15 / 62
第一章
親睦パーティー(三)
しおりを挟むクリビアを呼ぶ優しい声が聞こえた。
ゾッとして振り向くとヴァルコフ国王が笑顔でこちらを見ている。
そしてその横にはさっきまで女性たちに囲まれていたロータスが。
「王妃殿下、陛下がお呼びですよ。行かれませんのですか」
クリビアは早く行けと言わんばかりのネベラウ枢機卿とテネカウ神父に「それでは」と軽く微笑んで足を進めた。
その足取りは重く、泥濘の中を歩いているようだ。
クリビアの後ろからは枢機卿も一緒についてきている。
(平常心よ。明るく普通に接するの。みんな私とロータスの関係を知っているんだから。私だけ意識し過ぎる必要は無い)
そう思いながら優雅さを纏いゆっくり近づくとヴァルコフ国王が突然クリビアの腰まで手を伸ばしてグイッと自分の横に引き寄せた。
「きゃっ」
そしてその生温かく無骨でガサガサする大きな掌をクリビアの滑らかで白い肩に置いて撫で始めた。
ロータスの瞳に殺気が走る。
クリビアは鳥肌が立ちそうだったが気取られたら後で以前のように暴力を振るわれるかもしれないと思い、腹に力をグッと込め、肩から自分の意識を切り離した。
はたから見ると仲の良い夫婦のスキンシップのように見えるだろう。
そんな彼女の態度にヴァルコフ国王も満足そうだ。
ロータスが一歩前進してクリビアの手を取り挨拶をした。
「お久し振りです。クリビア王妃殿下」
「お久し振りです。カラスティアの再興、お祝いを申し上げます」
「……ありがとうございます」
国を取り戻して再興を成し遂げたロータスは自信に満ち溢れてとても魅力的だ。
二人の軽い挨拶が終わるとヴァルコフ国王が周りに聞こえるほどの大きな声で話し始めた。
「君たちは昔は婚約者同士だったではないか。そう固くならずに。まぁお互いが親の仇になってしまってはそうもいかんだろうが。しかしこんなことを言うのもなんだがこれでお互い様になったのだ。和解したらどうかね」
あたかもこれまで二人が不和だったかのような言い方だ。
この場にいる貴族たちは昔の婚約者同士を下衆な興味を持って見ていた者も多いだろう。
親によって引き裂かれた悲劇の王女と王子。まだお互い気持ちがあるのであればスキャンダルにもなり得る。
それが国王の言葉で一掃された。
クリビアも建前上はそれがベストな方法だろうと思ったが、それに対して何と言っていいのか分からず困っていると、ロータスが応えた。
「バハルマ国王、我が国と貴国の関係は王妃殿下の事とは関係なく末永く良好な関係が続くことを願っています」
「ははは。そうか。私は戦争は好かない。シタールの二の舞は御免だ。共に繁栄していこうではないか。故カラスティ国王もそれを願っているだろう」
「私は自国を取り戻しただけです。戦争を仕掛けたという意識はないですよ」
クリビアは下を向いた。早くここから立ち去りたいと思っていると、ネベラウ枢機卿が話に入って来た。
「そういえばロータス国王陛下、我がガルシアを突然出られたので心配しました。どちらに行かれてたのですか」
「……ちょっと身を隠しながら点々としていたのですよ」
「これだけの美丈夫だ。すぐに見つかってしまいそうなのに見つからずにいられたことは大したものです」
「髪を染めていましたからね。猊下には大変お世話になったのに何も言わず出て行って申し訳ありませんでした」
「いやぁ。私はただ頼まれただけですから」
ロータスがクリビアの方を見た。彼女が枢機卿に助けを求めたから宗教騎士団が動き、看守と兵士を倒して牢から出ることができたのだ。
しかしそこで枢機卿が意外な事を言った。
「ヴァルコフ国王陛下がロータス王子を助けろと仰いまして」
「え?」
ロータスとクリビアは同時に目を瞠った。
「カラスティアが襲撃されたことを知ったヴァルコフ国王陛下がロータス王子殿下を不憫に思われて彼だけでも救ってガルシアで匿って欲しいと。私も教会での惨劇を目の前で目撃して同じ気持ちでしたので承知したのです。それで密かに宗教騎士団を動かそうとしていたところ、ちょうどクリビア王女殿下からもロータス王子を助けてくれとお願いされまして。王女殿下の協力がありずっとやりやすくなったのは本当に運のいい事でした。ただ、バハルマも脱獄に絡んでいると知られたらバハルマとシタールとの関係も悪くなりますからね、それは王女殿下にも内緒にしておりました。今だから言えることですな」
ヴァルコフ国王はネベラウ枢機卿の話に満面も笑みを浮かべていた。
0
お気に入りに追加
33
あなたにおすすめの小説
あなたの心に触れたくて(R18Ver.)
トウリン
恋愛
貴族の令嬢クリスティーナは、ある日突然、父から富豪のマクシミリアン・ストレイフの元へ嫁ぐことを命じられる。
それは、名前も知らない、顔を見たことすらない相手で、その婚姻が父の事業の為であること、その為だけのものであることが明らかだった。
愛のない結婚ではあるけれど、妻として尽くし、想えば、いつかは何かの絆は築けるかもしれない――そんな望みを抱いて彼の元へ嫁ぐクリスティーナ。
彼女を迎えた夫のマクシミリアンは、いつも眉間にしわを寄せて笑顔一つ浮かべたことがない。けれど、そんな彼がふとした時に垣間見せる優しさに、次第にクリスティーナは心惹かれていく。
※年齢制限なしVer.とは少しストーリーが違います。
※他サイトにも投稿しています。
※本編は完結済みです。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
陛下から一年以内に世継ぎが生まれなければ王子と離縁するように言い渡されました
夢見 歩
恋愛
「そなたが1年以内に懐妊しない場合、
そなたとサミュエルは離縁をし
サミュエルは新しい妃を迎えて
世継ぎを作ることとする。」
陛下が夫に出すという条件を
事前に聞かされた事により
わたくしの心は粉々に砕けました。
わたくしを愛していないあなたに対して
わたくしが出来ることは〇〇だけです…
冷酷無比な国王陛下に愛されすぎっ! 絶倫すぎっ! ピンチかもしれませんっ!
仙崎ひとみ
恋愛
子爵家のひとり娘ソレイユは、三年前悪漢に襲われて以降、男性から劣情の目で見られないようにと、女らしいことを一切排除する生活を送ってきた。
18歳になったある日。デビュタントパーティに出るよう命じられる。
噂では、冷酷無悲な独裁王と称されるエルネスト国王が、結婚相手を探しているとか。
「はあ? 結婚相手? 冗談じゃない、お断り」
しかし両親に頼み込まれ、ソレイユはしぶしぶ出席する。
途中抜け出して城庭で休んでいると、酔った男に絡まれてしまった。
危機一髪のところを助けてくれたのが、何かと噂の国王エルネスト。
エルネストはソレイユを気に入り、なんとかベッドに引きずりこもうと企む。
そんなとき、三年前ソレイユを助けてくれた救世主に似た男性が現れる。
エルネストの弟、ジェレミーだ。
ジェレミーは思いやりがあり、とても優しくて、紳士の鏡みたいに高潔な男性。
心はジェレミーに引っ張られていくが、身体はエルネストが虎視眈々と狙っていて――――
婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました
Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。
順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。
特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。
そんなアメリアに対し、オスカーは…
とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。
【R18】私は婚約者のことが大嫌い
みっきー・るー
恋愛
侯爵令嬢エティカ=ロクスは、王太子オブリヴィオ=ハイデの婚約者である。
彼には意中の相手が別にいて、不貞を続ける傍ら、性欲を晴らすために婚約者であるエティカを抱き続ける。
次第に心が悲鳴を上げはじめ、エティカは執事アネシス=ベルに、私の汚れた身体を、手と口を使い清めてくれるよう頼む。
そんな日々を続けていたある日、オブリヴィオの不貞を目の当たりにしたエティカだったが、その後も彼はエティカを変わらず抱いた。
※R18回は※マーク付けます。
※二人の男と致している描写があります。
※ほんのり血の描写があります。
※思い付きで書いたので、設定がゆるいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる