無想無冠のミーザ

はらわた

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第一章 「占拠された花園」

一〇章 回帰(2)

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「……分かった。嗣虎がそこまでするのなら、すぐに始める」

 フリアエは一息、切なそうに吐くと、足を崩して俺にすり寄った。

「服や靴は……今回そこまで力を出せないから我慢」

「……我慢?」

 待った。いや、待ってくれ。どういうことだ? まさか、裸体で転送されるんじゃ──。

 手は俺の腕を掴み、目を閉じる。

「過去には戻れないものだとしても、戻れると信じて……」

 瞬間──身体は破裂した。




 二年前。わたしはどうやって目覚めたのかを知らないまま、生命の活動を真っ白な四角の空間から始めた。

 わたしは白い椅子に座り、白い机の向かいに座る白服で初老の男と対面しており、最初は混乱して何も行動を起こせなかった。

 それに男は臭かったし、わたしと男しかいなかったが、何故かごちゃごちゃしていてうるさい。舌も変な味がしていたし、目だって視界が綺麗すぎて戸惑う。

 伸ばされていた髪が耳に擦れると変に気持ち良く、病衣の裾が肌に擦れても同じで、下半身がきゅぅとなる。

 訳が分からなすぎて自然と涙が流れてしまった。

「熱ッ……」

 それと同時に下瞼に異常な熱さを感じるが、それはわたしの涙の熱だ。

 そうしていると、男はわたしに話し掛けた。

「君。君の名前を教えてくれるかな?」

「……? わたしは……マルリイム」

「……バツか。では、君の目の色は?」

 どうやら質問のようだ。

「……橙色」

「バツ。確認せずに、君の髪は何色か教えてほしい」

「……黒」

「バツ。君の全部の性感帯は?」

「……それは、お答えできかねる」

「君は、自分の設定通りに喋ってくれれば良いんだ」

 男の表情は別にいやらしくも、焦ってもいなかった。それがとても怖くて、正直に口から言葉が飛び出してしまった。

「……頭。目。鼻。口。……耳。首。アンダーバスト。スペンス乳腺。…………腕、」

「君。正直に話しなさい」

「……。…………。…乳首。腹部。背中、」

「違う。もっと簡単に言って良いんだ。君は設定を話すだけでいい」

「……全身……です」

「マル。君の好きな食べ物は?」

「……蛇肉」

「バツ。君の理想の男性は?」

「……穏やかで、仕事をテキパキとこなし、人の為を第一に考える人……? ──違う、そうじゃ──」

「──マル。君の親は?」

「……マーレリー・クルファト、サブエル・クルファト」

「バツ。君の婚約者は?」

「……ゼウス」

「マル。君の能力は?」

「……感知型」

「マル。君の目の前にいる僕の名前は?」

「……分からない」

「バツ。君の好きな色は?」

「白! 白! 白ォォオオオオオ!!!!」

「──ハナマルだ。今回はここまでとしようか。また明日」

 すると、わたしの視界は暗闇となり、体から力が抜けて倒れてしまった。




 次に目覚めると、わたしはどうしてか記憶がなかった。

 目の前には初老の男。部屋の純白の空間に吐き気を催す。

 男はわたしに質問をした。

「君。君の名前を教えてくれるかな?」

「はい。ネメシスです」

「……? まぁバツ。では、君の目の色は?」

「それよりもここはどこだってんです。これはどういうことなんです?」

「……ふぅむ。それは僕の質問に全て答えてくれれば話そう」

「本当ですか!? 約束ですよ? で、目の色は青です」

「マル。確認せずに、君の髪の色は何か教えてほしい」

「銀髪です」

「マル。君の全部の性感帯は?」

「えっとぉ、頭、目、鼻、口、耳、首、アンダーバスト、スペンス乳腺、乳首、ミルクライン、腕、手、おなか、背中、クリストス、尿道、膣、お尻、肛門、もも、膝、すね、足、指。まぁ全身ですよ?」

「……恥ずかしくないのかな?」

「えぇーだっておじさまはわたしのそういうところ既に知ってるんですもん」

「……ふむ、案件だな。君の好きな食べ物は?」

「そうめんでーす」

「バツ。君の理想の男性は?」

「わたしを真剣に想ってくれてぇ、自分の嘘すら嫌いになってぇ、欲深くてぇ、甘えさせてくれてぇ、何度も好きだって言ってくれてぇ、胸の中で泣かせてもらえてぇ、美味しいご飯を作ろうと頑張ったりしてぇ、わたしを気味悪がらないようにする努力をしてぇ、目移りしそうな美女に囲まれても気合いでわたし一筋にしようとしてくれてぇ、最終的にはわたしという存在そのものを愛してくれる人!」

「バツ。君の親は?」

「大地と海です」

「バツ。君の婚約者は?」

「ふっふっふ……未定です」

「バツ。君の能力は?」

「感知と治癒です」

「……バツ。君の目の前にいる僕の名前は?」

「言って良いんですか?」

「いいよ」

「シャドウシリーズのミーザ。遺伝子バンクの橋田純子、柏田刃から混ぜ合わせた実質人間。本体の番号を本名とすれば、56332658号……ですね?」

「……く、こいつ……。バツだバツだ! 次は色だ。君の好きな色を言うんだ!」

「わぁこわい。わたしの好きな色はレインボーですよーだ!」

「ああそうか。バツだな! ではまた明日!」

 本当のことを言っただけなのに、男は怒って部屋から出て行ってしまった。わたしは首の神経から繋がれたプラグにより、意識はオフにされる。

 別に出ようと思えば出られたけれど、そうすれば素敵な出会いが無くなる気がした。



 わたしは目覚めた。知らない真っ白な部屋の中で、わたしの向かいには初老の男。

 男は口を開き、肘をつきながら質問をした。

「君の名前は?」

「……」

「君の、名前は?」

「フリアエ」

「バツ。君の目の色は?」

「金」

「バツ。君の髪の色は?」

「灰色」

「バツ。君の全部の性感帯は?」

「耳」

「……」

「……」

「……バツ。君の好きな食べ物は?」

「無い」

「バツ。君の理想の男性は?」

「悪人」

「バツ。君の親は?」

「知識」

「バツ。君の婚約者は?」

「未定」

「バツ。君の能力は?」

「治癒」

「バツ。君の目の前にいる僕の名前は?」

「56332658号」

「……チッ、マルだ。君の好きな色は?」

「無い」

「バツ。また明日」

 わたしは暗闇に落ちた。




 目覚めると、そこは初めてみる白い部屋。

 目の前には初老の男がおり、質問をするよう。

「君の名前は?」

「アレクトー」

「マル。君の目の色は?」

「青」

「マル。君の髪の色は?」

「白」

「マル。君の全部の性感帯は?」

「全身」

「マル。君の好きな食べ物は?」

「芋」

「マル。君の理想の男性は?」

「仕事人間」

「マル。君の親は?」

「マナカ」

「マル。君の婚約者は?」

「ゼウス」

「マル。君の能力は?」

「感知」

「マル。き……君の、目の前にいる、僕の名前は……?」

「陽介」

「……やっとか。マル。君の好きな色は?」

「白」

「パーフェクト。プラグを外そう」

 男は立ち上がり、わたしの後ろへ移動すると、首に繋がったプラグを丁寧に取り除く。

 その際、神経と繋がった部分を神業で外しているのか、痛みは無かった。

 遂に完全に繋がりが無くなると、今度はポケットから箱を取り出し、剥き出しの中身を丁寧に縫い合わせる。

 麻酔がないので、激しい痛みが襲うが耐えきって見せた。

「行こうか」

「……」

 男がそう言い、わたしは椅子から立ち上がって付いていく。

 忌まわしい部屋から出た瞬間、わたしはついにゴッドシリーズとして認められたのだ。
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