上 下
21 / 31

20話 災難って言葉で済むのか?

しおりを挟む
 なんだ。あれは。あんなもの見たことなんてない。私はシエンに抱えられ、首が無い鎧に追いかけられている。そして、その後ろから多種多様な鎧が追いかけてくる。すっごく怖い。これはホラー映画かっていうぐらい怖い。
 それにメチャクチャ速い。鎧ってこんなに速く動けるのか?私が身体強化しても出せない速さだ。いや、中身がないから人の可動域は関係がないのか。
 しかし、龍人ともなると、人を一人抱えても後ろの鎧共と変わらないスピードがだせるものなんだな。
 この先に分かれ道が見えてきた。真っ直ぐだと今の大きさの道が続いてそうだが、右側の道は一回り狭そうだ。

「シエン。そこの分かれ道を右に曲がれ。」

 シエンが右に曲がったところで、土壁で道を塞ぐ。

「『土の障壁!』」

 向こう側からガンガンと音がしているが、これで少しは時間稼ぎができるだろう。と思っていたら、塞いだところではない壁が崩れ、今度は首が3つある犬が出てきた。
 うん。これは知っているぞ。ケルベロスだ。って何で地獄の番犬と言われているケルベロスが王都の地下にいるんだよ。

 なんか口から青い炎が漏れているんですけど?

「シエン。こんな狭いところで戦えないから、逃げろ。」

 こんなに狭い洞窟で、魔術で攻撃しようものなら、下手したら洞窟が壊れ生き埋めになってしまう。

「無理だ。挟まれている。」

 何!先程まで何もいなかった進行方向に洞窟の幅と同じぐらいの巨大な蛇がいた。後ろから土壁が崩れる音が響いてきた。塞いだはずの土壁が脆く崩れさってしまった。これもう、つんでない?

 一番生き残れる確率があるのが、進行方向の蛇を倒すことなんだが、ここで背中を向けると、ケルベロスの口から漏れている青い炎が襲って来るだろう。しかし、洞窟と同じぐらいの幅の蛇をどうやって倒すんだ?洞窟の壁と蛇の隙間って通れるのか?

 そんなことを考えていたら、シエンに抱え直され回転Gがかかり、シエンが巨大な蛇の頭を素手で殴った。殴った?
 巨大な蛇は一撃で撃沈し、シエンは蛇と洞窟の天井の隙間を通って行く。

 その後ろから、爆発音と地響きが響き渡ってきた。

 あんな大きな蛇を素手で一撃で倒せるもの?いや、取り敢えずピンチを脱したのだから、それでいい。
 いいのだが、背後からガシャガシャという音と獣が走って来る音が近づいてくる。

 本当に、ココは何!ダンジョンなら魔術をバンバン撃っても崩れることはないだろうから、いくらでも攻撃はできるのに、さっき地響きが響いていたということは、そうではないということなのだろう。
 はぁ。今度は私がお荷物になっているということか。

 一体どこまでこの道が続いているのだろう。もう、王都の端まで行っている距離を移動しているのではないのだろうか。

 私を抱えたまま走っているシエンがいきなり止まった。

「どうした。」

「前から、何かが来る。」

 また、ピンチの再来か!本当にシエンの運の悪さは酷いな。後ろから獣の足音が近づいてきた。後ろを見ると口から青い炎が漏れている3つの首を持つ獣がすぐそこまで迫っていた。

 まだ、あのケルベロス一匹だけならいけるかもしれないと思い、シエンに降ろすように言おうとしたところで、後ろから一陣の風が吹き抜けた。

 先程までケルベロスがいたところには、見たことある人物が立っていた。

「オルクスさん。」

 金髪に黒が斑に混じった豹獣人の男性の足元に3つ首がバラバラになっているケルベロスが倒れていた。

「こんなところで何をしているんだ?普通はここには来れないぞ。」

 私が、私達が逃げるしかないと判断したケルベロスを一瞬で倒し、いつものように飄々とした感じで聞いてきたのは、聖女様の側にいるイケメンの一人だ。

「ここがどこか分からないのですが?」

「ん?王都の地下だ。」

 そんな当たり前のように言わないでほしい。それに王都の地下にあんな訳のわからない魔物がいてたまるか。

「まあいい。出口はこっちだ。」

 オルクスさんがもと来た道を戻ろうとしていたので慌てて言う。

「後ろから鎧が襲って来ているのですが。」

「それは大丈夫だ。」

 何が大丈夫なんだ!

 本当に大丈夫だった。鎧共は追いかけてなかった。
 洞窟を抜けて、石づくりの道を抜けて階段を上って出てきたところが、聖女様の屋敷の中だった。
 なにこれ、聖女様の屋敷とあの怪しい洞窟がつながっている!


「災難でしたね。」

 相変わらずイケメン達に囲まれている聖女様に言われてしまった。

「シエンさん。こうならないように、いくつか護符をお渡ししたはずですが、どうされたのですか?」

 聖女様が直々に護符を作った!それ私も欲しい。
 しかし、シエンは聖女様の質問に答えない。ちょっと待て、オリビアさんが言っていたな。財布にも護符を施してもらったと、アレは闇喰い云々の話じゃなかったのか?

「それって、闇を取り込まないようにする護符ですか?」

「護符というものは本人にとって害のあるものから護るというものです。ですから、シエンさんの闇を取り込む事を完全に無くすことはできませんし、不運を避けることもできません。ですが、それらからシエンさんを護るものとしてあります。」

 ああ、シエンの本質は変えれないので、それらからシエンを護るという意味合いなのか。でも、財布以外壊れたとか取られたって言ってなかったか?財布もとられていたが。

「シエン。初代様が頼み込んで作ってもらったものをどうしたんだ?」

 リオンさんがシエンに厳しい視線を向けながら聞いてきた。その言葉にシエンはビクリと肩を揺らし、小さな声で呟いた。

「無くなった。」


閑話
「ヤバいよ。マジであの不運の子やばいよ!」

 ショートヘアの黒髪を両手で押さえながら、一人の女性が聖女の前に現れた。

「どうしたのです?」

 聖女は突然現れた女性にも驚かず淡々といつもどおり尋ねた。

「王都の地下に落ちた。」

「は?どうやって落ちるのですか?穴でも空けたのですか?」

 流石にその言葉に聖女も驚いたようだ。

「穴なんて空けるはずないでしょ!開いたのよ。穴が!慌てて閉じたけど、道を歩いてて穴が開くって何?」

「今はどうしているのですか?」

「今?大魔導師様がお遊びで作った呪いの鎧達に追いかけられているけど?」

「ああ、あれですか。」

 聖女には心当たりがあるらしい。

「ねぇ。誰か助けに行ってくれない?あの地下はヤバいヤツを詰め込んでいるから、二人共死んじゃうよ。」

「二人?」

「あの不運の彼と美味しいものには目がないリラちゃん。」

「はぁ。仕方がありませんね。」

 聖女が立ち上がろうとしたところで一人の男性が部屋の扉を開ける。

「俺が行った方が早いだろ?直ぐに戻ってくる。」

 そう聖女に声をかけ、豹獣人の男性が部屋を出ていった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームの世界じゃないの?

白雲八鈴
恋愛
 この世界は『ラビリンスは恋模様』っていう乙女ゲームの舞台。主人公が希少な聖魔術を使えることから王立魔術学園に通うことからはじまるのです。  私が主人公・・・ではなく、モブです。ゲーム内ではただの背景でしかないのです。でも、それでいい。私は影から主人公と攻略対象達のラブラブな日々を見られればいいのです。  でも何かが変なんです。  わたしは主人公と攻略対象のラブラブを影から見守ることはできるのでしょうか。 *この世界は『番とは呪いだと思いませんか』と同じ世界観です。本編を読んでいなくても全く問題ありません。 *内容的にはn番煎じの内容かと思いますが、時間潰しでさらりと読んでくださいませ。 *なろう様にも投稿しております。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

王太子エンドを迎えたはずのヒロインが今更私の婚約者を攻略しようとしているけどさせません

黒木メイ
恋愛
日本人だった頃の記憶があるクロエ。 でも、この世界が乙女ゲームに似た世界だとは知らなかった。 知ったのはヒロインらしき人物が落とした『攻略ノート』のおかげ。 学園も卒業して、ヒロインは王太子エンドを無事に迎えたはずなんだけど……何故か今になってヒロインが私の婚約者に近づいてきた。 いったい、何を考えているの?! 仕方ない。現実を見せてあげましょう。 と、いうわけでクロエは婚約者であるダニエルに告げた。 「しばらくの間、実家に帰らせていただきます」 突然告げられたクロエ至上主義なダニエルは顔面蒼白。 普段使わない頭を使ってクロエに戻ってきてもらう為に奮闘する。 ※わりと見切り発車です。すみません。 ※小説家になろう様にも掲載。(7/21異世界転生恋愛日間1位)

白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。  無言で睨む夫だが、心の中は──。 【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】 4万文字ぐらいの中編になります。 ※小説なろう、エブリスタに記載してます

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

誰も信じてくれないので、森の獣達と暮らすことにしました。その結果、国が大変なことになっているようですが、私には関係ありません。

木山楽斗
恋愛
エルドー王国の聖女ミレイナは、予知夢で王国が龍に襲われるという事実を知った。 それを国の人々に伝えるものの、誰にも信じられず、それ所か虚言癖と避難されることになってしまう。 誰にも信じてもらえず、罵倒される。 そんな状況に疲弊した彼女は、国から出て行くことを決意した。 実はミレイナはエルドー王国で生まれ育ったという訳ではなかった。 彼女は、精霊の森という森で生まれ育ったのである。 故郷に戻った彼女は、兄弟のような関係の狼シャルピードと再会した。 彼はミレイナを快く受け入れてくれた。 こうして、彼女はシャルピードを含む森の獣達と平和に暮らすようになった。 そんな彼女の元に、ある時知らせが入ってくる。エルドー王国が、予知夢の通りに龍に襲われていると。 しかし、彼女は王国を助けようという気にはならなかった。 むしろ、散々忠告したのに、何も準備をしていなかった王国への失望が、強まるばかりだったのだ。

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

処理中です...