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 ジェネロジテに行くのは黒竜親子に俺、バオジイにガイスト、そしてミーツェが同行したいと申し出た。新たな良い漢を探すためと意気込んでいるが前に目を付けていた漢とは上手くいかなかったのか、かれこれ何人もの漢と付き合い別れている。彼女はどうやら恋多き女のようである。
 いつものように黒竜に姿を変えた二人の背に乗って向かう事になる。前までは最高級鳥籠に入っていた俺も移動時に使う事も無くなり、今では寝床として使っているくらいだ。

「ホホホ。ジェネロジテの城には妾好みの筋骨隆々な漢はおるかのう。今から楽しみじゃ!」
「おぬし、そのためについて来たのか?」
「もちろん! と、言いきりたいところですが、少々気になる事がありまして同行を願ったのですぞ」

 キリっとした顔で私的な目的を言いきったかと思えば、少し困ったように眉を下げて何やら言いにくそうにしている。その気になる事もはっきりと言えばいいと伝えたがまだ確証がないとの事で教えてはくれなかった。彼女の占いで気になる何かがあったのかもしれない。
 城の裏にある森に降り立ち、近くにある離れへと進む。この国に来るときはいつもこのようにしていた。

「さて、私はこのままベルナール陛下の元へ向かうとして……そうですね。アーデルハイドと妖殿も共に参りましょうか」
「シャルル殿下にも会わねばなりませんものね」
「俺もベルナール殿に挨拶をせんとな」

 バオジイ、ガイストは離れで留守番をし、ミーツェは気になる事を確かめるためについて来ると言う。騎士に応接間へ案内され、そこにはすでにベルナール殿と妃殿が待っていた。

「ギルベルト陛下、アーデルハイド王女殿下そして妖殿、お久しぶりで御座います。そちらのご令嬢は初めましてですね。この度はこちらの我儘に付き合わせる事となり申し訳ございません」
「かまいませんよ。お二方もご健勝のようで何よりです。それで、シャルル王子殿下の事ですが……」

 それぞれが簡単に挨拶をしてから長殿に簡単に聞いていた事をベルナール殿からも説明された。話を聞く限りではアーデルハイドの事を指しているようだがそれでも赤子の時にしか会っていないのにどこで彼女を見たと言うのか。

「王子殿下達にお会いしてませんがこちらには何回か遊びに来てましたものね。その時に見かけたのかしら? でもお茶会の日にはお邪魔しておりませんわよ」
「えぇ、だからあの子の勘違いだろうと言っているのですが何度説明しても納得がいかないみたいなのです。よほどその令嬢の事を気に入ったのでしょう。できればその令嬢を見つけ出してあげたいものです」

 親として息子の願いを叶えてあげたいという気持ちは伝わるが、果たしてその令嬢は見つかるのかどうなのか。

「失礼いたします。陛下、シャルル王子殿下がお見えになりました」
「わかった通してくれ」
「父上!」

 ベルナール殿が許可を出した途端に勢いよく部屋に入って来たのだが、隣に何か余計なものをくっ付けている。

「ちょっと待て小僧。おぬし何をくっ付けておる!」
「妖殿? 何をおっしゃって……」
「隣にいるその黒髪の令嬢はどちら様かしら?」

 ベルナール殿達には見えていないようだが、アーデルハイドが言うように黒髪の少女を横にくっ付けて一緒に入って来たのだ。あまり良い気配では無かったので俺達は警戒するようにベルナール殿達に近づかないように前に立ち塞がるが、部屋に入って来るまでその気配に気づかなかったとは不覚。

「な、なんだお前達は!? あ、そんな事より父上、紹介しますね。こちらが前にも言いましたがアデールです。僕が結婚したい女の子ですよ!」
「シャルル、いったい何を言って……」

 今アデールと言いおったぞこの小僧。アーデルハイドではなかったのか?まぁ、名前は似ているので間違えていただけかもしれんが。それよりも!

「アデールと言ったかそこの女。早う小僧から離れよ。さもなくば消し炭にしてやろうか」
「は、えっ? け、毛玉がしゃべったぁぁ!!?」
「うっさいわ! 小僧もいいからその女から離れぬか!」

 ケダマが喋って何が悪い!毎回驚かれるがそのくだりには飽き飽きだ。小僧の隣でピタッとくっ付いている女は白い顔をニンマリと歪めて楽しそうに喋りだす。

「あら、こんなにたくさんの者に見つかっちゃうなんて失敗しちゃったわ。でも残念。もうこの子はわたしのモノ。誰にもあげない。この子はもうすぐ死んじゃうの。だからわたしが迎えにきたのよ」

 緑のドレスの上に灰色のマントを纏った女はその燃えるような赤い目から涙を流しながら不気味な顔に笑みを浮かべ、きゃらきゃらとはしゃいでいる。

「何を言っているんだいアデール? ぼ、僕が死ぬってどういう事?」
「なるほど、あなたはバンシーの一種ですね」
「あら、ばれちゃった。でもそんな事はどうでもいいのよ。わたしはこの子を気に入ったの。でも黒竜さまがいるなんて想定外。だからそうね、もしこの子が十八歳まで生きていられたら解放してあげる」

 長殿がバンシーと言ったあの女は黒竜親子を見て冷や汗をかいて少し焦っているようだ。小僧の頬に口づけて「時がきたら迎えにくるわね」と言い残してそのまま静かに消えていったが、それは一瞬の事で誰も反応ができなかった。

「逃がしてしまったか」

 何もできなかったのが悔しくてついそうこぼしてしまう。何が起こっているのかわかっていないベルナール殿達に説明をするために長殿はとりあえずもう一度座ろうと彼らを促す。妃殿が驚いて固まっていた小僧をこちらに呼び寄せたので、先程起きた事を噛み砕いて説明を始めた。

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