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 ラッテにより集められた情報を纏めていき、とりあえずわかっている事は問題児令嬢は前世で始末されたあの雌妖怪で、マティアス・ヴァイヤン侯爵令息の婚約者だが乙女ゲームの主人公になったつもりで俺とシャルルだけではなくジェレミー殿や見た目の良い男の事も狙っている。こちらは鬱陶しいが何か脅威となるわけでは無さそうなので後回しにして、もうひとりの要注意人物であるコラリー・ロジエについて考えなくてはならない。

「今宵も真夜中の妖怪会議というわけだが……何故にお前達まで参加しているのだ」
「むっ。水臭いではないかキツネ。俺様とイヌとおまえは旧知の仲だぞ」
「そうだぞ。我ら、三人で狐狗狸……コックリ三人衆だ」
「おい、今初めて聞いた名称じゃぞ」

 満足げに頷いているタヌキとイヌだがそんな三人衆になった覚えは無い。まぁ、旧知の仲というか腐れ縁というべきか、これもまた縁なのだろうな。

「もうそれについては聞くまい。で、おぬしらはきちんと飼い主達に伝えてきたのだろうな。またソフィ殿達の知らぬ所で動いて迷惑をかけるような事になれば……」
「だ、大丈夫だぞ! 今回はちゃんとここに来ると伝えておる」
「置手紙、しっかりと書き記してきた」

 こやつらは本当に反省をしていたのだろうか。こうなればさっさと話し合ってなるべく早めに帰らせるしかないな。

「コラリー・ロジエだがタヌキが言ったようにあの子供であったようだ。どうやらあの頃から何か企んでいたのか自分を物語の主人公と思い込んで行動している。これは問題児令嬢と同じじゃな」
「俺も監視していましたけど、あの薄い板みたいな魔道具で意のままに動かそうとしているみたいです」

 ラッテは鼠に変化して侵入し情報収集や監視をしているのだが、やはりあの魔道具で何かしている姿をよく見るそうだ。この魔道具については長殿にも聞いたがそういった魔道具の存在は知らないそうで、やはりそこまでいくと神の所業になると言っていた。長殿の見解ではおそらくコラリー・ロジエが言う自分で書き綴った物語とは、あやつが最初にいた世界と他の世界が干渉した影響から無意識に執筆したのではないかという事だ。他の世界とは俺の前世の世界や今いる世界の事である。板のような魔道具も影響下から形作られてしまった物とも考えられる。

 あんな薄い板のような魔道具ひとつで簡単にこの世界を消されるのも、あやつの気分のままにいいようにされるのも気に食わない。

「問題児令嬢をけしかけて何か事を起こそうとしているのであったか」
「コラリー・ロジエの言う物語では主人公とヒーローが穢れや呪いからラスボスになったキャラを浄化するそうです。問題児令嬢の言う乙女ゲームでもヒロインと結ばれたキャラの二人でそれをおこなうのでそこは共通してますね。で、そのラスボスキャラを問題児令嬢ことフェリシエンヌ・トリベールにさせようとしているみたいっす」
「あの小物臭がする小娘がラスボス? 無理じゃないか」
「我もそう思う」

 タヌキとイヌが言うように俺もそう思うが、あの魔道具でどうにかなってしまう可能性も捨てきれないので油断はできない。

「ホホホ。若様の男難の相は未だに消えないご様子。そのコラリー・ロジエのせいでもありましょうな」
「はぁ……あれから十年も経つというのに俺にはまだ男難の相が消えずにいたとは思わなんだ」

 最初はシャルルの件で出ているのだと思っていたが、どうやらコラリー・ロジエの件も絡んでくるようだ。

「あー……あいつ何でか知らないですけど女装してますもんね。前世でも女の子が着るような可愛い着物を着せられてましたから性別は女だと思ってましたよ」
「見た目だけでは判断できなかったですからのう。若様もワシも深く関りがあったあったわけではありませんでしたから、前世でも男であった可能性もありますじゃ」

個人的な趣味……いや、まわりがそのようにしてしまったのかもしれん。今は知らんが前世では世話係達が可愛がっていたそうだからあやつらの趣味だったという可能性もあるがその事はどうでもよい話だな。

「でも最初の世界での性別は女だったみたいっすね。男に転生しちゃったから物語の主人公になるために女のふりをしているのかもしれないです」

あやつの性別云々はともかく、あの怪しい魔道具をどうにかできないものか。





「また反映されない……」

 スマホで何度も書き直しているのにやっぱり現実に反映されない。それにこの世界でスマホを使うと何かが吸い取られていくような感覚がして身体が怠くなる。

「前世ではこんな事は無かったのに……」

 もしかして、あまりこのスマホを使わないほうがいいのかもしれない。でも、これがないと物語は修正できないのだからワタクシの物語を無事に完結させるためにも必要だ。
 ポイっとベッドにスマホ放り投げてそのまま倒れこんで天井の板の目をなんとなしに見つめていれば、頭の中に浮かぶのはあの方の優美な姿。

「あの方は今頃、何処で何をしているのかな?」

 あの方、そうこの物語のヒーローである白銀の狐獣人であるモフモフ様。最初に書いた小説のヒーローでもある白銀の九尾様が気に入っていたので、他の小説のヒーローもあの方と同じ設定にしたキャラを作った。本当の名前は別にあるのだがそれを知る事ができるのは主人公であるワタクシだけ。

「でも、小説内ではその名前を出さなかったんだよね」

 名前自体も決めていなかったので通称で呼んだりしているのだが、この世界ではモフモフ様と呼ばれていた。

「そのモフモフ様はやっぱりここでもモテるのかまわりに人がたくさんいて近づけない」

 あの目障りな女の方がワタクシより近づけているのが気に食わない!それ以上に気に食わないのはあの黒髪の女だ。黒竜の王女だか何だか知らないけどべったりとあの方にくっついている。でも、それならこっちにだって考えがある。

「アイツを使って排除してしまえばいいんだから簡単よ。自称悪役令嬢のフェリシエンヌをそそのかして罪もアイツに被せればいいんだから簡単ね」

 放り投げていたスマホに今後の展開を書き綴っていくが、きっと現実にそれが反映される事はないだろう。なら、これからの事はワタクシ自身で起こして進めていくしかない。

「どうやってフェリシエンヌを動かそうかな……」

 前世でも簡単に想像したとおりに操れたのだから今回もきっと上手くいくに決まっている。

「こういう時にアレが手に入れば簡単に済むのに……」

 物語の中で少しだけ出てくるアレを使えば、たとえ最強と言われている黒竜だろうが死に至る。でもそれを手に入れるのは容易ではないので別の手を考えないといけない。

 竜と言っても所詮は魔獣にすぎないのに、なんでこの世界では排除される対象ではないのだろう。ワタクシが作った物語の中ではただの魔獣として名前を出していただけだったもの、排除されるべき害獣などいなくなってもワタクシの世界なので問題ないはずだ。

「そもそも、この世界を作ったワタクシは神そのものなのだから何をしたっていいのよ」

 その権利がワタクシにはあるのだから要らないモノは全部消してしまえばいい。ここはワタクシの作ったワタクシが主人公のワタクシのためだけの世界なのだから。

 握っていた手の力が抜けてスマホが再びベッドに落ちていくのと同時に、瞼も閉じて暗闇の中に意識が沈んでいく。だから気付かなかった。怪しく光った画面に照らされたワタクシもまた何かに包まれるように光を帯びていた事など、ワタクシ自身も誰も気付かなかったのだ。

「……めて」

 ただ、意識が完全に闇に飲み込まれる前に小さく悲し気な誰かの声が聞こえた気がした。

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