無想無冠のミーザ

はらわた

文字の大きさ
上 下
22 / 40
第一章 「占拠された花園」

一〇章 回帰(2)

しおりを挟む
「……分かった。嗣虎がそこまでするのなら、すぐに始める」

 フリアエは一息、切なそうに吐くと、足を崩して俺にすり寄った。

「服や靴は……今回そこまで力を出せないから我慢」

「……我慢?」

 待った。いや、待ってくれ。どういうことだ? まさか、裸体で転送されるんじゃ──。

 手は俺の腕を掴み、目を閉じる。

「過去には戻れないものだとしても、戻れると信じて……」

 瞬間──身体は破裂した。




 二年前。わたしはどうやって目覚めたのかを知らないまま、生命の活動を真っ白な四角の空間から始めた。

 わたしは白い椅子に座り、白い机の向かいに座る白服で初老の男と対面しており、最初は混乱して何も行動を起こせなかった。

 それに男は臭かったし、わたしと男しかいなかったが、何故かごちゃごちゃしていてうるさい。舌も変な味がしていたし、目だって視界が綺麗すぎて戸惑う。

 伸ばされていた髪が耳に擦れると変に気持ち良く、病衣の裾が肌に擦れても同じで、下半身がきゅぅとなる。

 訳が分からなすぎて自然と涙が流れてしまった。

「熱ッ……」

 それと同時に下瞼に異常な熱さを感じるが、それはわたしの涙の熱だ。

 そうしていると、男はわたしに話し掛けた。

「君。君の名前を教えてくれるかな?」

「……? わたしは……マルリイム」

「……バツか。では、君の目の色は?」

 どうやら質問のようだ。

「……橙色」

「バツ。確認せずに、君の髪は何色か教えてほしい」

「……黒」

「バツ。君の全部の性感帯は?」

「……それは、お答えできかねる」

「君は、自分の設定通りに喋ってくれれば良いんだ」

 男の表情は別にいやらしくも、焦ってもいなかった。それがとても怖くて、正直に口から言葉が飛び出してしまった。

「……頭。目。鼻。口。……耳。首。アンダーバスト。スペンス乳腺。…………腕、」

「君。正直に話しなさい」

「……。…………。…乳首。腹部。背中、」

「違う。もっと簡単に言って良いんだ。君は設定を話すだけでいい」

「……全身……です」

「マル。君の好きな食べ物は?」

「……蛇肉」

「バツ。君の理想の男性は?」

「……穏やかで、仕事をテキパキとこなし、人の為を第一に考える人……? ──違う、そうじゃ──」

「──マル。君の親は?」

「……マーレリー・クルファト、サブエル・クルファト」

「バツ。君の婚約者は?」

「……ゼウス」

「マル。君の能力は?」

「……感知型」

「マル。君の目の前にいる僕の名前は?」

「……分からない」

「バツ。君の好きな色は?」

「白! 白! 白ォォオオオオオ!!!!」

「──ハナマルだ。今回はここまでとしようか。また明日」

 すると、わたしの視界は暗闇となり、体から力が抜けて倒れてしまった。




 次に目覚めると、わたしはどうしてか記憶がなかった。

 目の前には初老の男。部屋の純白の空間に吐き気を催す。

 男はわたしに質問をした。

「君。君の名前を教えてくれるかな?」

「はい。ネメシスです」

「……? まぁバツ。では、君の目の色は?」

「それよりもここはどこだってんです。これはどういうことなんです?」

「……ふぅむ。それは僕の質問に全て答えてくれれば話そう」

「本当ですか!? 約束ですよ? で、目の色は青です」

「マル。確認せずに、君の髪の色は何か教えてほしい」

「銀髪です」

「マル。君の全部の性感帯は?」

「えっとぉ、頭、目、鼻、口、耳、首、アンダーバスト、スペンス乳腺、乳首、ミルクライン、腕、手、おなか、背中、クリストス、尿道、膣、お尻、肛門、もも、膝、すね、足、指。まぁ全身ですよ?」

「……恥ずかしくないのかな?」

「えぇーだっておじさまはわたしのそういうところ既に知ってるんですもん」

「……ふむ、案件だな。君の好きな食べ物は?」

「そうめんでーす」

「バツ。君の理想の男性は?」

「わたしを真剣に想ってくれてぇ、自分の嘘すら嫌いになってぇ、欲深くてぇ、甘えさせてくれてぇ、何度も好きだって言ってくれてぇ、胸の中で泣かせてもらえてぇ、美味しいご飯を作ろうと頑張ったりしてぇ、わたしを気味悪がらないようにする努力をしてぇ、目移りしそうな美女に囲まれても気合いでわたし一筋にしようとしてくれてぇ、最終的にはわたしという存在そのものを愛してくれる人!」

「バツ。君の親は?」

「大地と海です」

「バツ。君の婚約者は?」

「ふっふっふ……未定です」

「バツ。君の能力は?」

「感知と治癒です」

「……バツ。君の目の前にいる僕の名前は?」

「言って良いんですか?」

「いいよ」

「シャドウシリーズのミーザ。遺伝子バンクの橋田純子、柏田刃から混ぜ合わせた実質人間。本体の番号を本名とすれば、56332658号……ですね?」

「……く、こいつ……。バツだバツだ! 次は色だ。君の好きな色を言うんだ!」

「わぁこわい。わたしの好きな色はレインボーですよーだ!」

「ああそうか。バツだな! ではまた明日!」

 本当のことを言っただけなのに、男は怒って部屋から出て行ってしまった。わたしは首の神経から繋がれたプラグにより、意識はオフにされる。

 別に出ようと思えば出られたけれど、そうすれば素敵な出会いが無くなる気がした。



 わたしは目覚めた。知らない真っ白な部屋の中で、わたしの向かいには初老の男。

 男は口を開き、肘をつきながら質問をした。

「君の名前は?」

「……」

「君の、名前は?」

「フリアエ」

「バツ。君の目の色は?」

「金」

「バツ。君の髪の色は?」

「灰色」

「バツ。君の全部の性感帯は?」

「耳」

「……」

「……」

「……バツ。君の好きな食べ物は?」

「無い」

「バツ。君の理想の男性は?」

「悪人」

「バツ。君の親は?」

「知識」

「バツ。君の婚約者は?」

「未定」

「バツ。君の能力は?」

「治癒」

「バツ。君の目の前にいる僕の名前は?」

「56332658号」

「……チッ、マルだ。君の好きな色は?」

「無い」

「バツ。また明日」

 わたしは暗闇に落ちた。




 目覚めると、そこは初めてみる白い部屋。

 目の前には初老の男がおり、質問をするよう。

「君の名前は?」

「アレクトー」

「マル。君の目の色は?」

「青」

「マル。君の髪の色は?」

「白」

「マル。君の全部の性感帯は?」

「全身」

「マル。君の好きな食べ物は?」

「芋」

「マル。君の理想の男性は?」

「仕事人間」

「マル。君の親は?」

「マナカ」

「マル。君の婚約者は?」

「ゼウス」

「マル。君の能力は?」

「感知」

「マル。き……君の、目の前にいる、僕の名前は……?」

「陽介」

「……やっとか。マル。君の好きな色は?」

「白」

「パーフェクト。プラグを外そう」

 男は立ち上がり、わたしの後ろへ移動すると、首に繋がったプラグを丁寧に取り除く。

 その際、神経と繋がった部分を神業で外しているのか、痛みは無かった。

 遂に完全に繋がりが無くなると、今度はポケットから箱を取り出し、剥き出しの中身を丁寧に縫い合わせる。

 麻酔がないので、激しい痛みが襲うが耐えきって見せた。

「行こうか」

「……」

 男がそう言い、わたしは椅子から立ち上がって付いていく。

 忌まわしい部屋から出た瞬間、わたしはついにゴッドシリーズとして認められたのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

アリシアの恋は終わったのです。

ことりちゃん
恋愛
昼休みの廊下で、アリシアはずっとずっと大好きだったマークから、いきなり頬を引っ叩かれた。 その瞬間、アリシアの恋は終わりを迎えた。 そこから長年の虚しい片想いに別れを告げ、新しい道へと歩き出すアリシア。 反対に、後になってアリシアの想いに触れ、遅すぎる行動に出るマーク。 案外吹っ切れて楽しく過ごす女子と、どうしようもなく後悔する残念な男子のお話です。 ーーーーー 12話で完結します。 よろしくお願いします(´∀`)

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

処理中です...