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第一章
運命の結婚式
しおりを挟むカラスティア王国の大聖堂では新郎と新婦が神聖な結婚式の瞬間を迎えていた。
厳かで静かな雰囲気の中、司祭の声だけが空間に響き渡る。
そこへ突然教会の扉が開き、武装した兵士が多数押し入ってきた。
会場は混乱と一方的な戦闘の光景に包まれ、美しく飾られた花々は容赦なく踏みつぶされていく。
幸せな結婚式の会場は、花々の香りと血の臭いが混ざり合った阿鼻叫喚の場所となった。
それはカラスティア王国の王子ロータスとシタール王国の王女クリビアの結婚式だった。
だが大聖堂を襲撃したのは新婦の国のシタール王国軍だ。
カラスティア国王夫妻はその日のうちに処刑された。
ロータスは占領された自国の冷たい石壁の牢の中でクリビアの笑顔、温かい手、そしてかつて夢見ていた共に歩む未来を思い出しながら、複雑な感情に苦しんでいた。
彼が一人生かされたのはひとえにカラスティアで最近見つかった魔鉱石のある鉱山の場所を彼だけが知っているからだった。
(父上、母上……クリビア……)
小さな窓から見える夜空は昨日と同じであって同じではない。
我関せずに瞬く星はまるで間抜けなカラスティアを嘲笑っているかのようだ。
結婚による同盟よりも国を侵略することに舵を向けたシタールの国王は娘のクリビアの結婚を利用した。
警護に見せかけ多数の軍隊をカラスティアに入りこませるのは容易だっただろうと思うとロータスのはらわたが煮えくり返る。
暗い牢屋には松明の明りが一つ。
牢屋の入っている棟の扉が開くと明りが揺れ、ロータスは空気が流れるのを感じた。
こんな夜遅くにまた拷問でも始まるのかとうんざりすると、近づいて来るのはいつもの乱暴な足音とは違う小さな足音であることに気付く。
黒いフードを深く被った人物が牢の前で立ち止まった。
マントの中から白く細い手が出てフードを外すと、美しい金髪で透き通るように色の白いピンクの瞳の女性が顔を現した。
今となっては敵国の王女クリビアだ。
ロータスは急いで鉄格子前に駆け寄り彼女の手を握り締める。
「クリビア、どうしてここに」
彼女は瞳に涙を溜め震える声で謝罪した。
「ごめんなさい。こんな……酷過ぎる……」
ロータスの姿を見てクリビアは胸が締め付けられた。
あんなに美しく雄々しかった彼の艶やかな銀髪は鈍色に汚れ、爽やかな空色の青い瞳は光を失い生気を感じられず。
顔には殴られた痣がくっきりと残っていて、服のあちこちには拷問で受けた血が滲み出ている。
クリビアは握り締められている手を静かに解くと看守が持っているはずの牢屋の鍵で重たい鉄格子の扉を開けた。
「早く逃げてください。外で神父さまとガルシア宗教騎士団が待っています。彼らがロータス様をガルシアまで連れて行ってくれます」
ガルシア宗教国がなぜ脱獄を手伝うのかロータスには分からなかったが、彼らとガルシアへ行けばもう安心だ。
彼はシタール王国軍が襲撃してきたときは彼女もグルだったのかと絶望しかけたが、そんなはずはないと自分に言い聞かせ、ギリギリのところで正常な精神を保つことができていた。
その疑惑が今解消されロータスの心を慰める。
牢から出たロータスは微かに震えるクリビアの体を強く抱きしめると素早く抱きかかえ、再び牢内に入り粗末なベッドに寝かせた。
「ロータス様?」
「今、婚姻を完了させたい」
「何を言っているの? 見つかる前に早くここから逃げてください!」
「俺はどうしても君と結婚したいんだ!」
通常は結婚式を挙げ契約書にサインすることで夫婦となるが王族だけはその後ガルシアの枢機卿が見守る中で初夜の儀式を行わなければならない。
しかし今はそんなことは言っていられない。
早くクリビアを自分のものにしなければという不安と焦りが先立つ。
彼は枢機卿なしで初夜の儀式をするつもりでいる。
ロータスはクリビアを組み敷くと口づけをしながら胸を激しく揉んだ。
クリビアは慌てて抵抗したがいくら彼が拷問を受け体が弱っていても彼女の力では逃れることができない。
マントの下は一枚の薄いワンピースのみ。彼女の胸の膨らみ、肌の柔らかさが手に取るようにわかりロータスは雄の瞳でクリビアを見つめる。
胸の突起を指で掻くと猫の様な小さな声が漏れた。
クリビアはそんな声が自分から出たことが恥ずかしくて手で口を塞いだ。
「もっと感じるんだ、可愛い俺のクリビア……」
いつ誰が来るかも分からない中、ロータスはクリビアのスカートを捲り上げた。
「ごめん。痛いと思うが我慢してくれ」
「外でみんなが待っているの、これ以上はだめよ! お願い、やめて!」
既成事実を作ることで頭がいっぱいのロータスは聞く耳を持たずまだ十分に濡れていないクリビアの中に大きくなった己を一気に突き刺した。
強烈な痛みでクリビアの眦から涙が零れる。
「ああああっ!」
中に埋められた剛直をなじませるように暫くそのままでいたが、徐々に動きを速くしていく。
クリビアはお腹の圧迫感で息が詰まりそうだ。
「愛している……クリビア……」
牢内に腰と腰がぶつかり合う音が響きその中に水音が混ざりだすと段々クリビアの痛みは薄れていく。
無意識にロータスの背中に足を巻きつけ抱き着いた。
そんなクリビアに煽られたロータスの腰の動きは一際激しくなり最後に奥深くまで強く打ち付けるとクリビアの中に吐精した。
「ああっ」
「くっ……」
石壁に映った重なる二人の影が大きく揺らぎ空気の流れが変わる。
クリビアはそれに気づき、きっと外で待っている誰かが遅いと思って見に来たのかもしれないと青くなった。
「ロータス様、誰かが来ます」
ロータスの剛直はまだ少し大きさを保っておりクリビアと繋がったまま頬や首に優しい口づけを落としている。
足音はどんどん近づいてくる。
来たのは若い神父だった。
「な、何をやっているんですか!! みんな待っているんですよ!」
クリビアは恥ずかしくて顔を手で覆うしかない。
ロータスは諦めたようにやっとクリビアの中から己を引き抜いた。
「……ちょうどいい。俺たちは今初夜を終えた所だ。君が証人になって枢機卿に伝えろ」
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