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288 それ聖剣だからね
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「引き返しますか?」
神父様が珍しく、引き返すことを提案してきた。ルディはずっと引き返そうと言ってきているから、言われるならルディからだと思っていたよ。
ただ、問題がある。
「引き返す余力はある?」
そう、魔力は始めから奪われて使えない。聖痕の力は使えるけど、力を使い切ればそこで終わり。
私も神父様も常に聖痕の力を使い続けている。引き返す余力があるかどうかといえば、無い。
「厳しいですが、無理ではないはずです」
厳しい。それは神父様も同じだということ、そして無理ではないとはいいつつ、言葉を濁している。
確かに可能か不可能かと問われれば、不可能ではないと答えるかもしれない。
それはまだルディの聖痕に余力があるのと、ファルの聖痕の力を温存しているのと、恐らく神父様はまだ何か聖痕を隠していると私は見ている。
そして、鬼の二人はまだ暴れ足りない感が出ているので、問題はない。
「普通に戻れると思う?」
ここだ。何も妨害が無く戻れるかと言えば、それは無いと私は答える。一つはこの幻影を創り出している者の存在だ。何かしらの意思を感じる。そして、今私達の行く手を阻んでいるアレだ。
どちらかと言えば、幻影を創り出している者よりも、黒いモヤのアレの方が危険だと感じる。
「普通に戻れるとは言い切れませんね」
神父様もこのダンジョンの危険性を理解しているということだ。
「となれば、残りの階層を強引にでも突破したほうがいいってことだよね。ここには魔物はいない。居るのはこれを創り上げたものと、アレだ」
私はうにょうにょと触手のような鎖を出している黒いモヤを睨みつける。次の階層に続く階段は今までの経験上、あのモヤの近くだ。
私の天使の聖痕の力で鎖は塵に化したということは、世界の力である聖痕の力は効くはず。
「ファル様。さっき黒いモヤ……じゃなくて黒狐の王妃が落ちたぐらいのところを、その杖で攻撃してみてよ」
剣は近くまで行かないと攻撃が届かないけど、ファルの杖ならいけるはず。
「おい、魔力は使えないってわかって言っているんだよな」
ファルの言葉に私は馬鹿を見る視線を投げかけた。それは聖剣ってわかっている?
「誰が、魔力を使うように言ったの?それは聖剣。神父様は勇者の剣みたいに光っているし、ルディの剣なんて黒いエフェクト出しているってことは、緑の手をもつファル様の聖痕の力を反映しているって理解してよね」
するとファルは首をガクっと項垂れながら、水晶が鈍器で使えそうな木の杖を前に掲げた。
「剣が良かった」
愚痴っても、ただの剣が杖になってしまったのだから、仕方がない。
「俺には何も見えないが、どういう形状がいいんだ?」
どういう形状。確かに見えないモノに対してピンポイントで攻撃するのは難しい。
「そうだね。大きめの格子状の檻を作って、ぎゅぎゅっと狭める感じで捕獲後、トゲで突き刺す感じで」
「いつも思うが、アンジュの攻撃はえげつないよな」
失敬だね。見えないのなら捕獲後に攻撃を仕掛けるべきだよね。
「言っておくが俺には何も見えないからな!『翠鳥縛!』」
文句を言いつつ、私の知らない術を使った。いや、今まで森の再生にしかファルの聖痕を使っていなかったというのもある。
透明な水晶から緑色の光の粒が出たと思ったら、光の粒が大きくなり鳥の形をして飛んでいった。それも10羽、20羽の数ではなく、こぶし大の緑色の鳥が何千羽と次々と飛び出して、黒い穴の幻影を旋回しながらおおっていった。
これって空に黒い煙のように見える鳥の群集じゃない?
「ファル様もえげつないと思う。あれ人にやったらトラウマ級の多さだよ」
絶対にトラウマになると思う。こぶし大の鳥の群集に囲まれて段々とその範囲が狭まっていくのだ。恐怖だよね。
「ちょっと待て!俺が悪いように言うな!普通は100羽ほどしか出ない術だ!」
ファルが言い訳してきたけど、いやよく考えて欲しい。
「それ、世界の力と異界の神の力を吸った聖剣だし、その前にファル様の魔脈のつまりを解消したし、以前と同じって思う方がおかしい」
私の指摘にファルはガクリと肩を落とした。
しかし戦力の増強にはなっている。行ける気がしてきた。
私は緑の鳥の動きを観察する。徐々に範囲が狭まってきて今は竜巻のように縦に長く伸びながら回転している。
「はぁ『喰らえ』」
ファルがため息を吐きながら、言葉を発すると鳥の動きが変わり、中心に向かって突っ込んでいった。いや、ファルの言葉からすると、中心にいるモノをくちばしでつついて攻撃をしかける技なのだろう。
言い方は悪いが鳥葬のようなものと考えられる。
「え?ファル様、本当に私よりえげつないと思う」
私を非難するよりも、この攻撃を非難したほうがいいと思う。絶対にトラウマになるし!
「アンジュじゃないんだから、誰が人に使うか!」
それは毎回、私が人に向かって攻撃しているような感じじゃないか。使っていい人と使っては駄目な人の分別ぐらいはある!
その時、劈くような悲鳴が、世界を揺らした。いや、揺れと共に悲鳴が響き渡ったのだった。
神父様が珍しく、引き返すことを提案してきた。ルディはずっと引き返そうと言ってきているから、言われるならルディからだと思っていたよ。
ただ、問題がある。
「引き返す余力はある?」
そう、魔力は始めから奪われて使えない。聖痕の力は使えるけど、力を使い切ればそこで終わり。
私も神父様も常に聖痕の力を使い続けている。引き返す余力があるかどうかといえば、無い。
「厳しいですが、無理ではないはずです」
厳しい。それは神父様も同じだということ、そして無理ではないとはいいつつ、言葉を濁している。
確かに可能か不可能かと問われれば、不可能ではないと答えるかもしれない。
それはまだルディの聖痕に余力があるのと、ファルの聖痕の力を温存しているのと、恐らく神父様はまだ何か聖痕を隠していると私は見ている。
そして、鬼の二人はまだ暴れ足りない感が出ているので、問題はない。
「普通に戻れると思う?」
ここだ。何も妨害が無く戻れるかと言えば、それは無いと私は答える。一つはこの幻影を創り出している者の存在だ。何かしらの意思を感じる。そして、今私達の行く手を阻んでいるアレだ。
どちらかと言えば、幻影を創り出している者よりも、黒いモヤのアレの方が危険だと感じる。
「普通に戻れるとは言い切れませんね」
神父様もこのダンジョンの危険性を理解しているということだ。
「となれば、残りの階層を強引にでも突破したほうがいいってことだよね。ここには魔物はいない。居るのはこれを創り上げたものと、アレだ」
私はうにょうにょと触手のような鎖を出している黒いモヤを睨みつける。次の階層に続く階段は今までの経験上、あのモヤの近くだ。
私の天使の聖痕の力で鎖は塵に化したということは、世界の力である聖痕の力は効くはず。
「ファル様。さっき黒いモヤ……じゃなくて黒狐の王妃が落ちたぐらいのところを、その杖で攻撃してみてよ」
剣は近くまで行かないと攻撃が届かないけど、ファルの杖ならいけるはず。
「おい、魔力は使えないってわかって言っているんだよな」
ファルの言葉に私は馬鹿を見る視線を投げかけた。それは聖剣ってわかっている?
「誰が、魔力を使うように言ったの?それは聖剣。神父様は勇者の剣みたいに光っているし、ルディの剣なんて黒いエフェクト出しているってことは、緑の手をもつファル様の聖痕の力を反映しているって理解してよね」
するとファルは首をガクっと項垂れながら、水晶が鈍器で使えそうな木の杖を前に掲げた。
「剣が良かった」
愚痴っても、ただの剣が杖になってしまったのだから、仕方がない。
「俺には何も見えないが、どういう形状がいいんだ?」
どういう形状。確かに見えないモノに対してピンポイントで攻撃するのは難しい。
「そうだね。大きめの格子状の檻を作って、ぎゅぎゅっと狭める感じで捕獲後、トゲで突き刺す感じで」
「いつも思うが、アンジュの攻撃はえげつないよな」
失敬だね。見えないのなら捕獲後に攻撃を仕掛けるべきだよね。
「言っておくが俺には何も見えないからな!『翠鳥縛!』」
文句を言いつつ、私の知らない術を使った。いや、今まで森の再生にしかファルの聖痕を使っていなかったというのもある。
透明な水晶から緑色の光の粒が出たと思ったら、光の粒が大きくなり鳥の形をして飛んでいった。それも10羽、20羽の数ではなく、こぶし大の緑色の鳥が何千羽と次々と飛び出して、黒い穴の幻影を旋回しながらおおっていった。
これって空に黒い煙のように見える鳥の群集じゃない?
「ファル様もえげつないと思う。あれ人にやったらトラウマ級の多さだよ」
絶対にトラウマになると思う。こぶし大の鳥の群集に囲まれて段々とその範囲が狭まっていくのだ。恐怖だよね。
「ちょっと待て!俺が悪いように言うな!普通は100羽ほどしか出ない術だ!」
ファルが言い訳してきたけど、いやよく考えて欲しい。
「それ、世界の力と異界の神の力を吸った聖剣だし、その前にファル様の魔脈のつまりを解消したし、以前と同じって思う方がおかしい」
私の指摘にファルはガクリと肩を落とした。
しかし戦力の増強にはなっている。行ける気がしてきた。
私は緑の鳥の動きを観察する。徐々に範囲が狭まってきて今は竜巻のように縦に長く伸びながら回転している。
「はぁ『喰らえ』」
ファルがため息を吐きながら、言葉を発すると鳥の動きが変わり、中心に向かって突っ込んでいった。いや、ファルの言葉からすると、中心にいるモノをくちばしでつついて攻撃をしかける技なのだろう。
言い方は悪いが鳥葬のようなものと考えられる。
「え?ファル様、本当に私よりえげつないと思う」
私を非難するよりも、この攻撃を非難したほうがいいと思う。絶対にトラウマになるし!
「アンジュじゃないんだから、誰が人に使うか!」
それは毎回、私が人に向かって攻撃しているような感じじゃないか。使っていい人と使っては駄目な人の分別ぐらいはある!
その時、劈くような悲鳴が、世界を揺らした。いや、揺れと共に悲鳴が響き渡ったのだった。
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