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第一章
親睦パーティー(三)
しおりを挟むクリビアを呼ぶ優しい声が聞こえた。
ゾッとして振り向くとヴァルコフ国王が笑顔でこちらを見ている。
そしてその横にはさっきまで女性たちに囲まれていたロータスが。
「王妃殿下、陛下がお呼びですよ。行かれませんのですか」
クリビアは早く行けと言わんばかりのネベラウ枢機卿とテネカウ神父に「それでは」と軽く微笑んで足を進めた。
その足取りは重く、泥濘の中を歩いているようだ。
クリビアの後ろからは枢機卿も一緒についてきている。
(平常心よ。明るく普通に接するの。みんな私とロータスの関係を知っているんだから。私だけ意識し過ぎる必要は無い)
そう思いながら優雅さを纏いゆっくり近づくとヴァルコフ国王が突然クリビアの腰まで手を伸ばしてグイッと自分の横に引き寄せた。
「きゃっ」
そしてその生温かく無骨でガサガサする大きな掌をクリビアの滑らかで白い肩に置いて撫で始めた。
ロータスの瞳に殺気が走る。
クリビアは鳥肌が立ちそうだったが気取られたら後で以前のように暴力を振るわれるかもしれないと思い、腹に力をグッと込め、肩から自分の意識を切り離した。
はたから見ると仲の良い夫婦のスキンシップのように見えるだろう。
そんな彼女の態度にヴァルコフ国王も満足そうだ。
ロータスが一歩前進してクリビアの手を取り挨拶をした。
「お久し振りです。クリビア王妃殿下」
「お久し振りです。カラスティアの再興、お祝いを申し上げます」
「……ありがとうございます」
国を取り戻して再興を成し遂げたロータスは自信に満ち溢れてとても魅力的だ。
二人の軽い挨拶が終わるとヴァルコフ国王が周りに聞こえるほどの大きな声で話し始めた。
「君たちは昔は婚約者同士だったではないか。そう固くならずに。まぁお互いが親の仇になってしまってはそうもいかんだろうが。しかしこんなことを言うのもなんだがこれでお互い様になったのだ。和解したらどうかね」
あたかもこれまで二人が不和だったかのような言い方だ。
この場にいる貴族たちは昔の婚約者同士を下衆な興味を持って見ていた者も多いだろう。
親によって引き裂かれた悲劇の王女と王子。まだお互い気持ちがあるのであればスキャンダルにもなり得る。
それが国王の言葉で一掃された。
クリビアも建前上はそれがベストな方法だろうと思ったが、それに対して何と言っていいのか分からず困っていると、ロータスが応えた。
「バハルマ国王、我が国と貴国の関係は王妃殿下の事とは関係なく末永く良好な関係が続くことを願っています」
「ははは。そうか。私は戦争は好かない。シタールの二の舞は御免だ。共に繁栄していこうではないか。故カラスティ国王もそれを願っているだろう」
「私は自国を取り戻しただけです。戦争を仕掛けたという意識はないですよ」
クリビアは下を向いた。早くここから立ち去りたいと思っていると、ネベラウ枢機卿が話に入って来た。
「そういえばロータス国王陛下、我がガルシアを突然出られたので心配しました。どちらに行かれてたのですか」
「……ちょっと身を隠しながら点々としていたのですよ」
「これだけの美丈夫だ。すぐに見つかってしまいそうなのに見つからずにいられたことは大したものです」
「髪を染めていましたからね。猊下には大変お世話になったのに何も言わず出て行って申し訳ありませんでした」
「いやぁ。私はただ頼まれただけですから」
ロータスがクリビアの方を見た。彼女が枢機卿に助けを求めたから宗教騎士団が動き、看守と兵士を倒して牢から出ることができたのだ。
しかしそこで枢機卿が意外な事を言った。
「ヴァルコフ国王陛下がロータス王子を助けろと仰いまして」
「え?」
ロータスとクリビアは同時に目を瞠った。
「カラスティアが襲撃されたことを知ったヴァルコフ国王陛下がロータス王子殿下を不憫に思われて彼だけでも救ってガルシアで匿って欲しいと。私も教会での惨劇を目の前で目撃して同じ気持ちでしたので承知したのです。それで密かに宗教騎士団を動かそうとしていたところ、ちょうどクリビア王女殿下からもロータス王子を助けてくれとお願いされまして。王女殿下の協力がありずっとやりやすくなったのは本当に運のいい事でした。ただ、バハルマも脱獄に絡んでいると知られたらバハルマとシタールとの関係も悪くなりますからね、それは王女殿下にも内緒にしておりました。今だから言えることですな」
ヴァルコフ国王はネベラウ枢機卿の話に満面も笑みを浮かべていた。
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