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 数か月後の冬の始め


(やっぱり入り浸るようになったな)

 思った通り、ソフィアは休みの日は必ずソーハンの部屋に来るようになった。
 まるで遠足気分のように食べ物や飲み物を持って、しかも朝早いうちから訪ねてくる。

 いつの間にかソーハンはそんなソフィアに合わせた生活になり、朝も早く起きて何も無い部屋を掃除して、自分でも意識はしていないが身だしなみもきちんとするようになった。
 心の奥底では嬉しい気持ちでいっぱいなのだ。追い返すことなどできるわけがない。
 椅子だって余分に一脚買ってしまった。

 午前中は何をするでもなくただまったりして、昼過ぎには二人で街に出てウィンドウショッピングやカフェに入ったりしてデートの様な事をする。
 夕食の食材を買って下の酒場の炊事場を借りて二人で料理を作る。
 そして夜、ソーハンの馬で城門前まで送ってもらうというのが週に一度の決まった過ごし方だ。
 二人とも楽しく一緒に暮らしていた日が戻ってきたような感覚が蘇っていた。


 しかしそんな平穏な時が長く続くはずもなく、決行の時は近づく。
 遊びではないためソーハンは気を引き締めた。
 そして万が一計画が失敗したことを考えて、ソフィアに安全なランシアへ避難していろと言った。

 ソフィアにしてみれば自分たちの為にみんなが命を懸けようとしているのに自分だけ安全な所でのほほんとしているなんて耐えられないし、ソーハンと離れたくない。心配で仕方がないのだ。

「一緒にいたいわ。大丈夫よ、見つかりっこないし勝利するに決まっているもの」
「万が一ということもあるだろう」
「万が一ソーハンが死んでしまったら私は生きていられない」
「ソフィア、俺は死なない。死なないが、万が一死んだとしても、お前はランシアで新しい人生を始めることができる。新しい出会いもある。お前の伯父はあのランシアの国王だ、絶対に幸せになれる。そのチャンスをみすみす逃すな」

 実際、ソフィアの元にはランシア国王からランシアへ来いという便りが来ている。
 だが行ったが最後、二度とソーハンと会えなくなるような気がして行く勇気が出ない。
 行くならソーハンと二人がいい。
 そのことを彼に言っても頑なに首を縦に振らなかった。

「どうしてわかってくれないの。生きるも死ぬも一緒がいい。私はソーハンが好きなの。何度でも言うわ。アーロンの馬鹿があなたに親心なんて言ったけど、私はあなたの子どもになったことなんか一度もない。ソーハンもそうでしょう?」

 ソフィアは訴えるような目でソーハンを見つめた。

(あぁ……俺がそういう目で見ることはできないと言えば俺の事を諦めてくれるだろうか……)

 ソーハンは何度か言うのをためらったが、ランシアに避難して欲しい一心で傷つくと分かっていても言う決意をした。

「ソフィア、俺は本当は懸賞金を貰うつもりでお前を拾ったんだ」
「……」
「でも熱があるお前を看病して、そして一緒にいるうちに段々と情が湧いてきたのは本当だ。それはきっと家族の様な、俺は孤児だから多分家族が欲しかったんだ」
「……」
「娘と言うより、妹とかそっちの方が近いな。年齢的には娘っていう方が近いかもしれないが」

 ソフィアの目が怒りをにじませながら段々赤みを帯びて潤んでくる。
 もう少しで溢れ出しそうになるのを大きく目を見開いて我慢しているのを見るとソーハンの胸は締め付けられた。

(胃がむかつく。心にもないことを言うとこんなに苦しいものなのか。だがこれで諦めてランシアに行ってくれるかもしれない)

 ソーハンは吐きそうになる気分を押さえグッと唇を噛みしめた。

「そう。私を諦めさせたいのね……わかった」

(それでいい)

「でも行かない」
「え」
「私には兄が二人いるのね。じゃあ年寄りの兄が誰かと結婚するまで心配だから一緒にいる! 結婚相手だって私が見繕ってあげる。女の趣味悪そうだから」
「はああ???」




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