無想無冠のミーザ

はらわた

文字の大きさ
上 下
12 / 40
第一章 「占拠された花園」

八章 メッセンジャー(5)

しおりを挟む
 俺の通う田本学園は相当広い校舎を持っており、食堂にたどり着くまでかなり時間が掛かる。なにせ、俺の教室が五階にあり、一階の食堂から遠いのだ。

 なのでそこに着くまでに満席であったとしても不思議ではない。

「凄い人の数ですね。走れば良かったのかも知れません」

 皐が驚いた。しかし走ってまでしないと間に合わないものとは知らなくて当然なので仕方がないことである。

「だったらあそこしかないな」

 俺は提案として近くの購買に指を指す。それは食堂の隣の場所にあり、パンやおむすびがあるだろう。

 そう言った後に食堂を出ようとすると腕に乗ったミーザが声をあげた。

「旦那様にはホムンクルスフードがあるのです」

「……まさか食えというのか?」

 俺とミーザの視線が交差する。嗚呼、なんということだろうか、俺はドッグフードとキャットフードとほぼ変わらないものを口にしなければならないのかもしれない。

 ホムンクルスフードは食堂にあるというのでここで貰う方が早い。

「もちろんです。私の苦しみを共有するがいいです」

 ミーザの意思は強い……。このままミーザの話を無視して購買に行くことも出来るが、ミーザのような貧弱な体で俺を引きとめるという手段が使えないためそれは大人げない。であれば、俺は食べるしかないのである。

「分かった、食えるんなら食ってやるよ」

 そうして受付へ行こうとしたのだが、皐に右腕を掴まれる。

「待ってください。注文をするのなら私達の昼食もしましょう。フリアエが席を取っておいてくれたようですので」

 フリアエ!? と意外な人物の名前を言うので辺りを見回すとテーブルを占領している銀髪の少女を見つけた。確かにあのうざったい白色のあれはフリアエくらいしかいないだろう。

 俺、白色って本当に好きじゃないからな……。

「あ、これ財布必要だったっけ?」

「……あの、この学園に入ろうとしたの誰ですか?」

「俺だ」

「そのくらい把握してください」

 そういえば食堂を利用する際にお金は必要だったのかなぁと疑問が浮かぶ。このように皐に訊けば呆れられてしまうのは当然かもしれない。

 食事、風呂、トイレ、部屋は調べた記憶があったのだが、肝心の内容を忘れてしまっている。

 ……はて、どうしてだろうか。

 それに食堂を利用するのは初めてな気がする。四月九日現在までどうやって食べてきたのか忘れた。確か、パーティーを開く時を考えて料理下手な俺の為に、何か、料理の練習的なことをしたように思う。

 あ、そうか。緋苗だ緋苗。毎日緋苗と一緒に料理をしていたのだった。

 突然緋苗に会いたい欲求が生まれた。あんな良い女なかなかいないし、寂しさもあって気になってくる。

「旦那様! 部活動見学をするのに何をもたついてますか! 後二〇分で部活動見学が始まります!」

「……え? ああ忘れてたよ」

 言われて食堂の壁時計を探して現時刻を確かめようとするが、時計はどこにも掛けられていなかった。

「なぁミーザ。壁時計はどこにあった?」

「そんなの無いに決まっているではないですか」

「……は? だったらどうやって時間を確認したんだよ」

「それは私の体内時計で計りました。今は十二時三四分三三秒で、旦那様が皐様の腕時計を確認する頃には十二時三五分二秒になっています」

「ホムンクルスってみんなそうなのか?」

「私だけです」

 ならば確認しない訳にはいかない。そう言われれば皐が腕時計をしていることに初めて気付いたなぁと普段の自分の無関心さに呆れながら、時間を確認するのに皐に見せてもらえるようお願いする。

「腕時計見せて」

「え? 良いですけれど……」

 急なことなので皐はもたつくが、すぐに手を差し出してくれた。

 針は……十二時三五分二秒を指している。

 な、なんだ? どこかでこういう体験をしたような気がするのだが?

「お前凄いな。どうやって分かったんだ」

 素直にミーザに訊くと、ミーザはどこか暗くなりながら自慢するような様子もなく答える。

「別に、時間を数えればその時間が頭の中でがっちり当てはまって、何も考えなくても分かるようになっただけですよ」

 その姿は、見たことがある影だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

アリシアの恋は終わったのです。

ことりちゃん
恋愛
昼休みの廊下で、アリシアはずっとずっと大好きだったマークから、いきなり頬を引っ叩かれた。 その瞬間、アリシアの恋は終わりを迎えた。 そこから長年の虚しい片想いに別れを告げ、新しい道へと歩き出すアリシア。 反対に、後になってアリシアの想いに触れ、遅すぎる行動に出るマーク。 案外吹っ切れて楽しく過ごす女子と、どうしようもなく後悔する残念な男子のお話です。 ーーーーー 12話で完結します。 よろしくお願いします(´∀`)

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

処理中です...