亡国の王女は押しかけ女房になって愛する人と結婚します~あなたがどんなに獣でも~

今井杏美

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 昔ソーハンを訪ねて来た仕事仲間の男は、ソーハンたちにある仕事の協力の依頼がきたがどうするかという相談をしにやってきたのだ。

 それを依頼したのは旧ティリティアのエリオポール公爵の息子アーロンだ。
 父親の公爵は処刑されてしまったが逃げ延びて成人した彼は後に王子たちと共に逃げた護衛の騎士たちと合流する。
 彼らは王子と王女の捜索活動を水面下で行い、マクガイアを倒す機会を窺っている。

 主だった貴族や騎士たちは皆捕まり処刑されたため仲間が欲しかった彼らはマクガイア王国に不満を持つソーハンの盗賊団に目を付け仲間に誘い入れることにした。

 ソーハンは王子の事はどうでもいいが、マクガイアが倒れティリティアが再興したらソフィアが王女として幸せに暮らせると思い、アーロンの誘いに乗ることにした。
 盗賊団の仲間には成功した暁には報酬がたんまりもらえると言って、ついてきたい者だけついて来いと言ったらほぼ全員がついてくることになった。

 腕に覚えはあるソーハンでも万が一ということもある。
 ソフィアが悲しい思いをする前に消えた方がいいと思った。
 もし生き残ったとしてもソフィアが王女になれば自分は側にいることはできない。
 アーロンの誘いはちょうどソフィアと距離を置くべきと思っていた時期と重なっていたこともあり、何もかもがソフィアと離れた方がいいという道を示していた。 



 ソーハンはアーロンから高額報酬の仕事の依頼が入り、そのために首都に出て、現在フィルベールを捜していることを正直に話した。

 ソフィアはマクガイアを倒すなど無謀な計画が立てられていることにびっくりした。
 それにソーハンが協力するなどありえない。死んでしまうかもしれないことを考えると恐ろしくなった。
 
「……お兄様を捜してくれていたのは有難いと思っている。でも私は王女に戻りたいなんて思っていない。マクガイアを倒すなんて無理よ。今すぐ手を引いて」
「それは無理だ」
「どうして!」
「仲間も高額報酬にやる気になっている。家族を置いてこっちに出てきている奴もいる。それに……王女に戻ったらいちいち髪を染めなくてもいいし偽名を使わなくていい。堂々とお日様の下を歩けるんだぞ。裕福で幸せな人生が待っている。俺はお前には幸せになってほしいんだ」
「人の幸せを勝手に決めないで。私はソーハンのお嫁さんになるって決めているの。それが私の幸せよ」
「またそれか」
「もう十八で大人なのよ。真剣に考えてよ!」
「真剣に考えているからこその決断だったんだ。お前にはお前の年齢にあったもっとちゃんとした男がいる!」
「わかってない。たったの十二歳差よ。村のおばさん夫婦は八歳差だったわ。四年しか違わないでしょ。それにちゃんとした男って何? ソーハンだってちゃんとしてるじゃない」
「俺は盗賊なんだ!」

 ついに言ってしまった。ソーハンはこれはもう仕方がないと腹をくくる。
 軽蔑されてもいい。それでソフィアが自分から離れるのならと。

「ふん、そんなの察しはついていたわ」
「……盗み、人殺しでもなんでもやってきたんだぞ」
「それが何なのよ!」

 ソフィアは何も考えずただソーハンに養われていたわけではない。
 いつも帰りは遅く、昼間は家にいることが多いソーハンに大きくなるにつれて村の他の男たちと違うと思うようになった。
 人には言えないような仕事をしているかもしれないとは思っていたのだ。
 でもそれが一体なんだ。そんなことは気にしない。

「貴族も騎士たちも、人なんてたくさん殺しているわ。戦争だってそうじゃない。国民や、お父様とお母様を殺したマクガイア国王も人殺しだわ! 征服したティリティアから全てを盗んだ泥棒よ! さも当然の権利のように! でもティリティアが勝っていたとしてもきっとマクガイアと同じことをしたわ。だから私は何も言えないの。あなたと違う所なんて無いのよ! 正義なんてどこにも無いのよ!」

 ソフィアは一歩も引く気は無かった。




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