聖痕の聖騎士〜溺愛?狂愛?私に結婚以外の選択肢はありますか?〜

白雲八鈴

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290 劣化している?

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「ハハハハハ。神父様。カイフクヤクダヨ?一度ファル様も飲んだ事があるから大丈夫」

 これを神父様に渡すのは一種の賭だ。聖気はここには過剰と言っていいほど、充満している。ただ、波のような揺れがあって、身体に取り込めないだけだ。
 それをこの回復薬が補助的な役割を担って、聖気を回復できれば、力の温存をしなくてもよくなるはずだ。

 しかし、神父様は受け取ろうとはしない。ニコニコと胡散臭い笑顔ではあるものの、目が笑っていないのだ。絶対にこれは毒だと疑っている。

「これ、怪我とかを治すだけじゃなくて、身体を万全な状態にするの。だから正確には回復薬じゃなくて、万能薬だね」
「もしかして、聖痕の力も回復できると言っていますか?」
「うーん。今の状況が普通かと言われれば違う。だから、絶対という保証ができないから、回復薬ってことで」

 ……受け取ってくれないのか。ルディもファルも原液がどういうものか知っているからいい顔をしない。だけど、知らない神父様なら試せると思ったのに、まさか聖痕の名前まで知っているなんて、予想外過ぎた。

 仕方がない。勇者の剣はまだ健在なので、それで対処してもらおう。

 私が手を引くと、神父様の手が出てきて、小瓶を奪い取っていく。その小瓶の蓋を開けて躊躇なく、神父様は開けて一気に中身を煽った。

「本当に飲んだ。知っていて飲むリュミエール神父を俺は本当に尊敬するよ」

 ファルが唖然としたように言う。まぁ、二回目のときはルディにシレッと盛られていて知らなかったものね。

 神父様といえば、どこかここではないところに視線を漂わせていた。
 何か反応を示して欲しい。責めてファルみたいに『何だこれは!』とでも言ってくれた方が、私もヘラリと笑って答えるのだけど。

「甘い花の香りに反して、エグみが口の中に残りますね」

 神父様の感想は味への批判だった。
 うーん?ここまで薄めると無味無臭に近いのだけど?それにエグみより甘ったるい感じの方が強いはず……おかしいなぁ。

「そんなエグみはないはずだけど?」

 私は首を傾げながら、リュックからもう一本の小瓶を取り出して、蓋を開けて飲む。

 ん?確かにエグみが口の中に広がる。そして使用した聖気量の半分程の回復。奪われた魔力も半分程回復した。
 魔力を抜かれる感覚は無い。やはり干渉を受けた一階層で一気に魔力を奪う仕様なのだろう。

「劣化している。何故だろう?」

 私は使用期限があるのか試して見たことがあるけど、1年後でも十分に使えたことを確認できた。
 なのに何故、劣化している?

「魔道具も普通のように使えないから、何かの影響を受けたのではないのか?それよりもアンジュ、身体に問題はないのか?」

 神父様の側にいる私をシレッと抱えあげて、私の顔色を窺うルディ。そのルディに私はリュックから回復薬を取り出す。

「ルディも飲む?」
「……」

 何故に無言。
 ルディも毒物だと思っていると。

「劣化しているのは味と効力だけだからね。聖気と魔力が半分ほど回復するよ」
「魔力が回復するのか?」

 私の言葉に驚いたようにルディが小瓶を見つめているけど、手は出すには至らないらしい。
 まぁいいけど……魔術が使えれば、自由度が上がると思ったのだけどなぁ。

「シュレインもファルークスも魔力を回復しておきなさい。世界は我々を逃がすことはないでしょう」

 世界は逃がすことがないか。神父様も気がついたようだね。

「リュミエール神父。まるで決定事項のように言い切りましたね。その理由は勿論あるのですよね」

 ルディが強い口調で言った。私達はここに死ぬために来たのではない。この国に起こっている不可解なことの真相を探しに来たのだ。
 だから私達にとって決して敵うことができない世界が獲物として捕捉しているという神父様の言葉に不快感を表しているのだ。

「おや?シュレインはわからなかったのですか?ここまでで出揃っていないカードは一つだけです。しかし、それ以外を合わせれば、答えはわかるでしょう」

 神父様の胡散臭い笑顔にはイラッとくるけど、言っていることは私も同じ意見だ。もうほとんどのカードは出揃った感じだよね。

「俺達が以前見た最下層の古文書は嘘だったということですよね」
「うそではありませんよ」
「しかし、聖王のことで起こっているのは全部ウソだ」
「うそではありませんよ」

 嘘だと言っているルディに対して神父様は嘘ではないという。まぁ、ここまでくると、そんなものはどうでもいいぐらい、大した事はない。

「シュレイン。問題視するところは、聖王ではなく、世界のほうですよ」

 そう、聖王のことを問題視するには、最後のピースが必要だ。ただ、それよりも先程のモヤが一番厄介なのだ。あのモヤは私達を捉えようとしていたのは、間違いなかったのだから。


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