湧き起こる。
クリビアもデッキチェアに座ってその素晴らしさに感動していた。
その両隣にはアスター王子とランス伯爵が座っている。
ランス伯爵は三か月ぶりに会ったマリアンヌがあのバハルマのクリビア王妃だったことをアスター王子から聞いて、これまで埋めることが出来なかったパズルのピースがようやく埋まったような気がした。
彼女が熱中症で倒れたのも、川辺で倒れていたのも、バハルマでの彼女の生活が過酷なものだったことの結果なのだと。
彼女の境遇を思うと心が痛む。
なぜなら伯爵はずっと昔からクリビアの事が気になっていたからだ。
シタール王国の元王女。
彼女が子どもの頃に船で酔ったのを介抱したのが彼だ。
船酔いくらいでつきっきりで介抱したのは彼女が王女だったからではなく、離れられなかったからだ。
伯爵は前世の記憶が戻ってからこの世界でも医師になろうと思った。それと同時に美砂を求める気持ちも蘇り、いるはずのない美砂が恋しくてたまらずとても辛かった。
何故生まれ変わっても前世の感情を引きずっているのか。
それが嫌だったのでそんな感情を忘れようとすると、それは絶対にダメだと無意識の魂が暴れ出し忘れることができない。
そのせいで彼はろくに女性と恋愛できず結婚も親に言われて政略結婚。
それが何故か二十歳の頃船で出会ったクリビア王女と一緒にいると美砂を求める胸の苦しみがスーッとなくなり楽になった。
船酔いで苦しんでいる姿が可哀想で常に側にいてなんでもしてあげたくなったのも確かだが、なにより魂が十も離れたこの子の側にいたいと言っているその声に従うことにした。
マリアンヌに対しても一緒にいたいという気持ちを消すことが出来なかったのは同一人物なのだから当然だ。
偶然の出会いと再会にランス医師はこれは運命なんじゃないかとそう思った。
「クリビアさん、今更こんなことを言うのもなんですが、私はあなたの噂など初めから全くのデタラメだと思っていたんですよ。どの国も王宮は伏魔殿です。普通の人間では耐えられないでしょう。そのうち真実は明らかになります」
「ありがとうございます。でもどうしてそう思うのですか? 私の事など何も知らないでしょう?」
「知っていますよ」
「え?」
「バハルマの宮殿であなたを診た時、アナスタシア王女はまるで自分が悪かったとでも思っているかのように本当にあなたの事を心配していました。あなたが悪い人ならそんな風にはならない。それに彼女はあなたを友人だと私に言ったのですが、それもあなたの名誉の為だったと今ならわかります。だからあなたは何も悪くないと思いました」
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