聖痕の聖騎士〜溺愛?狂愛?私に結婚以外の選択肢はありますか?〜

白雲八鈴

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326 ペット枠じゃなかったの!

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 私は、熱風にさらされている。熱い。とてつもなく熱い。

 ここに常闇から顕れたであろう夜叉を、私のいる場所まで誘導してくる予定だった。
 何事にも予想外というのはある。あるのだけど……ほんの一瞬だった。
 突如として地獄絵図と言っていいほど、周りが火の海に侵食されたのだ。

 これは酒吞の仕業だと理解している。だってダンジョンで二十九階層でみせた力は手加減していると言っていたのだから。

「ちょっとやりすぎかな」

 ここにいるのが騎士シュバリエでなくてよかった。いや、一人を除いてキルクスの出身者で良かったと言うべきか。

「こんなに熱いと、火山の遠征を思い出すよ」

 そう、あの悪魔神父はキルクスがある半島の中央にある火山に、鎧をつけたま登らせるという鬼畜な遠征をさせたのだ。

「そうだな。いつ噴火するかわからないところで、熱水が吹き出して毒ガスが噴出して、ついでとばかりに炎をまとった魔物が襲撃してくるところと比べたら、炎だけだからな。まだぬるい」

 ルディ。ぬるいというより、これはワイバーンに乗るときの要領と同じで、自分の周りに結界を張って温度調節をしているだけだ。
 まぁ、物理的な熱水が飛んでこないだけでもマシだね。しかし、ここはおびき寄せるための決戦の場だ。周りの炎は消しておきたいね。

 私は左手を突き出して軽く振る。

「ねぇ。ちょっと結界の中で雨を降らしてくれない?」

 ……無言。え?無視?蛇のクセに私を無視するわけ?

「何、無視してくれているわけ?もしかして蛇でもなく、ミミズだった?」
「アンジュ。名を呼ばないと出てこないのではないのか?」

 ルディに言われて、黒い指輪と青い指輪を凝視してみる。

 え?これってそんな仕様だった?勝手に出てきたことあったよね?
 あれか。あのとき絞めたから、名前を呼ばないと出てこない仕様に変更になったの?いつの間に!

「はぁ……青龍 青嵐。黒龍 月影」
『青龍 青嵐。御前に』
『黒龍 月影。御前に』

 指輪からスッと影が出てきて、青い髪の人物と黒い髪の人物が私の足元に跪いていた。

「『誰やねん!』」

 思わずエセ関西弁で突っ込んでしまった。

 いや、青い髪の人物……っぽいのは見たことがある。前世の妹が見せてくれたコレクションの一つにあったものだ。
 長髪の青い髪の横から小枝のような物が突き刺さった……たぶん角が生えていて、中華風の鎧を身に着けている。
 この世界のどこに中華風の文化があるのだろう?

 おそらくこちらが、青龍だ。

 そして、黒髪の人物も同じ感じなので説明は省く。ただ、如何せん目つきの悪さが目立つ。どこの若頭だという人相だ。

 こちらは黒龍だと思われる。

 しかし、一言いっていいだろうか。

「ペット枠じゃなかったの!」

 これだ。妹からペット枠と聞いていたのに、まさかの人化するなんて、私ならゲーム機を投げ捨てている事態だ。

「あのヘビ共はどこに消えたの!」
『我が青龍 青嵐であります』
『我が黒龍 月影であります』
「そんなもの見てわかるわ!それが逆だったら、名前を改変している!」

 すると青龍と黒龍がスッと立ち上がって、私に頭を下げてきた。

『この姿は主様のお力になるため』
『主様の御役に立ちたいがため、変化したのであります』
「ちっ!可愛くないのが、更に可愛くなくなった」

『『ぐふっ!』』

 すると、太い蛇が二匹、地面に転がってさめざめと涙を流している。人型になれても成長していなかった。結局、蛇だったのだ。

「泣いていないで、さっさと仕事をしてくれる?雨を降らして火を消すのはこの辺りだけね」
『『御意』』

 すると青と黒の蛇共は長い身体をくねらせながら浮かんで空に飛んでいく。あ、ついでに目印にしよう。

「火を消し終わったら、そのまま上空を旋回していて、目印になるから」

 そう、私が用意した光は紙に書かれた陣によって発動していたため、一瞬で燃えて消えてしまったのだ。
 紙だから仕方がないけど、意味がなかった。
 ということで、代わりに蛇共を目印にすればいい。

 少しすると、スコールのような雨が頭上から降ってきた。元から火除の結界を張っていたので、ずぶ濡れに濡れることはない。

 そして、周りの気温が下がっていく。

「はぁ。酒吞に任せていたのが、悪かったのかな?」
「いや、異形に異形をぶつけることは悪いことではない」

 異形か。結局、異形という存在は差別されるってことか。

「この状況で高笑いできるって、どうなんだと思ってしまう」

 ……うん。それは思っていた。別に酒吞の気配を探さなくても、どの方向にいるのかは手に取るようにわかっている。
 それはそちらの方から、破壊音と二つの高い笑い声が聞こえてきてくるからだ。この火の海に囲まれた状況で、戦っていることが楽しいと言わんばかりに、二人の鬼の笑い声が響き渡っていたのだった。

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