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第二章 「深十島〇〇一作戦」
三章 ロリアエ(4)
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ネメシスの息が切れ、速度が下がっていく。
ネメシスに合わせて歩けば、白雪のもしものときには手遅れとなるだろう。だから引っ張ってでも最低限の速度は保つ。
「はぁ、はぁ」
文句を言われない。校門を出たばかりでこの疲れようだったが、既に二キロメートルは進んでいるから、疲れているのなら少し休みたいと言えばいいのに。
ネメシスが言ってくれるのなら俺は止まれる。それ以外は自分を優先にしたい。
……手が重みを増していく。
「──嗣虎‼」
ばっ! と俺の左手が掴まれ、俺の体は待ち焦がれていたようにピタッと止まった。
振り返れば、金髪が乱れ揺れるその間際を目にし、真紅の瞳で皐と勘違いしそうになるが……フリアだとギリギリで認識できる。
「フリア……?」
彼女は息をするのすら苦しそうにし、倒れてしまいそうな超華奢な体を俺の手に体重を預けてなんとか立たす。
「嗣虎……はあ、はあ……駄目、ネメシスをそんな無理矢理に動かせば……倒れて込んでしまう……!」
言い切った瞬間、フリアは手の力さえも尽き、その場に座り込んでしまった。
そう言われてネメシスの顔を見ると、尋常ではない程の汗を流しながらも、眩しいくらいの明るい笑顔を浮かべていた。
「……どうしましたか? さ、いいから行きましょう!」
無理を感じさせない優しくて強い声。そのまま甘えてしまいそうになる。
だがフリアはネメシスよりも汗が少なくてこの有り様だ。
ならば、ネメシスは死ぬ気で死ぬのを我慢しているということ。
……大体、雨に濡れたかのような姿で、どうしたとは言えない。
「……馬鹿だ、俺」
俺もフリアと同じように座った。フリアだけが恥ずかしい所を見せびらかさせる訳にはいかないから。
そうすると、ネメシスはふらっと揺れ、俺の胸にバタッ! と倒れた。
体は想像以上に冷たくなっており、濡れることを厭わず抱き締めた。
割れそうなくらいに痛いはずの頭を撫でると、ネメシスは口を綻ばせる。
止まってよかったと、改めて思った。
「もう……これじゃまるで、わたしが足手まといみたいじゃないですか。……わたしを置いてもいいです」
「……とにかく謝らせてくれ、ごめん。俺さ、白雪が心配なんだ。今更で悪いんだけど……一緒に捜してくれないか?」
──最初に言うべきだった『大切』な言葉。気持ちばかりが先行してしまってすっかり忘れていた。
こんな、こんな愚かな俺を、女神様は赦してくれるのだろうか……?
「……ふ、ふふ。わたしと……フリアの……得意分野だってんです」
……そう言うと、ネメシスは体を起こし、フリアの元へ這いずり寄る。
「ねぇ、フリア……。手伝ってくれます……?」
「……わたしは嗣虎の為ならなんでもできる」
意地、というものが見えた気がする。フリアは体を無理矢理立たせ、ネメシスの腕を引っ張った。
そうするとネメシスも立ち上がるが、フリアよりもよろめいている。
二人は青ざめながら俺の前に立つと、二人同時に手を差しのべた。
「嗣虎、わたしも一緒に捜してあげる」
「しぃちゃんの苦悩も喜びも、わたしが共有してあげます」
『一緒』か。俺、一緒に居てくれる人をちゃんと見てなかったんだな。
優劣なんか些細なこと。ずっと一緒に居てくれるなら……俺はずっと満足だ。
「ああ。助かるよ」
俺はその手を二つとも掴み、自分の腰で立ち上がった。
ネメシスに合わせて歩けば、白雪のもしものときには手遅れとなるだろう。だから引っ張ってでも最低限の速度は保つ。
「はぁ、はぁ」
文句を言われない。校門を出たばかりでこの疲れようだったが、既に二キロメートルは進んでいるから、疲れているのなら少し休みたいと言えばいいのに。
ネメシスが言ってくれるのなら俺は止まれる。それ以外は自分を優先にしたい。
……手が重みを増していく。
「──嗣虎‼」
ばっ! と俺の左手が掴まれ、俺の体は待ち焦がれていたようにピタッと止まった。
振り返れば、金髪が乱れ揺れるその間際を目にし、真紅の瞳で皐と勘違いしそうになるが……フリアだとギリギリで認識できる。
「フリア……?」
彼女は息をするのすら苦しそうにし、倒れてしまいそうな超華奢な体を俺の手に体重を預けてなんとか立たす。
「嗣虎……はあ、はあ……駄目、ネメシスをそんな無理矢理に動かせば……倒れて込んでしまう……!」
言い切った瞬間、フリアは手の力さえも尽き、その場に座り込んでしまった。
そう言われてネメシスの顔を見ると、尋常ではない程の汗を流しながらも、眩しいくらいの明るい笑顔を浮かべていた。
「……どうしましたか? さ、いいから行きましょう!」
無理を感じさせない優しくて強い声。そのまま甘えてしまいそうになる。
だがフリアはネメシスよりも汗が少なくてこの有り様だ。
ならば、ネメシスは死ぬ気で死ぬのを我慢しているということ。
……大体、雨に濡れたかのような姿で、どうしたとは言えない。
「……馬鹿だ、俺」
俺もフリアと同じように座った。フリアだけが恥ずかしい所を見せびらかさせる訳にはいかないから。
そうすると、ネメシスはふらっと揺れ、俺の胸にバタッ! と倒れた。
体は想像以上に冷たくなっており、濡れることを厭わず抱き締めた。
割れそうなくらいに痛いはずの頭を撫でると、ネメシスは口を綻ばせる。
止まってよかったと、改めて思った。
「もう……これじゃまるで、わたしが足手まといみたいじゃないですか。……わたしを置いてもいいです」
「……とにかく謝らせてくれ、ごめん。俺さ、白雪が心配なんだ。今更で悪いんだけど……一緒に捜してくれないか?」
──最初に言うべきだった『大切』な言葉。気持ちばかりが先行してしまってすっかり忘れていた。
こんな、こんな愚かな俺を、女神様は赦してくれるのだろうか……?
「……ふ、ふふ。わたしと……フリアの……得意分野だってんです」
……そう言うと、ネメシスは体を起こし、フリアの元へ這いずり寄る。
「ねぇ、フリア……。手伝ってくれます……?」
「……わたしは嗣虎の為ならなんでもできる」
意地、というものが見えた気がする。フリアは体を無理矢理立たせ、ネメシスの腕を引っ張った。
そうするとネメシスも立ち上がるが、フリアよりもよろめいている。
二人は青ざめながら俺の前に立つと、二人同時に手を差しのべた。
「嗣虎、わたしも一緒に捜してあげる」
「しぃちゃんの苦悩も喜びも、わたしが共有してあげます」
『一緒』か。俺、一緒に居てくれる人をちゃんと見てなかったんだな。
優劣なんか些細なこと。ずっと一緒に居てくれるなら……俺はずっと満足だ。
「ああ。助かるよ」
俺はその手を二つとも掴み、自分の腰で立ち上がった。
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