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第一章 「占拠された花園」
九章 character(5)
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「なんだ? どうしたんだ浅野?」
歩みを速める浅野に訊くが、含み笑いのようなものしか返ってこない。いつしか屋上への扉に着くとエリニュスから渡されたものを取り出した。
「……まさか、それって屋上の鍵じゃあないのか!」
「くっくっく」
「だ、駄目だ。もはや言葉にするのが面倒になった浅野では確たる証言が得られない! エリニュス、もしかして職員室から奪取したのか?」
「いえ、私物です」
「立ち入り禁止の意味が分からなくなったぞてめぇ」
ガチャリと音がする頃には、エリニュスの持っていた鍵は屋上への鍵だというのは分かってしまい、とりあえず解放感を得る。
「……青いですね」
「太陽が眩しいです! 手をかざして日陰を作ってください!」
「それでは空が見えません」
「私は空などどーでもいいです!」
皐が空を眺めながらミーザとお喋りをしている。徐々に仲が良くなっているのを確認できて、俺は少し微笑ましかった。
屋上はとても広かった。学校の設備を支えるような部分があるが、一番意外なのは低いフェンスである。
フェンスは二メートル越えているとか、そんな安全面をよく考慮した感じではなく、手が胸元の辺りで置けるくらいに低い。おかげで外の風景は綺麗に見渡せるが、うっかりそこからおふざけで押されてしまえば落ちてしまわないかとハラハラする。
通りで。これは禁止されても仕方がない。
しかし、そのフェンスにガブリエルは近づき手を置いた。外の風景を黙って眺めている。
それが絵になっているせいで、俺はガブリエルに視線を向けっぱなしになってしまっていた。
「メガイラ。アレクトーがおかしくなってしまった。何か原因は知っているか?」
「えぇー? フリアエは人の体であれだけ能力つぎ込んだんだよ? 負担が大きくても仕方ないよ。だからああなっても納得かな」
「ふ、メガイラも人の体で相当じゃないか」
「え? あはは……そうだね! あはは!」
ティシポネとメガイラが最後尾でフリアエのことを話しているのが聞こえる。
どうやら、フリアエの多重人格について知らないようだ。いや、メガイラは知っているように言っているので分からない。
「浅野さんって楽しい方ですよね! ずっと一緒にいても飽きないかもです」
「俺様は俺様のやりたいようにしかしねぇけどよぉ、お前のような奴ならどんなに後に続こうが引き離すことはねぇ。面白ければそれでいいというこったな」
「素直じゃないんですね、クスクス」
「あぁん? 俺は最初からこうだよ文句あっか!?」
「とんでもありません! そんな怒らないでくださいな」
エリニュスが浅野と良い感じに会話が出来ていた。
どうしてだろうか、エリニュスがあんなに楽しそうにしていると不愉快な気分になる。
エリニュスは俺の……何だろうな、友達ならこんな気持ちにはならないよな。だから……恋の相手なんだ。
嫉妬……だよな、これ。
俺はもれなくという訳ではなく、完全に一人であった。一人になるのは風呂かトイレか、もしくは選定のミーザ選びに行くときの徒歩の時間以来だろうか。心が自由になった気がする。
俺には大まかな選択肢が出来ていた。
一、皐とミーザの中に混ざってくる。
二、メガイラとティシポネからフリアエについて質問してみる。
三、浅野とエリニュスの会話を止める。
四、ガブリエルに話しかけてみる。
五、このまま一人を満喫する。
六、外の景色を眺めて新たな出会いを果たす。
あるぇー? おっかしいなー。新たな出会いってどういうことかなー?
脳内選択肢で変なものが出てきてしまったので、自分自身おもしろ半分で六つ目の行動を取ることにした。
自然とガブリエルの隣に立つことになり、下を眺める。
「あなたは空じゃなくて、汚い方の世界を観るんだね」
ガブリエルが話しかけてくれたが、その内容に反応せずにはいられない。
「確かに汚いな。でも、素敵なものがあるかもしれないじゃないか」
「ないよ。見たこと無いですから」
「じゃあ俺ともう一度見てみようぜ」
「……だったら見ようかな」
……何となくいい雰囲気を作ってしまった俺は、ガブリエルの顔を見ることが出来ず下を見続けた。
学校の敷地外には相変わらずホームレスやら痩せた体で走り回る子供達、恐らく片方が人造人間のカップルがそれぞれの人生を歩んでいる。汚い家に汚いスーパー、古い家と古いスーパー、値段が高いのばかりの商品を乗せて屋台を引っ張って売りをする人までいる。
この世界は終わっているが、まだ、人が人として生まれて楽しめる分の時間はある。俺が寿命死する頃にこれが本当の終わりを迎えるのだろうとは、予感が囁いていた。
何か見える。何かは見た瞬間の状況であるので、それから一秒経過すると何かはより詳細となる。
女の子が泣いていた。
「ガブリエル、俺帰るな」
「帰るの?」
「ああ。またな」
居なくなることを伝えられると、心置きなく走り出せた。
俺は自分のことなど全く視野に入れず、赤の他人を想って行動している。
こんなおかしなことあり得て良いのだろうか? とかそんな考えはなかった。
結局、何も考えていなかったのだ。
歩みを速める浅野に訊くが、含み笑いのようなものしか返ってこない。いつしか屋上への扉に着くとエリニュスから渡されたものを取り出した。
「……まさか、それって屋上の鍵じゃあないのか!」
「くっくっく」
「だ、駄目だ。もはや言葉にするのが面倒になった浅野では確たる証言が得られない! エリニュス、もしかして職員室から奪取したのか?」
「いえ、私物です」
「立ち入り禁止の意味が分からなくなったぞてめぇ」
ガチャリと音がする頃には、エリニュスの持っていた鍵は屋上への鍵だというのは分かってしまい、とりあえず解放感を得る。
「……青いですね」
「太陽が眩しいです! 手をかざして日陰を作ってください!」
「それでは空が見えません」
「私は空などどーでもいいです!」
皐が空を眺めながらミーザとお喋りをしている。徐々に仲が良くなっているのを確認できて、俺は少し微笑ましかった。
屋上はとても広かった。学校の設備を支えるような部分があるが、一番意外なのは低いフェンスである。
フェンスは二メートル越えているとか、そんな安全面をよく考慮した感じではなく、手が胸元の辺りで置けるくらいに低い。おかげで外の風景は綺麗に見渡せるが、うっかりそこからおふざけで押されてしまえば落ちてしまわないかとハラハラする。
通りで。これは禁止されても仕方がない。
しかし、そのフェンスにガブリエルは近づき手を置いた。外の風景を黙って眺めている。
それが絵になっているせいで、俺はガブリエルに視線を向けっぱなしになってしまっていた。
「メガイラ。アレクトーがおかしくなってしまった。何か原因は知っているか?」
「えぇー? フリアエは人の体であれだけ能力つぎ込んだんだよ? 負担が大きくても仕方ないよ。だからああなっても納得かな」
「ふ、メガイラも人の体で相当じゃないか」
「え? あはは……そうだね! あはは!」
ティシポネとメガイラが最後尾でフリアエのことを話しているのが聞こえる。
どうやら、フリアエの多重人格について知らないようだ。いや、メガイラは知っているように言っているので分からない。
「浅野さんって楽しい方ですよね! ずっと一緒にいても飽きないかもです」
「俺様は俺様のやりたいようにしかしねぇけどよぉ、お前のような奴ならどんなに後に続こうが引き離すことはねぇ。面白ければそれでいいというこったな」
「素直じゃないんですね、クスクス」
「あぁん? 俺は最初からこうだよ文句あっか!?」
「とんでもありません! そんな怒らないでくださいな」
エリニュスが浅野と良い感じに会話が出来ていた。
どうしてだろうか、エリニュスがあんなに楽しそうにしていると不愉快な気分になる。
エリニュスは俺の……何だろうな、友達ならこんな気持ちにはならないよな。だから……恋の相手なんだ。
嫉妬……だよな、これ。
俺はもれなくという訳ではなく、完全に一人であった。一人になるのは風呂かトイレか、もしくは選定のミーザ選びに行くときの徒歩の時間以来だろうか。心が自由になった気がする。
俺には大まかな選択肢が出来ていた。
一、皐とミーザの中に混ざってくる。
二、メガイラとティシポネからフリアエについて質問してみる。
三、浅野とエリニュスの会話を止める。
四、ガブリエルに話しかけてみる。
五、このまま一人を満喫する。
六、外の景色を眺めて新たな出会いを果たす。
あるぇー? おっかしいなー。新たな出会いってどういうことかなー?
脳内選択肢で変なものが出てきてしまったので、自分自身おもしろ半分で六つ目の行動を取ることにした。
自然とガブリエルの隣に立つことになり、下を眺める。
「あなたは空じゃなくて、汚い方の世界を観るんだね」
ガブリエルが話しかけてくれたが、その内容に反応せずにはいられない。
「確かに汚いな。でも、素敵なものがあるかもしれないじゃないか」
「ないよ。見たこと無いですから」
「じゃあ俺ともう一度見てみようぜ」
「……だったら見ようかな」
……何となくいい雰囲気を作ってしまった俺は、ガブリエルの顔を見ることが出来ず下を見続けた。
学校の敷地外には相変わらずホームレスやら痩せた体で走り回る子供達、恐らく片方が人造人間のカップルがそれぞれの人生を歩んでいる。汚い家に汚いスーパー、古い家と古いスーパー、値段が高いのばかりの商品を乗せて屋台を引っ張って売りをする人までいる。
この世界は終わっているが、まだ、人が人として生まれて楽しめる分の時間はある。俺が寿命死する頃にこれが本当の終わりを迎えるのだろうとは、予感が囁いていた。
何か見える。何かは見た瞬間の状況であるので、それから一秒経過すると何かはより詳細となる。
女の子が泣いていた。
「ガブリエル、俺帰るな」
「帰るの?」
「ああ。またな」
居なくなることを伝えられると、心置きなく走り出せた。
俺は自分のことなど全く視野に入れず、赤の他人を想って行動している。
こんなおかしなことあり得て良いのだろうか? とかそんな考えはなかった。
結局、何も考えていなかったのだ。
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