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336 世界の所為にしよう

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 私はジリジリと壁際に追い詰められている。そう、何も感情が浮かんでおらず、背景が歪んでいる魔王様にだ。

「だから、よく分からないことが起こったって言ったよね」

 私は、私の意志でそうなったわけじゃないと言い訳をするも、聞いているのか聞いていないのか、無言で私を見下ろしながら、ジリジリと近づいてくるルディ。

 えー……すっごく怖いのだけど。

 だって私にも何が起こったのかわからないんだからね。

 そもそも天使の聖痕って何って感じじゃない?

 聖痕って普通は体の何処かに現れるっていうのに、天使の聖痕だけ宙に浮いているのだ。そもそもそこがおかしいよね!

 それにこれはあの王たちが作ったシステムではなくて、世界自身が創り出したシステムだ。

 瀕死で死にかけている世界が創り出した力であり、人を選んだかのように現れる物だ。
 だからこれは世界自身が望んだことなのだろうと思えば良いんじゃないのかな?
 そう!そう!しよう世界の所為にすればいい!!

「ルディ。ほら聖痕って人によって色々違うよね。世界の力が人の望みを叶えて具現化したって言うし、世界の力の影響でこうなったんじゃないのかな?」
「それはアンジュが望んだからとも言えるよな」

 がーん!苦し紛れの言い訳を逆手に取られて私の所為にされた!

 妹よ!お姉ちゃんにゲームの知識を授けたまえ!……いや、興味なかったよねと幻聴が聞こえてきそうだ。

 そして私の背中は壁にぶち当たってしまった。これはもう壁を破壊して逃げるしかない。

「シュレイン。アンジュを追い詰めすぎは駄目ですよ。周囲に視線を巡らせているので、そろそろ本気で逃げ出しますよ」
「神父様!そういう情報は教えなくていい!」

 あの悪魔神父。私の行動パターンを熟知してしまっている。まぁ、キルクスで何度も追いかけっこしたからね。

「アンジュ。食後のデザートは如何ですか?」
「リリーマルレーンのお菓子!」

 神父様は侍従シャンベランの御用達のお菓子屋さんの袋を掲げている。
 目の前には魔王様が立っているので、避けるように影にドプッと潜り込む。

「ひっ!あのえげつない術を普通に使っている!」
「どこに現れるかわからない術よね」

 ロゼとリザ姉が何か言っているけど、普通に横に移動しても魔王様に捕まって、私のお菓子が手に入らないじゃない!

 私は神父様の目の前に出てきて、手を差し出す。

「神父様!私のお菓子!」

 するとふいっと遠ざけられてしまった。何故に?

「アンジュ。太陽ソールの聖痕は火を出すことがあるのですか?」
「え?今は力を抑えている状態だけど?力を解放するとヤバイよ」
「解放してください」
「嫌だよ。私も熱くなるし、頭の上から火の粉が降ってくるって嫌だし」
「おかしいですね~。そのような文献は今まで見たことがないのですが?」

 神父様の立場で見れない文献はないと思うから、神父様が見たことがないと言っているということは、私の聖痕は太陽ソールの聖痕ではなく、聖女認定される要素は皆無ということに!

「二百年前の聖女様のときには記述は無かったが、四百年前の聖女様の聖痕の発現時に屋敷が燃えたという記述があったような?」

 第十二部隊長さんがボソリと怖ろしいことを言った。
 何?聖痕の発現時に屋敷が燃えたって……いや、聖痕が初めて発動するときは、力が暴発するのが常識だ。

 でもそれって何か関係する?

「発現順の能力の差ですか。最初に発現した聖痕の能力は、二つ目以降の聖痕より能力が高いというものですね。ですが、それとは少し違うようです」

 神父様が教会で教えている常識を口にしているけど、私は常々思っていた。
 いや、そんなことはないし、と。

「私の茨の聖痕は、そこまで能力は高くない」

 どちらかと言えば、重力の聖痕の方が強いし、毒の花なんてえげつないほど毒が効く、そして天使の聖痕。本来の状態は私は許容したくない。あれは、私が死にそうになると思う。

「アンジュ。植物系の聖痕で異形を捕まえて、破壊されないなんて普通はないでしょう」
「え?別に茨でぐるぐる巻にしただけだし」

 これは坂東の虎とかいう首だけの異形と一緒に居た、霧を吐く異形のことだろう。いや、馬みたいな四足歩行をぐるぐる巻したところで、どうやって外すの?外せないよね?

「だってこんな……」

 私が指から緑の蔦を出したところで、両肩に大きな手が置かれた。突然のことに私はびっくりして、声をあげてしまう。

「うぎゃ!」

 なんていうか、背筋が凍りつくような感覚に襲われている。
 後ろを振り向くように、斜め上を見上げると瞳孔が開いた魔王様が私を見下ろしていた。
 怖いよ。

 そして無言で抱えられた。それも肩に担ぐようにだ。いや、私は荷物ではない。

 はっ!その前に!

「神父様!お菓子!」

 ルディが神父様と向かい合っているので、私は神父様がいる方向ではない方を向いてしまっている。だから、私が振り返りながら神父様に手を伸ばした。

 すると、その手がルディに寄って阻まれる。

「アンジュ。お菓子ぐらい後でいくらでも買ってやる」

 そう言ってルディは第十三部隊の詰め所であるぽつんと一軒家を後にしたのだ。
 私は今食べたいのだ……とは流石に魔王様相手には言えなかったのだった。

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