無想無冠のミーザ

はらわた

文字の大きさ
上 下
15 / 40
第一章 「占拠された花園」

九章 character(2)

しおりを挟む
 穏和な顔をしてそれぞれの顔を確かめ、陽気に話し始める。

「ボクの名前は風上かざかみ信夫しのぶと言うんだ。これでも忙しい三年生でね、それでもここの番は勤めているんだ。先輩を見習うのならボクからの方が身のためだよ」

 風上というのか。これから風上先輩と呼んでいけばいいのかな。

「そんなんどーでも良いからよぉ。なんで他の奴らは誰もいねぇんだよ」

 隣の浅野が顔を歪めて風上先輩を睨む。チンピラだろお前。

「それはね、馬鹿やってるからさ」

「馬鹿やってるだとぉ……?」

 風上先輩はふっふっふと笑いながら指を眼鏡のふちを掴んで掛け直し、浅野に指を指す。

「忠告をしておくけど、この平和部に入るからにはこれまで過ごしてきた当たり前は無くなるものと思ってほしい。いいかい? 今までのことはキミ達を安心させたり、喜ばせるだけのただのサービス。触れるものは血で、聞こえてくるのも血の音、見るのも臭うのも、口の中で味わうもの全て血で出来ている」

 ここで俺はびびってしまっていた。恐ろしいことを口にする場合、大抵冗談とか、血が上って理性がない時なのだが、この風上先輩は陽気なまま普通に言っている。

 風上先輩の当たり前を言っているだけなのだ。

「はぁん? 知ってて来てんだよ俺様はよぉ!」

 浅野の何に怒りが触れたのか、風上先輩に怒鳴り散らした。

「けどね、精神衛生がきついほど楽しいことには全力で打ち込むんだよ。ボク以外の部員は、明日の部活動紹介の為に色々な準備をしている。イベントってのは少ないから、みんなはためすぎたエネルギーを派手に使ってるんだ。キミ達には、いや、アレクトー以外には分からないだろうね」

 話に出されたフリアエは特に何も言わない。

「で、さぁ。豚はどんな活動してるのか教えろよ。わざわざ俺様が来てやってんだからよぉ!」

「まあまぁ、もちろん教えるよ」

 何を言われても動じない風上先輩は鋼の心臓を持っているのか気になった。

「ボクはね、戦うのは嫌いなんだ。だからここで依頼の受付や平和部の連絡事項のまとめ、部員の呼び出し、あとちょっとした人生相談をしてあげる。平和でしょ?」

 それに対して声は無かった。みんな、何も言うことが無いということだ。

「でもこの役割はボクが取っちゃったから、キミ達は戦う役割を持たないといけない。ボクみたいに機転を利かせて楽な役割を作るのなら話は別だけど」

「無理ですよ、風上先輩」

「ん?」

 俺は思うよりも先に口が出てしまい、そのまま言ってしまった。

「俺達には目の前のやるべきことがあるんですから、逃げられません」

「……ボクのやり方が逃走だと言いたいのかな」

「いいえ、それは風上先輩の正義が成したことであります」

「……語るまでも無き人の世かな」

 風上先輩は嬉しそうに見える。その風上先輩から出てきた言葉はどこか暖かみがあり、何故か納得ができた。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

アリシアの恋は終わったのです。

ことりちゃん
恋愛
昼休みの廊下で、アリシアはずっとずっと大好きだったマークから、いきなり頬を引っ叩かれた。 その瞬間、アリシアの恋は終わりを迎えた。 そこから長年の虚しい片想いに別れを告げ、新しい道へと歩き出すアリシア。 反対に、後になってアリシアの想いに触れ、遅すぎる行動に出るマーク。 案外吹っ切れて楽しく過ごす女子と、どうしようもなく後悔する残念な男子のお話です。 ーーーーー 12話で完結します。 よろしくお願いします(´∀`)

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

処理中です...