333 / 354
332 新たな黒い女
しおりを挟む
何かを叫びながら常闇の中でもがいている夜叉を見下ろす。いや、闇に満たされた世界から更に深き闇が吹き出し、悲鳴を挙げるものを呑み込んで行こうとしているので、私からは詳細は目視できない。
なぜなら、この世界で光を発するのは太陽の聖痕と空に広がっている星星のみだからだ。
星の光は弱く、空の存在感を見せつけるだけにとどまり、北の森も王都も深い闇に満たされているのが上空からよくわかる。
いや、ただ一点王都の高い位置に光が見えることから、王城からこちらの様子を窺うモノがいるのだろうとわかるぐらいに、世界は闇に満ち満ちている。
「ふぅ」
私はルディに抱えられた状態で深く息を吐き出す。
「世界の穴を広げようか」
手を前に突き出して、イメージする。騒いているモノを中心にして一気に常闇を広げるようにだ。
世界が唸り声を挙げだす。低く低くこの闇と馴染むように響き渡っている。
そしてギシギシと世界が軋む音が鳴り出す。空間と空間が擦れて軋んでいるのだ。
箍が外れたように軋む音が世界の悲鳴に代わり、甲高い音と共に眼下の闇が更に深く濃く一気に拡がった。
生暖かい風が下から吹き上げてくる。
その甲高い音と共に違う高い音が混じりだす。
「来るよ!」
私の忠告と同時に悲鳴を挙げる世界から、黒い鎖が解き放たれた。それはまるで星を引きずり落とすために放たれた鎖のように空に向って伸びていく。
「ひっ!こんなの避けるって無理!」
「これはキツイわ」
文句をいいながらでもロゼとリザ姉は高度上げながら避けている。やれば普通にできるじゃない。
ルディは器用に私を片腕で支えながら、ワイバーンを操縦して避けている。
光源は私の太陽の聖痕だけだというのに、皆凄いね。
さて、私は広げた常闇を閉じようか。
そう思って下に視線を向けると、一瞬私の思考が止まってしまった。
確か下には鎖に巻かれて、既に私の目には何か判別つかない物体はいた。そう、そこに居た。
夜叉がいたはずの場所。そこには真っ黒い人物が立っているように見える。周りは暗く、地面は更に深い闇で満たされていて、普通であれば目視できないはずなのに、私の目にはその姿を捉えることができた。
それもダンジョンで見た女性ではない。だってあったはずの尾が無いのだから。
でもなんとなく見覚えがあるような気がする。肌も髪もすべてが黒く、ただ赤い瞳だけが私を捉えていた。
わかるのは頭に黒い皿の聖痕があるということから、月の聖女だということだ。
いや、今の私のすべきことは速やかに常闇を閉じること。
女性が立ってる場所を中心にして、常闇を円を描くように動かして行く。そして常闇を深く陥れるように下に下に。
常闇を落としていった分、外側を縮めていく。
縮めていくけど、思ったよりも動きが悪い。
中心に重石のように黒い女性がいるからだろうか?誰も何も言わないってことは、まだ私しか見えていない存在?
「ねぇ、誰か常闇の中心にいる人が見える?」
……返事がない。やはり、また私だけ見えるパターンか。だからこれは何の意味があるわけ?
「赤い髪の女性ですか?」
「細っせえ、女だ」
「また、そこも違うのが見ている!」
まただ。また茨木と酒吞は別のものをみている。っということは、蛇共はどうだろう?
「青嵐と月影はどうなの!」
『イグネアにお聞きすればよろしいかと存じます』
『イグネアなら知っていると思われます』
「イグネアって誰!」
蛇二匹から私の知らない人物の名前が出てきた。この蛇共もしかして、私が知らないうちにシレッと抜け出しているってことか!
「この精霊鳥のことですよ」
悪魔神父が自分の肩を指しながら言った。
私が今の今まで無視をし続けていた、赤い鳥を指している。
名前をつけていたんだ。イグネアって女性っぽい名前。あの鳥、メスなのか?
それとも初恋をこじらせにこじらせた神父様の妄執?
「そう、イグネア。アレは誰?」
私が聞くと、赤い鳥はツンと澄まして横を向いた。話す気はないってことか。
まぁ、神父様の鳥だから性格が悪いのだろう。
「まぁいいや。リザ姉。ロゼ。聖剣で渦の中心を攻撃してくれる?容赦なく叩き潰して、常闇に沈める感じで」
リザ姉の『颶風』とロゼの『驟雨』の聖剣の力を合わせると嵐のような攻撃ができる。それを常闇の渦に合わせることにより、陥れる力を増そうという作戦だ。
すると赤い鳥が慌てて羽をバタバタしだした。なに?情報をくれないなら、別にいいよ。
『あの方はエリスアメリア様でございます』
誰だよエリスって?
サディでもシュマリでも無かったよ。
なぜなら、この世界で光を発するのは太陽の聖痕と空に広がっている星星のみだからだ。
星の光は弱く、空の存在感を見せつけるだけにとどまり、北の森も王都も深い闇に満たされているのが上空からよくわかる。
いや、ただ一点王都の高い位置に光が見えることから、王城からこちらの様子を窺うモノがいるのだろうとわかるぐらいに、世界は闇に満ち満ちている。
「ふぅ」
私はルディに抱えられた状態で深く息を吐き出す。
「世界の穴を広げようか」
手を前に突き出して、イメージする。騒いているモノを中心にして一気に常闇を広げるようにだ。
世界が唸り声を挙げだす。低く低くこの闇と馴染むように響き渡っている。
そしてギシギシと世界が軋む音が鳴り出す。空間と空間が擦れて軋んでいるのだ。
箍が外れたように軋む音が世界の悲鳴に代わり、甲高い音と共に眼下の闇が更に深く濃く一気に拡がった。
生暖かい風が下から吹き上げてくる。
その甲高い音と共に違う高い音が混じりだす。
「来るよ!」
私の忠告と同時に悲鳴を挙げる世界から、黒い鎖が解き放たれた。それはまるで星を引きずり落とすために放たれた鎖のように空に向って伸びていく。
「ひっ!こんなの避けるって無理!」
「これはキツイわ」
文句をいいながらでもロゼとリザ姉は高度上げながら避けている。やれば普通にできるじゃない。
ルディは器用に私を片腕で支えながら、ワイバーンを操縦して避けている。
光源は私の太陽の聖痕だけだというのに、皆凄いね。
さて、私は広げた常闇を閉じようか。
そう思って下に視線を向けると、一瞬私の思考が止まってしまった。
確か下には鎖に巻かれて、既に私の目には何か判別つかない物体はいた。そう、そこに居た。
夜叉がいたはずの場所。そこには真っ黒い人物が立っているように見える。周りは暗く、地面は更に深い闇で満たされていて、普通であれば目視できないはずなのに、私の目にはその姿を捉えることができた。
それもダンジョンで見た女性ではない。だってあったはずの尾が無いのだから。
でもなんとなく見覚えがあるような気がする。肌も髪もすべてが黒く、ただ赤い瞳だけが私を捉えていた。
わかるのは頭に黒い皿の聖痕があるということから、月の聖女だということだ。
いや、今の私のすべきことは速やかに常闇を閉じること。
女性が立ってる場所を中心にして、常闇を円を描くように動かして行く。そして常闇を深く陥れるように下に下に。
常闇を落としていった分、外側を縮めていく。
縮めていくけど、思ったよりも動きが悪い。
中心に重石のように黒い女性がいるからだろうか?誰も何も言わないってことは、まだ私しか見えていない存在?
「ねぇ、誰か常闇の中心にいる人が見える?」
……返事がない。やはり、また私だけ見えるパターンか。だからこれは何の意味があるわけ?
「赤い髪の女性ですか?」
「細っせえ、女だ」
「また、そこも違うのが見ている!」
まただ。また茨木と酒吞は別のものをみている。っということは、蛇共はどうだろう?
「青嵐と月影はどうなの!」
『イグネアにお聞きすればよろしいかと存じます』
『イグネアなら知っていると思われます』
「イグネアって誰!」
蛇二匹から私の知らない人物の名前が出てきた。この蛇共もしかして、私が知らないうちにシレッと抜け出しているってことか!
「この精霊鳥のことですよ」
悪魔神父が自分の肩を指しながら言った。
私が今の今まで無視をし続けていた、赤い鳥を指している。
名前をつけていたんだ。イグネアって女性っぽい名前。あの鳥、メスなのか?
それとも初恋をこじらせにこじらせた神父様の妄執?
「そう、イグネア。アレは誰?」
私が聞くと、赤い鳥はツンと澄まして横を向いた。話す気はないってことか。
まぁ、神父様の鳥だから性格が悪いのだろう。
「まぁいいや。リザ姉。ロゼ。聖剣で渦の中心を攻撃してくれる?容赦なく叩き潰して、常闇に沈める感じで」
リザ姉の『颶風』とロゼの『驟雨』の聖剣の力を合わせると嵐のような攻撃ができる。それを常闇の渦に合わせることにより、陥れる力を増そうという作戦だ。
すると赤い鳥が慌てて羽をバタバタしだした。なに?情報をくれないなら、別にいいよ。
『あの方はエリスアメリア様でございます』
誰だよエリスって?
サディでもシュマリでも無かったよ。
28
お気に入りに追加
515
あなたにおすすめの小説
悪妃の愛娘
りーさん
恋愛
私の名前はリリー。五歳のかわいい盛りの王女である。私は、前世の記憶を持っていて、父子家庭で育ったからか、母親には特別な思いがあった。
その心残りからか、転生を果たした私は、母親の王妃にそれはもう可愛がられている。
そんなある日、そんな母が父である国王に怒鳴られていて、泣いているのを見たときに、私は誓った。私がお母さまを幸せにして見せると!
いろいろ調べてみると、母親が悪妃と呼ばれていたり、腹違いの弟妹がひどい扱いを受けていたりと、お城は問題だらけ!
こうなったら、私が全部解決してみせるといろいろやっていたら、なんでか父親に構われだした。
あんたなんてどうでもいいからほっといてくれ!
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
悪役令嬢に転生したので、やりたい放題やって派手に散るつもりでしたが、なぜか溺愛されています
平山和人
恋愛
伯爵令嬢であるオフィーリアは、ある日、前世の記憶を思い出す、前世の自分は平凡なOLでトラックに轢かれて死んだことを。
自分が転生したのは散財が趣味の悪役令嬢で、王太子と婚約破棄の上、断罪される運命にある。オフィーリアは運命を受け入れ、どうせ断罪されるなら好きに生きようとするが、なぜか周囲から溺愛されてしまう。
竜帝は番に愛を乞う
浅海 景
恋愛
祖母譲りの容姿の両親から疎まれている男爵令嬢のルー。自分とは対照的に溺愛される妹のメリナは周囲からも可愛がられ、狼族の番として見初められたことからますます我儘に振舞うようになった。そんなメリナの我儘を受け止めつつ使用人のように働き、学校では妹を虐げる意地悪な姉として周囲から虐げられる。無力感と諦めを抱きながら淡々と日々を過ごしていたルーは、ある晩突然現れた男性から番であることを告げられる。しかも彼は獣族のみならず世界の王と呼ばれる竜帝アレクシスだった。誰かに愛されるはずがないと信じ込む男爵令嬢と番と出会い愛を知った竜帝の物語。
【完結】白い結婚成立まであと1カ月……なのに、急に家に帰ってきた旦那様の溺愛が止まりません!?
氷雨そら
恋愛
3年間放置された妻、カティリアは白い結婚を宣言し、この結婚を無効にしようと決意していた。
しかし白い結婚が認められる3年を目前にして戦地から帰ってきた夫は彼女を溺愛しはじめて……。
夫は妻が大好き。勘違いすれ違いからの溺愛物語。
小説家なろうにも投稿中
【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~
降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。
獣人の彼はつがいの彼女を逃がさない
たま
恋愛
気が付いたら異世界、深魔の森でした。
何にも思い出せないパニック中、恐ろしい生き物に襲われていた所を、年齢不詳な美人薬師の師匠に助けられた。そんな優しい師匠の側でのんびりこ生きて、いつか、い つ か、この世界を見て回れたらと思っていたのに。運命のつがいだと言う狼獣人に、強制的に広い世界に連れ出されちゃう話
どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~
涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる