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第二章 「深十島〇〇一作戦」
二章 義憤と復讐の女神達(4)
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あまりふざけた感知はせず、今回は耳を使って探知する。
細かい音を拾うことにより、第三の演算用人格……エリニュスが自動的に記憶、思考をし、感覚的に誰がどこにいるのか分かるのだ。
このエリニュスは人格と言っても、別にわたしのような人間の要素はなく、機械のように出されたものを目的に従って扱うだけのもの。人間的人格を植え付けても良いのだけれど、元々が空いた分の人格枠な訳で、よほど精神バランスが崩れない限りやらなくても大丈夫。
わたしの本当の名前はエリニュスではなく、ネメシスなのだ。
結果、もう一人の自分は学校の屋上にいるようで、心音が妙に落ち着いていることからゆっくりと外の景色でも眺めているのだろう。
わたしは部屋から廊下に出る。廊下には誰もいない……というか、目を使って埃などの浮遊物体や壁を光で反射させた先にある、寮長室のカレンダーの億万のバラバラな映像を統合すると、どうやら今日は四月一日のようだ。ということは、今日は寮生徒の寮への引っ越しを許可する初日で、家族と何ヶ月も離れなければならないことを視野に入れれば、まだ寮生徒がやって来ない日である。家の負担を減らすためのお手伝いなどもあるのだし、今日契約するパートナーのミーザとの信頼関係を深めることもしなくてはならない。ここに居た先輩方は家に帰っている。
よって人目を気にせず歩ける。
「……ミーザは人間のパートナーとなり、現環境維持に必要な人口を保つ、増やすことを主な目的としてます。だったら、わたしもそんなミーザだったら良かったですよ」
急な独り言をするわたしは、それでも嗣虎さんというパートナーが出来ているのだから何も不満に思わなくても良かった。
玄関には元から靴を履いているままなのでそのまま出られる。
外の空気を鼻で吸うと、緊張から出てくる汗の臭いを連鎖的に感じ取った。これは……もう一人の嗣虎さんの匂いだ。耳も澄ませてみる。
『皐はバスに乗るのは初めてか?』
『そーだね。けれどこういう移動ってこれからはよくあるんでしょ? 慣れなきゃなんないねー』
『俺はごめんだぜ。なんせ、乗り物酔いなもんでな』
『じゃあ大切な人が車で誘拐された時に、走行中乗り込んで助けるってのは?』
『なんでアクション映画みたいなことで例えるんだ……』
『いーから答えろよー』
『……まぁ、大切な人なら、どんなに俺がクズになっても助けるさ』
『絶対?』
『ぜってぇ』
……あと三〇分でこの学園に着くだろう。
頭が痛くなってきた。これでも新入生挨拶で過度な緊張、多すぎる情報の取得、緊張を誤魔化すための無理な負担をエリニュスに預けていたので、体にその影響が返ってきている。
「あっとぉ、フリアエ? 起きてます?」
「……なに。ネメシス」
「精神ダメージの負担がきついんで、フリアエが持っててくださいな」
「……無理。眠い。ネメシスが持てばいい」
「わたし今日は結構頑張ってるんですが……」
「……なに勝手なことしてくれているの。これは……タイムスリップしてるのなんて……。……不味い、わたしも精神ダメージの負担が増えた。やはりそれは持てない」
「あ、フリアエ! エリニュスには預けちゃ駄目ですよ! もう限界なんです!」
「……これはわたしに対しての嫌がらせ? エリニュスが正常に機能しないと、わたしが感知能力を担当することになる」
「いえ、それはわたし一人でもできますから、もうフリアエは休んでいいですよ」
「……いい。エリニュスには精神ダメージを持ってもらって、感知と魔法はわたしがする」
「それってわたしが身体を担当するってことですか?」
「……今は。けど、後でネメシスが心の中で感知をしてもらう。精神ダメージはわたしとエリニュスで分け、精神崩壊を防ぐ。薬もないから」
「わたしが感知ですか?」
「……そう。ネメシスがこの世界の構造を調べるの」
と、どうやら今までの精神ダメージはエリニュスに全預けになった。
精神ダメージのケアは日頃こまめにやっていたおかげか、エリニュスの容量はかなり大きく、演算機能を考慮しなければ長く保ってくれる。
その代わり、面倒な感知能力をわたしかフリアエがしなければならないし、感知能力を働かせないと不安が溜まるように開発者から造られているので休めるときにしか休めない。
……他にもう一人の自分と会わなければならないのだから、まだ働く。
細かい音を拾うことにより、第三の演算用人格……エリニュスが自動的に記憶、思考をし、感覚的に誰がどこにいるのか分かるのだ。
このエリニュスは人格と言っても、別にわたしのような人間の要素はなく、機械のように出されたものを目的に従って扱うだけのもの。人間的人格を植え付けても良いのだけれど、元々が空いた分の人格枠な訳で、よほど精神バランスが崩れない限りやらなくても大丈夫。
わたしの本当の名前はエリニュスではなく、ネメシスなのだ。
結果、もう一人の自分は学校の屋上にいるようで、心音が妙に落ち着いていることからゆっくりと外の景色でも眺めているのだろう。
わたしは部屋から廊下に出る。廊下には誰もいない……というか、目を使って埃などの浮遊物体や壁を光で反射させた先にある、寮長室のカレンダーの億万のバラバラな映像を統合すると、どうやら今日は四月一日のようだ。ということは、今日は寮生徒の寮への引っ越しを許可する初日で、家族と何ヶ月も離れなければならないことを視野に入れれば、まだ寮生徒がやって来ない日である。家の負担を減らすためのお手伝いなどもあるのだし、今日契約するパートナーのミーザとの信頼関係を深めることもしなくてはならない。ここに居た先輩方は家に帰っている。
よって人目を気にせず歩ける。
「……ミーザは人間のパートナーとなり、現環境維持に必要な人口を保つ、増やすことを主な目的としてます。だったら、わたしもそんなミーザだったら良かったですよ」
急な独り言をするわたしは、それでも嗣虎さんというパートナーが出来ているのだから何も不満に思わなくても良かった。
玄関には元から靴を履いているままなのでそのまま出られる。
外の空気を鼻で吸うと、緊張から出てくる汗の臭いを連鎖的に感じ取った。これは……もう一人の嗣虎さんの匂いだ。耳も澄ませてみる。
『皐はバスに乗るのは初めてか?』
『そーだね。けれどこういう移動ってこれからはよくあるんでしょ? 慣れなきゃなんないねー』
『俺はごめんだぜ。なんせ、乗り物酔いなもんでな』
『じゃあ大切な人が車で誘拐された時に、走行中乗り込んで助けるってのは?』
『なんでアクション映画みたいなことで例えるんだ……』
『いーから答えろよー』
『……まぁ、大切な人なら、どんなに俺がクズになっても助けるさ』
『絶対?』
『ぜってぇ』
……あと三〇分でこの学園に着くだろう。
頭が痛くなってきた。これでも新入生挨拶で過度な緊張、多すぎる情報の取得、緊張を誤魔化すための無理な負担をエリニュスに預けていたので、体にその影響が返ってきている。
「あっとぉ、フリアエ? 起きてます?」
「……なに。ネメシス」
「精神ダメージの負担がきついんで、フリアエが持っててくださいな」
「……無理。眠い。ネメシスが持てばいい」
「わたし今日は結構頑張ってるんですが……」
「……なに勝手なことしてくれているの。これは……タイムスリップしてるのなんて……。……不味い、わたしも精神ダメージの負担が増えた。やはりそれは持てない」
「あ、フリアエ! エリニュスには預けちゃ駄目ですよ! もう限界なんです!」
「……これはわたしに対しての嫌がらせ? エリニュスが正常に機能しないと、わたしが感知能力を担当することになる」
「いえ、それはわたし一人でもできますから、もうフリアエは休んでいいですよ」
「……いい。エリニュスには精神ダメージを持ってもらって、感知と魔法はわたしがする」
「それってわたしが身体を担当するってことですか?」
「……今は。けど、後でネメシスが心の中で感知をしてもらう。精神ダメージはわたしとエリニュスで分け、精神崩壊を防ぐ。薬もないから」
「わたしが感知ですか?」
「……そう。ネメシスがこの世界の構造を調べるの」
と、どうやら今までの精神ダメージはエリニュスに全預けになった。
精神ダメージのケアは日頃こまめにやっていたおかげか、エリニュスの容量はかなり大きく、演算機能を考慮しなければ長く保ってくれる。
その代わり、面倒な感知能力をわたしかフリアエがしなければならないし、感知能力を働かせないと不安が溜まるように開発者から造られているので休めるときにしか休めない。
……他にもう一人の自分と会わなければならないのだから、まだ働く。
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