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オータムパーティーはシャルルも言っていたように、実際にはそんな行事は無い。それはコラリー・ロジエが書き綴った物語の中にだけ存在するものだ。だから逆にこのパーティーを開く事にしたのだが、関係のない多くの生徒達まで巻き込むわけにはいかないので俺の術でそれらしく幻のようなものを見せていたにすぎない。今ここに参加している学園の生徒は俺とアーデルハイドとシャルルにアン殿だけで、あとはバオジイ達と長殿そしてシャルルとアン殿の護衛が数名いるくらいだろうか。
少しずつ種明かしをいていけばようやく理解ができたようで最後にはがっくりと頭を垂れている。
これでここが物語などではなく現実の世界であるという事に気づいてくれたのだろうか。それとも受け入れられずに何かしてくるのか……そう、まだあの板のような魔道具はこやつから回収できていないのだ。それに気になる事がひとつある。
「結局おぬしは何者なのじゃ? その身体の中にはもうひとつ別の魂が存在しているようだが……」
「妖様? それはいったいどういう事ですの?」
皆が不思議そうに俺の方を見ているのも無理はないか。一度だけこやつを俺の特殊な術で覗いた事がある。その時ははっきりとはわからなかったが今の俺ならそれも見えるかもしれない。
「若様、もしやあれをお使いになったのですかのう?」
「うむ、ミーツェがこやつの事を占いで見ようとしたがぼんやりと重なり合ってよく見えなんだと言っておったな。それで俺も試した事がある」
指を狐の形に組んでそこから覗けば対象者の本来の姿が見えるこの術は、本来は俺達が化けているのを見破るためにある人物が使っていた術だった。前世で出会った人間にしては変わっていたが面白い奴であったその人物を思い浮かべながら俺も同じようにこの「狐の窓」からコラリー・ロジエを覗いてみる。この小さな窓から見えたのは二人の人物で、座り込んで呆然としている見た事のない女の後ろに本来のコラリー・ロジエが立っていた。
「え!?」
誰かが上げた声に組んでいた指を戻せばそこには窓から見えたとおりに二人の人物がいる。気配を感じてか後ろを振り向いた女は立っている人物がコラリー・ロジエである事に気づいて化け物でも見たかのように悲鳴を上げた。
「な、なななんでワタクシが後ろに立っているのよ!? え、あれ? この声は……」
違和感に気づいて自分の手を見たり触ったりして確かめているが、すでに別人であると気づいたのか顔を真っ青にして震えている。まぁ、別人というよりはその姿が本来の自分自身なのだろう。この様子では俺達が気づかなかっただけで前世でも同じようにあの子供の中に入り込んでいたのかもしれない。今になってはそれももう確かめようがないのだがな。
「違う、違う、ちがう!! ワタクシはコラリー・ロジエよ。この物語の世界の主人公なの。ここはワタクシの物語の世界でワタクシが望むように進んでいくそんなワタクシのための世界なんだからっ!!」
いつの間にか取り出していた魔道具で何かをしている姿に警戒したが、どうやら何も起こらなかったようで「この役立たず!」と思いっきり床に叩きつけている。それはガツンと音を鳴らして床に転がっているのだが、この女はそれには見向きもせずにぶつぶつと不気味な様子で何かを呟いているだけだった。
手放したのなら丁度いいと思ってそれを拾おうと近づこうとしたが後ろからアーデルハイドに腕を掴まれて止められてしまう。
「妖様、あれに近づいてはいけませんわ!」
「アーデルハイドの言うとおりです。皆あれから離れてください!」
アーデルハイドだけではなく長殿までそんな事を言うものだから皆が離れるように距離を取る。シャルルとアン殿は護衛達に守られながらゆっくりと警戒するように下がって行ったのでそのままこの会場から出るよう指示をして、ここには俺達だけが残る事にした。
護衛を含めてシャルル達は十分離れた場所にいる事を気配で確認し、本来のコラリー・ロジエにもその女から離れるように促す。
「コラリー・ロジエ、おぬしもそこから離れよ! その女の様子がおかしい!」
俺の言葉に反応してコラリー・ロジエも離れるために少しずつ後ずさって行くが、女の高笑いに驚いて動きを止めてしまった。
「あははははははっ! なにそれ、なにそれ、なにそれ! みんなしてそれに驚いてるけどそれってただのスマホなんだけど! あははっ、おかしくてわらいがとまんない!!」
狂ったように高笑いを続ける女に何かが絡みつくように少しずつ溢れ出てくる黒い靄のようなそれは、おそらくだが負の感情が形になったものだ。這いずってそのスマホと呼んだそれに手を伸ばしギュッと握り締めたその女の顔はどこにも焦点の合っていない虚ろな目で、それさえも黒い靄に覆われて見えなくなっていく。
「これは、まさかこの女が言っておった呪いや穢れというやつか!?」
「若様! これに近づいてはなりませぬぞ! いくら若様といえど飲み込まれてしまいますじゃ!」
「だが、放っておけばこのまま大きく膨らんでいくぞ!」
「きゃっ!?」
離れきっていなかったコラリー・ロジエが飲み込まれそうになったが、そこはラッテが間一髪で助け出していた。
「ラッテよくやった!」
「ま、間に合った! 自分ナイス!!」
「あ、ありがとうございます!」
じりじりと下がりながらこのままにはしておけないこれを何とかするにはどうすべきか考えるも、そう簡単にはいい案は浮かんでこない。結界をはっても一時的に閉じ込める事はできるがそれもすぐに壊されてしまうだろう。それでも一時凌ぎで時間は稼げるのかもしれないが、今の俺の妖力でどこまで持つかはわからない。それでもやらないよりはいいだろうと残りの妖力を練るために最大限に振り絞ろうとすれば、すっと俺の前に出たアーデルハイドが「大丈夫ですわ」と安心させてくれるようなそんな微笑みを浮かべて静かに語った。
少しずつ種明かしをいていけばようやく理解ができたようで最後にはがっくりと頭を垂れている。
これでここが物語などではなく現実の世界であるという事に気づいてくれたのだろうか。それとも受け入れられずに何かしてくるのか……そう、まだあの板のような魔道具はこやつから回収できていないのだ。それに気になる事がひとつある。
「結局おぬしは何者なのじゃ? その身体の中にはもうひとつ別の魂が存在しているようだが……」
「妖様? それはいったいどういう事ですの?」
皆が不思議そうに俺の方を見ているのも無理はないか。一度だけこやつを俺の特殊な術で覗いた事がある。その時ははっきりとはわからなかったが今の俺ならそれも見えるかもしれない。
「若様、もしやあれをお使いになったのですかのう?」
「うむ、ミーツェがこやつの事を占いで見ようとしたがぼんやりと重なり合ってよく見えなんだと言っておったな。それで俺も試した事がある」
指を狐の形に組んでそこから覗けば対象者の本来の姿が見えるこの術は、本来は俺達が化けているのを見破るためにある人物が使っていた術だった。前世で出会った人間にしては変わっていたが面白い奴であったその人物を思い浮かべながら俺も同じようにこの「狐の窓」からコラリー・ロジエを覗いてみる。この小さな窓から見えたのは二人の人物で、座り込んで呆然としている見た事のない女の後ろに本来のコラリー・ロジエが立っていた。
「え!?」
誰かが上げた声に組んでいた指を戻せばそこには窓から見えたとおりに二人の人物がいる。気配を感じてか後ろを振り向いた女は立っている人物がコラリー・ロジエである事に気づいて化け物でも見たかのように悲鳴を上げた。
「な、なななんでワタクシが後ろに立っているのよ!? え、あれ? この声は……」
違和感に気づいて自分の手を見たり触ったりして確かめているが、すでに別人であると気づいたのか顔を真っ青にして震えている。まぁ、別人というよりはその姿が本来の自分自身なのだろう。この様子では俺達が気づかなかっただけで前世でも同じようにあの子供の中に入り込んでいたのかもしれない。今になってはそれももう確かめようがないのだがな。
「違う、違う、ちがう!! ワタクシはコラリー・ロジエよ。この物語の世界の主人公なの。ここはワタクシの物語の世界でワタクシが望むように進んでいくそんなワタクシのための世界なんだからっ!!」
いつの間にか取り出していた魔道具で何かをしている姿に警戒したが、どうやら何も起こらなかったようで「この役立たず!」と思いっきり床に叩きつけている。それはガツンと音を鳴らして床に転がっているのだが、この女はそれには見向きもせずにぶつぶつと不気味な様子で何かを呟いているだけだった。
手放したのなら丁度いいと思ってそれを拾おうと近づこうとしたが後ろからアーデルハイドに腕を掴まれて止められてしまう。
「妖様、あれに近づいてはいけませんわ!」
「アーデルハイドの言うとおりです。皆あれから離れてください!」
アーデルハイドだけではなく長殿までそんな事を言うものだから皆が離れるように距離を取る。シャルルとアン殿は護衛達に守られながらゆっくりと警戒するように下がって行ったのでそのままこの会場から出るよう指示をして、ここには俺達だけが残る事にした。
護衛を含めてシャルル達は十分離れた場所にいる事を気配で確認し、本来のコラリー・ロジエにもその女から離れるように促す。
「コラリー・ロジエ、おぬしもそこから離れよ! その女の様子がおかしい!」
俺の言葉に反応してコラリー・ロジエも離れるために少しずつ後ずさって行くが、女の高笑いに驚いて動きを止めてしまった。
「あははははははっ! なにそれ、なにそれ、なにそれ! みんなしてそれに驚いてるけどそれってただのスマホなんだけど! あははっ、おかしくてわらいがとまんない!!」
狂ったように高笑いを続ける女に何かが絡みつくように少しずつ溢れ出てくる黒い靄のようなそれは、おそらくだが負の感情が形になったものだ。這いずってそのスマホと呼んだそれに手を伸ばしギュッと握り締めたその女の顔はどこにも焦点の合っていない虚ろな目で、それさえも黒い靄に覆われて見えなくなっていく。
「これは、まさかこの女が言っておった呪いや穢れというやつか!?」
「若様! これに近づいてはなりませぬぞ! いくら若様といえど飲み込まれてしまいますじゃ!」
「だが、放っておけばこのまま大きく膨らんでいくぞ!」
「きゃっ!?」
離れきっていなかったコラリー・ロジエが飲み込まれそうになったが、そこはラッテが間一髪で助け出していた。
「ラッテよくやった!」
「ま、間に合った! 自分ナイス!!」
「あ、ありがとうございます!」
じりじりと下がりながらこのままにはしておけないこれを何とかするにはどうすべきか考えるも、そう簡単にはいい案は浮かんでこない。結界をはっても一時的に閉じ込める事はできるがそれもすぐに壊されてしまうだろう。それでも一時凌ぎで時間は稼げるのかもしれないが、今の俺の妖力でどこまで持つかはわからない。それでもやらないよりはいいだろうと残りの妖力を練るために最大限に振り絞ろうとすれば、すっと俺の前に出たアーデルハイドが「大丈夫ですわ」と安心させてくれるようなそんな微笑みを浮かべて静かに語った。
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