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308 聖女は尊い

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「第十二部隊長さん。常闇探しに付き合っていて大丈夫なのですか?」

 ロゼとリザ姉は、どちらかと言えば戦闘向きではなく、補助系だ。だから私の常闇を見つけようぜ探検に、つきあってくれても問題ないと思う。

 でも、戦力で言えば第十二部隊長さんはトップクラスだろう。隊長だからというのもそうだけど、あの全てを砂塵に変えてしまうような聖痕……未だに何の聖痕かはわからないけれど……あれには誰も敵わないのではないのかな?

 強いて言うなら、形がないルディの闇とか、神父様の光なら太刀打ちできるぐらいだろう。
 因みに神父様は、王様に報告に行っているので、日が暮れてから合流すると、朝に言われた。

「大丈夫だ」

 ……一言で済んでしまった。え?本当に大丈夫なの?
 もしかして、第十二部隊長さんが私の聖騎士になってしまったから、これが優先されてしまっている?
 他の人に迷惑をかけてしまっていたなら、なんだか私が凄く悪いヤツになってしまう。

「アンジュちゃん、本当に大丈夫なのよ」

 リザ姉までもが大丈夫だと言った。ということは、本当に待機しておかなくていいのだろう。

「キルクスの常闇を閉じてから、街の周りでは、小さな魔物まで見なくなったんだよね」
「ロゼ、なにそれ?だって、西の森に管理者を置いて、魔物が街に近づかないようにしていたぐらいなのに?」

 私が教会の最後のお務めとして、神父様のお願いという名の試練を行った場所だ。その時は魔物でななくて、見習いの騎士共が出てきたのだけど。

「ギルフォード副隊長の報告では、本当に見かけなくなって、冒険者が街で受ける依頼が少なくなってしまったぐらいだって」

 ギル副隊長って私に文句を言ってきた人かな?キルクスの教会で見た顔だったから、なんとなくは覚えている。

 しかし、冒険者の仕事がなくなってしまったとしたら、冒険者は他の街に行ってしまって、冒険者たちを相手に商売していた人たちもどこかに行ってしまったら、キルクスの街って寂れていかない?
 それはそれで問題だよね。

「あのね。アンジュちゃん。私は、教会でいつも聖女様にお祈りをしていたけれど、ちょっと意味がわからなかったのよ。だって、聖女の像も空に祈っているのよ?私たちの祈りなんて聞いてくれなさそうでしょ?」

 ん?どこから聖女の像の話になったのかな?
 しかし、リザ姉も聖女に祈るなんてバカバカしいって思っていたらしい。っていうか、教会に居た子供たちの殆どがそうだろう。だって、聖女の像は私達を見てくれていないのだから。

「だけど、教会はきっと感謝をする場だったのね。平和をありがとうって」

 感謝の場?空しか見ていない聖女に?
 常闇に落ちて、いろんなモノを貪欲に食らっているのに?

「本当!神父様が居ないから言えるけど、あの聖女像の首を下に向けさそうかと何度か思ったんだよ」
「ロゼ。すれば良かったのに」
「バカ。そんなことをすれば、シスター・マリアから笑顔で、課題の追加をだされるじゃない!アンジュじゃないんだからそんなことはしないよ」

 いや、私でもしない。
 するなら、像を拭いていたら、首が折れちゃった(テヘペロ)っていう感じで、へし折るね。いや、実際にした。

「そうよね。アンジュちゃんぐらいよね。堂々と聖女様の像の首をへし折るのは」
「リザ姉。あれは事故に見せかけていたじゃない」
「逆さに頭が落ちたから天使の聖痕が粉々になっていたのも、ワザとだったよね」
「え?なんかムカついたし」

 さっきから、周りからの視線が冷たい。

 ロゼは天使の聖痕を壊したのはワザとだと、呆れた目をしながら決めつけてきた。

 四人の騎士シュヴァリエたちは何故か徐々に距離をとり、遅れだした。まぁ、北の森全体の捜索なので、距離が離れて行くのはいいけど、遅れるのはちょっと違う。

「アンジュ」

 ファルから凄く神妙な声で、声を掛けられた。その目はなんだか怒っているようにも見える。

「なに?ファル様」

 なんだか、珍しいことだと思いながら、聞き返す。

「聖女様は尊いものだ。首なんて折るんじゃない」

 尊いって何?
 聖女を叔母に持つファルは、聖女っていうものを神聖視しすぎていると思う。もちろん、その中には私は入っていないよね。

 だけどさぁ、自分の頭の上に天使の聖痕が顕れた日には、お前の頭の上はどうなっているのだと見てみれば、違うじゃないか!と思わず力も入ってしまうもの。

 あれは事故だ。それで解決したから、今更蒸し返しても仕方がない。
 そう、神父様には経年劣化じゃないのかと、聖女の像が悪いように言い訳をしたのだった。

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