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309 常闇が普通にあるし
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私の目の前には常闇がある。確かにある。
「あら? 本当にあったわ」
「隊長。これヤバくないですか?」
「探すまでもなかったな」
「王都の外壁内にあるじゃないか!」
ファルが叫んでいる通り、王都の中に魔物を侵入させないように囲っている高い石壁があるのだけど、私達はそこに行き着くまでに常闇を見つけてしまった。それも人が通れそうなほどの大きさだ。
「これって、王都の中に魔物がいてもおかしくはない状況だよね」
私が指摘すると、なんとも言えない空気が漂ってきた。
人が通れそうな大きさの常闇があるところは、そこを通れる魔物が存在することが多い。
となると、魔狼やコボルト、ゴブリンなど、小物だが数で有無を言わせず襲ってくるモノたちが多くなる。
「でも! この森は一応聖騎士団の敷地内だから、簡単には王都の方にはいけないはずだよね!まだ、魔物が出たと聞いていないしね」
ロゼが聖騎士団の上層部から、敷地内に魔物を見かけたという情報が降りてきていないと言っているけど、そもそも聖騎士団の敷地は4キロメル四方に渡って存在するも、半分ぐらいは森に占められている。
その森の中を巡回するシステムがあるとは、私は今まで聞いたことはない。
「ねぇ、ロゼが王都の近くの常闇の巡回に行くって言う話は聞いたけれど、この森も含まれているの?」
私の質問にロゼは、ハッとして頭を抱えている。
そうか、この森は巡回する場所にはされていないのか。
「この森には常闇が存在しない……しなかったの。だから、どの部隊の巡回路には含まれていないはずよ」
リザ姉が今までの認識では、聖騎士団の北側の敷地には常闇は存在していなかったということらしい。
そうなると、ここ最近常闇が発生したことになる。
いや正確に言えば、空間にパテのように覆い隠した常闇の一部が現れてしまったということだ。
私は周りの景色を見渡す。ちょっと先程から嫌な予感はしているのだ。
微妙に周りの風景は違っているけれど、ここから見える王都の石の外壁の見張り台の位置に見覚えがあったりする。
「ファル様。一度、この辺りの森の再生をしたのかな?」
「あ?……んーん?」
ファルは辺りを見渡して考えはじめ、ふと私が見ていた王都の外壁の見張り台に視線を止めた。
「あの見張りの塔がある横から第十三部隊の詰め所まで結んだところの森を再生したな」
私達は第十三部隊の詰め所から一直線に北側に向って歩いてきたのだ。ということは、この常闇もその直線上に存在することになる。
「ここって発現した聖痕の暴走を二度食らって、ルディが破壊したところだと思うんだよね」
そう、私がキルクスの同期に攻撃された場所であり、ルディが王都の外壁の向こう側まで破壊した場所だと思える。
三度の暴力的な攻撃にさらされた空間は、覆いかぶさるようにあった、魔力のパテが剥がれてしまったのではないのだろうか。
「で、思ったより大きな穴が空いてしまったと、森を修復しているときに、ファル様は気が付かなかったわけ?ここまで大きいと普通は気がつくよね?」
取り敢えず、その後にこの辺りを彷徨っていただろうファルの所為にした。危機管理がなってないんじゃないのかと。
「おい、アンジュ。俺に一服盛っておいて、それはないよな」
未だにファルは薄めれば回復薬を黙って飲ませたことを根に持っていた。心が狭いな。
「それに途中から一気に森が再生していったから、この辺りには足を踏み入れていない」
「え?森がきちんと再生できているか、確認していなかったの?」
「それどころじゃなかっただろう!普通は一気に森が再生することなんてない!」
でもそれが本来の力だよね。緑の手を持つ女性なんて、多くの人を養うほどの食物を一瞬にして成長させたのだから。
「言い合いをしているところではないだろう?先にすべきことがあるのではないのか?」
ここで真面目な言葉が割り込んできた。第十二部隊長さんだった。
普通はルディが言うべきところなのだろうけど、ルディはさっきから一言も喋ってはいない。悪い事をしたと反省でもしているのかな?
「よし。教会にある聖女の像を全て、太陽の聖女の像にすればいいよな。それがいい!皆がアンジュを称えればいいと思う」
「ルディ。今その話をしなくてもいいし、私はそんなのは嫌だ」
私を宗教の偶像崇拝物にしないで欲しい。もし、本気で作ったら、粉々に壊す!
「そうか……今ある聖女の像はすべて月の聖女の像だろう?あの常闇に落ちていった聖女を崇めるということは、アンジュが言う、黒い女に力を与えていることにならないのか?」
ルディの指摘にハッとする。確かに聖女の像の天使の聖痕はお皿だ。王冠のような聖痕じゃない。
「それに知っているか?聖女の像の向きは王城に向けられて設置されているって」
「え?空に向って祈っているよね?」
「それは像の形だろう?聖女の顔の向きだ。あとアンジュ。笛を吹いてくれないか?」
ルディから思ってもみない言葉の上に、更に意味がわからない言葉がかぶさってきた。
フエって何?
「あら? 本当にあったわ」
「隊長。これヤバくないですか?」
「探すまでもなかったな」
「王都の外壁内にあるじゃないか!」
ファルが叫んでいる通り、王都の中に魔物を侵入させないように囲っている高い石壁があるのだけど、私達はそこに行き着くまでに常闇を見つけてしまった。それも人が通れそうなほどの大きさだ。
「これって、王都の中に魔物がいてもおかしくはない状況だよね」
私が指摘すると、なんとも言えない空気が漂ってきた。
人が通れそうな大きさの常闇があるところは、そこを通れる魔物が存在することが多い。
となると、魔狼やコボルト、ゴブリンなど、小物だが数で有無を言わせず襲ってくるモノたちが多くなる。
「でも! この森は一応聖騎士団の敷地内だから、簡単には王都の方にはいけないはずだよね!まだ、魔物が出たと聞いていないしね」
ロゼが聖騎士団の上層部から、敷地内に魔物を見かけたという情報が降りてきていないと言っているけど、そもそも聖騎士団の敷地は4キロメル四方に渡って存在するも、半分ぐらいは森に占められている。
その森の中を巡回するシステムがあるとは、私は今まで聞いたことはない。
「ねぇ、ロゼが王都の近くの常闇の巡回に行くって言う話は聞いたけれど、この森も含まれているの?」
私の質問にロゼは、ハッとして頭を抱えている。
そうか、この森は巡回する場所にはされていないのか。
「この森には常闇が存在しない……しなかったの。だから、どの部隊の巡回路には含まれていないはずよ」
リザ姉が今までの認識では、聖騎士団の北側の敷地には常闇は存在していなかったということらしい。
そうなると、ここ最近常闇が発生したことになる。
いや正確に言えば、空間にパテのように覆い隠した常闇の一部が現れてしまったということだ。
私は周りの景色を見渡す。ちょっと先程から嫌な予感はしているのだ。
微妙に周りの風景は違っているけれど、ここから見える王都の石の外壁の見張り台の位置に見覚えがあったりする。
「ファル様。一度、この辺りの森の再生をしたのかな?」
「あ?……んーん?」
ファルは辺りを見渡して考えはじめ、ふと私が見ていた王都の外壁の見張り台に視線を止めた。
「あの見張りの塔がある横から第十三部隊の詰め所まで結んだところの森を再生したな」
私達は第十三部隊の詰め所から一直線に北側に向って歩いてきたのだ。ということは、この常闇もその直線上に存在することになる。
「ここって発現した聖痕の暴走を二度食らって、ルディが破壊したところだと思うんだよね」
そう、私がキルクスの同期に攻撃された場所であり、ルディが王都の外壁の向こう側まで破壊した場所だと思える。
三度の暴力的な攻撃にさらされた空間は、覆いかぶさるようにあった、魔力のパテが剥がれてしまったのではないのだろうか。
「で、思ったより大きな穴が空いてしまったと、森を修復しているときに、ファル様は気が付かなかったわけ?ここまで大きいと普通は気がつくよね?」
取り敢えず、その後にこの辺りを彷徨っていただろうファルの所為にした。危機管理がなってないんじゃないのかと。
「おい、アンジュ。俺に一服盛っておいて、それはないよな」
未だにファルは薄めれば回復薬を黙って飲ませたことを根に持っていた。心が狭いな。
「それに途中から一気に森が再生していったから、この辺りには足を踏み入れていない」
「え?森がきちんと再生できているか、確認していなかったの?」
「それどころじゃなかっただろう!普通は一気に森が再生することなんてない!」
でもそれが本来の力だよね。緑の手を持つ女性なんて、多くの人を養うほどの食物を一瞬にして成長させたのだから。
「言い合いをしているところではないだろう?先にすべきことがあるのではないのか?」
ここで真面目な言葉が割り込んできた。第十二部隊長さんだった。
普通はルディが言うべきところなのだろうけど、ルディはさっきから一言も喋ってはいない。悪い事をしたと反省でもしているのかな?
「よし。教会にある聖女の像を全て、太陽の聖女の像にすればいいよな。それがいい!皆がアンジュを称えればいいと思う」
「ルディ。今その話をしなくてもいいし、私はそんなのは嫌だ」
私を宗教の偶像崇拝物にしないで欲しい。もし、本気で作ったら、粉々に壊す!
「そうか……今ある聖女の像はすべて月の聖女の像だろう?あの常闇に落ちていった聖女を崇めるということは、アンジュが言う、黒い女に力を与えていることにならないのか?」
ルディの指摘にハッとする。確かに聖女の像の天使の聖痕はお皿だ。王冠のような聖痕じゃない。
「それに知っているか?聖女の像の向きは王城に向けられて設置されているって」
「え?空に向って祈っているよね?」
「それは像の形だろう?聖女の顔の向きだ。あとアンジュ。笛を吹いてくれないか?」
ルディから思ってもみない言葉の上に、更に意味がわからない言葉がかぶさってきた。
フエって何?
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