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315 人食いの異形
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「サボってないよ!私がルディと第十二部隊長さんに、見えない魔物の見方を教えようとしたら、ルディが倒してしまったわけ!」
私は首が切られた魔狼を指す。
言い訳はしておかないといけない。でないと、あとでネチネチと言われてしまう。
「確かに毛皮だけでも視覚化できないとは、物語の話だけではわからないものですね。幻狼とは、幻術を使う魔狼だと思っていましたよ」
結局『霧の森と聖女』の話も語り継がれて、物語として書かれることになったけれど、いくつもの話がある。いくつもの話ができてしまった分、幻狼の本来の姿も幻のように実像がわからなくなっているのだ。
「それでアンジュは見えない敵を見極める訓練に、この毛皮が有効だと思ったということですか?」
「そう!そういうこと!」
ルディから逃げるという意味では決してない。だって、結局腕輪で強制転移されてしまうから、それには意味がないとも思っている。
「それで、気になったことがあるのだけど、酒吞はどうしたの?」
私はさっきから気になっていたことを茨木に尋ねる。基本的に二人は一緒に行動をしていることが多い。この一帯の魔物を倒したというのであれば、二人して完了したと言いにくるだろう。
「ええ、酒吞が面白い奴がいるので、倒してしまっていいのかと言っているのですが、一度アンジュ様の意見をお聞きしてからの方がいいと止めているのです」
面白い奴!すっごく気になる!
その前に、そこに倒れている幻狼の毛皮を剥いでからにしよう。
そして私は何故か血生臭さい幻狼の毛皮を頭から被らされて移動している。
いや、一応、風の魔術で内側は乾燥させたので、そこまで生臭いことはない。気分的なものだ。
「これ何?」
ルディに抱えられているけど、他人の目から見れば、ルディは何か透明なものを抱えている怪しい人物になっていると思う。
「いざとなればアンジュ様は、それをまとったまま逃げてもらえるようにです」
茨木が透明人間になれる毛皮をわざわざ持ってきていたのは、ただ単に面白い毛皮というからではなく、いざとなれば私に姿を消したまま逃げるようにという意味だった。
え?いったい何がいるわけ?
茨木がそれほど危険視しているってことだよね。
「何がいるわけ?」
「しっ!そろそろ感知されてしまいます」
酒吞の赤い髪が見えてきたところで、茨木が話さないように示唆してきた。
でも後ろ姿でも堂々と腕を組んで立っている赤髪の酒吞は、森の中でも目立つと思う。
かなり森を北上したところで酒吞と合流した。私は酒吞が微動だにせずに見ている方を見てみる。
森に溶けるような緑色の皮膚をしている筋肉ダルマといっていい魔物が、こちらに背を向けて地面に座っている。
後ろ姿は人食い鬼だ。
だが、何か違和感がある。私は少し考えて、神父様に結界を張ってくれるように手振りでお願いする。
空間を断絶する結界だ。
これだと、声も聞こえないだろう。声を伝播する空気の存在が結界で途切れるのだからね。
すると、スッと透明の膜に私達は覆われ、世界と断絶された。
「あれ何?人が食べられているし!」
そう、緑の皮膚を持つ筋肉ダルマの周りには人だったモノが散らばっている。それも一人二人ではない。骨の上に居座っていると言った方が正確だ。
「あれは天竺から来た夜叉だ」
酒吞は『夜叉』だと言い切った。知り合いなのだろうか。
「前回は邪魔が入って引き分けになったが、今度は勝つ!」
……うん。知り合いだった。
天竺ということはインドから来た鬼神か……神!また神なの!
「酒吞。神に勝てると思っている?」
「そんなの関係ねぇよ。以前は大天狗のじじぃが、うるせーって邪魔してきたんだよ」
大天狗……あの存在にも普通に戦えなかったのに、王都の側であの大天狗みたいに暴れられても困る。
って、それよりもこんなに人が犠牲になっていて、問題に挙がっていないほうが、問題じゃないの?
「酒吞。ちょっと待とうか。王都の側で暴れて王都に被害が出ると、王様から怒られると思うから駄目だよ」
好戦的な酒吞にはちょっと待つように言う。ここは王都に近すぎる。
そして、私は神父様の方に視線を向ける。
「この被害の多さは一日二日という感じではないよね。王様の方に話が挙がって来ていなかったの?」
今日、王様に報告しに行った神父様に聞く。
夜叉の足元にある骨の残骸の中には革鎧も見えるけど、騎士に支給されている魔鉄の鎧もある。これはどこかの騎士団が被害にあっていると思う。
しかし、聖騎士では無さそう。聖騎士であるなら、神父様を崇拝している団長が神父様に報告していないわけがない。
「私は聞いていないですね。昔から、他の騎士団と聖騎士団は仲が悪いですから、自分たちでオーガぐらい討伐できると意気込んで返り討ちにされたのでしょう」
オーガぐらい……後ろ姿を見る限り、人食い鬼に見えるけど、まとっている雰囲気が、龍神のおかみ……さんと酷似したヤバさを感じる。
どこの騎士団か知らないけど、そこに聖騎士団の本部があるのだから、文句を言いにくるぐらいなら、報告してよ!仲が悪すぎ!
私は首が切られた魔狼を指す。
言い訳はしておかないといけない。でないと、あとでネチネチと言われてしまう。
「確かに毛皮だけでも視覚化できないとは、物語の話だけではわからないものですね。幻狼とは、幻術を使う魔狼だと思っていましたよ」
結局『霧の森と聖女』の話も語り継がれて、物語として書かれることになったけれど、いくつもの話がある。いくつもの話ができてしまった分、幻狼の本来の姿も幻のように実像がわからなくなっているのだ。
「それでアンジュは見えない敵を見極める訓練に、この毛皮が有効だと思ったということですか?」
「そう!そういうこと!」
ルディから逃げるという意味では決してない。だって、結局腕輪で強制転移されてしまうから、それには意味がないとも思っている。
「それで、気になったことがあるのだけど、酒吞はどうしたの?」
私はさっきから気になっていたことを茨木に尋ねる。基本的に二人は一緒に行動をしていることが多い。この一帯の魔物を倒したというのであれば、二人して完了したと言いにくるだろう。
「ええ、酒吞が面白い奴がいるので、倒してしまっていいのかと言っているのですが、一度アンジュ様の意見をお聞きしてからの方がいいと止めているのです」
面白い奴!すっごく気になる!
その前に、そこに倒れている幻狼の毛皮を剥いでからにしよう。
そして私は何故か血生臭さい幻狼の毛皮を頭から被らされて移動している。
いや、一応、風の魔術で内側は乾燥させたので、そこまで生臭いことはない。気分的なものだ。
「これ何?」
ルディに抱えられているけど、他人の目から見れば、ルディは何か透明なものを抱えている怪しい人物になっていると思う。
「いざとなればアンジュ様は、それをまとったまま逃げてもらえるようにです」
茨木が透明人間になれる毛皮をわざわざ持ってきていたのは、ただ単に面白い毛皮というからではなく、いざとなれば私に姿を消したまま逃げるようにという意味だった。
え?いったい何がいるわけ?
茨木がそれほど危険視しているってことだよね。
「何がいるわけ?」
「しっ!そろそろ感知されてしまいます」
酒吞の赤い髪が見えてきたところで、茨木が話さないように示唆してきた。
でも後ろ姿でも堂々と腕を組んで立っている赤髪の酒吞は、森の中でも目立つと思う。
かなり森を北上したところで酒吞と合流した。私は酒吞が微動だにせずに見ている方を見てみる。
森に溶けるような緑色の皮膚をしている筋肉ダルマといっていい魔物が、こちらに背を向けて地面に座っている。
後ろ姿は人食い鬼だ。
だが、何か違和感がある。私は少し考えて、神父様に結界を張ってくれるように手振りでお願いする。
空間を断絶する結界だ。
これだと、声も聞こえないだろう。声を伝播する空気の存在が結界で途切れるのだからね。
すると、スッと透明の膜に私達は覆われ、世界と断絶された。
「あれ何?人が食べられているし!」
そう、緑の皮膚を持つ筋肉ダルマの周りには人だったモノが散らばっている。それも一人二人ではない。骨の上に居座っていると言った方が正確だ。
「あれは天竺から来た夜叉だ」
酒吞は『夜叉』だと言い切った。知り合いなのだろうか。
「前回は邪魔が入って引き分けになったが、今度は勝つ!」
……うん。知り合いだった。
天竺ということはインドから来た鬼神か……神!また神なの!
「酒吞。神に勝てると思っている?」
「そんなの関係ねぇよ。以前は大天狗のじじぃが、うるせーって邪魔してきたんだよ」
大天狗……あの存在にも普通に戦えなかったのに、王都の側であの大天狗みたいに暴れられても困る。
って、それよりもこんなに人が犠牲になっていて、問題に挙がっていないほうが、問題じゃないの?
「酒吞。ちょっと待とうか。王都の側で暴れて王都に被害が出ると、王様から怒られると思うから駄目だよ」
好戦的な酒吞にはちょっと待つように言う。ここは王都に近すぎる。
そして、私は神父様の方に視線を向ける。
「この被害の多さは一日二日という感じではないよね。王様の方に話が挙がって来ていなかったの?」
今日、王様に報告しに行った神父様に聞く。
夜叉の足元にある骨の残骸の中には革鎧も見えるけど、騎士に支給されている魔鉄の鎧もある。これはどこかの騎士団が被害にあっていると思う。
しかし、聖騎士では無さそう。聖騎士であるなら、神父様を崇拝している団長が神父様に報告していないわけがない。
「私は聞いていないですね。昔から、他の騎士団と聖騎士団は仲が悪いですから、自分たちでオーガぐらい討伐できると意気込んで返り討ちにされたのでしょう」
オーガぐらい……後ろ姿を見る限り、人食い鬼に見えるけど、まとっている雰囲気が、龍神のおかみ……さんと酷似したヤバさを感じる。
どこの騎士団か知らないけど、そこに聖騎士団の本部があるのだから、文句を言いにくるぐらいなら、報告してよ!仲が悪すぎ!
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