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302 双子の聖女の兄は知っていた?
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「穴の前に黒い女性がいるのだけど、見えている人いる?」
……誰も答えない。やはり、私だけが見えている。何故に!
「もう!本当に何故、人によって見える見えないが出ているの!早く出口に向かわないと、ここで殺されるっていうのに!」
私が一人で憤っていると、背後から茨木が言いにくそうに話かけてきた。
「アンジュ様。先程の鎖はどうされたのでしょうか?」
「消えたけど?それよりもさっさと行くよ!」
聖女と獣人が混ざった姿をした女性が、黒い鎖を放ってきた。私は個別で六角形の小さな結界を複数展開して、回転させながら、鎖に対処する。結局この鎖の打開策もない。
「あの……黒狐は水を司るので対応出来ないと思いますが、鎖だけなら対処可能かもしれません」
その言葉に私を捕獲しているルディから飛び降りて、茨木の前に立つ。
「本体はあそこ!鎖は穴から出てきているから、このまま進むのは強引に行くしかないと思っていたんだよ!」
私はすり鉢状になった場所を指して言った。すると茨木が酒吞に頼み事をする。
「酒吞。思いっきり燃やしてください」
「ん?穴をか?」
「穴全体です」
「はぁ、さっきの穴から出てきていた奴らを相手にしたかった。ただの穴なんて味気ねぇーな」
そう言いながら酒吞はすり鉢状の場所に右腕をぐるぐる回しながら進んでいく。
何故、酒吞なのだろう?確かに酒吞の火力は凄いけど、逆に言えば火力しかない。
「ねぇ、どうして酒吞なの?」
「あの鎖が天の属性なのかと思いまして」
「天の属性?」
「ほら、太陽と月と言っているではないですか」
茨木は自分の頭上の何もない空間を指しながら言った。これは天使の聖痕のことを言っている?
「ですから天の属性であれば、アンジュ様も使用可能だということになります」
おお!そういう考え方か。
天の属性ってことか……で、どこに酒吞の火が関係するわけ?
私が首を傾げていると、いきなり火柱が立ち上った。柱っていうか炎の嵐って言っていいかもしれない。
その穴から立ち上る炎は天井に当たって、跳ね返り、こっちの方にも火の粉が落ちてきていた。これ普通に死ぬし。
そして怒りとも悲しみとも苦しみともとれる叫び声が響いている。いや、普通に効いているんじゃない?
「酒吞の炎が燃えている間に、進みましょう。この程度ではさほど効いていないでしょうから」
「え?これで効いていないの!」
私が聞き返していると、ルディに抱え上げられ、火の雨が落ちてきている中、進みだした。
「こんなんじゃぁ全然だ。ここが壊れちゃ元も子もねぇからな」
先頭を進んでいる酒吞が火の雨を手で払いながら言ってきた。いや、この炎は落ちてきている火に当たっただけでも、炭化しそうだけど。
しかし鬼の二人が、あの黒い女性にはダメージなど与えていないと言っているのだから、そうなのかもしれない。
それに窪んでいる石畳と壁との狭い通路を通っていても鎖は絡みついてこないので、鎖対策ができると言ったのは本当のことだった。
「うん。鎖が向って来ないだけでも十分」
鎖には炎でなら対抗できる!これだけでもわかったのなら、ここに来た甲斐もあったというもの……炎?鎖と炎……あれ?
「これ、もしかして200年前の双子の聖女の兄って、これのことを知っていた?!」
あれだ!未だに聖女たちの生家があった場所が、青い炎に囲まれて燃え続けているという話。
「聖女が死したあと鎖に絡まれて、世界に食われることを防いでいた?」
もし双子の聖女の兄がそのことを知っていたとすれば、世界のために戦った妹たちの死というものを、青い炎で守っていたということになる。
本当に怒りしかなかったのだろう。
世界の為に戦って、役目が終わればその躯は世界の糧になる。理不尽にも程がある。
「でも何故に炎?」
私の独り言に答えてくれたのは、やはり茨木だった。
「火剋金ですよ」
五行思想の考えか。確かに鎖は金属だけど、そういうことじゃないよね。
二十九階層の出口と思われるところに入ったところで、背後から再び熱気が押し寄せてきた。
これは階層との間で酒吞が炎を出したのだろう。
前方は降りる階段が暗闇の中に続いていた。
「ここで炎の壁を作っておけば背後から攻撃はされないでしょう」
「ファル様より役に立つ!」
「アンジュよりもな!」
ファルに言い返されてしまった。しかし、死の鎖は炎で防御できるなんて、そんな発想はなかったのだから、仕方がない。
「それで、火剋金の金は金属って意味じゃないよね」
皆は進むペースを落とさないまま、階段を駆け下りている。私が殺されるって焦っていたからだろうが、見通しの悪い深い階段が続いているところでは気をつけた方がいいと思うけど?
そんな中、私はルディに抱えられて楽をしていた。いや抱えられていなくても重力の聖痕で浮いているけどね。
「金は天のことですよ」
……誰も答えない。やはり、私だけが見えている。何故に!
「もう!本当に何故、人によって見える見えないが出ているの!早く出口に向かわないと、ここで殺されるっていうのに!」
私が一人で憤っていると、背後から茨木が言いにくそうに話かけてきた。
「アンジュ様。先程の鎖はどうされたのでしょうか?」
「消えたけど?それよりもさっさと行くよ!」
聖女と獣人が混ざった姿をした女性が、黒い鎖を放ってきた。私は個別で六角形の小さな結界を複数展開して、回転させながら、鎖に対処する。結局この鎖の打開策もない。
「あの……黒狐は水を司るので対応出来ないと思いますが、鎖だけなら対処可能かもしれません」
その言葉に私を捕獲しているルディから飛び降りて、茨木の前に立つ。
「本体はあそこ!鎖は穴から出てきているから、このまま進むのは強引に行くしかないと思っていたんだよ!」
私はすり鉢状になった場所を指して言った。すると茨木が酒吞に頼み事をする。
「酒吞。思いっきり燃やしてください」
「ん?穴をか?」
「穴全体です」
「はぁ、さっきの穴から出てきていた奴らを相手にしたかった。ただの穴なんて味気ねぇーな」
そう言いながら酒吞はすり鉢状の場所に右腕をぐるぐる回しながら進んでいく。
何故、酒吞なのだろう?確かに酒吞の火力は凄いけど、逆に言えば火力しかない。
「ねぇ、どうして酒吞なの?」
「あの鎖が天の属性なのかと思いまして」
「天の属性?」
「ほら、太陽と月と言っているではないですか」
茨木は自分の頭上の何もない空間を指しながら言った。これは天使の聖痕のことを言っている?
「ですから天の属性であれば、アンジュ様も使用可能だということになります」
おお!そういう考え方か。
天の属性ってことか……で、どこに酒吞の火が関係するわけ?
私が首を傾げていると、いきなり火柱が立ち上った。柱っていうか炎の嵐って言っていいかもしれない。
その穴から立ち上る炎は天井に当たって、跳ね返り、こっちの方にも火の粉が落ちてきていた。これ普通に死ぬし。
そして怒りとも悲しみとも苦しみともとれる叫び声が響いている。いや、普通に効いているんじゃない?
「酒吞の炎が燃えている間に、進みましょう。この程度ではさほど効いていないでしょうから」
「え?これで効いていないの!」
私が聞き返していると、ルディに抱え上げられ、火の雨が落ちてきている中、進みだした。
「こんなんじゃぁ全然だ。ここが壊れちゃ元も子もねぇからな」
先頭を進んでいる酒吞が火の雨を手で払いながら言ってきた。いや、この炎は落ちてきている火に当たっただけでも、炭化しそうだけど。
しかし鬼の二人が、あの黒い女性にはダメージなど与えていないと言っているのだから、そうなのかもしれない。
それに窪んでいる石畳と壁との狭い通路を通っていても鎖は絡みついてこないので、鎖対策ができると言ったのは本当のことだった。
「うん。鎖が向って来ないだけでも十分」
鎖には炎でなら対抗できる!これだけでもわかったのなら、ここに来た甲斐もあったというもの……炎?鎖と炎……あれ?
「これ、もしかして200年前の双子の聖女の兄って、これのことを知っていた?!」
あれだ!未だに聖女たちの生家があった場所が、青い炎に囲まれて燃え続けているという話。
「聖女が死したあと鎖に絡まれて、世界に食われることを防いでいた?」
もし双子の聖女の兄がそのことを知っていたとすれば、世界のために戦った妹たちの死というものを、青い炎で守っていたということになる。
本当に怒りしかなかったのだろう。
世界の為に戦って、役目が終わればその躯は世界の糧になる。理不尽にも程がある。
「でも何故に炎?」
私の独り言に答えてくれたのは、やはり茨木だった。
「火剋金ですよ」
五行思想の考えか。確かに鎖は金属だけど、そういうことじゃないよね。
二十九階層の出口と思われるところに入ったところで、背後から再び熱気が押し寄せてきた。
これは階層との間で酒吞が炎を出したのだろう。
前方は降りる階段が暗闇の中に続いていた。
「ここで炎の壁を作っておけば背後から攻撃はされないでしょう」
「ファル様より役に立つ!」
「アンジュよりもな!」
ファルに言い返されてしまった。しかし、死の鎖は炎で防御できるなんて、そんな発想はなかったのだから、仕方がない。
「それで、火剋金の金は金属って意味じゃないよね」
皆は進むペースを落とさないまま、階段を駆け下りている。私が殺されるって焦っていたからだろうが、見通しの悪い深い階段が続いているところでは気をつけた方がいいと思うけど?
そんな中、私はルディに抱えられて楽をしていた。いや抱えられていなくても重力の聖痕で浮いているけどね。
「金は天のことですよ」
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