聖痕の聖騎士〜溺愛?狂愛?私に結婚以外の選択肢はありますか?〜

白雲八鈴

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296 幻影の人々の誘導

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 王都が歓声に包まれている。人々がある一定の方向を見て歓喜に沸き立っていた。そんな中、黒い影に侵食され、石の床が見えているところを私達は駆けている。
 床だけが石の床になる違和感がある王都。

 私はルディに抱えられているので、見せられている映像を見ることができた。頭に聖痕を掲げた二人が人々の王となった瞬間なのだろう。
 ストーリー的には獣人を倒して世界を元通りにした聖王という感じか。

「ありました!」

 先頭を走っている茨木の声が聞こえてきた。次の階層へ続く階段があったようだ。

 しかし、この場には獅子王の姿を見ることができない。王都から離れたとは考えられないな。
 しかし、今まで自分が治めていたところに、別の者が居座るのは快くは思わないだろうね。
 いや、常闇を封じる手段を持つのが、聖女という存在であるなら、この地に聖女を置くことが理に適っている。そして、未だに金色の鎖を放つという能力しか見せていない私と同じ聖痕を掲げる者。恐らく今の王族の起源は彼ということになるのだろう。
 初めて魔術を使い、初めて獣人に反旗を翻し、人族の希望となり、魔物という脅威から、太陽が昇らない不安感から、人々を救った英雄。いや、聖王。

 ん?また、王冠のような太陽の聖痕を掲げた聖王と目が合った。何?何が言いたいわけ?

 いや、上の階層で目が合ったのは、彼が逃げているとき?……違うなぁ常闇からモヤが出ていたあと?うーん?そんなことは別の階層でもあった。

 あの……得体の知らないモノが出てくる前?

 すると聖王と聖女の居る方向から、悲鳴が上がってきた。その悲鳴と同時に人々が一斉に逃げ出した……というところで、ルディが階段に身を投じ、私には何が起こったのかわからなかった。

 そして、ファルと神父様も次の階層に続く階段に入ってきて、ファルは誰も指示をしていないのにも関わらず、聖剣の力で階層との間を遮断した。

「こわっ!凄く怖いっていうか、気味が悪い。身の毛がよだつってこういうことを言うんだな」

 ファルが聖剣の杖を持った手で、左腕をさすっている。まるでそこにある何かをこすり取るようにだ。

「人ではない何かに押されるとは、なんとも言えませんね」

 私とルディは映像の人々が逃げ出したときに階段に入ったけれど、どうやらファルと神父様は映像の人々に誘導されるように押されてこの場に来たようだ。

「アンジュが言っていた仮説は本当でしたね。人々が誘導すると」

 ああ、星に願った獣人の女の子の階層のときの話ね。人々が逃げるときに、王と聖女に逃げる行動を促していたのではという仮説。

 幻覚だとわかっているからこそ、触感というものを感じてしまう不快感が出ているのかもしれない。
 しかし、ここで時間を消費するわけにはいかない。

「次の階層に行くよ」
「アンジュ、ちょっと、落ち着く時間が欲しい」

 ファルが馬鹿なことを言っているので、それは却下する。今更、幻覚に干渉されたからと言って、時間を無駄にすることはしない。

「ファル様。恐らく先程の悲鳴は常闇が顕れたのではないのかな?となれば、黒い人が直ぐそこに顕れる可能性があるよね」
「えっ!」

 私の指摘にファルが驚いた瞬間、二十八階層と二十九階層を隔てていた、木が密集したように作られた壁が破壊された。そして、こちらに向かってくる黒い鎖。
 私達は二十八階層から降りた直ぐそこに留まっている。それが仇となってしまい、反応が遅れてしまったのだ。いや、近すぎた。

 私は反転の盾を出そうとしたところで、ファルがバランスを崩して、倒れ込むように私とルディの方に身を投げてくる。
 違う。一番後方にいた神父様がファルの背中を押したのだ。

「『反転の盾!』」

 その所為で一歩出遅れたけど、六角形の反転の盾を階段の広さめいいっぱいに、広げて並べる。これで対応できるかどうかわからないけど。

 しかし反応が遅れたことで、黒い鎖が神父様の右腕に絡みつく。これはどっちの鎖だ?私で切れる鎖か、聖剣じゃないときれない鎖か。

 私はルディの腕から飛び降りて神父様の元に向かった。

「アンジュ!」
「アンジュ!何故こっちに来たのですか!」

 こっちもどっちもない!ここに来たいと言ったのは私だ。こんなところで、誰かを失うことになんて絶対にさせない!

「酒吞!そこで動けなくなっているファル様を運んで!ファル様!受身を取ったのだから、さっさとここを封鎖して!」

 私は神父様の右腕に絡みついた黒い鎖を両手に持ちながら叫ぶ。
 ファルはルディがしれっと避けたので、階段を転がり落ちることになったのだ。それで私達の前にいた酒吞にぶつかって止まった。まぁ、神父様の不意打ちの行動に対処できなかったファルが悪い。

 神父様に絡みついた鎖を、左右に思いっきり引っ張ってみたけど、切れる様子がない。

「ルディ!この間を斬って!」

 私が両手に掴んだ鎖を剣で斬るように、ルディに言っている視界の端で、キラキラ光るものを捉えた。その方向に視線を向けると……

「うっそ!何これ!」

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