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第二章
出会い(一)
しおりを挟む気付くとクリビアの周りは真っ白だった。辺りを見回しても何もない。
(ここはどこ? 私、死んでしまったのかしら)
そう思っていると次第に目の前に何やら見知った風景が映し出された。
男は大きなダイヤモンドのエンゲージリングを手に勤務先の病院を出て恋人との待ち合わせ場所まで向かおうとしていた。
しかし病院の自動ドアを出ようとしたときに急患の知らせが入る。
ちょうど連休の最中で医師たちも休みを取っていて人手不足だった。
男は仕方なく恋人に遅れると連絡を入れようとしたが電話が繋がらないため、メッセージだけ残すことにした。
(蓮司!)
クリビアの前世の恋人、蓮司。
学生時代に水泳で鍛えていた彼は体格が良い爽やかなイケメンだ。
ナースたちにもモテモテだったが、彼は院内保育士の美砂に一目惚れして交際が始まった。
忘れていた前世の恋人の姿に懐かしく思っていると救急車の中から女性が運び出されているのが見えた。
蓮司は運ばれてきた血だらけの女性を見て青ざめ固まっている。
(あれは私! そんな……蓮司の病院に運ばれたなんて!)
そして場面が変わった。
蓮司は部屋の中で指輪を握り締めながらボーっと座っていて、頬には涙の跡がついている。
もう何か月も仕事に行っていない。
テーブルの上には美砂との思い出の詰まったアルバムが開かれておりその周りには空っぽのお酒の瓶がたくさん転がっている。
そして美砂の墓の前で蓮司がお参りしている場面に変わった。
やつれ果て、今にも死にそうな顔をしている。
この時、クリビアの頭の中に彼の考えていることがはっきりと伝わってきた。
『美砂、来世では必ず一緒になろう。俺が見つけるまで誰とも結婚しないでくれよ……。どんなに離れていても必ず見つけ出すから。愛している、永遠に』
クリビアの胸に痛みが走った。
すると突然、蓮司ではない男が美砂に縋っている場面が現れた。
離婚した前夫の恒太だ。
彼はやり直そうと言って美砂の住むアパートまで押しかけてきている。
恒太とは大学時代から付き合っており、卒業して二年後に結婚した。
しかし彼が大学時代に起業した会社が軌道に乗り有名になり始めると、彼は浮気をするようになって、二人は離婚。
美砂はその後、保育士の資格を取って院内保育士として就職したのだ。
蓮司と同じく美砂の墓前にいる恒太の考えが聞こえてきた。
『俺が悪かった。俺のせいで……。いつかまた一緒になろう。その時はもう二度と君を裏切らない。許してくれ、美砂』
(……)
二人が美砂を思う強い気持ちが黒い渦となってクリビアの胸の中に押し寄せひしめき合う。
(何!? 苦しい! ……息ができない! ああ、誰か助けて!)
クリビアは見知らぬベッドの上で目を覚ました。
息遣いは荒く、大汗をかいている。
「はぁはぁ……夢……違う、私が死んだ後の……」
死後、暫くの間さまよっていた美砂が蓮司や恒太の所へ引き寄せられそこで目にした場面だ。
(なんでまたそんなのを思い出したのかしら。って、私、助かったのね! でもここはどこかしら……。あ! それよりマリウス! マリウスは!?)
急にクリビアの心臓が早鐘を打ち始めて今にも口から飛び出しそうになった。
(まさか、まさか……。ああ、ガルシア神よ!)
マリウスを探そうとベッドから起き上がろうとしたとき、ドアを開けて一人の男とマリウスが入って来た。
「お姉ちゃん! 良かった! 気が付いたんだね!」
「マリウス! 無事だったのね! あぁ良かった! 本当に良かった! ごめんね、危険な目に遭わせてしまって」
(ガルシア神よ、有難うございます!)
クリビアは胸を撫で下ろし眦に安心の涙が浮かんだ。
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