愛の輪廻と呪いの成就

今井杏美

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第一章

魔法鍛冶職人集団

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 ジュリアナが戻って来てから三日後、急に家を出て行こうとするロータスにジュリアナは取り乱した。
 玄関前で必死に縋っている。

「どうしてこんな急に!? 何の相談もなく!」
「どうして君に相談しないといけないんだ。俺が出て行かなければいけないことは知っていただろう? 離すんだ!」

 振り払うとジュリアナは床に倒れた。一瞬手を伸ばして起こそうとしたが情をかけたらいけないと、伸ばしかけた手を引っ込めた。

「……連れて行ってくれるって言ったじゃない……」
「そんなことは言っていない」

 近所の人たちが出て来るほどの騒ぎになったがロータスは泣き乱れるジュリアナを無視して出て行った。


 そして一路トマシス鉱山へ向かう。
 
 歩きながら、彼女が事あるごとに魔鉱石の話を自分に振っていたことを思い出した。

(彼女を信じていた時は単なる好奇心からだと思っていたがまさかトマシス鉱山の場所を聞き出そうとしていたのか? バハルマの手先? そのために誘惑されたのだとしたら俺はとんでもない愚か者だ)

 国境近くの街まで来ると、誰かが後をついてくる気配に気づいた。
 街角を曲がるや否や急いで走り出し隠れて様子を窺うと、フードを被った顔に傷のある男がキョロキョロ辺りを探るように見回しながら通り過ぎて行った。




 ロータスは銀髪を黒に染め野宿をしながら漸くカラスティアに足を踏み入れた。
 近くの酒場に入り、人夫から鉱山での仕事の状況を聞き出してシタールが現在どこまで魔鉱石の探索を行っているのか見当を付けることにした。
 旧カラスティアの山々は魔鉱石を探す人夫や奴隷、奴隷に落とされたカラスティアの元貴族たちでひしめいているらしいが、人夫の言う山にトマシス鉱山はまだ入っていなかった。

 その足でトマシス鉱山まで行くと、人気は全くなく安心した。
 山に分け入り洞窟の入り口が見えてきた。
 中に入り奥深くまで進むと玉虫色の魔鉱石の林立する場所に突き当たり、彼はそこで姿を消した。




「殿下、ようこそ起こしになられました。ちょくちょく来られるかと思っていたのですが、お忙しかったですか」

 褐色の肌色と魔鉱石の様な玉虫色の瞳をした背の高い男アペロスがロータスを見つけて走ってきた。

「想像もできないことが起こってね」
「そうでしたか。我々には外界の出来事は全くわかりませんからねぇ」

 彼は魔鉱石を魔法の武具として加工できる鍛冶職人で、ここは彼ら魔法鍛冶職人集団が住む世界だ。
 ロータスたちが住む世界とは次元が違う言わば異世界。
 そしてそこに行くことが出来るのはカラスティアの王族の血筋の者のみ。
 それはカラスティア王族にわずかながらも彼らと同じ血が流れていることに起因する。

 洞窟内の魔鉱石の林立する場所はこの異世界と共有されていて、出入りできる者はその場所に足を踏み入れると異世界へ通じる輪っかが現れる。
 ロータスはその輪っかをくぐりこの世界にやってきた。

 輪っかをくぐって出る場所は、一見、元の世界と同じ洞窟に見えるが、共有しているのは魔鉱石のある場所だけなので、洞窟を抜けると全く別の世界が広がる。

 植物の大きさはロータスの世界よりも全体的に一回り大きく、見知らぬ植物や昆虫、鳥などが飛んでいて、今も黄色い胴体に青い羽の鳥がカラスのようにカーカーと鳴いている。



「悪いが頼みがある。武具一式を作ってほしい」
 
 魔鉱石は彼らが加工しなければただの宝石と同じで、それを知らないシタール国王は必死に魔鉱石を探して魔法の武具を作る気でいる。

「武具一式とは、物騒ですね。一体何があったのですか」
「我が国が侵略された」
「それは! ……ああ、だから殿下が我々の所に導かれたのですね」

 カラスティア王家には、”それが必要になった時に見つかるだろう” という魔鉱石に関する言い伝えがある。
 今まで見つからなかったのは必要ではなかったということだ。
 ロータスが見つけた時はどうしてこのタイミングでと思ったが、その後シタール王国に国が侵略されたことでその理由がわかった。


「武具一式はお仲間にもお渡しするつもりでしょうか」
「もちろんそうだ」
「でしたら魔剣は殿下お一人だけが持った方がいいかもしれません」
「何故だ」
「魔剣は一太刀で大きな力を発揮します。共に戦う仲間にもよりますが、もしそのものが魔剣を持つことで良からぬことを考えでもしたら大変なことになります。お仲間には盾と鎧、兜のみをお渡しした方がいいと思います」

 アペロスの言葉は疑り深くなっているロータスにはすんなりと受け入れることが出来た。

「盾と鎧と兜にはどんな力があるんだ?」
「盾はどんな強力な攻撃も跳ね返し、鎧は身に着ける者に無限の耐久力を与えます。兜は危機察知能力を上げることができます」
「それは素晴らしいな」
「以前頼まれていた魔剣は完成していませんが鍛冶場に行ってみますか」
「そうしよう」


 鍛冶場は鉄を叩く音が響き、地金や鉄を熱する熱気も籠っていて暑い。
 奥に入ると一部の者が魔鉱石の加工を行っている。
 魔鉱石自体は玉虫色に美しく輝く石だが、完成している農具やナイフを見るとどれも真っ黒で、それが魔鉱石で作られているなどとは誰も思わないだろう。
 手に取るとあり得ないほど軽いことに驚いた。

 作りかけの魔剣はまだ玉虫色で、完成までにはまだ時間がかかりそうだ。
 この段階だけでも美しい剣で装飾品としても価値があるが、これを魔法鍛冶職人が加工することで軽くて魔力のある漆黒の魔剣となる。




 ロータスはその後この異世界を拠点に生活し、外界と行ったり来たりしながら旧カラスティアで密かに仲間を探してシタールを攻撃する機会を窺うことに決めた。




 それから四年の月日が流れ仲間も着々と増えていき、ロータスは二十四歳になった。




 
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