352 / 368
351 九尾への対抗策
しおりを挟む
「それでその異形は二週間後にある聖女シェーンのお披露目パーティーに現れるらしい。頭上に光る聖痕を掲げて」
するといくつもの視線が私の頭上に集まる。いや、私の聖痕は隠しているよ。
「その異形には、元々光る聖痕があるモノということですか?」
あ、異形というだけなら、そう考えてしまうのか。でも玉藻と言っても通じないだろうし、どう説明すべきか。
「同じ種の異形は一国を亡ぼしたという話がある……そうだよ。あと、酒吞と茨木の顔見知りらしい」
やばいやばい。私に怪しい知識があると断言するところだった。
「シュテンとイバラキの顔見知りっていうなら、そっち経由で異形と話をつけることができるんじゃないのか?」
「ファル様。キルクスに現れた異形も顔見知りって言われたよ。でも聞く耳がなかったよね。人の意見を聞くようなら、人と共存でき……る」
できている。出来てしまっている。
そして、あの国も人と妖怪はある程度の隔たりはあっても、どちらかが滅ぶまで争うということはしていない。
互いが互いの存在を認識し、認めていた。
だけどそれは、日ノ本という国があらゆるものを受け入れてきた経緯があるからだ。
この国に来てしまった異形は、人に排除され世界の糧になるか、人と共存するしかない。
「え?なに?顔見知りって?シュテンとイバラキって、あの偉そうな見習い騎士たちだよね?」
あ、ロゼとリザ姉はまだ知らなかったんだった。しかし、シュテンは偉そうだけど、イバラキはそうでもないと思うけど?
「確かにあのでかい変な鳥、ずっと喚いていたものな。人の話なんて聞かないって感じだったし、今思えば言葉が通じてもどの異形も話し合いができるとは思えなかったなぁ」
ファルがそう言って納得してくれたけど、首だけの『坂東の虎』というは、どう見ても怨霊だったからまともに話が通じるとは思えない。それに龍神のおかみさんなんて、思い込みが激しいタイプなのか、ここが根の国だと思い込んでいたし。
夜叉は戦うことしか頭になかったと思うから、拳で語ろうぜというタイプだと思うよ。
……うん。まともじゃなかったね。
でも茨木が玉藻と話をしていた風だったから、交渉の余地はあるかもしれない。
「茨木ー!ちょっと聞きたいことがあるのだけど」
私はここから声を上げる。恐らく鬼である彼らの耳には私の声は届くだろう。
するとリビング側からではなく、廊下側の扉がノックされた。
私の後ろにある扉だね。
席を立って、廊下側の扉を開く。そこには濃い灰色の隊服を身にまとった、麗人が立っていた。
見た目は普通の人と変わらない。
「どのようなご用件でしょうか?アンジュ様」
「一つ聞きたいのだけど、玉藻と話をして、さっきの話は解決すると思う?」
これはこちらから貴族に対してアクションを取るのではなく、玉藻に対して話し合いで着地点を見出そうということだ。
そう、貴族の阿鼻叫喚地獄を作ろうぜという白銀の王様の作戦を阻止するためだ。
はっきり言って、これは王様が一人で背負うことではない。
「そうですね。アンジュ様は、玉藻御前に対して何をご提示できますか?」
「そこか~酒池肉林とか蠆盆は無理だよ」
玉藻が何を望んでいるかは私個人では図りしれないけど、権力者に取り入っているということは贅を尽くしたいのか、国を陥れて人々の恐怖を楽しみたいのか。
「と、言うことはおわかりですよね?」
「はぁ、話し合いで解決するのは無理ってことだね」
これは本当に陰陽師でも呼び込めないのだろうか。封印するまで追い詰めたというのであれば、相当強いはず。
無いものねだりをしても仕方がないか。
「玉藻相手に対抗策はある?」
「九尾の狐相手にですか?太公望が宝剣を投げつけたら身体が三つに分かれたと逸話が残っているぐらいですか?天竺のときは捕まって逃げ出していますし、これと言って弱点はないと思います」
太公望って仙人じゃない?その人が持つ宝剣って普通じゃないのはわかるよ。
ん?確か玉藻の討伐時も刀で斬ったという話があった。
「うん。わかった。神殺しでぶっ刺すというのが一番良さそうだね」
私は茨木にお礼を言って、扉を閉めて振り返る。玉藻の対抗策はわかった。
「その異形が聖女シェーンを偽者だと言って、偽者を王様を偽者と公言するそうだから、その前に神殺しで斬ってしまおう」
「アンジュが一番物騒だと思う」
ロゼ。うるさいよ。
するといくつもの視線が私の頭上に集まる。いや、私の聖痕は隠しているよ。
「その異形には、元々光る聖痕があるモノということですか?」
あ、異形というだけなら、そう考えてしまうのか。でも玉藻と言っても通じないだろうし、どう説明すべきか。
「同じ種の異形は一国を亡ぼしたという話がある……そうだよ。あと、酒吞と茨木の顔見知りらしい」
やばいやばい。私に怪しい知識があると断言するところだった。
「シュテンとイバラキの顔見知りっていうなら、そっち経由で異形と話をつけることができるんじゃないのか?」
「ファル様。キルクスに現れた異形も顔見知りって言われたよ。でも聞く耳がなかったよね。人の意見を聞くようなら、人と共存でき……る」
できている。出来てしまっている。
そして、あの国も人と妖怪はある程度の隔たりはあっても、どちらかが滅ぶまで争うということはしていない。
互いが互いの存在を認識し、認めていた。
だけどそれは、日ノ本という国があらゆるものを受け入れてきた経緯があるからだ。
この国に来てしまった異形は、人に排除され世界の糧になるか、人と共存するしかない。
「え?なに?顔見知りって?シュテンとイバラキって、あの偉そうな見習い騎士たちだよね?」
あ、ロゼとリザ姉はまだ知らなかったんだった。しかし、シュテンは偉そうだけど、イバラキはそうでもないと思うけど?
「確かにあのでかい変な鳥、ずっと喚いていたものな。人の話なんて聞かないって感じだったし、今思えば言葉が通じてもどの異形も話し合いができるとは思えなかったなぁ」
ファルがそう言って納得してくれたけど、首だけの『坂東の虎』というは、どう見ても怨霊だったからまともに話が通じるとは思えない。それに龍神のおかみさんなんて、思い込みが激しいタイプなのか、ここが根の国だと思い込んでいたし。
夜叉は戦うことしか頭になかったと思うから、拳で語ろうぜというタイプだと思うよ。
……うん。まともじゃなかったね。
でも茨木が玉藻と話をしていた風だったから、交渉の余地はあるかもしれない。
「茨木ー!ちょっと聞きたいことがあるのだけど」
私はここから声を上げる。恐らく鬼である彼らの耳には私の声は届くだろう。
するとリビング側からではなく、廊下側の扉がノックされた。
私の後ろにある扉だね。
席を立って、廊下側の扉を開く。そこには濃い灰色の隊服を身にまとった、麗人が立っていた。
見た目は普通の人と変わらない。
「どのようなご用件でしょうか?アンジュ様」
「一つ聞きたいのだけど、玉藻と話をして、さっきの話は解決すると思う?」
これはこちらから貴族に対してアクションを取るのではなく、玉藻に対して話し合いで着地点を見出そうということだ。
そう、貴族の阿鼻叫喚地獄を作ろうぜという白銀の王様の作戦を阻止するためだ。
はっきり言って、これは王様が一人で背負うことではない。
「そうですね。アンジュ様は、玉藻御前に対して何をご提示できますか?」
「そこか~酒池肉林とか蠆盆は無理だよ」
玉藻が何を望んでいるかは私個人では図りしれないけど、権力者に取り入っているということは贅を尽くしたいのか、国を陥れて人々の恐怖を楽しみたいのか。
「と、言うことはおわかりですよね?」
「はぁ、話し合いで解決するのは無理ってことだね」
これは本当に陰陽師でも呼び込めないのだろうか。封印するまで追い詰めたというのであれば、相当強いはず。
無いものねだりをしても仕方がないか。
「玉藻相手に対抗策はある?」
「九尾の狐相手にですか?太公望が宝剣を投げつけたら身体が三つに分かれたと逸話が残っているぐらいですか?天竺のときは捕まって逃げ出していますし、これと言って弱点はないと思います」
太公望って仙人じゃない?その人が持つ宝剣って普通じゃないのはわかるよ。
ん?確か玉藻の討伐時も刀で斬ったという話があった。
「うん。わかった。神殺しでぶっ刺すというのが一番良さそうだね」
私は茨木にお礼を言って、扉を閉めて振り返る。玉藻の対抗策はわかった。
「その異形が聖女シェーンを偽者だと言って、偽者を王様を偽者と公言するそうだから、その前に神殺しで斬ってしまおう」
「アンジュが一番物騒だと思う」
ロゼ。うるさいよ。
61
お気に入りに追加
527
あなたにおすすめの小説

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。

家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。

【完結】旦那様、わたくし家出します。
さくらもち
恋愛
とある王国のとある上級貴族家の新妻は政略結婚をして早半年。
溜まりに溜まった不満がついに爆破し、家出を決行するお話です。
名前無し設定で書いて完結させましたが、続き希望を沢山頂きましたので名前を付けて文章を少し治してあります。
名前無しの時に読まれた方は良かったら最初から読んで見てください。
登場人物のサイドストーリー集を描きましたのでそちらも良かったら読んでみてください( ˊᵕˋ*)
第二王子が10年後王弟殿下になってからのストーリーも別で公開中
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。

今夜で忘れる。
豆狸
恋愛
「……今夜で忘れます」
そう言って、私はジョアキン殿下を見つめました。
黄金の髪に緑色の瞳、鼻筋の通った端正な顔を持つ、我がソアレス王国の第二王子。大陸最大の図書館がそびえる学術都市として名高いソアレスの王都にある大学を卒業するまでは、侯爵令嬢の私の婚約者だった方です。
今はお互いに別の方と婚約しています。
「忘れると誓います。ですから、幼いころからの想いに決着をつけるため、どうか私にジョアキン殿下との一夜をくださいませ」
なろう様でも公開中です。

【完結】何回も告白されて断っていますが、(周りが応援?) 私婚約者がいますの。
BBやっこ
恋愛
ある日、学園のカフェでのんびりお茶と本を読みながら過ごしていると。
男性が近づいてきました。突然、私にプロポーズしてくる知らない男。
いえ、知った顔ではありました。学園の制服を着ています。
私はドレスですが、同級生の平民でした。
困ります。

婚約者を奪い返そうとしたらいきなり溺愛されました
宵闇 月
恋愛
異世界に転生したらスマホゲームの悪役令嬢でした。
しかも前世の推し且つ今世の婚約者は既にヒロインに攻略された後でした。
断罪まであと一年と少し。
だったら断罪回避より今から全力で奪い返してみせますわ。
と意気込んだはいいけど
あれ?
婚約者様の様子がおかしいのだけど…
※ 4/26
内容とタイトルが合ってないない気がするのでタイトル変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる