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304 獅子王はクソだった
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「結局のところわかったことを、まとめましょうか」
あれから一階層の扉の前に転移された。そして神父様のチートな聖騎士のタグで呼び出された馬車に乗って、聖騎士団の本部があるところまで戻ってきた。しかし、既に夜中だったため、現在は翌朝の第13部隊のぽつんと一軒家に皆が集合していた。
「おおおおおおおお茶をおおお持ちしましたぁぁぁぁぁ~」
『お』を異常に多く発音しながら、ガタガタ震えているヴィオが、トレイを持ってローテーブルの側に立っている。いや、何も無い床につまずいて、倒れ込んていた。
毎回無理をして持って来なくていいのに。
私は重力の聖痕をつかって、ヴィオの手から離れていくトレイとその上に乗っているティーカップを浮かせた。
そして、ヴィオ自身は近くに立っている茨木に猫の子をつまむように、背後から首元を掴まれ、テーブルに激突することを避けられていた。
茨木が子猫を放り出すようにヴィオを床に解放しているのを横目で見ながら、私は浮かせているティーカップをテーブルにおいていく。
神父様はいつもファルが定位置で座っている暖炉の向かい側に座り、ファルはいつもとは正反対の暖炉を背にして座っている。その暖炉には火が入り、部屋を温めていた。
ルディは定位置の一人がけのソファーに私を膝の上に抱きかかえて座っており、向かい側に朝から酒瓶を五本開けている酒吞が座っている。
ダンジョンにいる間、飲めなかったからと、昨日の夜中から飲んでいるらしい。酒吞は思っていた以上に役立ってもらったから、好きに飲んでくれていいよ。酒吞の分のお茶はない。
その酒吞の背後にはいつもどおり茨木が控えていた。私は浮かせたティーカップを茨木の側に運んでいく。
「ありがとうございます」
「ししししし失礼しまししした!」
茨木の声とヴィオの声が重なる。顔を真赤にしたヴィオは足をもつれさせながら、食堂の方に駆けていった。
部屋の中で走ると危ないよ。ほら、部屋の中央を占領しているビリヤード台にぶつかっている。
「アンジュ。見たことと聞いたことを話してください」
神父様が一番に私を名指して指名してきた。いや、一番違うものを見て聞いていたのは私だ。
「獅子王はクソだった」
「感想ではなく、実際に起こったことです」
私の愚痴は聞いてくれないわけ?あれは絶対に性格が悪いと思う。
「いや、私自身が何が起こったのか全くわかっていない。視覚の乖離があったのは黒狐の王妃が出てきたぐらいからだよね」
私は常闇の穴からは黒いモヤが出てきたとしかわからなかった。そしてなにもかもが黒い女性は私にしか見えていなかった。まるで黒い鎖のようにだ。
そして突然二十九階層で私は鎖に捕らわれ、私を世界の力に変換するために三十階層に落とすつもりだった。だけど結局、人を世界の力に変える装置を目にすることはなかった。その場所をさけるように三十階層の転移装置がある場所にたどり着いてしまったのだ。
あの場所に落ちてみるべきだった?でも出られなかったら困るしな。
それぞれの見たもの聞いたものを神父様が確認していった。ただやはりルディとファルの見ている物は同じで、神父様は鎖の有り無しの違いが見られるぐらい。
酒吞と茨木は同じで、黒狐の王妃とあと黒い女性がいたところは空気が揺らめいて陽炎のように見えていたらしい。
視覚の共有ができていない時点で情報としては曖昧さが出てきてしまう。結局何が真実かわからないからだ。
「今回でわかったことをまとめますと、『獣人の王』という存在が、種族の永遠の命を実現させ、その者たちが生きる国を作ったのが、世界の力を枯渇させる原因となったことが始まりですね」
神父様が今回わかったことをまとめだした。それをファルが書記官の様に紙に書き留めている。
「世界はどこからか力を取り入れたものの、それを今度は人が力として使いだした。ここで人が長年虐げていた獣人に対して反旗を翻すことになります」
人が初めて魔術を使った瞬間だ。だけど、これもまた世界の思惑とは外れていた。
「そして世界は獣人と人を排除するために、魔物をこの世界に呼び寄せました。ただ、これは我々に聖痕を与える結果になっただけで、我々は生き延びることができました」
太陽が昇らなくなったこの地に、住んでいる人たちは世界に願った。暗闇を照らす月の明かりが欲しいと、暗闇でも食料を手に入れたいと。そして、魔物から人々を守るために、命をかけて大樹を創り出した。彼の選択は正しかったのか私にはわからない。けれど、結局彼は王となりこの国の礎を築いたのだ。
彼は人々を支えてくれた緑の手を持つ女性を失い、月の聖痕を持つ女性を失って、手にしたものは聖王という玉座。そして彼を王と称える民。
彼の心の内はどのようなものだったのだろう。最後の言葉も、この国を守れという言葉でしかなかった。
あれから一階層の扉の前に転移された。そして神父様のチートな聖騎士のタグで呼び出された馬車に乗って、聖騎士団の本部があるところまで戻ってきた。しかし、既に夜中だったため、現在は翌朝の第13部隊のぽつんと一軒家に皆が集合していた。
「おおおおおおおお茶をおおお持ちしましたぁぁぁぁぁ~」
『お』を異常に多く発音しながら、ガタガタ震えているヴィオが、トレイを持ってローテーブルの側に立っている。いや、何も無い床につまずいて、倒れ込んていた。
毎回無理をして持って来なくていいのに。
私は重力の聖痕をつかって、ヴィオの手から離れていくトレイとその上に乗っているティーカップを浮かせた。
そして、ヴィオ自身は近くに立っている茨木に猫の子をつまむように、背後から首元を掴まれ、テーブルに激突することを避けられていた。
茨木が子猫を放り出すようにヴィオを床に解放しているのを横目で見ながら、私は浮かせているティーカップをテーブルにおいていく。
神父様はいつもファルが定位置で座っている暖炉の向かい側に座り、ファルはいつもとは正反対の暖炉を背にして座っている。その暖炉には火が入り、部屋を温めていた。
ルディは定位置の一人がけのソファーに私を膝の上に抱きかかえて座っており、向かい側に朝から酒瓶を五本開けている酒吞が座っている。
ダンジョンにいる間、飲めなかったからと、昨日の夜中から飲んでいるらしい。酒吞は思っていた以上に役立ってもらったから、好きに飲んでくれていいよ。酒吞の分のお茶はない。
その酒吞の背後にはいつもどおり茨木が控えていた。私は浮かせたティーカップを茨木の側に運んでいく。
「ありがとうございます」
「ししししし失礼しまししした!」
茨木の声とヴィオの声が重なる。顔を真赤にしたヴィオは足をもつれさせながら、食堂の方に駆けていった。
部屋の中で走ると危ないよ。ほら、部屋の中央を占領しているビリヤード台にぶつかっている。
「アンジュ。見たことと聞いたことを話してください」
神父様が一番に私を名指して指名してきた。いや、一番違うものを見て聞いていたのは私だ。
「獅子王はクソだった」
「感想ではなく、実際に起こったことです」
私の愚痴は聞いてくれないわけ?あれは絶対に性格が悪いと思う。
「いや、私自身が何が起こったのか全くわかっていない。視覚の乖離があったのは黒狐の王妃が出てきたぐらいからだよね」
私は常闇の穴からは黒いモヤが出てきたとしかわからなかった。そしてなにもかもが黒い女性は私にしか見えていなかった。まるで黒い鎖のようにだ。
そして突然二十九階層で私は鎖に捕らわれ、私を世界の力に変換するために三十階層に落とすつもりだった。だけど結局、人を世界の力に変える装置を目にすることはなかった。その場所をさけるように三十階層の転移装置がある場所にたどり着いてしまったのだ。
あの場所に落ちてみるべきだった?でも出られなかったら困るしな。
それぞれの見たもの聞いたものを神父様が確認していった。ただやはりルディとファルの見ている物は同じで、神父様は鎖の有り無しの違いが見られるぐらい。
酒吞と茨木は同じで、黒狐の王妃とあと黒い女性がいたところは空気が揺らめいて陽炎のように見えていたらしい。
視覚の共有ができていない時点で情報としては曖昧さが出てきてしまう。結局何が真実かわからないからだ。
「今回でわかったことをまとめますと、『獣人の王』という存在が、種族の永遠の命を実現させ、その者たちが生きる国を作ったのが、世界の力を枯渇させる原因となったことが始まりですね」
神父様が今回わかったことをまとめだした。それをファルが書記官の様に紙に書き留めている。
「世界はどこからか力を取り入れたものの、それを今度は人が力として使いだした。ここで人が長年虐げていた獣人に対して反旗を翻すことになります」
人が初めて魔術を使った瞬間だ。だけど、これもまた世界の思惑とは外れていた。
「そして世界は獣人と人を排除するために、魔物をこの世界に呼び寄せました。ただ、これは我々に聖痕を与える結果になっただけで、我々は生き延びることができました」
太陽が昇らなくなったこの地に、住んでいる人たちは世界に願った。暗闇を照らす月の明かりが欲しいと、暗闇でも食料を手に入れたいと。そして、魔物から人々を守るために、命をかけて大樹を創り出した。彼の選択は正しかったのか私にはわからない。けれど、結局彼は王となりこの国の礎を築いたのだ。
彼は人々を支えてくれた緑の手を持つ女性を失い、月の聖痕を持つ女性を失って、手にしたものは聖王という玉座。そして彼を王と称える民。
彼の心の内はどのようなものだったのだろう。最後の言葉も、この国を守れという言葉でしかなかった。
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