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第一章 「占拠された花園」
八章 メッセンジャー(5)
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俺の通う田本学園は相当広い校舎を持っており、食堂にたどり着くまでかなり時間が掛かる。なにせ、俺の教室が五階にあり、一階の食堂から遠いのだ。
なのでそこに着くまでに満席であったとしても不思議ではない。
「凄い人の数ですね。走れば良かったのかも知れません」
皐が驚いた。しかし走ってまでしないと間に合わないものとは知らなくて当然なので仕方がないことである。
「だったらあそこしかないな」
俺は提案として近くの購買に指を指す。それは食堂の隣の場所にあり、パンやおむすびがあるだろう。
そう言った後に食堂を出ようとすると腕に乗ったミーザが声をあげた。
「旦那様にはホムンクルスフードがあるのです」
「……まさか食えというのか?」
俺とミーザの視線が交差する。嗚呼、なんということだろうか、俺はドッグフードとキャットフードとほぼ変わらないものを口にしなければならないのかもしれない。
ホムンクルスフードは食堂にあるというのでここで貰う方が早い。
「もちろんです。私の苦しみを共有するがいいです」
ミーザの意思は強い……。このままミーザの話を無視して購買に行くことも出来るが、ミーザのような貧弱な体で俺を引きとめるという手段が使えないためそれは大人げない。であれば、俺は食べるしかないのである。
「分かった、食えるんなら食ってやるよ」
そうして受付へ行こうとしたのだが、皐に右腕を掴まれる。
「待ってください。注文をするのなら私達の昼食もしましょう。フリアエが席を取っておいてくれたようですので」
フリアエ!? と意外な人物の名前を言うので辺りを見回すとテーブルを占領している銀髪の少女を見つけた。確かにあのうざったい白色のあれはフリアエくらいしかいないだろう。
俺、白色って本当に好きじゃないからな……。
「あ、これ財布必要だったっけ?」
「……あの、この学園に入ろうとしたの誰ですか?」
「俺だ」
「そのくらい把握してください」
そういえば食堂を利用する際にお金は必要だったのかなぁと疑問が浮かぶ。このように皐に訊けば呆れられてしまうのは当然かもしれない。
食事、風呂、トイレ、部屋は調べた記憶があったのだが、肝心の内容を忘れてしまっている。
……はて、どうしてだろうか。
それに食堂を利用するのは初めてな気がする。四月九日現在までどうやって食べてきたのか忘れた。確か、パーティーを開く時を考えて料理下手な俺の為に、何か、料理の練習的なことをしたように思う。
あ、そうか。緋苗だ緋苗。毎日緋苗と一緒に料理をしていたのだった。
突然緋苗に会いたい欲求が生まれた。あんな良い女なかなかいないし、寂しさもあって気になってくる。
「旦那様! 部活動見学をするのに何をもたついてますか! 後二〇分で部活動見学が始まります!」
「……え? ああ忘れてたよ」
言われて食堂の壁時計を探して現時刻を確かめようとするが、時計はどこにも掛けられていなかった。
「なぁミーザ。壁時計はどこにあった?」
「そんなの無いに決まっているではないですか」
「……は? だったらどうやって時間を確認したんだよ」
「それは私の体内時計で計りました。今は十二時三四分三三秒で、旦那様が皐様の腕時計を確認する頃には十二時三五分二秒になっています」
「ホムンクルスってみんなそうなのか?」
「私だけです」
ならば確認しない訳にはいかない。そう言われれば皐が腕時計をしていることに初めて気付いたなぁと普段の自分の無関心さに呆れながら、時間を確認するのに皐に見せてもらえるようお願いする。
「腕時計見せて」
「え? 良いですけれど……」
急なことなので皐はもたつくが、すぐに手を差し出してくれた。
針は……十二時三五分二秒を指している。
な、なんだ? どこかでこういう体験をしたような気がするのだが?
「お前凄いな。どうやって分かったんだ」
素直にミーザに訊くと、ミーザはどこか暗くなりながら自慢するような様子もなく答える。
「別に、時間を数えればその時間が頭の中でがっちり当てはまって、何も考えなくても分かるようになっただけですよ」
その姿は、見たことがある影だった。
なのでそこに着くまでに満席であったとしても不思議ではない。
「凄い人の数ですね。走れば良かったのかも知れません」
皐が驚いた。しかし走ってまでしないと間に合わないものとは知らなくて当然なので仕方がないことである。
「だったらあそこしかないな」
俺は提案として近くの購買に指を指す。それは食堂の隣の場所にあり、パンやおむすびがあるだろう。
そう言った後に食堂を出ようとすると腕に乗ったミーザが声をあげた。
「旦那様にはホムンクルスフードがあるのです」
「……まさか食えというのか?」
俺とミーザの視線が交差する。嗚呼、なんということだろうか、俺はドッグフードとキャットフードとほぼ変わらないものを口にしなければならないのかもしれない。
ホムンクルスフードは食堂にあるというのでここで貰う方が早い。
「もちろんです。私の苦しみを共有するがいいです」
ミーザの意思は強い……。このままミーザの話を無視して購買に行くことも出来るが、ミーザのような貧弱な体で俺を引きとめるという手段が使えないためそれは大人げない。であれば、俺は食べるしかないのである。
「分かった、食えるんなら食ってやるよ」
そうして受付へ行こうとしたのだが、皐に右腕を掴まれる。
「待ってください。注文をするのなら私達の昼食もしましょう。フリアエが席を取っておいてくれたようですので」
フリアエ!? と意外な人物の名前を言うので辺りを見回すとテーブルを占領している銀髪の少女を見つけた。確かにあのうざったい白色のあれはフリアエくらいしかいないだろう。
俺、白色って本当に好きじゃないからな……。
「あ、これ財布必要だったっけ?」
「……あの、この学園に入ろうとしたの誰ですか?」
「俺だ」
「そのくらい把握してください」
そういえば食堂を利用する際にお金は必要だったのかなぁと疑問が浮かぶ。このように皐に訊けば呆れられてしまうのは当然かもしれない。
食事、風呂、トイレ、部屋は調べた記憶があったのだが、肝心の内容を忘れてしまっている。
……はて、どうしてだろうか。
それに食堂を利用するのは初めてな気がする。四月九日現在までどうやって食べてきたのか忘れた。確か、パーティーを開く時を考えて料理下手な俺の為に、何か、料理の練習的なことをしたように思う。
あ、そうか。緋苗だ緋苗。毎日緋苗と一緒に料理をしていたのだった。
突然緋苗に会いたい欲求が生まれた。あんな良い女なかなかいないし、寂しさもあって気になってくる。
「旦那様! 部活動見学をするのに何をもたついてますか! 後二〇分で部活動見学が始まります!」
「……え? ああ忘れてたよ」
言われて食堂の壁時計を探して現時刻を確かめようとするが、時計はどこにも掛けられていなかった。
「なぁミーザ。壁時計はどこにあった?」
「そんなの無いに決まっているではないですか」
「……は? だったらどうやって時間を確認したんだよ」
「それは私の体内時計で計りました。今は十二時三四分三三秒で、旦那様が皐様の腕時計を確認する頃には十二時三五分二秒になっています」
「ホムンクルスってみんなそうなのか?」
「私だけです」
ならば確認しない訳にはいかない。そう言われれば皐が腕時計をしていることに初めて気付いたなぁと普段の自分の無関心さに呆れながら、時間を確認するのに皐に見せてもらえるようお願いする。
「腕時計見せて」
「え? 良いですけれど……」
急なことなので皐はもたつくが、すぐに手を差し出してくれた。
針は……十二時三五分二秒を指している。
な、なんだ? どこかでこういう体験をしたような気がするのだが?
「お前凄いな。どうやって分かったんだ」
素直にミーザに訊くと、ミーザはどこか暗くなりながら自慢するような様子もなく答える。
「別に、時間を数えればその時間が頭の中でがっちり当てはまって、何も考えなくても分かるようになっただけですよ」
その姿は、見たことがある影だった。
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