無想無冠のミーザ

はらわた

文字の大きさ
上 下
19 / 40
第一章 「占拠された花園」

九章 character(6)

しおりを挟む
 中学校に通っていた三年生の時、俺はクラスメートからいじめを受けていた。

 俺は人と人の間から産まれた純人間の多いちょっと裕福な学校に通っており、親の影響で親の人造人間への差別を直に浴びて親に染められた子供は人造人間と人の間から産まれたハーフヒューマンを差別するのだが、それに俺が巻き込まれたのだ。

 うっかり美人な母親が授業参観に来てしまったものだから人造人間がバレて、酷すぎるいじめの対象となった赤の他人を放っておけなくなって助けたのが駄目だった。

 俺が純人間だったのならまだ救いはあったが、そもそも俺はハーフヒューマンだ。それがバレてしまってはいつも通り平和に過ごしていた学校生活は苦痛に塗り替えられても仕方がない。

 かと言っていいようにはされていない。やられた分は必ずやり返し、友達も僅かながら作っていった。ただ友達よりもいじめの方が多いので友達付き合いは中々出来なかった。

 教師は大丈夫であった。人造人間の教師がいたりするが、純人間ももちろんいる。その純人間が俺に対しとても教師とは思えない酷すぎる行為に及んだ場合、俺の親の権力で地獄を味わわせたからだ。

 最後の日まで俺は純人間と和解は出来ずじまいで終わった。人は変われなかったのだ、簡単なレールが目の前で当然のように敷かれる人生では特に。

 俺はそもそも変わりたくない。俺は俺を一番誇りに思っているから。

 学校の玄関で自分のロッカーを開け、外靴に履き替えるともうひとっ走りする。

 半分開いてある校門を通り過ぎ、左へ方向を変えて真っ直ぐ走る。

 遠くの方で右手を目に当てている女の子の背を見つけると、ペースを上げてさっさと追いつこうと急ぐ。

 紺色のブレザーと紺色のスカートは見覚えがあり、薄い茶色の後ろ髪には見覚えがある。あの薄さはそこらにいるような一般的なものではない。

 ……ああ、知っている子か。

「お、どうしたんだ?」

「え……わっ!」

 隣に立つくらいまで近付いてから、疲れを見せないようにしながら声を掛けると女の子は驚いて一歩離れた。

 瞳の色だって薄茶色だ。目をかっぴらいているので色が良くわかる。

 きちんと食べているのかと心配するくらいに華奢で可愛くて、いたずらしたくなるくらいに小動物。性格は良くわからない。

「ふ、古代先輩……? どうして……」

「え? 何だって?」

「あの……わ、私……」

「え? 聞こえないぞ?」

「あ……の、どうしてここに……?」

 上目遣いで言われても声が小さいので聞き取れないのだが、ようやく聞こえた質問に数秒の思考を交えながら答えた。

「あー、ここ俺の学校の近くで、たまたま通りかかった君を見掛けてね」

「あの……あの……!」

「なに?」

「去年、学校で助けてくれてありがとうございました……」

「いやもういいよ。気にしないで」

 腫れた瞼にまた涙が溜まる。前にいじめられていたので助けたことはあるが、そんなの一回だけだ。偶然なのである。

「君は二年の来田くるただよな」

「は、はい……今は三年ですが……」

「泣いてたけれど、何かあったのか?」

「……な、なんでもありません……」

 気張る来田だが、流れる涙は止まらなく、いちいち手で拭っている。

 とても傷ついているように見えた。嬉し涙のようには到底思えない。

 ポケットから黄色のハンカチを取り出して、彼女の目の下に当ててあげた。

「なんだよ、汚れてるじゃねえか。拭いてやるよ」

「……ぇっく。ありがとう、ございます……」

 若干俯いて泣いているところを見られないようにされるが、俺は彼女の涙が止まるまで、地面に泣いたなんてあからさまな証拠を残さないように、涙を奪った。

 事情は聴かないことにする。俺が彼女を助けられるとは限らないし、助けを求められなければ動けない。彼女なりに頑張っているのなら、俺は適当に手出ししては失礼なのだ。

 涙は中々止まらなかった。ずっと、何時間も流れ続け、日は落ちていく。

「来田、泣くなよ」

「ご、ごめんなさい……わ、私……先輩に会えたのが嬉しくて、と、止められないんです……」

「俺が? なんで俺なんか……」

 来田は自分が言ったことを改めて認識したのか、はっ、と泣いているのとは違った赤面をすると、俺から離れるように一歩下がった。

「わ、私ったらうっかり……」

「え? なんて言った?」

 こういうのは必ず聞き逃さない自信があるが、来田だけはあまりに声が小さいのでどうしてもこうなる。

 来田はいつの間にか涙を止めて顔を真っ赤にすると、ぺこっと頭を下げ、

「古代先輩、し、失礼します!」

 なんとも言えないふにゃっとした大声で言うと、背を向けて走り出した。だがかなり遅いので、姿が見えなくなるまで少し長かった。

「……はぁ。……ん?」

 ため息を吐いて首を下に向けると、そこには生徒手帳が落ちていた。

 拾って確かめると、やはり来田のものだ。

相樺あいかば学園中等校三年二組、来田月見つきみちゃんか……。たまに会うけれど、下の名前知らなかったんだよな……」

 今更追いかけられない。いつか会った時に返そう。

 俺は寮に帰ることにした。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

処理中です...