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ゆらゆらと揺れる九つの尾と共に内側から溢れ出てくる妖気が膨らんでいく。どこか一触即発のような空気にコラリー・ロジエが顔を真っ青にして慌てて間に入って止める。
「な、何を言っているのですか! 相手は神様なのですよ!? いくら大将様がお強くても、ダメです!! 絶対にダメですからね!!」
「おぬし、何を慌てておる。別に俺は力づくでどうにかしようとしているわけではないぞ」
勘違いでもしたのか俺が神に挑もうとしているとでも思ったのだろう。さすがに俺もそんな単純な方法はとるつもりは無い。
「長殿が言っておったが、神は気に入った魂をケダマにして地上に下ろし最弱の身からどのように生きるのかを見届けるのだそうだな」
俺の言葉にコクリと頷く神と呼ばれる存在はゆっくりとこちらに近づいて来る。それに焦ってアワアワとしているコラリー・ロジエについ笑いがこみ上げた。
こんな状況だというのに笑ってしまったのはコラリー・ロジエの焦る姿が面白かったのか、それともこれから俺がしようとしている事に自分自身で呆れたからなのかはわからない。ただ、コラリー・ロジエに任せておけば自分は助かったのかもしれないのに、馬鹿だとは思うがこれが俺なのだからしかたがないだろう。
「ならば対価は俺でもよいはずじゃ。世界を消さないでと願ったこやつの願いの対価を俺が請け負いコラリー・ロジエを世界に戻してやってくれ。これが俺の、最弱からここまで生き抜いたケダマからの願いじゃ」
ゆっくりと近づいて来ていた神は俺の前で止まり、間に入ろうとしたコラリー・ロジエと共にギュッと抱きしめてから一言「わかりました」と答えた。そして、すっと離すように俺達二人を後ろに軽く押し出したかと思えば、まるで吸い込まれれるように後ろへと強制的に引っ張られる。
「なんじゃこれは!? おい、神よこれは!!」
「ひやあぁっっ!!?」
倒れるかと思えばそのまま沈むように落ちていき、神のいたあの白い空間から遠ざかっていく。
「なにかかんちがいをしていますが、とくに“対価”がひつようなわけではないのですよ。でも、せっかくなのでいただいておきましょう。だいじょうぶ。そのぶんにみあったものをあなたにおくりますから」
は?どういう事じゃそれは。もしかして対価云々は俺達が勝手に勘違いしていただけなのか!?
「わ、わたし達二人で勝手に勘違いしてただけなのですかっ!?」
「そうですよ」
即答したぞあの神!しかもこれだけ離れているのに何故かいい笑顔が見えた気がするのは気のせいだと思いたい。
「きのせいではないですよ」
「いちいち答えんでもいいわ!!」
どんどんと下に落ちるにつれて俺の中から何かが抜けていくのを感じる。妖力が光の帯となり天に伸びているので、対価としてこれを差し出した事になるのかもしれない。同時に意識も薄れていき、最後には「いってらっしゃい。またあいましょう」という神の声が聞こえ、そこで完全に途切れた。
フワフワと風に揺れるような感覚に徐々に目が覚めていく。何か長い夢を見ていたような気がしたのだが、その内容もすぐには思い出せそうにもない。そして、完全に目が覚めれば俺は……。
「何故に空を浮遊しておるっ!!?」
青空を背景に浮遊、ではなく落下しているところだった。どうにかしようと手を動かしたのだがそれが目に映る事は無かった。代わりにモフモフの毛が視界の端に映り、今の俺がケダマの姿である事に気づく。
「キュエェーッ!!? いつの間にケダマ姿に戻っておったのだ。と、とにかく人型に戻ってどうにか……って、戻れんわぁっ!!」
これも対価のせいなのか?このままでは地面に叩きつけられるか、あの向こうからやって来る魔鳥の餌になるしかないぞ!!
ギェーッという耳障りな鳴き声をあげながら俺に一直線に向かって来る魔鳥は騒音鳥と呼ばれるその名のとおりに近所迷惑になりそうなくらいに五月蠅い大型の魔鳥だ。何とか尻尾が出せないか試してみるが一尾が出せたくらいでその先には何も起こせそうに無い。目の前にまで迫っていた騒音鳥は急に向きを変えていき、そんなに早く飛べたのかと思うくらいのスピードで逃げていった。
「何じゃ?」
同時に暗い影が覆い被さり、何か大切な宝物でも持つのかのように丁寧に掬い上げられた。先程までの身体に負担のかかる風は消え、心地よい柔らかな風が俺を守るように吹いている。
あぁ、随分と長い間離れていたような気がする。そうだ、あの白い空間に少しの間いただけだったはずなのに、別れてからもう数十年も経っているようなそんな懐かしさがこみ上げてくる。
「私の番様を襲うなど、許せませんわ!」
懐かしさだけではない。彼女の声を聞いて愛おしさがどんどん溢れ出てくるのだ。この気持ちをどう伝えればいいのだろうか。だが、まずは一番に言わねばならない事がある。
「ただいま、アーデルハイド。助けてくれてありがとう」
「おかえりなさいませ、妖様。どういたしまして、番として当然ですわ」
俺の声は震えていなかっただろうか。いつものように明るく答えてくれたアーデルハイドの声はどこか震えていた気もする。その声で、ようやく俺が望む彼女の元へ帰って来れたのだと実感した。
「な、何を言っているのですか! 相手は神様なのですよ!? いくら大将様がお強くても、ダメです!! 絶対にダメですからね!!」
「おぬし、何を慌てておる。別に俺は力づくでどうにかしようとしているわけではないぞ」
勘違いでもしたのか俺が神に挑もうとしているとでも思ったのだろう。さすがに俺もそんな単純な方法はとるつもりは無い。
「長殿が言っておったが、神は気に入った魂をケダマにして地上に下ろし最弱の身からどのように生きるのかを見届けるのだそうだな」
俺の言葉にコクリと頷く神と呼ばれる存在はゆっくりとこちらに近づいて来る。それに焦ってアワアワとしているコラリー・ロジエについ笑いがこみ上げた。
こんな状況だというのに笑ってしまったのはコラリー・ロジエの焦る姿が面白かったのか、それともこれから俺がしようとしている事に自分自身で呆れたからなのかはわからない。ただ、コラリー・ロジエに任せておけば自分は助かったのかもしれないのに、馬鹿だとは思うがこれが俺なのだからしかたがないだろう。
「ならば対価は俺でもよいはずじゃ。世界を消さないでと願ったこやつの願いの対価を俺が請け負いコラリー・ロジエを世界に戻してやってくれ。これが俺の、最弱からここまで生き抜いたケダマからの願いじゃ」
ゆっくりと近づいて来ていた神は俺の前で止まり、間に入ろうとしたコラリー・ロジエと共にギュッと抱きしめてから一言「わかりました」と答えた。そして、すっと離すように俺達二人を後ろに軽く押し出したかと思えば、まるで吸い込まれれるように後ろへと強制的に引っ張られる。
「なんじゃこれは!? おい、神よこれは!!」
「ひやあぁっっ!!?」
倒れるかと思えばそのまま沈むように落ちていき、神のいたあの白い空間から遠ざかっていく。
「なにかかんちがいをしていますが、とくに“対価”がひつようなわけではないのですよ。でも、せっかくなのでいただいておきましょう。だいじょうぶ。そのぶんにみあったものをあなたにおくりますから」
は?どういう事じゃそれは。もしかして対価云々は俺達が勝手に勘違いしていただけなのか!?
「わ、わたし達二人で勝手に勘違いしてただけなのですかっ!?」
「そうですよ」
即答したぞあの神!しかもこれだけ離れているのに何故かいい笑顔が見えた気がするのは気のせいだと思いたい。
「きのせいではないですよ」
「いちいち答えんでもいいわ!!」
どんどんと下に落ちるにつれて俺の中から何かが抜けていくのを感じる。妖力が光の帯となり天に伸びているので、対価としてこれを差し出した事になるのかもしれない。同時に意識も薄れていき、最後には「いってらっしゃい。またあいましょう」という神の声が聞こえ、そこで完全に途切れた。
フワフワと風に揺れるような感覚に徐々に目が覚めていく。何か長い夢を見ていたような気がしたのだが、その内容もすぐには思い出せそうにもない。そして、完全に目が覚めれば俺は……。
「何故に空を浮遊しておるっ!!?」
青空を背景に浮遊、ではなく落下しているところだった。どうにかしようと手を動かしたのだがそれが目に映る事は無かった。代わりにモフモフの毛が視界の端に映り、今の俺がケダマの姿である事に気づく。
「キュエェーッ!!? いつの間にケダマ姿に戻っておったのだ。と、とにかく人型に戻ってどうにか……って、戻れんわぁっ!!」
これも対価のせいなのか?このままでは地面に叩きつけられるか、あの向こうからやって来る魔鳥の餌になるしかないぞ!!
ギェーッという耳障りな鳴き声をあげながら俺に一直線に向かって来る魔鳥は騒音鳥と呼ばれるその名のとおりに近所迷惑になりそうなくらいに五月蠅い大型の魔鳥だ。何とか尻尾が出せないか試してみるが一尾が出せたくらいでその先には何も起こせそうに無い。目の前にまで迫っていた騒音鳥は急に向きを変えていき、そんなに早く飛べたのかと思うくらいのスピードで逃げていった。
「何じゃ?」
同時に暗い影が覆い被さり、何か大切な宝物でも持つのかのように丁寧に掬い上げられた。先程までの身体に負担のかかる風は消え、心地よい柔らかな風が俺を守るように吹いている。
あぁ、随分と長い間離れていたような気がする。そうだ、あの白い空間に少しの間いただけだったはずなのに、別れてからもう数十年も経っているようなそんな懐かしさがこみ上げてくる。
「私の番様を襲うなど、許せませんわ!」
懐かしさだけではない。彼女の声を聞いて愛おしさがどんどん溢れ出てくるのだ。この気持ちをどう伝えればいいのだろうか。だが、まずは一番に言わねばならない事がある。
「ただいま、アーデルハイド。助けてくれてありがとう」
「おかえりなさいませ、妖様。どういたしまして、番として当然ですわ」
俺の声は震えていなかっただろうか。いつものように明るく答えてくれたアーデルハイドの声はどこか震えていた気もする。その声で、ようやく俺が望む彼女の元へ帰って来れたのだと実感した。
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