聖痕の聖騎士〜溺愛?狂愛?私に結婚以外の選択肢はありますか?〜

白雲八鈴

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351 九尾への対抗策

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「それでその異形は二週間後にある聖女シェーンのお披露目パーティーに現れるらしい。頭上に光る聖痕を掲げて」

 するといくつもの視線が私の頭上に集まる。いや、私の聖痕は隠しているよ。

「その異形には、元々光る聖痕があるモノということですか?」

 あ、異形というだけなら、そう考えてしまうのか。でも玉藻と言っても通じないだろうし、どう説明すべきか。

「同じ種の異形は一国を亡ぼしたという話がある……そうだよ。あと、酒吞と茨木の顔見知りらしい」

 やばいやばい。私に怪しい知識があると断言するところだった。

「シュテンとイバラキの顔見知りっていうなら、そっち経由で異形と話をつけることができるんじゃないのか?」
「ファル様。キルクスに現れた異形も顔見知りって言われたよ。でも聞く耳がなかったよね。人の意見を聞くようなら、人と共存でき……る」

 できている。出来てしまっている。
 そして、あの国も人と妖怪はある程度の隔たりはあっても、どちらかが滅ぶまで争うということはしていない。
 互いが互いの存在を認識し、認めていた。

 だけどそれは、日ノ本という国があらゆるものを受け入れてきた経緯があるからだ。

 この国に来てしまった異形は、人に排除され世界の糧になるか、人と共存するしかない。

「え?なに?顔見知りって?シュテンとイバラキって、あの偉そうな見習い騎士たちだよね?」

 あ、ロゼとリザ姉はまだ知らなかったんだった。しかし、シュテンは偉そうだけど、イバラキはそうでもないと思うけど?

「確かにあのでかい変な鳥、ずっと喚いていたものな。人の話なんて聞かないって感じだったし、今思えば言葉が通じてもどの異形も話し合いができるとは思えなかったなぁ」

 ファルがそう言って納得してくれたけど、首だけの『坂東の虎』というは、どう見ても怨霊だったからまともに話が通じるとは思えない。それに龍神のおかみさんなんて、思い込みが激しいタイプなのか、ここが根の国だと思い込んでいたし。
 夜叉は戦うことしか頭になかったと思うから、拳で語ろうぜというタイプだと思うよ。

 ……うん。まともじゃなかったね。

 でも茨木が玉藻と話をしていた風だったから、交渉の余地はあるかもしれない。

「茨木ー!ちょっと聞きたいことがあるのだけど」

 私はここから声を上げる。恐らく鬼である彼らの耳には私の声は届くだろう。
 するとリビング側からではなく、廊下側の扉がノックされた。

 私の後ろにある扉だね。

 席を立って、廊下側の扉を開く。そこには濃い灰色の隊服を身にまとった、麗人が立っていた。
 見た目は普通の人と変わらない。

「どのようなご用件でしょうか?アンジュ様」
「一つ聞きたいのだけど、玉藻と話をして、さっきの話は解決すると思う?」

 これはこちらから貴族に対してアクションを取るのではなく、玉藻に対して話し合いで着地点を見出そうということだ。
 そう、貴族の阿鼻叫喚地獄を作ろうぜという白銀の王様の作戦を阻止するためだ。

 はっきり言って、これは王様が一人で背負うことではない。

「そうですね。アンジュ様は、玉藻御前に対して何をご提示できますか?」
「そこか~酒池肉林とか蠆盆は無理だよ」

 玉藻が何を望んでいるかは私個人では図りしれないけど、権力者に取り入っているということは贅を尽くしたいのか、国を陥れて人々の恐怖を楽しみたいのか。

「と、言うことはおわかりですよね?」
「はぁ、話し合いで解決するのは無理ってことだね」

 これは本当に陰陽師でも呼び込めないのだろうか。封印するまで追い詰めたというのであれば、相当強いはず。
 無いものねだりをしても仕方がないか。

「玉藻相手に対抗策はある?」
「九尾の狐相手にですか?太公望が宝剣を投げつけたら身体が三つに分かれたと逸話が残っているぐらいですか?天竺のときは捕まって逃げ出していますし、これと言って弱点はないと思います」

 太公望って仙人じゃない?その人が持つ宝剣って普通じゃないのはわかるよ。
 ん?確か玉藻の討伐時も刀で斬ったという話があった。

「うん。わかった。神殺しでぶっ刺すというのが一番良さそうだね」

 私は茨木にお礼を言って、扉を閉めて振り返る。玉藻の対抗策はわかった。

「その異形が聖女シェーンを偽者だと言って、偽者を王様を偽者と公言するそうだから、その前に神殺しで斬ってしまおう」
「アンジュが一番物騒だと思う」

 ロゼ。うるさいよ。

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