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311 北の森の現状
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何が駄目なのかよくわからないけど、取り敢えず黒い筒状の笛を咥え、ふーっと息を吐き出す。
……普通に私の息が出て行っただけになったけど?何も音なんて出ないし……もしかして、尺八みたいにコツがいるとか言わないよね。
そう思いながら今度は思いっきり息を吐き出す。
うん。私の息が勢いよく出て行っただけだね。
あっ、先程まで聞こえていた森の中を蹂躙する音が無くなり、鬼の二人と黒狐の気配がこちらに向って来ている。
「犬笛か!」
これは人には聞こえない高い音がなる笛だ。私には聞こえないが、高い音は遠くまで鳴り響くから、使われているのだろう。
確かにこれだったら、人には聞こえないという意味では『響声』とは違う。
でも、周りに聞こえてはいけない理由ってなんだろう?別に常闇があるって叫ぶわけでもないのに。
「アンジュ。イヌブエとは、なんだ?」
「はっ!」
そう言えば犬はこの世界にはいなかった。私は聞いてきたルディに向って、へろりと笑う。
「普通の人に聞こえない音がなる笛の別名かな?」
別にウソは言ってはいない。この世界には犬が居ないというだけだ。
「それで、『響声』では駄目な理由ってなに?」
「アンジュ。それはそこの見張り台の奴らが、うるさいと文句を言ってくるからだ」
ルディに聞いたのに、ファルが王都を囲っている外壁にある見張り台を睨みつけながら、答えてくれた。
これは聖騎士と一般騎士との確執か。
神父様ですら嫌な顔をしていたから、本当に昔から仲が悪いのだろう。
「壁を破壊したときは、直接団長のところに文句を言いに来たぐらいだ」
これは部下の管理がなってないということを言いに来たということかな?聞いているだけでもギスギス感を感じる。
「何かございましたか?」
ファルがグチグチと言っている間に朧が戻ってきた。時間的には1分ぐらいしか経ってないんじゃない?
「ウォ!」
「え?どこにいましたの?」
「怖っ!」
「ひゃぁ!」
騎士の四人がルディの前に跪いて現れた朧に、驚いた声を上げている。
「あー!負けちまった」
「別に競争はしていませんよ」
その後ろから、酒吞と茨木も現れた。鬼の二人の速さはこの目で見て知っているけど、それよりも朧の方が速いのか。王家の闇を生業としている種族だから、当たり前と言えばそうだよね。
「さっきまで、壁の向こう側にいたじゃないっすか!」
ティオが突っ込んでいるけど、彼らの気配を感じていなかったのかな?まぁ、彼らの気配は普通と違うから掴みにくいから、もう少し鍛錬が必要かな?
第十三部隊が鍛錬なんて、ほぼしていないけどね。
「あ?ここにもあるじゃねぇか。俺達が一番だと思ったのになぁ」
「これは探せばもっとあるかもしれませんね」
酒吞と茨木が不穏な言葉を口にした。彼らは彼らで常闇を見つけたらしい。それも一つではない雰囲気だ。
「どういうことだ?」
ルディが、鬼の二人に尋ねる。こっちから壁の向こう側の様子を予想すると、ただ単に暴れているようにしか思われなかったのだけど?
「犬っころが多くてな。まだ全部、始末できていねぇ」
「イヌッコロ?」
「またイヌか」
ルディとファルからなんとも言えない視線を向けられた。いや、だから犬がこの世界に居ないだけなんだよ。
「ああ、魔狼と言うモノでしたね。それが群れをなしているのです。そうですね。私と酒吞だけでも百匹は始末したと思いますよ」
「魔狼が百匹!」
「あら?これはかなり大きな群れね」
茨木の言葉にロゼとリザ姉が驚きを顕にした。そして騎士の四人は固まってしまっている。
魔狼は百匹という大所帯では群れを作らないのが常識だ。それはそこまで大所帯となると、群れを維持できなくなると言われているからだ。
まぁ、食べ物の問題だ。
それも百匹というのは酒吞と茨木が倒した数で朧が倒した数は入っていない。そして、まだ残っているという。
……これっておかしくない?
「多すぎると思う。どこの魔境っていう感じ。それに何のための見張りだと叫んでいいかな?あの見張り台の意味がない!」
常闇の報告が上がっていないのもおかしい。冒険者だって北の森にいるはず。
「木々が生い茂っていれば、上からでは見つけられないでしょう」
「それに中々手応えのあるヤツもいたしな」
「口から血が滴った腕が飛び出ていましたけどね」
何が居たのかわからないけど、人が食べられているし!誰か北の森がおかしいと上に報告してよ!全員が魔物に食べられたわけじゃないはずだし!
「異形が潜んでいたということか?」
ルディが北の森に魔物ではないモノが住み着いていたのかと確認するが、鬼の二人は首を捻っている。
「あれはなんだろうなぁ。大きい犬っころといえばいいのか?」
「化け犬でしょうか?」
「あれは幻狼です」
朧から問題の魔物の名前が出てきた。幻狼。書物の中でしか知らないけれど、厄介な魔物が北の森に生息していることがわかったのだった。
……普通に私の息が出て行っただけになったけど?何も音なんて出ないし……もしかして、尺八みたいにコツがいるとか言わないよね。
そう思いながら今度は思いっきり息を吐き出す。
うん。私の息が勢いよく出て行っただけだね。
あっ、先程まで聞こえていた森の中を蹂躙する音が無くなり、鬼の二人と黒狐の気配がこちらに向って来ている。
「犬笛か!」
これは人には聞こえない高い音がなる笛だ。私には聞こえないが、高い音は遠くまで鳴り響くから、使われているのだろう。
確かにこれだったら、人には聞こえないという意味では『響声』とは違う。
でも、周りに聞こえてはいけない理由ってなんだろう?別に常闇があるって叫ぶわけでもないのに。
「アンジュ。イヌブエとは、なんだ?」
「はっ!」
そう言えば犬はこの世界にはいなかった。私は聞いてきたルディに向って、へろりと笑う。
「普通の人に聞こえない音がなる笛の別名かな?」
別にウソは言ってはいない。この世界には犬が居ないというだけだ。
「それで、『響声』では駄目な理由ってなに?」
「アンジュ。それはそこの見張り台の奴らが、うるさいと文句を言ってくるからだ」
ルディに聞いたのに、ファルが王都を囲っている外壁にある見張り台を睨みつけながら、答えてくれた。
これは聖騎士と一般騎士との確執か。
神父様ですら嫌な顔をしていたから、本当に昔から仲が悪いのだろう。
「壁を破壊したときは、直接団長のところに文句を言いに来たぐらいだ」
これは部下の管理がなってないということを言いに来たということかな?聞いているだけでもギスギス感を感じる。
「何かございましたか?」
ファルがグチグチと言っている間に朧が戻ってきた。時間的には1分ぐらいしか経ってないんじゃない?
「ウォ!」
「え?どこにいましたの?」
「怖っ!」
「ひゃぁ!」
騎士の四人がルディの前に跪いて現れた朧に、驚いた声を上げている。
「あー!負けちまった」
「別に競争はしていませんよ」
その後ろから、酒吞と茨木も現れた。鬼の二人の速さはこの目で見て知っているけど、それよりも朧の方が速いのか。王家の闇を生業としている種族だから、当たり前と言えばそうだよね。
「さっきまで、壁の向こう側にいたじゃないっすか!」
ティオが突っ込んでいるけど、彼らの気配を感じていなかったのかな?まぁ、彼らの気配は普通と違うから掴みにくいから、もう少し鍛錬が必要かな?
第十三部隊が鍛錬なんて、ほぼしていないけどね。
「あ?ここにもあるじゃねぇか。俺達が一番だと思ったのになぁ」
「これは探せばもっとあるかもしれませんね」
酒吞と茨木が不穏な言葉を口にした。彼らは彼らで常闇を見つけたらしい。それも一つではない雰囲気だ。
「どういうことだ?」
ルディが、鬼の二人に尋ねる。こっちから壁の向こう側の様子を予想すると、ただ単に暴れているようにしか思われなかったのだけど?
「犬っころが多くてな。まだ全部、始末できていねぇ」
「イヌッコロ?」
「またイヌか」
ルディとファルからなんとも言えない視線を向けられた。いや、だから犬がこの世界に居ないだけなんだよ。
「ああ、魔狼と言うモノでしたね。それが群れをなしているのです。そうですね。私と酒吞だけでも百匹は始末したと思いますよ」
「魔狼が百匹!」
「あら?これはかなり大きな群れね」
茨木の言葉にロゼとリザ姉が驚きを顕にした。そして騎士の四人は固まってしまっている。
魔狼は百匹という大所帯では群れを作らないのが常識だ。それはそこまで大所帯となると、群れを維持できなくなると言われているからだ。
まぁ、食べ物の問題だ。
それも百匹というのは酒吞と茨木が倒した数で朧が倒した数は入っていない。そして、まだ残っているという。
……これっておかしくない?
「多すぎると思う。どこの魔境っていう感じ。それに何のための見張りだと叫んでいいかな?あの見張り台の意味がない!」
常闇の報告が上がっていないのもおかしい。冒険者だって北の森にいるはず。
「木々が生い茂っていれば、上からでは見つけられないでしょう」
「それに中々手応えのあるヤツもいたしな」
「口から血が滴った腕が飛び出ていましたけどね」
何が居たのかわからないけど、人が食べられているし!誰か北の森がおかしいと上に報告してよ!全員が魔物に食べられたわけじゃないはずだし!
「異形が潜んでいたということか?」
ルディが北の森に魔物ではないモノが住み着いていたのかと確認するが、鬼の二人は首を捻っている。
「あれはなんだろうなぁ。大きい犬っころといえばいいのか?」
「化け犬でしょうか?」
「あれは幻狼です」
朧から問題の魔物の名前が出てきた。幻狼。書物の中でしか知らないけれど、厄介な魔物が北の森に生息していることがわかったのだった。
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