聖痕の聖騎士〜溺愛?狂愛?私に結婚以外の選択肢はありますか?〜

白雲八鈴

文字の大きさ
上 下
327 / 374

326 ペット枠じゃなかったの!

しおりを挟む
 私は、熱風にさらされている。熱い。とてつもなく熱い。

 ここに常闇から顕れたであろう夜叉を、私のいる場所まで誘導してくる予定だった。
 何事にも予想外というのはある。あるのだけど……ほんの一瞬だった。
 突如として地獄絵図と言っていいほど、周りが火の海に侵食されたのだ。

 これは酒吞の仕業だと理解している。だってダンジョンで二十九階層でみせた力は手加減していると言っていたのだから。

「ちょっとやりすぎかな」

 ここにいるのが騎士シュバリエでなくてよかった。いや、一人を除いてキルクスの出身者で良かったと言うべきか。

「こんなに熱いと、火山の遠征を思い出すよ」

 そう、あの悪魔神父はキルクスがある半島の中央にある火山に、鎧をつけたま登らせるという鬼畜な遠征をさせたのだ。

「そうだな。いつ噴火するかわからないところで、熱水が吹き出して毒ガスが噴出して、ついでとばかりに炎をまとった魔物が襲撃してくるところと比べたら、炎だけだからな。まだぬるい」

 ルディ。ぬるいというより、これはワイバーンに乗るときの要領と同じで、自分の周りに結界を張って温度調節をしているだけだ。
 まぁ、物理的な熱水が飛んでこないだけでもマシだね。しかし、ここはおびき寄せるための決戦の場だ。周りの炎は消しておきたいね。

 私は左手を突き出して軽く振る。

「ねぇ。ちょっと結界の中で雨を降らしてくれない?」

 ……無言。え?無視?蛇のクセに私を無視するわけ?

「何、無視してくれているわけ?もしかして蛇でもなく、ミミズだった?」
「アンジュ。名を呼ばないと出てこないのではないのか?」

 ルディに言われて、黒い指輪と青い指輪を凝視してみる。

 え?これってそんな仕様だった?勝手に出てきたことあったよね?
 あれか。あのとき絞めたから、名前を呼ばないと出てこない仕様に変更になったの?いつの間に!

「はぁ……青龍 青嵐。黒龍 月影」
『青龍 青嵐。御前に』
『黒龍 月影。御前に』

 指輪からスッと影が出てきて、青い髪の人物と黒い髪の人物が私の足元に跪いていた。

「『誰やねん!』」

 思わずエセ関西弁で突っ込んでしまった。

 いや、青い髪の人物……っぽいのは見たことがある。前世の妹が見せてくれたコレクションの一つにあったものだ。
 長髪の青い髪の横から小枝のような物が突き刺さった……たぶん角が生えていて、中華風の鎧を身に着けている。
 この世界のどこに中華風の文化があるのだろう?

 おそらくこちらが、青龍だ。

 そして、黒髪の人物も同じ感じなので説明は省く。ただ、如何せん目つきの悪さが目立つ。どこの若頭だという人相だ。

 こちらは黒龍だと思われる。

 しかし、一言いっていいだろうか。

「ペット枠じゃなかったの!」

 これだ。妹からペット枠と聞いていたのに、まさかの人化するなんて、私ならゲーム機を投げ捨てている事態だ。

「あのヘビ共はどこに消えたの!」
『我が青龍 青嵐であります』
『我が黒龍 月影であります』
「そんなもの見てわかるわ!それが逆だったら、名前を改変している!」

 すると青龍と黒龍がスッと立ち上がって、私に頭を下げてきた。

『この姿は主様のお力になるため』
『主様の御役に立ちたいがため、変化したのであります』
「ちっ!可愛くないのが、更に可愛くなくなった」

『『ぐふっ!』』

 すると、太い蛇が二匹、地面に転がってさめざめと涙を流している。人型になれても成長していなかった。結局、蛇だったのだ。

「泣いていないで、さっさと仕事をしてくれる?雨を降らして火を消すのはこの辺りだけね」
『『御意』』

 すると青と黒の蛇共は長い身体をくねらせながら浮かんで空に飛んでいく。あ、ついでに目印にしよう。

「火を消し終わったら、そのまま上空を旋回していて、目印になるから」

 そう、私が用意した光は紙に書かれた陣によって発動していたため、一瞬で燃えて消えてしまったのだ。
 紙だから仕方がないけど、意味がなかった。
 ということで、代わりに蛇共を目印にすればいい。

 少しすると、スコールのような雨が頭上から降ってきた。元から火除の結界を張っていたので、ずぶ濡れに濡れることはない。

 そして、周りの気温が下がっていく。

「はぁ。酒吞に任せていたのが、悪かったのかな?」
「いや、異形に異形をぶつけることは悪いことではない」

 異形か。結局、異形という存在は差別されるってことか。

「この状況で高笑いできるって、どうなんだと思ってしまう」

 ……うん。それは思っていた。別に酒吞の気配を探さなくても、どの方向にいるのかは手に取るようにわかっている。
 それはそちらの方から、破壊音と二つの高い笑い声が聞こえてきてくるからだ。この火の海に囲まれた状況で、戦っていることが楽しいと言わんばかりに、二人の鬼の笑い声が響き渡っていたのだった。

しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

平凡令嬢の婚活事情〜あの人だけは、絶対ナイから!〜

本見りん
恋愛
「……だから、ミランダは無理だって!!」  王立学園に通う、ミランダ シュミット伯爵令嬢17歳。  偶然通りかかった学園の裏庭でミランダ本人がここにいるとも知らず噂しているのはこの学園の貴族令息たち。  ……彼らは、決して『高嶺の花ミランダ』として噂している訳ではない。  それは、ミランダが『平凡令嬢』だから。  いつからか『平凡令嬢』と噂されるようになっていたミランダ。『絶賛婚約者募集中』の彼女にはかなり不利な状況。  チラリと向こうを見てみれば、1人の女子生徒に3人の男子学生が。あちらも良くない噂の方々。  ……ミランダは、『あの人達だけはナイ!』と思っていだのだが……。 3万字少しの短編です。『完結保証』『ハッピーエンド』です!

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

もう一度あなたと?

キムラましゅろう
恋愛
アデリオール王国魔法省で魔法書士として 働くわたしに、ある日王命が下った。 かつて魅了に囚われ、婚約破棄を言い渡してきた相手、 ワルター=ブライスと再び婚約を結ぶようにと。 「え?もう一度あなたと?」 国王は王太子に巻き込まれる形で魅了に掛けられた者達への 救済措置のつもりだろうけど、はっきり言って迷惑だ。 だって魅了に掛けられなくても、 あの人はわたしになんて興味はなかったもの。 しかもわたしは聞いてしまった。 とりあえずは王命に従って、頃合いを見て再び婚約解消をすればいいと、彼が仲間と話している所を……。 OK、そう言う事ならこちらにも考えがある。 どうせ再びフラれるとわかっているなら、この状況、利用させてもらいましょう。 完全ご都合主義、ノーリアリティ展開で進行します。 生暖かい目で見ていただけると幸いです。 小説家になろうさんの方でも投稿しています。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

悪役令嬢?いま忙しいので後でやります

みおな
恋愛
転生したその世界は、かつて自分がゲームクリエーターとして作成した乙女ゲームの世界だった! しかも、すべての愛を詰め込んだヒロインではなく、悪役令嬢? 私はヒロイン推しなんです。悪役令嬢?忙しいので、後にしてください。

魔法のせいだから許して?

ましろ
恋愛
リーゼロッテの婚約者であるジークハルト王子の突然の心変わり。嫌悪を顕にした眼差し、口を開けば暴言、身に覚えの無い出来事までリーゼのせいにされる。リーゼは学園で孤立し、ジークハルトは美しい女性の手を取り愛おしそうに見つめながら愛を囁く。 どうしてこんなことに?それでもきっと今だけ……そう、自分に言い聞かせて耐えた。でも、そろそろ一年。もう終わらせたい、そう思っていたある日、リーゼは殿下に罵倒され頬を張られ怪我をした。 ──もう無理。王妃様に頼み、なんとか婚約解消することができた。 しかしその後、彼の心変わりは魅了魔法のせいだと分かり…… 魔法のせいなら許せる? 基本ご都合主義。ゆるゆる設定です。

処理中です...