聖痕の聖騎士〜溺愛?狂愛?私に結婚以外の選択肢はありますか?〜

白雲八鈴

文字の大きさ
上 下
320 / 368

319 戦う前の食事は大事

しおりを挟む
「誰か、運ぶのを手伝って……ってなんで、誰もまだ食べていないの!」

 肉を焼き終えたけど量が多いため、人手を要求するために食堂に顔を出せば、まだ誰も食事に手を付けていなかった。いや、神父様はあのゴムの様な硬い肉を食べ終わってはいた。

「はいはい!行くよ」

 ロゼが立ち上がってこちらに来てくれ、リザ姉も手伝ってくれるらしく、立ち上がってくれた。

「もう、さっきから凄くいい匂いで、お腹がギュルギュル言っているんだよね」

 ロゼ。ギュルギュルってお腹を壊していそうな音だけど大丈夫?

「そう。じゃロゼは、ロゼの分と第十二部隊長さんの分を持っていって」
「隊長の分はアンジュが持っていくんだよ」

 なぜかロゼに第十二部隊長さんの分を持って行くのを拒否られた。

「代わりにファルークス副部隊長の分を持っていくから」

 よくわからないけど、ファルの分を持っていってくれるというから、ファルの分を渡した。

「じゃ私はリュミエール神父の分を持って行くわ」

 リザ姉にはリザ姉の分と神父様の分を渡す。残りは重力の聖痕で浮遊させて私が持っていけばいい。 

「なにそれ?」
「またおかしな魔術を創ったのね」

 ロゼから白い目で見られた。リザ姉はあらあらと言う感じで、おかしな魔術と言われてしまった。
 そう言えば、わかるように重力の聖痕を他の人に見せたのは、ダンジョンの中が初めてだったかも?

「だったら、全部持てたんじゃない?アンジュ」
「ロゼ。肉が皿から落ちていいのなら、持っていくけど?」
「持って行くよ!」

 ロゼはそう言って、スタスタとファルのところに寄ってから自分の席に戻っていった。

 別に全部持っていってもいいのだけど、上下がどうなってもいいのなら、という条件がつく。あまり多いと、細かい調整がおろそかになってしまうんだよね。

 そして、私はルディと第十二部隊長さんのところに配って、鬼の二人には好きなだけ食べていいと、大皿で肉の山をおてくる。
 自分には四角く切ったサイコロステーキだ。もちろん中はレア!

「それで、どこまで話が進んだのかな?」

 私はハーブソルトをマッシュポテトにかけながら尋ねる。大分時間が経ってしまったから、ほとんど終わっていることだろう。

「アンジュがいないのに、話を始めるわけにはいないでしょう」
「何故に!」

 神父様の言葉に思わず突っ込んでしまった。いや、情報交換ぐらいは、すればいいじゃない。

「では、ファルークス。報告を」
「え?無視?」
「この国は聖女様を中心に回っているからですよ」

 それは本当のことだろうけど、私を聖女と数えないで欲しい。寒気がする。

「これ美味しい!なんで、これをかけるだけで、こんなに味が変わるわけ?」
「いつものスープ。冷めてしまったのに、美味しいわ。特に香りが良くなっているわ」

 そんな中、ロゼとリザ姉は私が作った調味料をいれて食べている。

「最近はこの味に慣れてしまったからなぁ、食堂に行かなくなってしまった」

 ファルがそんなことを言って食べている。うん、朝食と夕食は宿舎で一緒に食べているし、昼食はここの食堂で食べている。
 休みという概念がないから、毎日だね。

 って、報告する気なく、食べている!

 第十二部隊長さんは黙々と食べている。

 酒吞はお酒を飲みながら、お肉にかぶりついているし、そんな酒吞を茨木は自分の分まで食べないでくださいよと念を押している。

 ルディはと言うと私の横で、これが美味しいとかアレが美味しいとか料理を褒めているけど、私が作ったのは肉と調味料だけだからね。

 そんな風景を見て神父様は呆れているのかと思えば、ふんわりとした笑みを浮かべていた。
 いつもの胡散臭い笑顔ではなく、本当の笑みだ。珍しい。

 いや、戦いの前の晩餐だ。
 聖騎士はいつ命を落とすかわからない。だから、こうした何気ない食事風景が幸せなのだろう。

 きっと神父様は今まで多くの聖騎士たちを見送ってきたに違いない。

「食べすぎて、動けないとかいう者は後ろから刺しますから、お腹いっぱいまでは食べてはいけませんよ」

 悪魔神父は戦いの前の食事も十分に取らせないつもりだった!

「神父様。腹が減っては戦はできぬといいますよ」
「それも正論ですが、途中でお腹が痛いとか言う者は必要ないですからね」

 その言葉にリザ姉とロゼの手がピタリと止まる。

「リュミエール神父。さっきから不穏な言葉が聞こえているのですが、今から戦闘になることはないですわよね?」
「常闇を閉じるだけって聞いているので、あっていますよね?」

 リザ姉とロゼが確認している内容から、本当に何も聞いていないようだった。

「いや、シュテンが戦う気満々だから、それはないだろう?」

 ファルは肉をバクバク食べている酒吞を指しながら、予想を口にした。うん。バレバレだね。

しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

【完結】旦那様、わたくし家出します。

さくらもち
恋愛
とある王国のとある上級貴族家の新妻は政略結婚をして早半年。 溜まりに溜まった不満がついに爆破し、家出を決行するお話です。 名前無し設定で書いて完結させましたが、続き希望を沢山頂きましたので名前を付けて文章を少し治してあります。 名前無しの時に読まれた方は良かったら最初から読んで見てください。 登場人物のサイドストーリー集を描きましたのでそちらも良かったら読んでみてください( ˊᵕˋ*) 第二王子が10年後王弟殿下になってからのストーリーも別で公開中

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

今夜で忘れる。

豆狸
恋愛
「……今夜で忘れます」 そう言って、私はジョアキン殿下を見つめました。 黄金の髪に緑色の瞳、鼻筋の通った端正な顔を持つ、我がソアレス王国の第二王子。大陸最大の図書館がそびえる学術都市として名高いソアレスの王都にある大学を卒業するまでは、侯爵令嬢の私の婚約者だった方です。 今はお互いに別の方と婚約しています。 「忘れると誓います。ですから、幼いころからの想いに決着をつけるため、どうか私にジョアキン殿下との一夜をくださいませ」 なろう様でも公開中です。

【完結】何回も告白されて断っていますが、(周りが応援?) 私婚約者がいますの。

BBやっこ
恋愛
ある日、学園のカフェでのんびりお茶と本を読みながら過ごしていると。 男性が近づいてきました。突然、私にプロポーズしてくる知らない男。 いえ、知った顔ではありました。学園の制服を着ています。 私はドレスですが、同級生の平民でした。 困ります。

婚約者を奪い返そうとしたらいきなり溺愛されました

宵闇 月
恋愛
異世界に転生したらスマホゲームの悪役令嬢でした。 しかも前世の推し且つ今世の婚約者は既にヒロインに攻略された後でした。 断罪まであと一年と少し。 だったら断罪回避より今から全力で奪い返してみせますわ。 と意気込んだはいいけど あれ? 婚約者様の様子がおかしいのだけど… ※ 4/26 内容とタイトルが合ってないない気がするのでタイトル変更しました。

処理中です...