聖痕の聖騎士〜溺愛?狂愛?私に結婚以外の選択肢はありますか?〜

白雲八鈴

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349 婚約届は王家との契約書

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「これのこと?」

 私は後ろを指して言う。すると偽者の王様は頷いた。

「うーん?結局のところは、解決していないのだけど……」

 そう言って私は朧に向かって手を差し出す。これは実際に見たほうが納得してくれるだろうね。

 すると、私の手の上に刺繍した白いハンカチが置かれた。私の視界に黒い色と床に赤い色が映り込む。

「そんな感じですか」
「アンジュ。お前今度は何をしたんだ?」
「へー。面白いね」

 神父様は納得している感じで、ファルは私をジト目で見てくる。王様は笑い声混じりで面白いと言った。

 そして離れたところでロゼが『色変えの術。よく使っていたよね』といい、リザ姉は『そうね』とロゼに同意している。

 あ、色変えの魔術の応用になるのか。

「それは色変えの魔術ということなのでしょうか?」

 偽者の王様は、ロゼとリザ姉の言葉を拾ったらしい。まぁ、それも間違いじゃない。

「正確には違うのだけど、これは私の謎の刺繍の検証した結果かな?図柄によって効力が違う。これは色変えと浄化かな?」
「それは他にもありますか?いいえ、私にというわけではなく、若い者たちに与えることは可能でしょうか?」

 ああ、自分の苦しみをなるべく他の者たちに与えたくないということか。でも、根本的な解決をしたほうが良いと思うのだよ。

 王家は力で縛るんじゃなくて、忠義で彼らに仕えてもらうようにしたほうがいい。

 でも、これは私が口を出して良いことじゃない。

「これね。問題があってね。世界の力を使って効力を発揮しているんだよ。だから量産はできない」
「そうですか……」

 偽者の王様が凄く落ち込んでしまった。うーん。別の力を用いるようにすればなんとかなる?でも世界の力だからこそ、こんな効力になっているとも言えなくもない。

「君がサインするのに躊躇している契約書にサインすれば、王家を好きにできるのだよ?」
「兄上。婚姻届です」

 ルディは婚姻届と言い直したけど、王様的には契約書なんだね。私も契約書だと思うよ。

 王家を好きにしていいと言われても、私にはそこまでメリットはないんだよね。それに今更黒狼の彼らを解放しても、そのあとどうするって感じでしょ?

 異形の彼らは影に生きるか、酒吞や茨木のように人に混じって生きるしかない。

 その後の彼らの面倒を見ろと言われても、面倒だしね。

「その王家との契約書。サインしないと駄目ですか?」
「アンジュ」

 隣から魔王様の声が聞こえてきたけど、私としてはサインをする意味がない。これは私を王家に縛り付けるものでしかないから。

「そうだね。僕は退位することを決めた。古いものは僕の代で終わりでいいと思う。だからさぁ。新しい時代を作って欲しいなと思うんだよ」
「新しい時代?」

 なに?その新しい時代って?そんな重いものを私に託そうとしないでほしい。

「もう、この愚かしい生贄の儀式に幕引きができそうなんだよね?」
「……」

 私はそれには答えられない。この問題は一年二年では解決できないからだ。

「世界の穴を閉じて、異形を世界が招き入れることが無ければ、人々は平穏に暮らせる。恐らく僕は生贄となるだろうけど、その愚かしいことはなくなる時代だよ」

 王様は、自分が世界に食べられることを認識している。私はその言葉に瞳を瞑る。

 初めて会ったときから見えていた。王様の心臓の辺りに太く黒い鎖が貫いていることに。
 恐らく王様も見えているのだろうね。

「僕はもっと多くの貴族を異形に殺させようとしたのだけど、上手くいかなくてね。今は聖騎士たちだけで、戦っている状況だよね。遊んでいないで兵を連れて死地に行けばいいのにね」

 王様!ここでそんなことを言わないでよ!それもちょっとそこまで行ってきてよと言わんばかりの言い方だ。

「だから、愚かしい者達は僕の代で始末するよ」

 何が、だからなの!これ『ブタ貴族をブヒブヒ言わそうぜ作戦』が『貴族の阿鼻叫喚地獄を作ろうぜ作戦』になってしまっている!

「僕はね。王になるべきじゃなかったんだよ。王になれない父と、聖女として良いように使われた母の死を見た時に思ったことは、こんな国を潰してやろうってことだった」

 ……ここでそんなことを言い出さないで欲しいよ。それを私に聞かせてどうするの。

「だけどね。思ったよりも闇が深くて、いくつかの当主の首をすげ替えただけでは、駄目だったんだよ。『聖女』その存在がこの国を蝕んでいるんだ」

 聖女が国を蝕むか。国を治めるものからすれば、そう見えるのだろうね。

「その聖女を殺した聖騎士クヮルティーモーガン。彼は正しかった。この繰り返される愚かな生贄に終止符を打とうとしたのだから。だけど、地下のダンジョンの主の方が上手うわてだった」

 ん?聖騎士クヮルって双子の聖女の兄だったよね。正しいのはわかるけど、終止符を打とうとした?
 聖女を世界に食べられるのを阻止しただけで終止符なんて打てないと思う。

 だって聖女は世界が望んだ存在……聖女は誰が望んだ存在?
 まさか!これ事態が獅子王と白銀の王の思惑だったってこと?


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