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 王城で働き始めて一年が過ぎた。
 まだ兄を助け出すことができず進展は何もない。


 ソフィアは仕事が休みの日はできるだけ街に出てソーハンを捜し、そして手配書がどのようになっているのか確認している。

 手配書はまだ貼られてはいるが、ボロボロでほとんど破れている。
 興味がある人は誰もいないようで立ち止まって見る人はいない。
 
 あれから十三年、もう王子と王女は死んでいると思っている人が大半だし推測で描かれている成長した顔の似顔絵など誰も信用していない。
 ソフィアはまさかこのマクガイア王国に二十歳と十八歳になった王子と王女がいるなど誰も思っていないだろうなと思うと可笑しかった。

 
 幼い顔立ちなのに体操の甲斐あって立派に成長した豊かな胸と細い腰。
 ノースリーブのワンピースから伸びた白く滑らかな腕はギラギラと眩しい太陽に照らされて細胞から光を発しているように輝いている。
 ポニーテールは歩く度に左右に揺れ、華やぐ夏の空気の中、快活さと若さが弾け飛んでいる。
 そして長く密集したまつ毛に覆われた深い碧のまなざしは哀愁を醸し出し見る者を惹きつけて離さない。

 ソフィアは通り過ぎる人々の視線を集めながらも自分のその魅力が全く分かっておらず無防備に、無警戒に街を独り歩きしている。

 まずソーハンはお酒を外で飲むことが多かったので、酒場の周りを見て回る。
 酒場は大通りから一本入ったところに密集していて昼間の今はまだ店も開いておらず静かで人通りも少ない。

(ここも駄目ね。やっぱり夜に来ないと駄目かなぁ)

 別の通りを捜そうと思い一旦大通りに戻ろうとすると、ソフィアの後ろを離れて歩いていた男が突然距離を詰めてきた。
 気配を察して振り向こうとしたその時、後ろからソフィアの口が塞がれた。

「!!」

 ソフィアが足をバタバタさせ必死に逃れようとしても男の力には適わない。

「誰か! 助けて!」

 通りの人々に声は届いているはずなのに、足を止めて遠巻きに見ているだけで誰も助けてくれようとしない。
 そのまま担がれるように近くに待機してあった幌馬車に放り込まれた。

 女が攫われたぞ! と騒ぐ男もいたが騒然とする街は首都とはいえ他人を助けようと思うほど勇気や心に余裕のある人はいないし厄介ごとに巻き込まれたくはない人がほとんどだ。
 奴隷にするための子どもの誘拐も日常茶飯事に起こっていたため大人が攫われるのはもう個人の責任で自業自得と思う人も多かった。

「早く出せ! 早く!」

 馬車はどんどん街から離れていく。
 攫った男は荷台に用意してあったロープを手にしてもう一人の図体のでかい醜い男にソフィアを押さえつけているよう命じた。
 
 ソフィアは攫った男の顔を見て驚いた。

「あ、あなたは……」

 男はソフィアの手足をロープで縛り猿ぐつわを嵌めた。

 ソフィアを押さえつけている男は舌なめずりをしている。

「おう、すげーいい女だな。こりゃあ高く売れるぜ。その前にちょっと味見してみてもいいですかい」
「処女かどうか確認するくらいなら大丈夫だろ。本番はするな」
「!! んーーっ!」

 ソフィアは必死に暴れるが男二人に捕らえられどうすることもできない。馬車はスピードを上げる。

 男の手がスカートを捲りソフィアは絶望した。

「ん――――!!!!」

 ガタガタガタッ

 その時馬車が大きく揺れて止まり男たちが体勢を崩した。

 ヒヒーン!
 グサッ!

「うわあっ」

 御者の悲鳴が聞こえ、図体のでかい男が何事かと外へ出ると、あっという間に切りつけられ血飛沫が舞った。

(何? 誰かが助けに来てくれた?)

 そして幌が開き、暗い荷台に明るい日差しが差し込んだ。
 誰か背の高い男が助けに来てくれたが逆光で良く見えない。

 ソフィアを攫った男はソフィアを人質に逃げようとするがその隙もなく躊躇なく剣で切りつけられ殺された。

「……もう大丈夫だ」

 聞き覚えのある声。心臓の鼓動が速くなる。

 差し伸べられた大きくて武骨な手はまさにソフィアが探していた人物の手で……。

「……!」

 ソフィアの瞳に大粒の涙が溢れてくる。助かって安心した涙ではなく、漸く会うことができた喜びの涙だ。

(ソーハン!)
 



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