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第11話 私が何かをしでかしたような言い方は心外です
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ユーリが私に呪いのような魔術を施した本人ですか? それは難しいのではないのでしょうか?
「ユーリは、魔術は一切使えません。正確には簡単な光と水を出すという魔術しか使えません」
そうなのです。高位貴族と下位貴族の間に絶対的な魔力の差がありますが、下位貴族と一般庶民の間にも格差は存在します。
一般庶民は火を出すとか光をともすという簡単な魔術しか使えません。
「ですから『錮雪の眠り』という術は使えません」
私は断言できます。『錮雪の眠り』の術の内容は呪いに近いものです。そんな複雑な魔術をユーリは使うことはできないでしょう。
「いいや、イリアを皇都から出したヤツということだ」
「それは可能でしょう」
ユーリは私の侍女のような役目をしてもらっています。正確にはほぼしてませんが、対外的に付き人が必要な場合にはついてきてもらっています。
ジェイドの婚約者に付き人が居ないというのは、色々問題ですから。
そのユーリが私に何かの薬品で眠らせて両手を縛って、猿ぐつわして目隠しができるかといえば、できるでしょう。
「ふん! あいつらは知らぬ存ぜぬと言っていたが、ちょっと脅せば、直ぐに吐いたな」
ジェイドのちょっとは、ちょっとではないと思います。
しかし目隠しまでは必要だったのかと思っていましたが、私のランドヴァランの瞳のことを警戒していたのでしたら、理解もできます。
ええ、ユーリは私の魔眼で怪我をしたとか言って、良く腕に包帯を巻いていたりしていましたから。
恐らく、ランドヴァランの魔眼がどういう能力を持っているか知らなかったのでしょう。
私の魔眼は操る系で、攻撃系ではありません。操る対象物がない箱の中では無意味でしたわね。
「イリアに『錮雪の眠り』という術を使ったのは、トランディーラ侯爵令嬢だ。流石に今回は見逃せないから、侯爵の処分と令嬢に命じた第三側妃に罰を与えた」
……トランディーラ侯爵令嬢? え? トランディーラ侯爵令嬢なのですか? あのお茶会で偶然を装ってジェイドの婚約者に充てがわれようとして、結局ジェイドが私を自分の婚約者にねじ込む舞台装置に使われてしまった、トランディーラ侯爵令嬢?
それでトランディーラ侯爵を処分ってどう処分したのですか? あとここで第三側妃様が出てくるのですか……。色々複雑過ぎませんか?
「あの……どうしてこうも複雑なのでしょう?」
「イリア。イリアはもっと怒っていいのだぞ? 殺されかけたのだから。」
「うーん? 眠っていただけですので、自覚が無いというのもありますが、今回の状況はジェイドの時と同じということですよね? そう考えると色々辻褄が合わないと思うのです。ジェイドは皇帝に成る意志を十一年前に放棄しました。私を狙う意味がありますか?」
これはまるでジェイドを皇帝に押し上げ、私を排除し、私の代わりをあてがう為のサルヴァール子爵令嬢行方不明事件です。
いいえ、これ別の方法を用いれば私は何も疑問にも思わなかったでしょう。しかし私が知らず、ジェイドも知らなかった術式を使って、行方不明に仕立てたという共通点がどうも引っかかるのです。
この裏にいる人物は同一人物なのではと。
それも皇族の近くにいる人物です。何故なら、ジェイドの離宮は皇城内でも奥まったところにあり、許可が無い者はここにたどり着くこともできないのですから。
「ジェイド殿下がたどり着くのに半日要した答えが、直ぐにわかったようですね。お嬢様のいいところは思考の柔軟さですね」
「なんかラグザから褒められた! 明日は雪が降るかも!」
「その言葉遣いが乱れるところは直りませんが」
失礼しましたわ。
金髪碧眼に向って信じられないと言葉にしていますと、突然ジェイドの方に引き寄せられました。それも顔の向きをジェイド方に向けさせられ、圧死する勢いでです。
ちょっと苦しいですわ。
「俺が褒めようとしていたのに、先に言うな!」
「失礼しました。殿下。もう落ち着かれたご様子ですので、そろそろ準備を始めませんと、晩餐に遅れてしまいます」
「ああ」
晩餐ですか?
私は疑問に思いながら下からジェイドを窺い見ます。
くっ……私より長い睫毛にムカつく。
と、思っていますと、紫紺の瞳と視線が合いました。何でしょうか?
すると美人と言っていい顔が近づいてきましたので、思わず身体を引こうとしましたが、ジェイドに抱えられているので、これ以上は下がりません。
内心、慌てていますと唇にふにっとした触感が!!
「イリアが俺のイリアだと見せしめに行こうか」
晩餐に参加するのではっと言いたいのと、不意打ちのようにキスされたこととで、私は口を両手で押さえることしかできません。
「可愛いな。イリアは……さて、準備をしようか」
どうもこの時間はジェイドの精神安定の時間だったようです。
そこの執事が準備が万全ですとか言いながら、この殺風景な部屋のどこが万全なのかと内心思っていたところでした。
私を抱えたまま立ち上がったジェイドに慌てて尋ねます。
「ジェイド様。その晩餐に私は出なくて良いですよね」
「何を言っているイリアも出席する」
その言葉に私は気が遠くなります。晩餐。晩餐……ばんさん……
「お腹が痛くなってきましたので、私は欠席でお願いします」
「イリア。今まで避けていたが、少しずつ慣れていってくれればいい」
晩餐。年に数回だけ出席する皇族の方々との会食。これがとてつもなく苦手なのです。
別に毒が混入しているとか、嫌がらせのように虫入りスープが出されるというわけではありません。
何が駄目か。
料理の味付けが合わない。それだけです。
ええ、ベッチャベチャの油まみれの揚げ物とか。ゴムのように噛み切れない肉の塊とか。そのソースがこれまた油ギッシュとか。口直しとして出される甘味が激甘だとか。
絶対に毎日食べ続ければ早死するだろうというメニューなのです。因みにこの離宮のシェフ共は味覚矯正をしました。
口直しはさっぱり系のシャーベットにしろと。
まぁ、私が料理に色々口出しをしたので、この離宮の料理は美味しくいただいています。
ですが、晩餐が行われるのは皇城の本城。私がとやかく言うことができない場所なのです。
「因みに主催はジェイド殿下ですので、イリアお嬢様がビシバシ鍛えた者たちが作った料理になります」
「あっ。それなら出席します」
何処かに移動しているジェイドの背後からラグザが補足を入れてくれました。思わず返答してしまいましたが、ジェイドが主催とは、いったいどういうことなのでしょう?
そして、私はくっそ恥ずかしいドレスを着ています。それも普通では許されない色のドレスです。
紫の生地をベースに銀糸で刺繍が細かく施されています。光の具合では銀のドレスに見えなくもないでしょう。
ここまではいいのです。ドレスの形がどうみても十歳ぐらいの令嬢が着るものにしか見えません。
襟首が詰まっていて、袖がふんわりと手先にいくほど広がっています。胸の辺りで切り替えがあり、コルセットムカつくと言っていた私の要望も叶えられている形になっています。
が! ドレスの裾が何故に膝丈なのですか。それも足元はパンプスではなく、編み上げブーツ。
ゴスロリですか!
私はおそらくこのデザインでいいと了承した人物を見下ろします。
その人物は早々に準備が終わったのでしょう。ローテーブルとソファーしかない空間で、優雅にソファーにすわって一人お茶を嗜んでいました。
「ジェイド様。このドレスで行けと私に言うのですか?」
本来であれば、ドレスを贈ってくれたことへの感謝を述べるところですが、それよりも子供っぽいドレスに私はイラッときました。ただでさえ小さくて子供扱いされるのに、これではまるで十歳の令嬢ではないですか!
「とても似合っていますよ。イリア」
皇子様モードで返答が返ってきました。
その皇子様モードのジェイドは黒地の軍服に似せた衣服で、金糸の刺繍が目を引きます。
見た目はいつも軍服を着ているのでさほど変わりません。が、落ち着いた雰囲気を醸しているので、皇子そのものです。いいえ、ジェイドは皇子ですけど、普段が普段なので、正装したときのギャップが酷いです。
一瞬、ドキッとしましたが、それよりも言いたいことは言わないといけません。
「この子供っぽいドレスは何ですか! 晩餐に出席する格好ではないですわ!」
そして、頭の上を差します。
「それに、このヘッドドレス。ほぼ頭が覆われてて、誰っていう感じになっています」
このヘッドドレスを晩餐でつけていくのはアウトではないかと言うぐらい、私の頭は紫の布に覆われています。
紫のレースのヘッドドレス自体には、ほぼ問題ありません。だた、それと一体型になっているベールが私の視界の邪魔をしているのです。
いわゆる顔の半分がベールに覆われており、口元は見えているという怪しい人物になっているのです。
「それはまだここにイリアは居ないことになっていますからね。今日は全ての皇族を呼びつけているので、子供っぽいイリアでも問題ありません」
「は? 全ての皇族? 今の皇帝陛下から三親等と定義されている皇族を全てってどういうこと!」
皇族というのは、皇帝陛下の御子だけではありません。先代の皇帝陛下に繋がる現皇帝陛下の御兄弟。先代皇帝陛下の御兄弟など、現皇帝陛下を基準にして三親等までは皇位継承権が男児に与えられると決められているのです。
そして、その方々の伴侶の方も皇族に定義されるのです。
そんな方々の前でこのような子供っぽいドレスを着て行くなんて、羞恥心で逃げ出したい衝動にかられています。
「それは勿論、私が皇太子となることを宣言するためですよ」
ジェイドの言葉に一瞬呆然としてしまいましたが、確かにそのようなことを先程言っておりました。
しかし、それには色々問題があります。
「そもそも皇帝陛下にはどのように言っているのですか」
「父上は元から私を皇帝にしたかったので、二つ返事をいただけましたよ」
ぐっ! 確かにそうでした。皇帝陛下は第一皇子という理由だけではなく、ジェイドを跡継ぎにしたい意向を示していました。
「今の皇太子殿下であるアルベルト様はどうするのです」
「だから、刺したと言ったではありませんか」
「どこを!」
「左肩を骨ごと粉砕しておきました」
「骨!」
粉砕ってことは、元の状態に戻らない可能性の方が高いです。もしかして、皇帝になる条件に五体満足とかいう条件でもあるのですか?
あとで謝罪に行くときに治しておきましょう。
「そもそも私は子爵令嬢ですので、ジェイド様が皇帝になっても支える立場にはなれません」
先ほどジェイドは私以外を娶るつもりはないということは、皇妃が存在しない皇帝になってしまいます。
「そこも解決済みですよ。イリアは色々ヤッてくれましたから」
「私が何かをしでかしたような言い方をしないでもらえますか?」
「色々しでかしていますよ」
「……それは無い。ジェイドから常識を教えてもらってからは、おかしな行動はとってないはず」
空を飛んだり、転移をするということは、人前ではしていない。だから大丈夫なはず。
すると揃ったように二つのため息が聞こえてきました。
え? 私はそんなおかしなことをしていましたか?
「あの? ジェイド様。私は何をしでかしてました?」
「大丈夫ですよ。さて、行きましょうか」
そう言って皇子っぽいジェイドが立ち上がって私に手を差し出してきました。
はぁ、私はいったい何をしでかしてしまったのでしょう。
大広間と言っていい空間に、煌々と明かりが満ち溢れ、耳障りの良い生演奏が響き渡っています。
ここは皇城の一角にある青鳥の間です。この間の用途は主に皇族の方々が集まって催し物をするために解放される部屋になります。
例えば、今回のように晩餐でしたり、皇族の方の為の観劇やコンサートなどです。
ですから、室内がとてもきらびやかであり、重厚感ある装飾品に彩られ、全体的に紫紺の色で統一されています。
そう皇族の方の瞳の色である紫紺の色です。
そして私は皇族が集まっているとても長いテーブルの一番下座に座っています。
ええ、ジェイドの婚約者という立場ではなく、末端の皇族という扱いです。
そこに皇帝陛下と皇妃様が青鳥の間に入ってこられました。
あれから十年は経ちましたので、皇帝陛下はイケオジ……あまり変わっておられません。
紫紺のマントが印象的な紺地に銀の刺繍がされてある品のいい衣服をまとった皇帝陛下は、全てを凍りつかせるような冷たい眼差しで、ここに集まってきた者たちを見ています。その表情には何も浮かんでいませんので、何を思っているのかは汲み取ることはできません。
まだ、色々問題を起こすジェイドの方が表情が豊かなような気がします。
そしてそのお隣にはピンクゴールドの髪を高く結い、小さな宝石でも散りばめたかのような紐でまとめています。白地にシャンパンゴールドを合わせた露出度が高いドレスを着ていらっしゃるのは皇妃のエマプリエール様です。ちょっと目が痛いぐらいにキラキラしています。
ジェイドが主催と言っていましたが、皇帝陛下よりこの国では上に立つものはいませんので、陛下が晩餐の乾杯の言葉を述べるようです。
皇帝陛下がいつも座られる場所までこられますと、皆様が一斉に立ち上がります。そして背後から乾杯のためのお酒が配られていきます。
あの……この国では十六歳からお酒が飲めるはずなのですが、なぜ私は果汁水なのでしょうか?
「ユーリは、魔術は一切使えません。正確には簡単な光と水を出すという魔術しか使えません」
そうなのです。高位貴族と下位貴族の間に絶対的な魔力の差がありますが、下位貴族と一般庶民の間にも格差は存在します。
一般庶民は火を出すとか光をともすという簡単な魔術しか使えません。
「ですから『錮雪の眠り』という術は使えません」
私は断言できます。『錮雪の眠り』の術の内容は呪いに近いものです。そんな複雑な魔術をユーリは使うことはできないでしょう。
「いいや、イリアを皇都から出したヤツということだ」
「それは可能でしょう」
ユーリは私の侍女のような役目をしてもらっています。正確にはほぼしてませんが、対外的に付き人が必要な場合にはついてきてもらっています。
ジェイドの婚約者に付き人が居ないというのは、色々問題ですから。
そのユーリが私に何かの薬品で眠らせて両手を縛って、猿ぐつわして目隠しができるかといえば、できるでしょう。
「ふん! あいつらは知らぬ存ぜぬと言っていたが、ちょっと脅せば、直ぐに吐いたな」
ジェイドのちょっとは、ちょっとではないと思います。
しかし目隠しまでは必要だったのかと思っていましたが、私のランドヴァランの瞳のことを警戒していたのでしたら、理解もできます。
ええ、ユーリは私の魔眼で怪我をしたとか言って、良く腕に包帯を巻いていたりしていましたから。
恐らく、ランドヴァランの魔眼がどういう能力を持っているか知らなかったのでしょう。
私の魔眼は操る系で、攻撃系ではありません。操る対象物がない箱の中では無意味でしたわね。
「イリアに『錮雪の眠り』という術を使ったのは、トランディーラ侯爵令嬢だ。流石に今回は見逃せないから、侯爵の処分と令嬢に命じた第三側妃に罰を与えた」
……トランディーラ侯爵令嬢? え? トランディーラ侯爵令嬢なのですか? あのお茶会で偶然を装ってジェイドの婚約者に充てがわれようとして、結局ジェイドが私を自分の婚約者にねじ込む舞台装置に使われてしまった、トランディーラ侯爵令嬢?
それでトランディーラ侯爵を処分ってどう処分したのですか? あとここで第三側妃様が出てくるのですか……。色々複雑過ぎませんか?
「あの……どうしてこうも複雑なのでしょう?」
「イリア。イリアはもっと怒っていいのだぞ? 殺されかけたのだから。」
「うーん? 眠っていただけですので、自覚が無いというのもありますが、今回の状況はジェイドの時と同じということですよね? そう考えると色々辻褄が合わないと思うのです。ジェイドは皇帝に成る意志を十一年前に放棄しました。私を狙う意味がありますか?」
これはまるでジェイドを皇帝に押し上げ、私を排除し、私の代わりをあてがう為のサルヴァール子爵令嬢行方不明事件です。
いいえ、これ別の方法を用いれば私は何も疑問にも思わなかったでしょう。しかし私が知らず、ジェイドも知らなかった術式を使って、行方不明に仕立てたという共通点がどうも引っかかるのです。
この裏にいる人物は同一人物なのではと。
それも皇族の近くにいる人物です。何故なら、ジェイドの離宮は皇城内でも奥まったところにあり、許可が無い者はここにたどり着くこともできないのですから。
「ジェイド殿下がたどり着くのに半日要した答えが、直ぐにわかったようですね。お嬢様のいいところは思考の柔軟さですね」
「なんかラグザから褒められた! 明日は雪が降るかも!」
「その言葉遣いが乱れるところは直りませんが」
失礼しましたわ。
金髪碧眼に向って信じられないと言葉にしていますと、突然ジェイドの方に引き寄せられました。それも顔の向きをジェイド方に向けさせられ、圧死する勢いでです。
ちょっと苦しいですわ。
「俺が褒めようとしていたのに、先に言うな!」
「失礼しました。殿下。もう落ち着かれたご様子ですので、そろそろ準備を始めませんと、晩餐に遅れてしまいます」
「ああ」
晩餐ですか?
私は疑問に思いながら下からジェイドを窺い見ます。
くっ……私より長い睫毛にムカつく。
と、思っていますと、紫紺の瞳と視線が合いました。何でしょうか?
すると美人と言っていい顔が近づいてきましたので、思わず身体を引こうとしましたが、ジェイドに抱えられているので、これ以上は下がりません。
内心、慌てていますと唇にふにっとした触感が!!
「イリアが俺のイリアだと見せしめに行こうか」
晩餐に参加するのではっと言いたいのと、不意打ちのようにキスされたこととで、私は口を両手で押さえることしかできません。
「可愛いな。イリアは……さて、準備をしようか」
どうもこの時間はジェイドの精神安定の時間だったようです。
そこの執事が準備が万全ですとか言いながら、この殺風景な部屋のどこが万全なのかと内心思っていたところでした。
私を抱えたまま立ち上がったジェイドに慌てて尋ねます。
「ジェイド様。その晩餐に私は出なくて良いですよね」
「何を言っているイリアも出席する」
その言葉に私は気が遠くなります。晩餐。晩餐……ばんさん……
「お腹が痛くなってきましたので、私は欠席でお願いします」
「イリア。今まで避けていたが、少しずつ慣れていってくれればいい」
晩餐。年に数回だけ出席する皇族の方々との会食。これがとてつもなく苦手なのです。
別に毒が混入しているとか、嫌がらせのように虫入りスープが出されるというわけではありません。
何が駄目か。
料理の味付けが合わない。それだけです。
ええ、ベッチャベチャの油まみれの揚げ物とか。ゴムのように噛み切れない肉の塊とか。そのソースがこれまた油ギッシュとか。口直しとして出される甘味が激甘だとか。
絶対に毎日食べ続ければ早死するだろうというメニューなのです。因みにこの離宮のシェフ共は味覚矯正をしました。
口直しはさっぱり系のシャーベットにしろと。
まぁ、私が料理に色々口出しをしたので、この離宮の料理は美味しくいただいています。
ですが、晩餐が行われるのは皇城の本城。私がとやかく言うことができない場所なのです。
「因みに主催はジェイド殿下ですので、イリアお嬢様がビシバシ鍛えた者たちが作った料理になります」
「あっ。それなら出席します」
何処かに移動しているジェイドの背後からラグザが補足を入れてくれました。思わず返答してしまいましたが、ジェイドが主催とは、いったいどういうことなのでしょう?
そして、私はくっそ恥ずかしいドレスを着ています。それも普通では許されない色のドレスです。
紫の生地をベースに銀糸で刺繍が細かく施されています。光の具合では銀のドレスに見えなくもないでしょう。
ここまではいいのです。ドレスの形がどうみても十歳ぐらいの令嬢が着るものにしか見えません。
襟首が詰まっていて、袖がふんわりと手先にいくほど広がっています。胸の辺りで切り替えがあり、コルセットムカつくと言っていた私の要望も叶えられている形になっています。
が! ドレスの裾が何故に膝丈なのですか。それも足元はパンプスではなく、編み上げブーツ。
ゴスロリですか!
私はおそらくこのデザインでいいと了承した人物を見下ろします。
その人物は早々に準備が終わったのでしょう。ローテーブルとソファーしかない空間で、優雅にソファーにすわって一人お茶を嗜んでいました。
「ジェイド様。このドレスで行けと私に言うのですか?」
本来であれば、ドレスを贈ってくれたことへの感謝を述べるところですが、それよりも子供っぽいドレスに私はイラッときました。ただでさえ小さくて子供扱いされるのに、これではまるで十歳の令嬢ではないですか!
「とても似合っていますよ。イリア」
皇子様モードで返答が返ってきました。
その皇子様モードのジェイドは黒地の軍服に似せた衣服で、金糸の刺繍が目を引きます。
見た目はいつも軍服を着ているのでさほど変わりません。が、落ち着いた雰囲気を醸しているので、皇子そのものです。いいえ、ジェイドは皇子ですけど、普段が普段なので、正装したときのギャップが酷いです。
一瞬、ドキッとしましたが、それよりも言いたいことは言わないといけません。
「この子供っぽいドレスは何ですか! 晩餐に出席する格好ではないですわ!」
そして、頭の上を差します。
「それに、このヘッドドレス。ほぼ頭が覆われてて、誰っていう感じになっています」
このヘッドドレスを晩餐でつけていくのはアウトではないかと言うぐらい、私の頭は紫の布に覆われています。
紫のレースのヘッドドレス自体には、ほぼ問題ありません。だた、それと一体型になっているベールが私の視界の邪魔をしているのです。
いわゆる顔の半分がベールに覆われており、口元は見えているという怪しい人物になっているのです。
「それはまだここにイリアは居ないことになっていますからね。今日は全ての皇族を呼びつけているので、子供っぽいイリアでも問題ありません」
「は? 全ての皇族? 今の皇帝陛下から三親等と定義されている皇族を全てってどういうこと!」
皇族というのは、皇帝陛下の御子だけではありません。先代の皇帝陛下に繋がる現皇帝陛下の御兄弟。先代皇帝陛下の御兄弟など、現皇帝陛下を基準にして三親等までは皇位継承権が男児に与えられると決められているのです。
そして、その方々の伴侶の方も皇族に定義されるのです。
そんな方々の前でこのような子供っぽいドレスを着て行くなんて、羞恥心で逃げ出したい衝動にかられています。
「それは勿論、私が皇太子となることを宣言するためですよ」
ジェイドの言葉に一瞬呆然としてしまいましたが、確かにそのようなことを先程言っておりました。
しかし、それには色々問題があります。
「そもそも皇帝陛下にはどのように言っているのですか」
「父上は元から私を皇帝にしたかったので、二つ返事をいただけましたよ」
ぐっ! 確かにそうでした。皇帝陛下は第一皇子という理由だけではなく、ジェイドを跡継ぎにしたい意向を示していました。
「今の皇太子殿下であるアルベルト様はどうするのです」
「だから、刺したと言ったではありませんか」
「どこを!」
「左肩を骨ごと粉砕しておきました」
「骨!」
粉砕ってことは、元の状態に戻らない可能性の方が高いです。もしかして、皇帝になる条件に五体満足とかいう条件でもあるのですか?
あとで謝罪に行くときに治しておきましょう。
「そもそも私は子爵令嬢ですので、ジェイド様が皇帝になっても支える立場にはなれません」
先ほどジェイドは私以外を娶るつもりはないということは、皇妃が存在しない皇帝になってしまいます。
「そこも解決済みですよ。イリアは色々ヤッてくれましたから」
「私が何かをしでかしたような言い方をしないでもらえますか?」
「色々しでかしていますよ」
「……それは無い。ジェイドから常識を教えてもらってからは、おかしな行動はとってないはず」
空を飛んだり、転移をするということは、人前ではしていない。だから大丈夫なはず。
すると揃ったように二つのため息が聞こえてきました。
え? 私はそんなおかしなことをしていましたか?
「あの? ジェイド様。私は何をしでかしてました?」
「大丈夫ですよ。さて、行きましょうか」
そう言って皇子っぽいジェイドが立ち上がって私に手を差し出してきました。
はぁ、私はいったい何をしでかしてしまったのでしょう。
大広間と言っていい空間に、煌々と明かりが満ち溢れ、耳障りの良い生演奏が響き渡っています。
ここは皇城の一角にある青鳥の間です。この間の用途は主に皇族の方々が集まって催し物をするために解放される部屋になります。
例えば、今回のように晩餐でしたり、皇族の方の為の観劇やコンサートなどです。
ですから、室内がとてもきらびやかであり、重厚感ある装飾品に彩られ、全体的に紫紺の色で統一されています。
そう皇族の方の瞳の色である紫紺の色です。
そして私は皇族が集まっているとても長いテーブルの一番下座に座っています。
ええ、ジェイドの婚約者という立場ではなく、末端の皇族という扱いです。
そこに皇帝陛下と皇妃様が青鳥の間に入ってこられました。
あれから十年は経ちましたので、皇帝陛下はイケオジ……あまり変わっておられません。
紫紺のマントが印象的な紺地に銀の刺繍がされてある品のいい衣服をまとった皇帝陛下は、全てを凍りつかせるような冷たい眼差しで、ここに集まってきた者たちを見ています。その表情には何も浮かんでいませんので、何を思っているのかは汲み取ることはできません。
まだ、色々問題を起こすジェイドの方が表情が豊かなような気がします。
そしてそのお隣にはピンクゴールドの髪を高く結い、小さな宝石でも散りばめたかのような紐でまとめています。白地にシャンパンゴールドを合わせた露出度が高いドレスを着ていらっしゃるのは皇妃のエマプリエール様です。ちょっと目が痛いぐらいにキラキラしています。
ジェイドが主催と言っていましたが、皇帝陛下よりこの国では上に立つものはいませんので、陛下が晩餐の乾杯の言葉を述べるようです。
皇帝陛下がいつも座られる場所までこられますと、皆様が一斉に立ち上がります。そして背後から乾杯のためのお酒が配られていきます。
あの……この国では十六歳からお酒が飲めるはずなのですが、なぜ私は果汁水なのでしょうか?
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