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327 死の鎖からの解放

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「ああ、なんていうか異常気象って言えばいいのかなぁ?」

 私は遠い目をしながら、近づいてくるものを見ている。
 いや戦いが激化していると言えばいいのだけど、ここから見ていると恐ろしい何かが近づいてきている、なんとも言えない感じがある。
 正体を知っているので平気だけど、知らなかったらパニックになっているだろうな。

「思ったより、リザネイエとロゼが戦えている」

 そう、激化の要因がこの二人だと思う。

 ここから見える光景はどんなかと言えば……

 炎が立ち上る中、稲光が走り、太い木のトゲが突き出し、竜巻が立ち上り、氷の塊が突き出し、空から雨っぽいものが降り、一瞬で全てが消え去る。

 炎は酒吞が辺り一帯を燃やしたものだ。
 稲光は神父様の攻撃で、太い木のトゲはファル。竜巻はリザ姉で、氷は茨木。雨っぽいのはロゼの矢だろうね。最後に全てが消えるのは第十二部隊長さんの恐ろしい聖痕。

 これ、人が寝静まった夜中でよかった。そうじゃなかったら王都はパニックだ。

「さて、ルディそろそろ来るよ」

 段々と近づいてくる破壊音に、私はルディに準備するように言う。

「わかっている」

 そう言いながら、ルディは木に繋いでいるワイバーンたちの手綱を取っていた。皆がここに戻ってきたら、いつでも飛び立てるようにしておかないといけない。いつ常闇が大きく口を開くかわからないからだ。

 そうしていると、何かが吹っ飛んできた。赤い髪が目立つ巨体……に黒い鎖がグルグル巻に……酒吞が鎖に巻かれてしまっている!

「神父様!酒吞の鎖を切って!」

 どこにいるかわからない神父様に声をかける。

「アマテラス。まだだ!」

 そう言って木にぶつかって止まった酒吞が身を起こす。でもこの状況は常闇が開いてしまったら、引っ張られる可能性がある。

「アンジュ様。申し訳ありません。流石夜叉です。これだけの戦力でも分が悪いです」

 そこに鎖に巻かれて既に誰かわからなくなっている茨木が、燃えている木々の間からでてきた。
 これは……どういうこと?

 私は茨木の姿は見えないけど、声的にはまだ余裕があるように見える。

 何か夜叉が仕掛けてくるってこと?

「酒吞と茨木は撤退」
「アンジュ!」
「アマテラスまだ、やれるぞ!」
「アンジュ様!」
「指揮官は私……じゃ上空で待機。ルディ、ここと、ここを切って」

 私は鬼の二人に上空で待機を命じて、ルディに地面を指して切るように言った。鬼の二人に伸びている鎖を切るためだ。

「アマテラス!」
「酒吞。アンジュ様の言葉に従う。そうでしたよね」

 ルディに鎖の端を切られた二人はワイバーンが待機しているところに向かっていく。あ、ちょっと試してみたい。

「待って」

 ワイバーンに乗ろうとしている二人を引き止め、腕を掴む。黒い鎖が巻かれている腕をだ。
 そして私の銀色の鎖で侵食できないか試してみる。

 黒い鎖に沿わすように、私の魔力を伸ばしていった。

「アマテラスどうした?」
「アンジュ様?」
「もう少し待って」

 もう少し。もう少し……よし!これを銀色の鎖に変換する。

「『変換イクース』」

 すると私が掴んでいるところから、銀色に変色していった。

「お!」
「おや?これは……」

 全て銀色に変わった鎖を引っ張る。繋がっていた鎖が外れるように崩れていった。

「壊れた!死の鎖が壊れて消えた!使えそうな気がする!」

 これで、誰かが鎖に捕まっても外すことができる。

「アンジュ!来る!」
「わかった。酒吞と茨木は上空に退避!青嵐と月影も更に上空に!」

 そう言いながら私は前面に結界を展開する。木が折れていく音に混じって、何かが叫んでいる声が混じり、神父様が何かを命じている声も聞こえる。

 ワイバーンが飛び立つ羽音が聞こえた瞬間。耳が痛くなり、地面が揺れ、炎をまとった木々が飛んできて、突風が吹き荒れた。

「アンジュ。大丈夫か?」
「大丈夫。耳が痛いけど」

 そして私が目にしたのは、辺り一帯の見晴らしがよくなった森……だったところだ。

「何かが爆発したのか?」
「たぶんそう。音の後に衝撃波がきたからね」

 私はフルプレートアーマーに抱えられていた。流石に神父様の結界じゃないから、音までは防げなかった。

 恐らく、結界が張れないと命にかかわっていたのだろう。
 質には個人差があるけど、聖騎士の訓練として結界は必須条件だ。

 酒吞と茨木は結界を張れないので、あの黒い鎖はこれに反応していたのかもしれない。

 そして、私の目線の先には黒い巨体の影があった。先程の衝撃波で周りの炎が消し飛んでいったため、遠くに燃える森の光でしか、認識できない。

 私は右目に手を当てる。全体攻撃をしてきたってことは、切羽詰まってきているのかもしれない。

 右手で取り出したものを頭上に掲げた。

 私を中心に光が解き放たれる。そして、私はふわりと浮き上がった。

「ルディ。今日は新月だから、使いたい放題だよ」

 私から放たれる光に、色濃い影を足元に映しているルディに言った。
 光あるところに影ができる。だけど、今日は世界が闇に満たされている夜だと。

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